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第三十六話  六泊七日、白兎とまぼろ死の旅(後編)

 俺は現在魔貴族ドッボに拘束され、洗脳されたふりをしている。そしてアイシャたちをこれでもかと反省させられる機会を得て、どうしてやろうかとウキウキである。言わば俺は人類・魔族・勇者の三者全てを騙す事になるんだから。



 ――作戦立案開始。

 俺はドッボから作戦の立案する許可を得た。

 最初にやるべきは魔族側の戦力を探る事。

 「ではまず、この初戦で人類や勇者に、我々との絶望的な戦力の差というものを見せつけるのはいかがでしょうか? 具体的には……出せる最新武器や戦力を一気に投入し、圧倒し尽くす」

 「いきなりか?」

 「いきなりだからいいんですよ。これで戦意喪失となれば侵攻への障壁も減ります」

 「……なるほどな」

 分かってるのかな? いや、仮にもマロードの一件を俺を釣り上げるためにやったんだ。だから間違いなくこいつは頭が切れる。……俺よりも。

 そして裏の考えとしては、フューラに蹂躙してもらう。力を見せつけるつもりが、逆に見せつけ返される。すげー恥だよ? 少なくともこいつが失脚するのは確実だ。……あいつ一人で来たらどうしようかな? 命令で帰れって言うか。まあアイシャがそれをよしとはしないだろうけど。


 次は人類側だな。といっても顔を知らないからなー。俺の知ってるのって、精々トム王くらいだ。ならばおびき寄せる事だけして、後の処理はあいつらに投げるか。

 「人類側をおびき寄せるには……」

 あ、これもあいつらを使おう。

 「俺は人類側の国家については知識がないのですが、グラティア以外の国境線を襲撃し、そこに勇者を呼び出す旨の手紙を置きます。こうする事で、勇者と人類の両者を一気におびき寄せる事が可能かと」

 「国境線か。……フィノスとナーシリコの国境だな。どちらもグラティアにはいい顔をしない国だ」

 「どこを襲撃するのかは、ドッボ様にお任せいたします」

 「ふん、言われなくとも」

 これで下準備はいいな。


 「ときに、戦場での大将はどうするのだ?」

 「大将、ですか」

 そうだよな、頭がいなければ格好がつかない。まず俺が出るのは確定だ。そしてあの子供も。となればドッボも引きずり出すか。

 「それはやはり、ドッボ様しかおられないかと」

 「わ、私がか?」

 なーに驚いてんだか。もしかして陣頭指揮を執るのは素人か?

 「ええ。初陣から圧倒的な戦力を以って蹂躙する魔族軍、その大将としてドッボ様が立てば、人類は永劫、ドッボ様のご高名を歴史に刻みつける事になるでしょう」

 「はっはっはっ、そうかなるほどな。それは良い考えだ」

 あっさり引っかかるなー。もしかしてこれも罠? ……まあいいや、何か知らんけどすごくやる気出してるし。


 後は俺と子供も一緒に行けるようにするだけ。

 「それから、勇者の相手は俺にお任せを」

 「旧知の友を自ら討つか。いいだろう、余興として楽しませてもらおう」

 「最後に、あの子供も連れて行きたいのですが、よろしいでしょうか? あのカンの鋭さがあれば、いざとなればドッボ様の、肉の盾となりえましょう」

 「……よかろう。おい、貴様確か転送魔法が使えたな? いざとなれば私を転送させろ」

 (うん)

 ほえー、こいつ転送魔法使えるのか。俺も血を飲んだから魔法が使えるようになる! なんてないかなー?

 その後俺は自分の髪の毛を軽く切り、便箋に同封。後の処理はドッボ任せ。

 手紙を一応確認させてもらったが、明日の正午……いや、時差があるから早朝に出発となった。



 ――ドッボがいなくなった後。

 「お前転送魔法使えるのか。魔族で魔法使えるのって珍しいんじゃねーの?」

 (うん。うん)

 あいつも転送魔法の事は知ってるから、間違いなくこいつを使って逃げるだろうな。……あ、いい事思いついた。

 「もう分かってるとは思うけど」(うん)

 さすが。

 これでこちら側の作戦も決まった。フューラが武器を破壊して魔族を無力化、アイシャが俺に喧嘩を売りに来る、俺がやられたふりをして、ドッボが逃げようとしたところでこいつが裏切る。

 (……うん)

 「最後にどうするかは君に任せる。恩義を感じていて、ドッボを逃がそうと思ったならばそれもいい」

 (分かった)


 ちなみに、この子は他にも魔法が使えたりするんだろうか?

 (うん)

 なるほど。という事は魔族ながら魔力を持っていて、かつ魔法が堪能なのか。お前エリートじゃん!

 (……えへへ)

 照れてる。可愛い。

 ん? もしかして俺の飲まされた魔族の血って……?

 (ううん)

 そうか、よかった。まさか知らずに血の契りを交わしていた、なんてなったらどうしようかと思った。


 じゃー魔力を持ってる血を飲んだ俺も魔法を使えるんじゃね? と思い、アイシャがやるように手を突き出し振ってみると……出た。

 あまりにもあっさりだったので驚いたが、黒いバレーボール大の球体を飛ばせた。……まー残念ながら威力はほぼない様子。壁に向かって撃ってみたが、何もならなかった。反動はかなり強いんだが、まあ見掛け倒しだな。

 ……見掛け倒しか。その手があった。

 「なあ、魔法で幻を作ったり出来るか?」

 (うん)

 「じゃあ……死んだふりの魔法とかある?」

 (……うん)

 あるんかい! よしよし。ならばアイシャに攻撃されたところで幻を作って本体は逃げて、死んだふり魔法で血を流せば完璧だ。あいつの青ざめる表情が目に浮かぶわい。うひひひ……。



 ――六日目。

 この日からある程度の自由行動が許可された。ただし白い子供の監視付き。これもう監視じゃなくなってるけどね。

 ほぼ一週間ぶりに普通におトイレに行き、シャワーで体も洗えてすっきり。改めて自分が洗脳されていない正常な精神かを疑うものの、どう考えても風邪引いただけ。

 窓から外を見たが、魔族領と言うから黒い空に赤い血の川、荒廃した大地に枯れて幽霊のようになった木々……なんて想像していたものは一切なく、至って普通の町が広がっている。ただ人類側よりも若干科学技術が発展しているようで、一見してガス灯があるのが分かる。さすがに蒸気機関までは行っていないだろうけど、数百年単位で人類側よりも進んでいるだろうな。

 これはつまり、魔力を持たなくなった代わりに技術を持ったのかもしれない。

 俺が出歩ける範囲は屋敷の中だけ。そして風呂・トイレ・執事の控え室・地下牢の四箇所。まー見所なんてありませんとも。ゲームならば不自然なほど宝箱が放置されていたりするんだけど、そういうのもなし。

 結局地下牢を出てから二時間ほどで全てを見終わり、また地下牢へと帰ってきた。


 さーて後はごろごろ寝て過ごすかー、と思ったら服を引っ張られた。

 「ん? どした?」

 と、子供が自分の口を指差し、歯が見えるようにして何度か強く噛み合わせた。普通ならばカチカチと音がするはずだが、これがまた無音。

 「あ、そういう事なのか。声が出せないんじゃなくて、口から発する音が全て消滅しちゃうんだな」

 (うん)

 「咀嚼音も?」

 (うん)

 という事は詠唱するタイプの魔法使えないんじゃねーの?

 (ううん)

 と口が動き、小さな……バリア的なものが出てきた。触ると確かに物体がある感覚。

 「声は出せないけど魔法は使えるから、何かあったら頼ってくれって事か?」

 (うん)

 なんだ、すげー健気。中身三十六歳……実はこの前数えたら誕生日が来ていて中身三十七歳になっていたおっさんは感動ですよ。

 「という事は、俺のところに来るつもりになったか?」

 (う……うーん……うん)

 そかそか。そうしたら帰ったらあいつらにも紹介しなきゃな。



 ――七日目。

 ついに来た来た決戦日。拉致されてから丁度一週間でもあるな。

 ドッボは朝から気合入りまくり。……というかこれきっと寝てないぞ。白い子供からも緊張しているのがひしひしと伝わる。


 俺たちは夜明け前にとある平原へ。

 「ここは?」

 「名も無き平原。まあこれが終われば私の名が付く事になるだろうがな!」

 自信満々です事。

 ようやく日が昇ってきて全景が明らかになった。本当に何もない平原だが、四方を山に囲まれた盆地になっている。そして俺たちの前には数千人規模の魔族。

 「彼らは?」

 「私の兵を総動員した。数にして三千! もちろん武器にはプロトシア様から授かったレーザーガンとやらを持たせてある。これだ」

 ドッボも同じのを持っていた。ハンドガンではなくてライフルに近いな。でもこれならばフューラの敵じゃない。


 ドッボの演説が始まった。

 「諸君! 我々魔族は、六千年もの間、この日を待ち焦がれていた! 我々魔族が人類を蹂躙し、その力を見せつけ、畏怖と絶望を植え付けるこの日を! 我々は勝ち、同士同族を開放するのだ!」

 正直、魔族側にも憐憫の情というものを禁じえない。だからといって戦争という愚行に走ってしまっては元も子もない。

 そして俺は、第三勢力として立ったあの馬鹿勇者に、小さいながらも希望を見出している。きっと勢いで言っちゃったんだろうなーとは思うけれども、その選択をした事は充分に評価する。だからこそ、ここで俺を殺す事で、改めて深く考える時間というものを与えたい。



 ――それから幾許か。

 一人の兵士が飛んで来た。

 「ご報告申し上げます。グラティア時間で十一時四十分、遠方に人類軍約五千を確認。勇者どもは未だ姿を現してはおりません」

 「分かった。勇者どもが姿を現すまでは待機だ」

 「はっ!」

 全員揃ってから開始か。それじゃあこちらも心と武器の準備をしますか。

 俺はトミーガンをそのまま持ってきた。一応水は入れてあるが、撃てても十発程度。先に魔法で脅しまくり、本気を出させる予定だ。


 「あ、ドッボ様、私事ではあるのですが、ひとつ兵どもに指示を行ってよろしいでしょうか?」

 「……内容如何だな」

 まあ多少は疑うか。

 「はい。勇者どもが到着次第、こちらへと手招きしようと思います。あちらも馬鹿ではないので特使として一名寄越すでしょう。その前後、攻撃を控えるようにお願い致します。俺と勇者とがやりあうには必要な脅しでありますので」

 「なるほどな。よし、許可しよう」

 相変わらずあっさりだなこいつ。

 これで誰かが来て、トミーガンを捨てずに持っているという事で、俺は忘れていない、洗脳されていないという事実に気付けたならば、アイシャ自身も演技をしてくれるはず。


 さてそろそろかな……。

 「来ました!」

 兵から声が上がった。時間的にはぴったりだ。しかし俺からはいまいち分からない。やっぱりこの世界の連中は目がいいんだな。

 「んー……あいつらはこっちを見ているか?」

 (うん)

 じーっと目を凝らして見ても俺からはやっぱり分からん。とりあえず見ているという事なので手招き。

 「……勇者側、動きました。魔女が白い服を掲げてこちらへと来ます」

 「話があるから手は出さないようにお願いしますよ。ドッボ様もここは全てお任せを」

 魔女という事はリサさんかな? フューラの可能性は……ないな。アイシャならばフューラを傍に置くだろうし、こういう事で真っ先に手を上げる人物といえばリサさんだ。


 さあ見え……たと思ったら行き過ぎたぞ。しかも何やら見た事のないマシンを手に入れている。円柱状で見てからに機械的だから、間違いなくフューラ作だな。ちらっと見えたがジェットエンジン付きなのかな?

 お、服が可愛い魔女服に変わってる。ってか胸元が見えてセクシーだなおい。それじゃー洗脳されて悪者になった演技開始と行きますか。

 「よう。随分と楽しいものを作ってもらったみたいだな。その服は謝肉祭で買った奴か? 可愛いじゃん」

 「ええ」

 見てからに冷や汗かいて慎重そのものだな。何よりもしっぽの毛が逆立っている。

 「ご説明を、いただけますか?」

 来た来た。

 「簡単だよ。謝肉祭最終日、俺は捕まった。そして――」

 トミーガンを取り出す俺。さあリサさんは気付けるかな?

 「こうなった」

 っと指が引き金に引っかかって一発撃ってしまった。直撃しなかったからよかったけど、肝が冷えたわ。……あ、リサさん逃げちゃった。まだ話があったのに、こりゃーまずい。

 「はっはっはっ、いきなり発砲して脅すとはな。貴様も相当に黒いな」

 「あーいえ、今のは事故でして……ともかく、これで勇者は俺をターゲットにするでしょう」

 んー……格好付け程度に狙いっぱなしにしておきますか。

 「貴様はここからでも狙えるのか?」

 「あ、えーと、狙えはしますけど射程の関係で届きません」

 半分嘘で半分本当。まさに今の俺だ。



 ――戦闘開始。

 人類側から先に仕掛けてきた。あちらの頭はせっかちな人物の様子。

 「数の上では不利であっても、その力差は歴然だな。このまま押し通せ! 我々の力を見せつけるのだ!」

 ドッボは士気を向上させるのだけは上手いかも。

 ここいらで最終打ち合わせ。

 (おい、俺が魔法を使いまくっている間に幻を作って、銃を取り出す動きをしたら死んだふり魔法だ。一瞬でも遅れれば本気で危ないんだから、俺の命預けるぞ)

 (うん)

 横目で白い子供と作戦を確認。正直すげー不安。……っていうのもこいつには聞こえているんだよな。


 唐突に声が響いた。フューラの声だが、まるで機械的な警告音だ。と同時に空に黒いボールが無数に出現。あいつも本気だな。

 「こ……こんなに多いとは聞いていないぞ!? おい貴様!」

 「俺だって実際にフューラが制圧を実行した場面なんて一度しか見ていないし、その時は精々五十人程度。さすがにここまで出来るとは……」

 思っていたけれどね。それすらも織り込み済みでこの人数と装備を引っ張り出させたんだから。


 「最終警告。直ちに戦闘を停止しなさい」

 おっと、最後の最後に声色が強いものへと変わった。これは俺たちも逃げる準備必要かも。

 っと思っていると、ついにボールから黒いレーザーが放たれた。まーすごいの何の、一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図だよ。これがフューラの本気か。きっと今頃アイシャは後悔しているだろうな。

 「こ……こんな……」

 ドッボは完全に引いている。このままだとアイシャが来る前に逃走しちゃうかも。

 「ドッボ様、このような場合だからこそ、兵どもを鼓舞し奮い立たせるべきでありましょう! 我々には魔王様がおられるのです! 我々は最後まで諦めず、前進するのです!」

 我ながら強引だな。

 「……確かにその通りだ。我々にはプロトシア様がおられるのだ! ものども怯むな! 今こそ立ち向かうのだ!」

 一応は大将なだけあって、兵士連中もそれなりに覚悟を決めた様子。……そして遠くで炎が灯った。あれがアイシャだな。

 (来るぞ。心の準備しておけよ)

 (……うん)

 緊張してるな。まあ俺もだ。



 ――対アイシャ戦。

 そろそろいいか。

 「それでは俺も出ます。勇者の相手はお任せを」

 「分かった」

 (お前もよろしくな)

 (うん)


 まずは挨拶代わりに微妙に外して一発発射。残り九発か。いや、さっき誤射したから八発。少ないなー。

 アイシャもこちらの射程は分かっているので、無理に近付こうとはしていないな。チビチビと撃ちつつ様子見。

 ……あれ、何発撃った? まーいいや、アイシャとの距離は五十メートルって所だから、もう魔法に切り替えよう。

 魔法もやっぱりアイシャには当たらないように、かつ脅威を感じる程度の狙い。ちなみに当たっても痛い程度で済んじゃう魔法だし、それ自体を悟られてやる気を失わせるのも何なので、あくまでもアイシャが俺の想像以上に動くせいで当たらないという体で。

 魔法を一発撃ったところでアイシャが驚きの表情で止まった。

 「あっはっはっ! 驚いてんなー極悪勇者!」

 「うっさい種無し! 今ぶち殺してやるから待ってろ!」

 おー怖っ。ってかあの目は俺の演技に気付いてないな。全く世話の焼ける奴だ。


 魔法に切り替えるならば銃は邪魔だから仕舞って……そういえば魔法ってどれくらい使えるんだろう? この際だから遊んでやるか。

 片手を振れば魔法が出る。としたら両手は? あ、普通に出た。……ふっふっふっ、つまりここは悪役の定番、乱射シーンだな!

 「はーっはっはっ! 魔法は楽しいなー!」

 「いい加減目を覚ませ馬鹿!」

 馬鹿じゃないよアホだよー! なんてな。ともかくアイシャも乗ってきた事だし、どんどん悪役しまくろうじゃないの。

 んで悪役といえば小物臭だろ。小物臭といえば大口を叩く。例えば――。

 「よお極悪勇者! 今から俺が殺してやるぞー!」

 なんてな具合。

 「やれるもんならやってみな! 今の私はカナタの知ってる私じゃねーんだよ!」

 「いいねえー! それでこそ殺し甲斐があるってもんだ!」

 我ながらノリノリである。


 魔法の乱射が意外なほど楽しく、そろそろ本気でアイシャに当てたくなってきた。FPSや屋台の射的な感じ。

 少しずつだけどアイシャが距離を縮めてきた。そろそろあいつの射程だな。

 ……来た! 魔法を使い、反動で後退!

 「なんて簡単にいくと思ったか?」

 「な!?」

 「お前の射程くらい覚えてるっつーの。その程度のオツムじゃーまだまだ半人前勇者だな! あっはっはっ!」

 あー人を煽るのは楽しいなあー!! っと、心の黒い部分が出てしまった。

 おっと、空にフューラがいるのを発見。……最後の仕上げに使えそうだ。


 いよーし、この際だからもっと荒く煽りまくってやろう。そうだ、洗脳ついでに狂った演技も付け加えてやろう。

 「あっひゃっひゃっひゃー!」

 この魔法、乱射するのが本当に楽しい。弾幕ゲームでボス側になった気分。

 「うっひゃひゃひゃー……って、あれ? あれれ??」

 魔法が出なくなった。んー? あ、MP切れか。それとも魔族の血の分しか撃てなかったのかな?

 「あはは、魔力切れ起こしてやんの! そりゃーあれだけ無造作無秩序に乱射していればそうなるっての。バッカジャネーノ?」

 あーぁあ、こいつ反省してねーの。なんというか、冷めた。

 「……そういうところは直す気がないんだな」

 やっちゃった! って顔してますぜ、勇者様。


 さーて、こちらの手もなくなったし、そろそろフィニッシュと行こうか。あいつは分かってんのかな?

 まずは嫌味な笑顔を浮かべてアイシャに何が来るかと警戒させる。……よし、剣を握り直した。あとはフューラを煽ればアイシャは焦って俺を切り殺そうとするはず。

 「フューラ命令だ! アイシャを攻撃しろ!」

 「えっ!? いやいやフューラ、聞いちゃ駄目だよ!」

 さてフューラは……耳を塞いだ。それでいいのかよ? ともかくこれでアイシャはフューラがこちらに付く事を恐れて焦るだろう。


 さてあとはあいつへの合図としてトミーガンと取り出すだけだ。と、懐に手をやった途端に来た! ってか速っ!? これヤバい!!

 剣先で銃を飛ばされ、その勢いで仰け反る。ギリギリ避けられるかどうかといったラインだ。しかし俺が避けようとすると、目の前にピンク色の頭が現れた。あーこれが幻か。それでも必死に後退。間に合え!


 俺自身にはギリギリで当たらなかったが、幻の側は完全に切り殺されていた。あぶねーよマジで。……と思ったら……意識が……な……。



 ――戦闘終了。

 「んはっ!? あれ、ここどこ!?」

 「……え? ええええええっ!!??」

 俺を抱えていたのはフューラだった。そしてリサさんに抱えられているのは、血に染まり気を失っている様子のアイシャ。

 「アイシャ、大丈夫なのか? ……あれ、ジリーは?」

 「あー……」

 二人とも固まっててらちが明かない。まずはジリーだな。見渡すと……いた。ってかあれ完全に白い子供殺すコースだよね!

 「降ろせ!」

 「あ、はい……えっと」

 「話は後!」

 全速力でジリーを止めに入る。間に合え!

 「ジリー待った! って、あーやっちゃった……」

 声をかけるも時既に遅し。あの子はお空に羽ばたいてしまいました。


 「って……えええええっ!!??」

 お前もか。

 「カナタ、死んだんじゃねーの!? 幽霊? え? 幽霊なのになんで触れんの!?」

 ジリーの奴が人の体や顔をベタベタと触って確認している。と、後ろから三人とシアも来た。シアは疑う素振りも一切なくあっさりと俺の肩に止まったから、きっとこいつは気付いていたんだろうな。

 「はあ……死んでねーっつーの。そこの子供と手を組んで、洗脳されたふりして逃げる機会をうかがってたんだよ。その過程でお前らに改めて反省を促すために死んだふりをした。まさか俺の意識を失わせる魔法を使うとは思わなかったけど」

 「えっと……」

 三人とも混乱中だな。

 「あ、アイシャは無事なのか? ドッボは? 逃げたか?」

 「アイシャさんは過労で倒れただけです。ドッボは――」

 フューラが指を差した。その先には赤黒い物体。そうか、アイシャの奴暴走したんだな。アイシャにもドッボにも悪い事をした。俺も反省しないと。


 後はリサさんが持っていた転送アイテムを使用して、無事に王宮へと戻ったという訳だ。



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