第三十九話 夢にまで見た
全員連れて新居の視察に来た。
「本当に僕の工房から近いですね。……地価下げたのは謝りようがないですよね」
「私が公認したんだからそのうち戻るって」
「……そうですね」
なんだかんだ言ってもアイシャは俺たちの中心だな。といっても俺の視点で進む限りはそうは見えないかもしれないけど。
(――――?)
メタいって? 気にするな。
まずは外壁の確認。飛べるリサさんが確認してくれた。
「確かに少し剥がれただけですから、これくらいならばすぐに直せると思いますよ。他は……」
と言いつつ上空から一周。そしてリサさんのおぱんつ確認。水玉でした。
(うん)
お前も見たのか。さすが将来有望株。
「上空から見た限りでは外壁以外の問題は見られませんでした」
「改めて安心。じゃあ中入ろうか」
鍵は事前に不動産屋から借りてある。外壁と中の確認及び修繕が終わり次第、完全な譲渡になる予定。
――家の中。
「へえー、きれいですね」
「だろう? 一階はリビングと水回り、あと部屋がひとつだ」
各々バラバラに動いている。そしてシアはモーリスの頭の上。アイシャよりも同じ魔族のモーリスのほうが乗りやすいのかな? なんて。
「一階の部屋は俺とモーリスが使おうかな。女子は二階」
「なんで?」
「男と一緒のフロアは嫌かなと。これでも男としてお前らには気を使ってんだぞ?」
「あはは、えーどこがー!」
とみんなに笑われた。よしならば……と思ったらモーリスに服を引っ張られた。口ではあー言っているけど心の内では、っていうところか。
(うん)
ならばここは折れてやるか。
二階へ。まずは左の部屋。
「あーこれね。汚れ落ちるのかなー?」
「やってみりゃ分かるだろ。各々雑巾持ったな? よし、かかれ!」
六人で分かれて壁をふきふき。バケツに石鹸水だけど、さてどうだろうな?
「私上届かないんだけど」
「僕とリサさんで上はやりますよ。垂れてきたのを拭き取ってください」
さすがに各々動きが分かっている。オロオロしているのはモーリスだな。心が読めるから余計に居場所を見つけられないんだろう。
「あんたこっち」
(うん)
それを察したか、ジリーがモーリスを肩車。その手があったな。
「アイシャ」「やだ!」
即答ッ!
「ねーリサさん、こーいうのに効く魔法ってないのー?」
「怠けてんじゃねーよ。だいたいそんな都合のいい魔法が」「ありました」「あるんかい!」
という事で一旦全員手を止めて部屋の外へ。
「バブルミスト!」
うん、そのままだ。部屋中に泡と霧が立ちこめ、壁の汚れが落ち始めた。
「魔法便利過ぎ」
「えへへ。この魔法は本来けがれを落とす毒消しの魔法なのですけど、偶然にも壁の汚れにも使えるのですよ」
毒消し……あ、そうだ。という事でモーリスの手を引いて俺も部屋の中へ。
「カナタさん?」
「いやー俺って魔族の血を飲まされたから、もしかしたら毒入ってるんじゃないかってね。モーリスの呪いにも効けばいいんだけど……どうよ?」
(――――? ……ううん)
「みたいだな。まー腐らず頑張ろうや」
(うん)
さて俺はどうなのか……変わらないな。
あーちなみに魔法はあれ以来使えていません。使いきり魔力だった様子。
「……これ以上は落ちませんね」
やはり若干くすんだ状態。でも表面のべた付きは落ちたからいいか。
「後は塗り直したり壁紙を張ったりすればいいだろう。拭いたら次行くぞー」
隣の部屋も同様にリサさんの魔法でキレイキレイにして、乾いた雑巾で拭き取った。
「そしてここが黒い部屋ですか。……僕はここでいいですよ?」
「お前は何度同じ事を言われたいんだ?」
「あはは、すみません。あ! そうだすっかり言うの忘れていました。僕のメンテナンス装置、完成しましたよ」
「おっ! という事はフューラの知る限りの技術開発は完了か」
「はい。後で詳しく説明しますね」
ようやくだな。色々あって一年の予定が半年になって、そこからまた若干伸びたが、これでいつでもフューラは万全だ。
――塗り直し開始。
「ヒャッハー! 汚壁は漂白だー!」
「いえーい!」
みんなノリノリで塗り塗り開始。
「あ、ペンキを仕込んだ銃なんて作れそうですね」
「ペイントボールか?」
「いえ、イカ墨みたいに」「それ以上はあかん!」
等など、みんな日ごろのストレス発散とばかりにハケを振り回す。
「そういえばリサさんのしっぽも筆みたいだよね」
「……やりませんよ。しっぽは敏感ですから」
「あはは、分かってますって」
アイシャは相変わらず。リサさんは魔女服を着るようになってから、しっかりしたというか、少し性格が落ち着いた気がする。
「……と思ったらこの体たらく」
「ご、ごめん」
アイシャが転んでペンキを頭からかぶり真っ白になり、それを機に大暴れ。三部屋とも塗り終わりはしたが、みんなペンキまみれである。
「あーぁあ、俺らはいいとして、ジリーとモーリスは一張羅だったのにな」
「あたしはいいよ、こういうファッションもあるからね。ただモーリスのは王宮からの借り物だからねー。アイシャが怒られろよ」
「あ、あはは……はい」
ばつの悪いそうなアイシャ。
「アイシャ、丁度の機会だから話しておくけど、お前が俺たちのリーダーなんだから、今回のドッボに対してのような我を忘れた暴走行為はもうやめろよ。動揺するなとは言わないけど、今後俺たちの誰が死んだとしても、冷静に対処出来るようにな。お前が壊れたら残された俺たちが困るんだよ」
「……フラグ?」
「やめい! ってか反省してないだろ」
「あーううん、違う。今回の事は本当に効いた。私がまだ愚かなままなのが身に染みた。だから……いきなりは無理だと思うんだ。私の事は私が一番分かってるから。それでも少しずつ直します」
ペンキまみれで白くなった頭を下げるアイシャ。
テンション上がって暴れたくなる気持ちは分からんでもないけど、でもそれはゲームの中だけでどうぞ。
――引越しの打ち合わせ。
「俺はシアに荷物を任せればいいけど、そっちはどうするんだ?」
とモーリスに引っ張られた。
「え、お前も仕舞っちゃう魔法使えるの?」
(うん)
「さすが魔族エリート」
(えへへ)
可愛いぞ。男の子なのを失念してしまいそうになるくらいに可愛いぞ。
「実はわたくしもチェスト魔法を使えます。というかカナタさんがいない間に覚えました。なので心配ご無用です」
という事は俺はシア、アイシャはリサさん、フューラとジリーにはモーリスを付ければ引越しが早く終わるな。
「それじゃあ各々散開して、明日正午に集合。今のうちに荷物の整理もするようにな」
「はあーい」
――翌日。
まずはジリーが我が家に来て、モーリスと仲良く手を繋いで行った。
「あれさ、ジリーも満更でもないよな?」
(うん)
「……今は五歳差って大きく感じるけど、、モーリスが二十歳になったらジリーは二十五歳だ。そう考えると五歳差なんて微々たるものだなー」
(うん。……?)
「俺とお前の差か? 俺は中身の年齢で考えてもらいたいな。だから……永遠の三十六歳! なんちゃって。ってかシアは何歳なんだ?」
(……しらなーい)
これは分からないんじゃなくて、はぐらかしたんだな。つまりシアはそれなりの年齢だ。まー魔王様が十代そこそこでは格好つかないか。
俺の荷物はあまり多くない。そもそもごちゃごちゃさせるのが嫌いな性格だし、ただでさえ貧乏暮らしで荷物が少なかった。
こちらの世界に来てからもその癖は抜けず、デスクチェアが現役だったり、カラーボックスにビジネス本が置いてあったり、しかも棚の空きが多かったりする。
「あいつらに整理しろと言っておいて、俺が整理ししないのはいかんよな。……といってもどれも今後役に立つ可能性が……いや、そういう感覚が捨てられない人になるんだろうな。しかし……」
そんな感じで悩んでいて、ふと思った。そもそも荷物が多くないんだからそのまま運んじゃってもいいんじゃね? と。
――その頃、アイシャ視点。
「あーこれいらいない。これもいらない。これ……も、いらない」
「あ、アイシャさん? ちょっと捨て過ぎでは?」
「え? そう? だって一年使わなかったらきっと一生使わないよ?」
「あはは……」
うーん、私捨て過ぎかな? 基本的に物に執着がないんだよね。といってもレイアからもらった最初の剣は絶対に捨てないけど。あ、謝肉祭のくまさん……持ってく!
「リサさんのも私が捨ててあげようか?」
「だ、駄目ですっ! こういう小さな一つ一つにも思い出というものがですね――」
これがいわゆる捨てられない人なんだね。
……ふう、私の荷物はこんなものかな。量的にはこの家に来た時とほとんど同じ。
「私終わったよ。リサさんは?」
「待ってくださいね。えーとこれは来年着れるでしょう? これも……あ、これ懐かしい!」
「あーはいはい。……あと十分で仕分けしないと全部捨てますよー」
「ま、待ってください!!」
と言いつつ、リサさんの仕分けが終わったのは二時間後でした……。
――そして工房、ジリー視点。
「あたしはそもそも何も持ってないからね。そっちは?」
「僕は必要最小限だけ持ち出して、残りは置いておきます。といっても持ち出すのは、これとあれくらいですけど」
フューラが指差したのは、カナタのスクーターとフューラのベッド。
「あー……じゃーあたしらはもう完了だね」
「ですね。これも武器と同じで僕が持ち運べるようになっていますし、モーリスさんが手伝う事は何もありませんでした」
(うん)
といっても集合までにまだ時間がある。さー暇だ。ちょっと横になっているかな。
……ん……気付いたら寝てた。って、あれ? フューラどこ行った? モーリスもいない。二人で何か企んでんな?
「おーいってすぐそこにいた」
「気持ち良さそうに寝ていたので、邪魔してはいけないかなと。そろそろ時間ですし、行きますか」
「それはいいけど、何話してたのさ?」
すると二人で目を合わせて笑うだけ。なんだい、あたしのけ者かい。
「そういう事するなら、もうモーリスの事は知らねーかんな」
(――――。――)
なんだ、恥ずかしそうにして。
「えーっとですね、ジリーさんのどこに惚れたのかを聞き出していました」
「なっ!? そ、そんなの……どうだったんだよ」
「あはは。えーと、本人にだけは秘密で」
(うん)
あたし遊ばれてるね。
「はあ……。悪いけどあたしにその気はないからね? 大体こんなちっこいの恋愛対象じゃねーし。あたしの好みはあたしよりも背の高い人なんだよ」
(――、――――――?)
「背が伸びれば……って、あーもうっ! いいから行くぞ!」
――新居に合流、カナタ視点。
最初に着いたのは俺。
「外壁直ってるな。仕事が早い事」
外壁補修だけは俺たちの手では出来ないので不動産屋がやってくれた。見事に補修されていて、褪せた色の分だけ少し色が違う程度。
「カナタさーん」
「お、来たな。あー! そうだ! これでようやくそれに乗れる訳だ!」
「あはは、いきなり子供の顔に戻ったね」
「当たり前だろ、何たって男の子だからな!」
なんて言うとみんなに笑われた。
「んじゃ先に入るか」
「おー!」(――!)
「部屋割りは後にするとして、とりあえず椅子テーブル類を出そうか」
と言っても俺の分だけだ。なんというか、不釣合いなほど縮こまった感じ。テーブルの大きさも椅子の数も全くもって不足。
「……あとで家具買いに行こう」
「ですね」
その時に前の家の鍵も不動産屋に返そう。
それから一時間ほどでようやくアイシャとリサさんも到着。
「遅いっ!」
「全部リサさんのせい」
だと思った。
「あはは……整理に二時間も掛かってしまいました」
「んでろくに整理もせず、結局全部持ってきたってオチかな?」
「うっ……」
大当たり。まー俺も人の事言えないけど。
「まずは部屋割りを決めるぞー。俺とモーリスは下でいいな?」
(うん)
「私たちもそれでいいよ」
あっさり決定。
「次に二階だな。左の部屋は誰が入る?」
「はーい」「あたし」
アイシャとジリーが手を挙げた。
「近距離同士の組み合わせか。既存の二人は異論あるか?」
「いいえ」「ありません」
「という事でそこの二人は左側、したがって正面はフューラとリサさんの遠距離コンビだな。問題は?」
「ありませーん」「ないです」「ええ」「オーケー」
よし、女子四人もさくっと決定。
「先に物取り出して、軽く整理したら家具見に行くぞ」
「はあーい」
なんというか、引率の先生になった気分。
――家具屋。
とりあえず一番近くの家具屋へ。「家具屋ニコリ」だそうな。キャッチコピーは「品質は価格を超えて」。
この中で一番の金持ちはアイシャだった。その額なんと三千七百シルバー。日本円にして三千七百万円だ。とんでもない金持ち……と思いきや、俺もちゃっかり千シルバーを超えている。
しかしこの世界、更にひとつ上の桁ですらも軽く吹っ飛ぶ高額な武器防具が、普通の市場にあるのだ。つまり金で命の安全を買う世界だな。なので普通の生活は出来ても、戦いに身を置いている俺たちからすれば少ないほどなのだ。
「といっても家具は買う。お金のない二人と一羽は相方から出してもらえよ」
「え……」
ジリーが固まった。
「あはは、いいよ。出世払いにしてあげる。これでもお金持ちですからー!」
胸を張るアイシャ。うん、Cはあるな。
まずはリビング関係。ダイニングテーブルに椅子、そして食器棚。その他ソファーや飾り棚などなど。
「リサさん、値段見てくださいね」
「それくらい分かっています。もう王女様気分は抜けていますから」
「……じゃあなんでそんな値段の家具を見ているのかな?」
五から十シルバーほどの家具の中で、リサさんが見ていたのは五十シルバー以上の高級家具売り場。
「あ……えっと……あはは……」
「買いませんからね」
「分かっています。ただ少し、あの頃の生活を思い出していただけですから」
間違いなく一番帰りたがっているのはリサさんだ。これくらいは大目に見るさ。
買ったものはダイニングセットと食器棚、ソファーなど。それから各々部屋に置くタンスなど。
「しめて四十二シルバーと五千ブロンズになります。お持ち帰りですか?」
「はい。魔法で持ち帰れるので」
「承知致しました。ポイントカードはお持ちでしょうか?」
家具屋にポイントカードとか……。
「あ、私のに付けてください」
「お前……」
「えへへー。前の時に作ったんだ」
ちゃっかりしてる勇者様だ事。
――帰宅しセッティング完了。
「よーしこれで引越し完了! と断言するのはまだ早いけど、一応終わりだな」
「あ、最後に僕のメンテナンスシステムを説明しておきます」
そうだった。フューラのメンテ機材が完成して、これで工房での無理な連続稼動もなくなった。
フューラとリサさんの部屋へ。置いてあったのは、円柱に足のついた感じの、見事にSFしてます的なカプセル型ベッド。
「冷凍保存装置って感じだな」
「確かに似てますけど、これにはそういう機能はありません」
あったら困る。
「それでですね、これが作れた事で、ついに僕のシステムをスタンバイ状態に出来るようになったんです」
「おっ! いやーよかったなー、半年以上だもんな」
「えーと……二百数十年ぶりです。あはは」
「え!? って事は元世界でもなのか?」
「はい」
こりゃ驚いた。そして何の事やらという表情の皆の衆。
「説明しますと、まず僕には寝る機能がない事は皆さん分かっていますよね?」
モーリス以外は頷いた。
「お前はつい先日来たばかりだから仕方がないな。フューラは機械で、ずっと動きっぱなしなんだよ。だから寝なかった」
(――――!?)
「あはは、そうです。二百数十年の間、一睡もしていません。しかしこれのおかげでシステムをスタンバイ状態、つまり休眠状態に出来るんですね。その間に各部チェックと修理修正を行い、七時間を目安に起きます」
見てからにほっとした表情のフューラ。きっとその表情は二百数十年間出来なかった表情なんだろうな。
「あの、緊急時や、七時間経っても起きなかった場合はどうすれば? 叩けば起きますか?」
思いっきり不安そうな顔したリサさんからの質問。
「えーっと、頭側の下に赤いボタンありますよね? それを押してください。それでも起きない場合は無理矢理で構わないので引き摺り下ろしてください。そうすれば目が覚めます」
「分かりました。……でも、二百何十年も起きっぱなしで、よく耐えられましたね」
リサさんの質問に、フューラの目が潤んできた。
「……長かったです。ろくにメンテナンスの時間も与えられず、ずっとぞんざいな扱いを受けてきましたから。何て言えば……そうですね、夢を見る事を夢見ていた、とでも言えましょうか。本当に、ようやくです」
心から幸せそうなフューラを見て、この世界に飛ばされてしまった事は、もしかしたらフューラ自身が望んだ事なのかもしれないと思った。
――夕食。
今晩の夕食はジリーが全面的に腕を振るう事になった。
「鶏肉と兎肉の香菜炒めと、オムレツと、ジャガイモのスープだ。オムレツの形は崩れちまったけど文句言うんじゃねーぞ」
「文句ないよ。いやー全員でこうやって食べるの初めてだな」
腹に入れば皆同じ。俺の出身孤児院はかなり貧乏だったから、育ち盛りの連中には一杯だけでは少なく、我先にとおかわりを争奪していた。その結果が見た目を気にしない早食い。俺は昔から食べるのが遅くておかわり無しだったが。
「そんじゃ、いただきまーす」
「森羅万象に感謝を」
「いただきます」
「神よ感謝いたします」
「……あたしも言ったほうがいいのかな」
全員バラバラの反応。俺とアイシャは命をいただきますという意味で、フューラはあくまで俺の真似だ。リサさんは命は神の恵みって奴で、ジリーはそういうのがないから困り気味。シアは軽くお辞儀し、モーリスはしっかり手を合わせて頭を下げており、元奴隷とは思えないほど出来た子である。
「……さすが美味いな」
「ええ。もういっそ料理屋さんを開いてみては?」
「褒めても何も出ねーよ! いいから黙って食え」
「あはは、なんか家族みたい」
何とも平和な食事風景だな。こういう場面を見るたびに、こっちの世界に来て正解だったと思う。
「……ぷふっ、あはははは! カナター!」
「なんだよ、顔になんか付いてるか?」
「そうじゃなくてさー」
と、言われて気付いた。俺泣いてるわ。
「んー? どういう事だ?」
(――――、――――――? ――)
モーリスがみんなをぐるりと指差して、そして手と手を結ぶ仕草。それで分かった。
「そう……いう、事か。あー、なるほどなあ……」
理解したら余計涙が出てきた。
「俺さ、孤児院出身だろ。だからこういう……一家団らん、初めてなんだよ。三十七歳になってさ……初めてなんだよ。……ずっと……こう……な……」
「憧れていた、夢にまで見た、という事ですか」
声を出したらひどい事になる。無言で頷くだけにする。それで精一杯。
「……やばっ、あたしもじゃねーかよ」
「僕もでした」
(――、――――)
俺以外にも三人、家族を知らない。……いかんな、支える立場が弱みを見せるのはいかん!
……でも、今日だけは許してほしい。明日からはもう泣かないぞ。絶対に泣かないぞ!




