第二十八話 武器屋対抗武術大会
――謝肉祭最終日。
昨日あれだけ怒ったからか、今日は誰も来ないな。
「シア、先にフューラの工房に行って様子見ておいてくれ。あとがない状態のフューラはきっとどん底まで落ち込んでいるからな。場合によっては大丈夫だって励ましておいてな」
(うん)
俺としては、しっかり反省してくれればそれでいい。
「俺は時間通りにコロシアムに行くから、そっちで合流しよう」
(わかった)
さて……出発予定時間までまだ三十分近くあるな。あっちから来るのも考えられるし、ギリギリまで待っておくか。
――という事で三十分経過。むしろ遅れたか?
トントンと、丁度玄関ドアをノックされた。あいつらもさすがに反省して迎えに来たか。
――同時刻。コロシアム、アイシャ視点。
「はあ……どうしよ……」
会う前から溜め息が止まらない。
「やっぱり溜め息出ちゃいますよね。僕なんてもう……捨てられますよ」
「わたくしも散々注意を受けていたのにこの失態。どうお詫びすればよいか……」
「あたしもちょっとお遊びの度が過ぎたね。謝らないと」
私たちみんな凹んでます。だって、二度も同じ過ちを犯したんだもん。それはカナタがあれだけ怒っても仕方がないよ。
「……でも、遅いね」
「そうですね。時間ではもう合流してもいいはず」
「シア、悪いんだけど上からカナタ探してくれる?」
(うん)
迷ってるのかな? すごい人込みだから分からなくなってるのかも。
シアが戻ってきた。……って、やっぱり私の頭の上に止まるんだ。
「どうだった?」
(……?)
「うーん……先に入ってるのかも。私はそろそろ控え室に行かなきゃだし、ここはフューラに任せるね」
「はい」
今私にある一番の問題は、まだレイアが来てない事。とりあえずは代わりの剣で戦うけれど、困ったなぁ……。
――コロシアム、控え室。
男臭っ! ……当然か。女性は私以外にひとりだけだし、ミスヒスはもちろん私だけ。正直心細い。
「ん? なんでガキが混ざってんだ?」
あーやっぱり目を付けられますよねー。
「いやそれどう見てもあれだろ、極悪勇者様」
「……マジ?」
「あははー、マジです」
思わず苦笑い。そしてみんな一斉に一歩引いた。やっぱり私ってこうなんだ。昨日の事もあるし、余計に凹むなぁ……。
「でも、最近はあんまし悪い噂聞かねーよな。なんか男とコンビ組んでるって噂はあるけど」
「マジか。なんだ勇者様も男作ったのか。あっはっはっ」
「い、いやー……」
怒られて捨てられかけてるだなんて絶対に言えない!
気付けばみんな私に対する警戒心を解いてくれていた。おかげでちょっと安心。
「勇者様ってレベルなんぼよ?」
「あ、えっと、今28です」
「へっ!? 28っ!?」
驚かれました。勇者様って言ったらもっと高いと思いますよね、普通は。
「い、やー……町ひとつ吹っ飛ばしたってんだから、てっきり100以上かと思ってたよ」
「あれは……町の地下にガスが貯まっていて、それに引火しちゃったんですよ」
「あ、そうなの? そしたら俺らにも勝てる見込みあるって事か! いよーし勇者様を倒しちまおうぜ!」
「うおおおー!」
闘争心にまで引火しちゃったようです。……どうしよう、本当にどうしよう……。
――大会開始。
私たち出場者は顔見せもあり、一旦全員コロシアム内へ。
「はーい今年もやってまいりましたグラティア王国謝肉祭のメインイベント、武器屋対抗武術大会! 司会進行および実況はまたもやわたくしカミマクールと」「バジートフの二人でお送りしまーす」
やっぱりこの二人なんだ。
「さてこの大会では、国内にある六十四の武器屋武器工房が各々戦士を雇い、提供された武器のみを使用して対戦を行います。ルールは簡単。相手に参ったと言わせるか、気絶させるだけ。魔法は直接人に対して使うものは禁止。なお事故であれ故意であれ、相手の命を奪ってしまうと牢獄行きになりますので、そこはご注意を」
「はい。そしてこの大会は六十四人によるトーナメント方式を取り、三回戦まではコロシアムを四分割して四つの試合が同時に行われて、準々決勝からは一対一になります」
私の目標は三回戦突破かな。カナタの事で思うところはあるけれど、今は試合に集中しないと。
「そして本日のゲストはこの方! 我らが王、トム=ヴァン・デー・ボンハルト様です。よろしくお願いいたします」
「はいこちらこそ」
げ、トムが見てるのか。これは絶対に恥なんてかけない。
「それではみなさんに一言お願いいたします」
「はい。えーみなさん、改めて自己紹介をさせていただきます。私がここグラティア王国の国王、トム=ヴァン・デー・ボンハルトです」
挨拶がてら頭を下げたトムに、「知ってますよー」という声が飛び、客席からは笑いが漏れた。普通ならば王様にそんな口は聞けないけど、この国は王様と民衆とが近く、そして謝肉祭という場だからこそ、こういう雰囲気が許される。
「あはは。えーそれでは、出場者の方々には、正々堂々としたフェアな戦いを望みます。観客の方々には、勝った者負けた者ともに盛大な拍手をお送りください。今ここに、グラティア王国謝肉祭、武器屋対抗武術大会の開会を宣言いたします!」
「うおおおお!!」
怒涛の歓声がコロシアム全体を包み込む。これに熱くならない人はいないよね!
開会式が終わり、トーナメント表が貼り出された。
「私は……えーっと……げっ」
「おー勇者様、初戦からオヴィリオだぜ? 悪運強いな!」
「あははは……はあ……」
オヴィリオさんは前年の準優勝者。レベルにして70以上かな? これは一回戦敗退確定だなぁ。
「という事で、よろしくお願いしますね」
「あ、こちらこそ、お手柔らかにお願いします」
髭のおじ様。優しそうな笑顔だけど、実力は私とは天と地ほども差がある。
――一回戦。
「さーてさてさて次の対戦カードは……ミスヒスのアイシャ選手対前年度の準優勝者オヴィリオ選手だー!」
外の明るさに目が眩む。せめて恥のないように、全力を出そう。
「さーミスヒスのアイシャさんといえばご存知の方もおいででしょう。かの英雄イリクスの生まれ変わりと噂され、そして初陣から町ひとつを木っ端微塵に吹き飛ばしたと言われる極悪勇者様でーす!」
うわーそんな紹介しなくてもいいのに。好奇と嘲笑の視線が痛い……。覚悟はしていたけれど、予想以上だこれ……。
「さて先に対戦相手のオヴィリオ選手にお話をうかがいましょう。オヴィリオ選手、小さな勇者様を目の前にしていかがですか?」
「んーそうですね。小人族とはいえミスヒスですし、それに勇者様ですからね。油断せずに行きたいと思います」
「なるほど堅実ですね。次にアイシャ選手にもお話をうかがいたいと思います」
「えっ!? えっと……が、がんばる。……ます」
「それだけですか?」
「え……んと……あ、恥じないように頑張ります!」
「はい、つまり頑張るという事ですね」
最初からそう言ってんじゃねーかよ!
「では王様はどちらが勝つと思いますか?」
「んー、実力ではオヴィリオ選手でしょうね。でもアイシャの潜在能力は計り知れない。なにせ私が勇者に認定したんですから」
「そうでしたね。それでは試合開始です!」
試合開始の合図は小さな花火。それが弾けると「バンッ!」ってもう!?
あーもう完全にペース乱れまくりだよ! これじゃあオヴィリオさんじゃなくても負けるっての!
「……よろしいですかな?」
「えっ!? あ、ごめんなさい」
紳士だなあ。よし。深呼吸をして……。
「行きますっ!」
オヴィリオさんは重歩兵。体格差から考えてもスピードで翻弄する以外に勝ち目なし。となれば待ちは愚策、突撃あるのみ!
初弾は正面から! もちろん受けられちゃう。分かってるよそれくらい。
とにかく重量で押し負けるのだけは避けなきゃ。動け私!
「さすがミスヒス。小柄な体格を生かしてオヴィリオ選手に狙いを定めさせない!」
それしか手がないんだってば! ったく、こんな鉄壁どう崩せっての!
……いや、ここで焦るのはいけないよね。動きつつオヴィリオさんの動きを観察。絶対どこかに隙があるはず。色んな角度、色んな距離から死角を探る。剣の振りにも注意を払い、一瞬の隙を辛抱強く探ろう。
「さあアイシャ選手、果敢に切り込むが確実な一打が出ない。一方オヴィリオ選手はその場で方向転換はしても未だに大きくは動いていません」
ならば、一か八か誘ってみよう。距離を取り、わざと挑発。
「その鎧重過ぎて動けないんじゃないの?」
「なんの、そのような挑発には」「ダサいし臭いし。近くに行くだけでも臭うんですけど。あーここにいても臭ってくるー。もうそこから動かないでよ」
……よし、表情が変わった。ごめんなさい、後で謝りますね。
「おおっとオヴィリオ選手動いた! 重装甲の鎧をもろともしない突撃だ!」
私にとってはまだまだ遅い! ……股抜けしてみようかな。なんて!
「アイシャ選手も突っ込んでいった!」
剣を振り上げた時に隙が出来た。私は本当に滑り込むように股抜け。やれば出来るものだね。そしてオヴィリオさんは私を見失った。
「すみません、これで勝ちにしていただけませんか?」
股の下って鎧でも隠せないんだよね。私は剣先を男性の急所に向けている。
「……これは、驚きました。しかしっ!」「動いたらマジ危ないって!」
一瞬私の腕に感覚が来ちゃったよ。自分で取った作戦だけど、これはないわー……。
「うっ……わっはっはっ! 確かにこれでは私は動けませんな! さすがにまだムスコを失いたくはありません。参りました、私の負けです」
「Cブロック第三試合、アイシャ選手の勝ち!」
剣を収めてお辞儀。
控え室へ。
「さっき煽ったのといい、こんな勝ち方といい、卑怯な手段でごめんなさい」
「ははは、いえいえ負けは負けですし、それに勇者様の速度は本物でしたよ。実は挑発される以前から何度か見失っていまして、それを悟られないようにと必死に取り繕っていたのですよ。……臭いますかね?」
「あ、えっと……あははー」
どう反応しても印象悪くなるよね、これ。
――二回戦。
「さーCブロック二回戦第二試合は、お股にスライディングした勇者、アイシャ選手と、ポロが趣味のパトリック選手だ!」
ねえ私思いっきり笑われてるんだけど。試合が終わったら実況のあいつ脅しに行っていいかな?
花火が弾け、試合開始。相手は軽装の若い男性。速さでは翻弄出来ないかな。と思っていると向こうから突っ込んできた! さすがに待ってはくれないか。
背の小さい私はどうしても上向きに剣を構える必要が出てくる。そして相手は逆に下向き。つまり重力が味方する。
だーかーらっ……剣と剣を交差させるだけでも、私には辛いんだよ!
「勇者様、僕パトリックって言います。よろしく」
「はあ? こんな所で自己紹介なんてしてんじゃねーよ!」
「趣味はポロ。あの馬に乗ってやる奴」
「知るか!」
完全にナメられてる。……っていうかニヤニヤしててキモい!
それでも一応は対応出来てるし、前の襲撃の時よりも動けてる。やっぱり私も成長してるんだ。……中身は変わってないけど。
避けるのだけは自信がある。事実今のところかすりすらしていないし、オヴィリオさんよりも明確に私を見失っている。でもそれが隙には繋がらないのはさすがかな。
「僕ね、村に彼女がいるんすよ」
またなんか言ってるよこいつ。
「勇者様に勝ったら告白しようかなって」
うわっ、ウゼー!
「花束と指輪も用意してるんで、負けてください」
「知るかっ!!」
物凄く腹が立ち、モンスター相手のように飛んで体ごと捻って剣を叩き込むと、兜に大当たり。この一撃で気絶して倒れちゃった。
「ヤバっ! 死んではいない……よね?」
「……大丈夫です。Cブロック二回戦第二試合、アイシャ選手の勝ち!」
よかった。……あ、フューラ見っけ。リサさんとジリーもいるけど、カナタは……。
――三回戦。
「Cブロック三回戦第一試合は、アイシャ選手対マリカ選手の女性対決だ! マリカ選手はワーニール山頂監獄の看守さんで、第一第二回戦ともに余裕を持った試合運びで短時間で勝利を収めています」
っていう事はジリーはこの人の事を知ってるのかな? あ、目を合わせたら頷いた。……やっぱりカナタもレイアも見えないな。
「よろしくお願いしますね」
「あ、こちらこそ」
「んー心ここにあらずのように見えますけど、そんな事では私は倒せませんよ」
「あはは……ごめんなさい。気合入れます!」
そうだ。真剣にやらないと怪我をする。怪我したら、カナタに笑われる!
花火が弾けた。さあ来い!
っと思ったけど明らかに速い! そして一撃が重い! オヴィリオさんには食らわなかったし、キモ男は強くなかったけど、この人は本物だ。
一旦間を開ける。……つもりだったのに全然離れないよ! まずいこれじゃ本当にここで負ける!
「逃げているだけじゃ私には勝てませんよ」
「分かってる!」
それでも防ぐだけで手一杯なんだよ! 小人族の劣性ナメんな!
「ちっ!」
気付いたら舌打ちをしていた。完全に追い込まれている。
「はあっ!」
終わりだとでも言いたげに、思いっきり剣を振ってきた。動け私!
「あっ……」
大きな一撃を強引に防いだところ、カキーンといういい音と共に剣が折れた。これで終わりか。
「例え勇者様でも、いい職人には巡り会えなかったようですね。さあ、白旗を揚げていただきましょうか」
悔しい。すごく悔しい。剣を折られた事も、レイアを馬鹿にされた事も、カナタが見ていない事も……。
「……分かりました。参り」「待って!」
え、この声……レイアだ!
「ごめんアイシャ! えっと……後で話す! これ!」
客席からレイアが剣を投げ込んだ。その剣は地面へと突き刺さり、私に抜かれるのを待っている。私は柄を握り、その新しい剣を引き抜いた。驚くほどスルっと抜けたその剣は、見事だ。一目見て分かるほどに、レイアの心がこもっている。真剣に命と向き合ったのが分かる。
「あれが勇者様お抱えの職人さん? 随分若い方なんですね。だから先ほどの剣も弱々しく折れてしまったのですね」
「……うるせーな。私の親友馬鹿にしてんじゃねーよ。私が認めた最高の職人、馬鹿にしてんじゃねーよ! 泣かすぞオラァ!」
本気出す!
「実況! 確認だけど、直接の魔法は駄目なんだよね?」
「はい。直接攻撃したり身体に働きかける魔法は駄目ですよ」
「つまり、これはいいって事だよね。……赤き炎よ宿れ!」
レイアの打った新しい剣に炎が纏われる。……いい感じだ。
カナタたち以外の前でこれを見せるのは初めてだ。案の定観衆や実況やトム、奴からも歓声。……この機を逃さない。一撃で仕留めてやる!
私は低く構え、一気に加速した。奴は構えるが、私はその剣ごと斬ってやるつもりだし、この剣にはそれが出来ると確信している。だからこそ私は剣を力一杯振り抜いた。
少しの衝撃もなく奴の剣は真っ二つに吹き飛び、その勢いで奴ごと吹き飛ばした。
自分でも驚くほどの威力だけど、でも納得している。そして、今後レイアはもっと洗練され腕を上げる。その事も確信した。私が認めるんだから間違いない。
私は、やってはいけない事と知りつつも、奴の上に片足を乗せ、その首筋に炎がついたままの剣を向けた。
「……っ……なん……」
「例え監獄の看守でも、いい職人には巡り会えなかったようですね。そしてあなたの心が拙劣だから、その剣も弱々しく折れてしまったんですね。さあ、白旗を揚げていただきましょうか」
やられたらやり返す。昔に戻った気分。
「ま……参りました」
「それだけ?」
「……あなたの職人さんを侮辱して、すみませんでした」
よし、満足。炎を消し、新しい剣を鞘へと収めた。
「Cブロック三回戦第一試合、アイシャ選手の勝ち!」
「うおおおおお!!」
さっきまでは嘲笑だったけど、今は歓声だ。……トムは? と見ると、軽く睨まれたけど手を叩いて喜んでいる。お咎めなし……かな?
さあこれで武器屋リコールの宣伝にもなったよね。あ、そうだ。
「レイア、このあと少し時間開くから……あっちにフューラたちいるの分かる? あそこで合流しよう」
私が指を差すとあっちも手を振った。
「うん、分かった。じゃあ行ってるね」
――一旦合流。
「んやったあっ!」
いの一番に抱き付いてきたレイア。
「あはは、まだ三回戦だよ?」
「うん。……ごめんなさい。アイシャに怒られて、ようやく私目が覚めた。……これってありがとうなのかな?」
「なんでもいいよ。レイアの気持ちは、言葉以上にこの剣が教えてくれたから」
「うん!」
レイア泣いちゃった。ほんと可愛いんだから。
……でもこっちは暗いままだ。
「カナタは?」
「いえ」
「そっか」
答えたのはリサさんだ。フューラはもう半泣き状態。ジリーはそんなフューラの肩に手をやり、励ましている。もしかして、本当に……。
「今は試合に集中してくださいね」
「……うん、分かった。レイアの事もお願いします」
「はい」
悪い考えが浮かぶけれど、それでも私は今出来る事をしないと。
――準々決勝。
「さーお待たせいたしました。準々決勝Cブロック第一試合は、炎の剣を鮮やかに踊らせた勇者、アイシャ選手と、前三試合ともにただの幸運だけでのし上がった男、モイ選手との戦いです」
「モイ選手は本当にただ相手が転んだり風で砂が目に入ったりといった幸運だけで来ていますからね。運も実力のうちとは言いますが、その幸運はどこまで続くのでしょうか? 注目ですね」
「はい。それでは両者にインタビューしてみましょうか。まずはモイ選手。どうでしょう、持ち前の幸運はここでも発揮出来そうですか?」
「そっすねー。まーオレっちのピースなラックなら、勇者ったって楽勝っしょ」
げ、軽い男。私こういうの嫌い。
「はい、次にアイシャ選手、いかがですか?」
「ちょっと遅刻だけど新しい剣も届いたので、そう易々とは負けません!」
「気合充分ですね」
当たり前じゃん。こんなのには負けたくない。
「ではもうひとつ。あの炎の剣はどういう事なのでしょうか?」
「どうって言われても……えっと、剣に炎の属性を持たせる感じです」
「なるほど、属性付与ですか」
多分ね。実は私もよく分かってない。
準々決勝からは花火ではなくて、審判席から魔法が放たれる。それが弾けて試合開始。
さて、相手は運だけの軽い男。どう攻めるか……とりあえずは突付いて様子を見よう。
私はまず回り込めるか試してみた。……うん、行けそう。という事で剣を出してみる。一応防がれはしたけど、今の一瞬でも分かった。こいつ本当に素人同然だ。という事は本物の幸運男か。警戒するに越した事はないね。
隙だらけだし、幸運が発揮される前に一撃食らわせる!
「うあっ!? っと」
走り出した途端転びそうになった。これが幸運? ……いや、何か違う。
「ちっ、へへへ……」
舌打ちと薄ら笑い。勇者のカンとして、こいつは何かやっている。でも何を? どうやって? ならば暴いてやりますか!
まず今の違和感を考えよう。普通ならばあそこで転ぶなんて考えられないし、地面に凹凸があった訳でも石が転がっていた訳でもない。ならば考えられる事はひとつ。土の魔法で地面を一瞬、少しだけ隆起させた。
私はまだそこまで細かい力加減は出来ないけれど、リサさんならば余裕で出来るはず。
「へへへ、オレっちのラッキーに腰が引けてんのー?」
無視。
それじゃあ他の場面は? 二回戦では風が舞って砂が目に入り、おかげで大きな隙が出来たので勝てた。つまり誰にも気付かれずに風の魔法を使った。……私でも出来そうだ。
三回戦は確か一瞬相手の動きが止まったんだっけ。何でだろう? 見ていたんだから思い出せるはず。えっと……。
って何か眩しいな。あ、太陽の光が剣に反射してるだけか。まだ慣れてないからね。
……あ、眩しくて止まったのか! でもどうやって眩しがらせた? あーもう! もっと勉強しておくんだった!
中々動き出さない私に業を煮やしたか、あいつからこちらに向かって……来ない。その素振りはあっても動こうとしない。あそこにいる事が何かしらの条件なのかな? ならば動いていただきます!
「睨み合いから一転、アイシャ選手が突っ込んでいった! おっとモイ選手に正面から連続攻撃!」
さあ動け! 動け動け動け!!
「モイ選手一気に押されて後退! ついでに蹴り飛ばされた!」
よし、さっきあいつのいた場所に陣取ってやろう。さて何が見えるかな?
んー……分かんない! けど、ここならばどこにいても誰からもよく見える。……そうか、共犯者か! 何かしら合図を送って共犯者に魔法を使わせる。その合図を出しやすいのがここ。といってもここから共犯者を特定するのは無理だ。
「さあモイ選手動いた! っと風が出てきましたね。またこれも幸運のひとつでしょうか?」
んな訳あるか! でも明らかに私を狙って風が吹いてる。……魔法ならばこっちには専門家がいる。どう合図を……あ、眩しがらせてみよう。剣の角度を少し変えて……チラチラ。
――眩しいリサさん視点。
「ん! ちょっとアイシャさん、わざとやってますでしょ!」
「あのさ、それって何かの合図なんじゃねーかな?」
「合図?」
そう言われれば、アイシャさんはわたくしたちではなく、わたくし自身を狙っているように感じます。なにせ端にいるジリーさんまでは光が届いていません。わたくしが必要な案件となれば、魔法関係。
「……不正が行われているという事ですね」
「不正?」
「ええ。まあ見ていてください。マジックエンチャント・ハード!」
さあ、これで誰かが魔法を使えばすぐに分かりますよ。なにせわたくしの使った魔法は、魔力強化、しかも高位のもの。なので、小さな火の玉も炎の獣となります。……アイシャさんが怪我をしなければよいのですが。
「とりあえず手を振っておきましょう」
――再びアイシャ視点。
リサさんが手を振った。分かってくれたみたい。よし、これで魔法で妨害される事はない。
「一気に行かせてもらう。赤き炎よ宿れ!」
さすがに二度目ともなると、驚きよりも応援の歓声が大きい。どっちを応援しているかは知らないけど、きっと全員私を応援してる!
走り出した私。でも予想外の事が起こった。振り抜こうとした矢先に、私の下から大きく土が突き出した。気付けば上空に飛ばされている私。いや、これまずいって!
落ちかけたところで地面に向けて風魔法を使って着地。
「痛っ」
……ちょっと足捻ったかも。
「あんた、何してくれてんのさ!」
「お、オレっち知らねーよ?」
「はあ!? こんだけあからさまに魔法使っておいて、知らないじゃないだろうが! 大体何かしら不正してるのは分かってんだよ! 共犯者はどこだ!」
と、リサさんが飛んで来た。
「お怪我は?」
「ちょっと、足捻ったかも。ってか魔法封じたんじゃないの?」
「あー、いえー……そのー……」
ばつが悪そうに目線を外した。
「リーサーさーんー!!」
リサさんを叱ろうとして、ふと客席から走って逃げる人陰を見つけた。あいつだ!
「待てやコラ! っ!?」
痛くて足が動かない! 予想以上に捻っちゃったみたいだ。
「治癒魔法をかけますので、じっとしていてください。ホーリーケア」
リサさんの手から光が溢れ、捻った足に当てられている。温かくて気持ちいい……けれど、それとこれとは全く別問題!
「ったく、何したのさ、本当!」
「申し訳ありません。魔法を封じるのではなく、倍増させたのですよ。明確に使用が認められれば試合が止まると考えたので」
「……カナタがいたら怒られてますよ?」
「そうですね。軽率でした」
相手のモイ選手は出張してきている衛兵に捕まっていて、さっき逃げた奴は……ジリーと追いかけっこしてる。けどすぐ捕まった。さすがジリー。そしてそのまま引きずるように下りてこっちにきた。
「ほらよ。魔法が使われた時に逃げる奴をフューラが監視してて、唯一逃げたのがこいつ。お前何者だ?」
「し、知るか!」
黒いローブで全身を覆った、いかにも怪しい奴。
「……そういう事でしたか」
「リサさん分かったの?」
「ええ。この男性とあの選手とは同じピアスをしていますよね? あれは対になっているアーティファクトで、それを使って情報をやり取りしていたのですよ。だから丁度いいタイミングで転ばせたり、風を吹かせたりが出来ていた訳です。三回戦目では水を反射板代わりにしたようですね」
「そ、そんなのデタラメだ!」
「ならば、デタラメである事の証明のために、お貸ししていただけますよね?」
引きちぎるように強引に奪い取ったリサさん。
その後、リサさんと審判とで通信が成功。これで確定した。
「静かに!」
ざわつく場内を一喝したのはトムだ。みんな一斉に声を止める。
「そこの二人。よくも私の眼前でこのような不正行為を堂々とやらかしてくれたな。貴様らには競技失格、および国内における全ての行事からの永久追放を命ずる! 今後どのような行事においても、貴様らを見かけ次第逮捕拘束する!」
永久追放か。当然だよね。
「王様、私からも少々よろしいですかな?」
トムの後ろから誰か来た。……あれは憲兵団の装備だ。
「モルド・キャスト、ならびにダルド・キャスト。両名には十四件の恐喝及び詐欺容疑での逮捕状が発行されている。確保せよ!」
まさか偽名を使った犯罪者、しかも兄弟だったなんて。
「……んうわあああ!」
自棄になって逃げた! この野郎! って、私は痛くて動けないんだった。
と思ったらジリーが追いかけ、追いつき、追い抜き、振り向きざまに二人ともを回し蹴りで一撃ノックアウト! しかも吹き飛ばされた先が憲兵の目の前。ジリーすごい。
ジリーに伸された二人は、無事憲兵団によって拘束されました。
「改めて私から勝敗を宣言させていただく。Cブロック三回戦第一試合は、アイシャの勝ち!」
あえてトムからの宣言。そして一際大きな歓声。でも私はこれで棄権だね。はあ……。
控え室に戻ったところで、次の私の対戦相手になるはずの、ジークヴァルドさんに声をかけられた。
「足、大丈夫ですか?」
「歩けはしますけど、激しい運動は無理ですね。すみませんが私は棄権します」
「そうですか。前年優勝者としてお手合わせ願いたかったのですが、仕方がありませんね」
どっちにしろ次で負けてたね、これ。
ドオオオンッ!!
突然の大爆発。どこ? まさか――。




