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第三十七話  ハツコイシロウサギ

 ――王宮、救護室。カナタ視点。

 「――という事だ」

 やはり呆気に取られているアイシャ。

 「まー、なんだ。いくらあいつから逃れるためとは言っても、心配かけたり、そんな状態にさせてしまったのは俺の責任だ。申し訳ない。今後はもう、こういう事はしない」

 俺がしっかりと頭を下げると、ようやく理解出来た様子のアイシャ。

 「……ずるい。そんな、私たちが謝るよりも先に謝らないでよ。私たちが謝れなくなるじゃん。レディファーストだよ」

 「ははは、そうだな。しかし残念ながら、あれから既に二日経っているんだぞ?」

 「ええっ!? ふ、二日も!?」

 驚き過ぎて体を起したぞこいつ。

 「だから、アイシャ以外にはもう謝ってもらった。お前の代わりに、充分過ぎるほどにな」

 口をあけてポカーンとした表情から、徐々に泣き顔へと変化していった。

 「……っ……っあああーん! カナタのバカああああ! ごめんなさあああーい!」

 溢れ出す感情を抑えようともせずに大泣き。まるで子供だな。だからこそほっとした。

 手を握ってやるかとアイシャのベッドに腰掛けたところ、体が動かないと言っていたはずなのに人の背中に抱き付いてきた。引き剥がすような無粋な真似はせず、お許しが出るまでずっとこうしていよう。



 ――幾許か。

 ようやく泣き止んだアイシャ。

 「満足したかな?」

 「まだ。ぜんぜん。全く。……でも今日のところはこれでいい。私も……駄目勇者だから。カナタの作戦に気付けなかったのは、間違いなく私の洞察力不足だもん」

 拗ねた声だが、安心したのがよく分かる。

 「あのー……」

 三人と一羽が申し訳なさそうにドアの隙間から覗いているので、手招き。まあその瞬間ビクッとしっぽの毛が逆立ったのが一名いるけど。


 「あの、本当にこの子を弟として迎えるつもりなんですか?」

 「ああもちろん。それが俺からこいつへの報酬だからな。文句は言わせないぞ」

 ここ二日間、ずーっと同じ質問を繰り返されている。初日はジリーに、次にリサさんに、そして今日はフューラに。

 「正直、たった七日間でそこまで肩入れするのはどうかと。友達や仲間としてならば分かりますけど、弟ですよ?」

 「何度も言わせるなっての」

 訝しげな三人。

 「……私は、いいと思う。だってね、私はあの時本当にカナタを殺したと思ったんだよ。肉を切って骨に当たって内臓を切り裂く感覚。あれはどう考えても本物だった。私はそいつの作った幻に騙された。……悔しいけど、見事にね。それってさ、そいつがカナタを信用しているからこそだと思うんだ。それは一緒にいた時間がどうこうっていう話じゃないんだよ」

 少し見ない間に、こいつも随分と大人になったようだな。


 「と、いう事だ」

 俺は弟へと語りかけた。みんなは気付いていなかったが、アイシャが泣いている時からこいつは起きていた。そして気付かれないように顔を背け、泣いていた。

 観念したかのように体を起し、こちらに一礼した子供。……いや、俺の弟。

 「こいつもジリーに吹っ飛ばされてから、ついさっきまでずーっと寝込んでいたんだよ。目が覚めて安心したぞ」

 (うん)


 「えっと」(うん)

 リサさんが本題を口に出す前に頷いた。

 「あはは、相変わらず早いなおい。リサさんもどうせ、本当に言葉が話せないのか、心が読めるのか、そして敵じゃないのかを疑ったんでしょう?」

 「え、ええ。……こう言っては何ですけど、カナタさんとは一週間ずっと一緒にいたとしても、わたくしたちとは初対面ですし、何よりもあのドッボの従僕ですから。それに心を読まれては何かと……」

 「分かった分かった。じゃあこいつが裏切ったら俺死んでやるわ。それでいいでしょ?」

 (ううん! ううん!)

 あはは、当人が必死に否定したよ。

 (ううん!)

 あ、こっちはシアね。


 「フューラはどう思う?」

 「僕は……ひとつ」(うん)

 また早いなおい。そしてフューラは驚くというよりは、少し安心した様子。

 「あはは、負けました。まさか僕が考えた瞬間に頷くとは思いませんでした。僕が考えた事は、もしもあなたがカナタさんを裏切った時には、僕が殺してもいいかという事でした。それをこうもあっさりと頷かれてしまうとは。……従者としても僕の負けです」

 弟に頭を下げるフューラ。こいつらしいな。


 「あーならあたしもいいよ。それにあたしは殴っちまった側だし。な? 白兎」

 軽く笑って頭を撫でているジリー。と、弟はジリーから顔を背けた。

 「ありゃ、あたし嫌われちまったか。まー当然だよねー」

 そう言いつつも残念そうなジリー。こいつには全てお見通しだぞ?

 ……と思ったら、目線ではチラチラとジリーの表情を確認している。

 これはもしや……お前もしかして、ジリーに惚れたか?

 (――! ――……)

 おっとっと、この反応は新鮮だな。唐突に焦って必死に否定する様子に、みんな何事かといった感じで面白い。というかお前の人生から考えて、初恋だったりするのか?

 (……うん)

 おー。いいんだぞ、男ならば恋のひとつやふたつしなけりゃな。それにジリーは見た目も可愛いし性格もいい。料理も出来る。唯一口が悪いだけだ。

 (……――、――――)

 紹介して欲しいって感じかな?

 (……うん)


 「ね、ねえ、なにしてるの?」

 さすがに耐えかねてか、アイシャが切り出した。

 「ん? ああ、心の会話。ジリーに殴られた事はもう何とも思っていないってさ」

 「お、おう。……んでも、ごめんな。あたしの早とちりで怖い思いをさせたのは本当だろ? だから……ひとつだけ何かしてほしい事聞いてやんよ。ただしエロいのは無し!」

 おっと、これはチャンスだぞ。言ってやろうか?

 (……)

 おや、反応なし。と思ったらこいつ、ジリーの手を取って甲にキスしやがった! いきなりすげー大胆だなおい!

 「へっ!? あ、えっと……え……か、カナタ?」

 「こいつな、ジリーに一目惚れしたそうだ。だから初恋の人になってくれって事だな」

 「ひと……はつ……ええええええっ!!」

 一目惚れと聞いて見る見る顔が真っ赤になるジリー。ウブなオナゴよのぉ。

 「あー……ご、ごめん。あたし、その、恋愛、とか、わから、なくて、さ。……べ、別のなら、何でもいいぞー?」

 がっかりする弟。ジリーの心の内も読めているだろうから、そっちでも否定されたんだろうな。


 「あ、はーい!」

 リサさんが来た。さて何を言い出すのだろうねこの王女様は。

 「この子、お名前がないのですよね? どうでしょう、ジリーさんが新しいお名前を付けて差し上げるというのは?」

 「お、いいね」「さんせいー」「僕も」(うん)

 「ちょっ! 責任重大じゃねーか! ……マジか? いいのか?」

 (うん)

 という事で弟も賛同。

 「えー……本当に何でもいいんだな?」

 (うん)

 「じゃー、ダフってのは?」

 (……)

 おや、反応がよろしくない。

 「何かあるんだな。名前の意味は?」

 「……あたしのところのスラングで、役立たずとかゴミ野郎とか」

 (――? ――……、――!)

 あーぁあ、意味を聞いて弟が泣き始めちゃった。しかも本気の大泣き。音が出てないから変な感覚だけど、これはさすがにひどい。

 「最低だな」「見損なった」「最悪ですね」「あり得ませんね」(ない)

 泣かしちゃうし全員にバッシングを受けちゃうしでジリー大焦り。

 「あ、えっと、ごめん冗談だから。いやホント冗談だから! な? 本当にただの冗談なんだって! 頼むよ泣き止んでくれよー」

 「お前な、今のは冗談で済まない。それに名前ってのは一生背負うものなんだぞ? しっかり当人の将来を考えてやらなきゃ駄目だろ」

 「あー……わーった。んじゃー……モーリスでどうよ」

 一見してよく聞く名前だが、こちらは全員疑心暗鬼である。

 「意味は?」

 「意味自体は確か……黒い人って」

 (――――! ――!!)

 悪化した。そりゃそうだ。アルビノで真っ白な弟に対して、黒い人はないわ。皮肉にしてもひど過ぎる。

 「いや! そういう意味で付けた訳じゃないんだよ! マジで!!」

 「じゃーどういう意味なんだよ?」

 「……あたしを逮捕した警官の名前でね、死刑になるまで目をかけてくれた恩人なんだよ。あたしに対して唯一、助けてやれなくてごめんって言ってくれた人。だから言葉の意味で選んだ名前じゃねーんだよ」

 すごくまともだ。


 「弟よ、確かに言葉の意味では皮肉めいてるけど、でもジリーの気持ちは本物だろう? それは心を読めるお前が一番よく分かるはず」

 (……――。うん)

 納得した様子。

 「最終決定はお前に任せるよ」

 (うん。……うん!)

 そしてジリーの手を握った。

 「これで名前も決まって心機一転だ。良かったな、モーリス」

 (うん!)

 捕まってる最中には一度も見なかった本当に嬉しそうな笑顔。それだけ安心して先へと進めたんだな。一週間とんでもない目に遭いはしたけれど、我が弟の満面の笑顔を見れたならば、それは充分帳消しに出来る。



 ――ひと息ついて。

 「やあ。按配はどうだい?」

 トム王が直接来た。後ろにはカキア大臣も。そしてモーリスはカキア大臣を見た途端に布団に潜った。魔族そのものにトラウマが発生しているのか? こりゃ難儀だな。

 「こいつの名前、ジリーが名付け親になってモーリスに決定しましたよ」

 「モーリスか。いい名前だね。今後ともよろしくね。私はこの国の王、トム=ヴァン・デー・ボンハルト。トムで覚えてくれ」

 (――――。うん)

 口は”よろしくお願いします”と動いたな。これくらいならば俺でも分かる。


 「アイシャの具合はどうだい?」

 「私は……まだあまり力が入らない。本当なら今日中に帰りたいんだけど……って今何時?」

 「正午前だよ。今はこちらもあちらも凪のように静かだから、ゆっくり静養するといい。体が辛いならばそのまま泊まっていきなさい」

 「うん、じゃあお言葉に甘えます」

 初陣で圧倒的な力差を見せつけられた両軍は、現在は勇者側の状況を探るために動きがない状態だ。それを知っているという事はもちろんアプローチがあった訳で、リサさんが事前にセンサーのような魔法を発動しているので、こちらに敵意のある存在はことごとく取り押さえられている。

 当初から王宮に潜入していたドッボのスパイも逮捕済み。俺がアイシャに殺された日、それを囮に不審人物を割り出したのだそう。そしてやはりというか、スパイは洗脳されておらず、トム王への逆恨みで洗脳されたふりをしていただけ。魔族の血で洗脳というのはただの迷信で決定。


 「あーそうだ。俺な、近々引っ越すから」

 「えっ? あの家だったら二人で住んでもよかったんじゃないの?」

 「いや、家の広さで言ってるんじゃない。俺は自宅で拉致されたんだぞ? それに今俺たちはお前のせいで板挟みだ」

 「……あっ、うん。なんか」「ごめんとは言うなよ。俺はお前の判断を買っているんだからな」

 うつむきつつも頷いたアイシャ。

 「それと、お前も引越しを考えろ。お前だっていつ襲撃されるか分からないんだぞ」

 「そう、だよね。……あれでも結構気に入った家だったんだけど、それじゃあもう少し大きな家に引っ越す。……ってかさ、もう私たちで一緒に住めばいいんじゃないの?」

 「俺もそれは考えたけどよ、男二人に女四人と一羽だぜ? かなり大きな家じゃないと厳しいぞ」

 考え込むアイシャ。


 と、フューラが手を挙げた。

 「あの」「却下」

 固まるフューラ。

 「どうせ自分は機械だから寝ないし、家も工房に住むから関係ないって言うんだろ?」

 「あはは、モーリスさんでなくても心を読まれちゃいましたね」

 やっぱり。

 「あのな、こういうのは全員揃ってこそなんだよ、全員が一つ屋根の下で暮らすからこそ、意思疎通や戦闘時のコンビネーションってのが鍛えられるんだよ。お前もそこら辺をもっと勉強しろ」

 「あはは……」

 苦笑いのフューラ。こいつの場合はそもそも友達・仲間・家族というものを知らないから仕方がないか。


 布団から顔と手だけ出しているモーリスに突付かれた。どした?

 (――――?)

 「ん? ああ、アイシャはこの世界の人間だけど、それ以外は全員何かしら事情持ちだよ。ドッボから聞かなかったのか?」

 (うん)

 という事で、全員揃っているので改めてモーリスに自己紹介。

 一番驚いていたのはやはりシアの紹介の時だった。お互い言葉は話せないが、モーリスにとってはシアの心も読めるようで、シアの正体に気付くと、大焦りで布団から飛び出しずっと平伏しっぱなし。かつシアもモーリスを愛でていて、最上位と最下位の二人でも関係は良好の様子。

 そしてここでの重要な事は、およそ教育と言えるものを受けていないはずのモーリスですらもプロトシアの存在を知っており、畏敬の念を抱いているという事。それが復活したとなれば、魔族が六千年前のリベンジに燃えるのも頷ける。

 「お前さ、教育を受けていない子供でも敬服するって、六千年の間にどんだけ影響及ぼしてるんだよ」

 (……うーん?)

 まあ全容はこれから分かる事か。


 「ああそうだ。王様、頼んでいた件は?」

 「残念ながらどこも難しいと言って、やんわり断られたよ。情勢や事情や、そしてその外観だから当然ではあるが。王の権限で無理矢理にというのも可能だったが、それではきっと駄目だろうからね」

 「まー、仕方がないですね」

 二人で溜め息。

 「何の話?」

 そして不思議そうに疑問符の付いた顔をしてるアイシャ。他のには話したが、アイシャにはまだだった。

 「モーリスを学校に通わせようと思ったんだよ。声が出せない以外にも、こいつは文字の読み書きすらも出来ないんだ。つまり自分の意思を伝える手段がほとんどない。だからせめて識字が出来るようになればとね」

 「……そっか。んー、私たちで教えるっていうのは?」

 「仕事したり鍛えたりの時間全部取られるぞ」

 「あ、そうだよね。うーん……」

 といってもその気持ちはモーリスに伝わっているようで、嬉しくも申し訳なさそうな表情をしている。一方学校と聞きジリーも興味を持っている。


 「あの」

 意外な人物が手を挙げた。カキア大臣だ。

 「私でよければ。実際に使った事はないのですが、これでも教師の資格を持っています。それに同族としても個人的にも、このような境遇の子供を見て見ぬふりはしたくありません。公務に支障をきたすような事はいたしませんので、お任せいただけませんでしょうか?」

 まずはトム王に視線が集まる。

 「うーん……こちらとしても保護対象が目に見えるところにいたほうが助かるのは確かだ。それに文字を覚えてくれれば魔族の内情もより詳細に分かるだろうし……」

 トム王の目線が俺に来た。保護者である俺の意見を求めるか。

 「俺としては保護者のいない間、預かってくれる場所がほしいところ。それが王宮ならばこちらとしても安心ですよ」

 次にトム王の目線はモーリスへ。

 (……うん)

 「んよし分かった。こちらが多忙でない日か、またはアイシャやカナタさんが出払っている日に限りですが、カキア大臣に預けます。ただし! こちらとしても、それなりの見返りは要求させていただきます。それも含めてモーリス君には頷いてもらいましたけどね」

 なるほど、その頷きなのか。ついでに言えばトム王はモーリスの能力も試したんだろう。これでモーリスに関しては大丈夫だな。

 あ、また泣き始めた。しかしこれは嬉し泣きかな。

 (うん)

 可愛い奴め。


 「……羨ましいな」

 ジリーがポロッと一言。

 「ジリーもこれからだよ。どうせなら私の行ってた学校に入る?」

 「……あたし、あんたよりも年上なんだけど」

 「あはは! 私の行った学校には年齢制限なんてないんだよ。レイアにも聞けば分かるけど、六歳くらいの子供から杖を突いたお爺さんまで、みんな一列横並びだよ」

 疑いの目ではあるけど、しかし少し期待もしているという感じだ。

 「もしもモーリスの呪いが解けたならば、一緒に学校行けばいいじゃないか。んでモーリスがいじめられそうになればジリーが相手に蹴りを入れる。完璧だ」

 「蹴り……は、ねーけど……まー全部終わったら考えてやるよ」

 (うん!)

 あはは、ジリーよりもモーリスのほうが嬉しそうだ。


 その後、モーリスはトム王が持ってきた服に一旦お着替え。仮にも王宮なので、ボロ雑巾のような服装でうろつかれては品格を疑われかねないのだ。

 服装としては特にこれといった特徴のない、普通の服。それでも本当に喜ぶんだから、これでジリーから服をプレゼントでもされようものならば卒倒するんじゃなかろうか。

 「……そのうち服買ってやんよ」

 「おっと、ジリーから言い出すとは」

 「まあ、好意を寄せてくれる事に悪い気はしないからね」

 ほほう。あ、でも恋愛には繋がらないパターンな気がする。


 ついでなので俺たちは改めてモーリスに俺たちの馴れ初めを聞かせた。

 これでもかと嬉しそうなその笑顔に、俺は、そして恐らくはアイシャたちも、心から救えてやれてよかったと思った。

 (うん)

 こんなところまで反応しなくてよろしい。



 ――夕食後。

 俺たちはそのまま王宮に一泊する事にした。

 トム王の計らいで夕食もご相伴にあずかった。ジリーとモーリスの二人はこういう高級料理など食べた事がないので、緊張と興奮で訳の分からない事になっていた。

 その後、アイシャも人に掴まりながらだが歩けるので、救護室から客室へ移動。一旦全員アイシャの泊まる部屋に集合。

 「ねえモーリスの呪いってどうやれば解けるの? なるべく早く解いてあげたいよね」

 「あー……モーリス自身はどうなんだ? 何か知ってる事はあるか?」

 モーリス長考中。

 (……ううん)

 「そうか。じゃあいつからなんだ? いつ呪いにかかった? 指で示せば分かるよ」

 (……ううん)

 「分からないって事は、物心ついた時には呪いをかけられていたのか。つまりお前、自分の声も聞いた事がないのか?」

 (うん)

 みんなで顔を見合わせてしまった。しかしそんな境遇でもたくましく生き抜き、ようやく普通の生活を手に入れようとしている。モーリスは本当に数奇な運命を歩んでいる。だからこそ、この呪いを解いてやりたい。


 「呪いといえば、シアはそこら辺詳しそうだよな」

 (うーん……ううん)

 少し考えてから首を横に振った。

 「ありゃ。という事はヒント無しか。聞いた事は?」

 (うん)

 聞いた事はあるけれども詳しくはないという事か。

 と、リサさんが口を開いた。

 「それならば、明日図書館に行ってみましょうか。もしかしたら呪いの専門書が見つかるかもしれません」

 「あ、なるほど。んーでも明日はみんな揃ったし家探そうかなと思ってたんだよなー」

 「それは二班に分かれればいいのですよ。わたくしは図書館へ、カナタさんは家探しをどうぞ」

 という事で、明日の予定が決まった。


 「でもよ、なんでそんな呪いなんてかけられたんだ? 理由が分かるほうが狙った本を探しやすいんじゃねーの?」

 「そうだな。んー、可能性として考えられる事は二つある」

 俺が挙げた可能性は以下の二つ。

 「まずモーリスのアルビノという特殊な体質。自然界でのアルビノは、目立つという理由から親に捨てられたり、すぐ殺されたりと散々だ。これがモーリスにも当てはまり、親兄弟などに疎まれた結果、声を奪われた」

 さすがに呪いという重い議題なだけに空気も重く、頷くものの誰も声を出さない。

 「次に魔族には珍しい、複数の魔法を使える事。現在の魔族は人類の子供にすら負ける程度の魔力しか有していない。なのにモーリスは転移や防御、幻影を作ったり気絶させる魔法まで使える。もしもそれが原因で捕まり、実験動物にされたら? この場合は親の愛故に声を奪ったという可能性がある」

 親の愛と聞いて、ジリーは溜め息混じりに悲しそうな表情を浮かべた。そんなジリーの手を握ったモーリス。

 「……いいよ励まさなくても」

 そう否定はするものの、その後二人は寝る間際まで手を繋ぎっぱなしだった。


 結論は出ないままだが、しかしやるべき事が決まった以上、進むだけだ。



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