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第二十九話  戦争への火蓋

 武術大会中に大きな爆発音。実況と解説の二人が観客をなだめてはいるけど、まずい事が起こったのは間違いない。私たち参加者は控え室で待機だけど、みんないざとなったら戦う気だ。

 私は足に包帯を巻かれ、その上からリサさんが治癒魔法をかけ続けてくれている。おかげで飛び跳ねなければ大丈夫なくらいまで回復。さすがリサさん。


 控え室で陣頭指揮を執っているのは、前年優勝者で私の次の対戦相手になるはずだったジークヴァルドさん。北方にある砦の兵隊長さんだ。

 「まずはコロシアム周辺の掃討が最優先だ。賊を王に近付かせてはならない」

 「よっしゃ!」

 これ、あいつらの武器の事知らないのかな?

 「あの」「それから賊の数についてだが、情報が下りてくるまでは自身の予想の十倍と思ってほしい」

 「十倍だろうがなんだろうが、これだけ猛者がいるんだ、余裕だぜ!」

 まずいな。これ暴走するかも。

 「あのちょっ」「我々が遅れを取る事はない。皆全力を以って」「あのっ!」

 「……なんだい? 勇者様」

 ようやく止まった。

 「みなさんは、連中を甘く見過ぎです。あいつらは普通の賊じゃない。統率された兵士である可能性が高い」

 「なればこそ、我々も一致団結して事に当たらなければいけないというものだ。なあ諸君!」

 「うおおおお!!」

 ……分かってない。全然分かってないよ! これは、勇者として止めなきゃならない!

 「あの、話はまだ」「グラティア王国に栄光をー!!」「おおおー!!」


 イライラしてきた。

 「……お前ら、人の話聞けっつってんだろうが!!」

 「……お、おー……」

 やばっ、素が出た。でも止まったならばいいや。細かい事は言ってられない状況だし。

 「連中はね、魔貴族の持つ民兵なんだよ。そして……もう隠しておける状況じゃないから話すけど、連中は異世界の技術を手にしてる。私たちの知る剣や魔法じゃない、もっと先の、数万年先の未来の武器。前回の襲撃、あれを収めた張本人である私が言うんだから間違いない」

 「待ってくれ。異世界の技術? 未来の武器? そんな与太話を信用しろと?」

 「僕を見ていただければ分かります」

 フューラが来た。後ろにはレイアもいるけど、リサさんたちもいるから、外にいるよりは安全だね。

 フューラはみんなの目の前で戦闘用の服装になった。一部の若い男は目を背けて照れてる。仕方ないか。そしてフューラは以前私たちに見せてくれたように装備を公開。

 「……これが武器? 一見して浮いているボールにしか……」

 フューラは無言のまま飾ってあるストックの剣を指差した。そして実演し、黒く光る矢が一瞬で剣をへし折ってしまった。みんな唖然としてる。

 「みんなさ、これに勝てる? 私たちの相手はこういう武器なんだよ。私たちの尺度では測れないんだよ。だから気合の一点で突っ込むような真似は絶対にやめて。そんな事をすれば全員死ぬよ」

 青ざめる参加者たち。分かってくれたみたい。


 「ゆ、勇者様さ。も、もしかしてだけど、こういうのと、戦ってきた訳?」

 「ううん。存在はカナタたちのおかげで知ってたけど、実戦は初めて。だから私もみんなもゼロからのスタートだよ」

 本当にゼロだ。対処法も倒し方も全く浮かばない。みんな青ざめてはいるけれど、私だって怖い。ネリデスールでのフューラを知っているから余計にね。

 「それで、フューラ。なんか情報持ってる?」

 「現在のところですけど、敵の数は百余り。武装はおおよそレーザー、今見せたものですね。……僕ならば命令があれば制圧出来ますけれど、どうしますか?」

 「でも、そういうのは嫌なんでしょ?」

 ネリデスールの時の、あのすごく嫌そうな顔は忘れない。

 「あはは、僕はそのために作られたんですよ。……正直に言えば、この力は行使したくないです。でも……でもですね、僕は機械です」

 カナタに禁止された一言。それを使うっていう事は、フューラは覚悟してるんだ。


 「……フューラ、ごめんね。あなたの力を借ります。……命令。賊の武器を破壊し無力化して。制圧は私たちでやる」

 「はい。ご命令の通りに」

 カナタが嫌がったのが分かる。私は友達を奴隷のように扱い、戦地に放り込む真似をするんだもん。

 「みんなはコロシアム周辺の人たちを中に入れて守って。合図が来たら一気に制圧するよ!」

 「うおっしゃあっ!!」「まかせとけ!!」「さすが勇者様!!」

 ……さすがって言われちゃった。ううん、呆けている時間はないね。早速行動!



 ――コロシアム外縁。

 「指揮はジークヴァルドさんに任せます。私よりも経験あるでしょ?」

 「ええ、任せてください!」

 正直言うと私は統率を執る自信ないんだ。今までも失敗してきてるし、それが原因でカナタに怒られてる訳だしね。

 私たち武術大会参加者は、三人一組になって王宮を向いて扇状に展開。丁度私の位置からはフューラが見える。そして私にはジリーと、一回戦で当たったオヴィリオさんが付いた。

 「前衛は私とジリー。オヴィリオさんは一般人の盾役でお願いします」

 「おうよ!」「了解した!」

 さあ即席兵団の出陣!


 私たちはまず逃げてる人たちをコロシアムに誘導するところから始める。でもすぐにあの実況者の声がコロシアムの外に聞こえてきた。

 「コロシアム周辺の皆さんは、場内に避難してください。場内は安全です。焦らず走らずに避難してください。繰り返します。コロシアムの周辺皆さんは――」

 さすが本物、すごく落ち着いて丁寧で聞きやすいアナウンス。

 誘導中、フューラが王都上空にあの黒い球体を大量に浮かべた。フューラあれを何個持ってるんだろう?

 「誤射しないだろうね?」

 「フューラに限ってそれはないよ。ジリーだってそれは分かってるでしょ?」

 「あはは、確かに」

 話し終わるとほぼ同時にさっきも見た黒い矢が放たれた。


 ……上空に向けてもう一発撃った。合図だ。さすがに仕事が早いなぁ。

 「みんな、制圧に移るよ!」

 「任せとけ!」

 「一回戦敗退の汚名を払拭して見せますよ!」

 あーやっぱり汚名なんだ。すると実況者からもアナウンス。

 「前衛兵士のみなさんは、制圧へと移行してください。繰り返します――」

 制圧と聞いたからか、方々から避難していた剣士や、そして魔法使いも飛んで来た。今私たちの戦力は一万を超える!


 その後私たちは文字通り怒涛の攻勢に出た。テレポートしてきた追加の敵兵もいたけれど、ことごとく私たちに制圧された。

 こうして二時間もすれば全区画で制圧完了となった。

 しかし武術大会は中止され、それまでに勝ち上がっていた私を含めた四人全員に、トムからの言葉と、参加者全員に参加賞、そしてトロフィーは制圧任務で一番働いた、Bブロック二回戦で敗退していた若い剣士に贈られた。これは私たち参加者全員の意思で決定した事だ。

 騒動は一旦落ち着いたけど、でもこれで分かった。私たちは今、とてつもなく大きな脅威に晒されている事を。そして――。

 「ここにいるみなさんに報告を申し上げる。襲撃を受けたのはコロスだけではなく、他国の首都も被害に遭った事が分かった。幸いそちらは人数も強力な武器も持っていなかったので、既に制圧を完了したとの報告を受けている。つまりこれは、ここグラティア王国だけではなく、全世界への宣戦布告行為である!」

 前回と今回の事。これは六千年前の、そして四千年前の、二つの戦争が終わってなかった事を示している。

 「私、トム=ヴァン・デー・ボンハルトはこれを良しとせず、このような愚かな行為に及んだものどもを一掃する事をここに誓う!」

 言ってしまった。相手が何者か確定するにはまだ時間は掛かるだろうけど、少なくとも、戦争への火蓋は切って落とされてしまった。



 ――王宮、玉座。

 私たちはトムに呼ばれて王宮へ。レイアは武器屋と工房の安全確認で帰った。

 「……」

 「ふくれているね」

 「当たり前でしょ。あんな事を宣言したら、否が応にも私は巻き込まれるんだから」

 勇者になった時点でこうなる事を想像はしていた。でも、今は……。

 「そういえば、カナタさんは? 今日はずっと見かけていないけど」

 やっぱり来るよね、その質問。

 「昨日怒られて……それ以来見てない。コロシアムにも来てなかったみたい」

 「……なにしたの?」

 呆れたように聞いてきた。きっとこれを言ったらもっと呆れられちゃうね。それでもネリデスールでの事も含めて、全部話した。

 「――あーぁあ。それは怒られて当然だよ。お祭りだからって気が緩んでいたのは分かるけど、二度目の醜態を自分から晒した挙句、そんな顔をすればね。これが終わったらちゃんと謝りに行きなよ」

 「うん。分かってる」

 正直、半分くらいは許してもらえないんじゃないかって思ってる。だからこそ、ちゃんと謝らないと。


 「それじゃあ本題だ。今回の襲撃について、そちらで分かっている事を全て教えてほしい」

 私たちは目を合わせ、頷いた。

 「今回の連中は、間違いなく前回のと同じ、カナタが見つけ出したナントカっていう魔貴族の民兵。少なくとも私が見つけた敵兵は全員が魔族だったから」

 「……六千年前の繰り返しなのか」

 「それは少し違う。六千年前と四千年前。戦争は二つあった。そしてまだ終わってない。歴史を闇に葬った人類は忘れてるけど、魔族は覚えている。そうでしょ? カキア大臣」

 グラティア王国の参謀大臣、カキア・フレティッヒは魔族だ。

 「――はい。私もあの歴史書を拝見させていただきましたが、我々魔族の知る歴史とおおよそ合致しています。人類の歴史書には書かれていない、四千年前の魔族大虐殺。忘れなどしませんとも」

 「え? ちょっと待って。戦争じゃないの? 虐殺!?」

 「虐殺です」


 「六千年前の戦争終結後、既に魔族に力は残っていなかったのです。今もそうでしょう? 魔族である私の持つ魔力は、王宮を見学に来る子供にすら負けます。極一部に今なお強い魔力を有した魔族もおりますが、世界で数えても百人を割り込むでしょうね。私がしっかり使える魔法は、せいぜい火の最下位魔法くらいですよ」

 魔族の現在の魔力については歴史書にも出てきていた。シアが魔族の持つ魔力を吸収し封印したんだ。おかげで六千年前の戦争が後腐れなく終わった……はずだった。

 「そんな状態の我々が唯一人類側の土地に持っていた都市で、火種は生まれます。正確にはその都市そのものが火種でした。そして炎は燃え上がり、我々魔族はそのほとんどが慈悲もなく虐殺されたのです。……あの歴史書にも書かれていない事ですけれどね」

 驚いた。私はてっきり新たな土地を求めた魔族が反乱を起こしたのが、二度目の戦争の引き金だと思ってた。……私は大きな過ちを起こすところだった。

 「だとしてもですね、今回のような蛮行を許してはいけません。ましてや我々の同族が、プロトシア様のおられるこの王都を、しかも謝肉祭の最中を狙い襲撃するという行為を、許せるはずがありません」

 カキア大臣は怒っている。それは大臣としても、魔族としてもだろう。

 そして当のシアは……なんだろう。私を信頼してくれているのかな? すごく落ち着いて私の肩に乗っている。


 「僕からよろしいですか?」

 次はフューラから手を挙げた。

 「今回の襲撃で使われたレーザーガンですが、その技術レベルは前回の光学照準機よりも上です。しかし僕ほどではありません。これが発展途上なのか、または相手の知りうる最高技術なのかは不明です」

 「問題は私たちだよ。技術の低いこんな私たちでもどうにかなるの?」

 「なります」

 即答だ。やっぱりフューラは技術には強いね。

 「レーザーというのは基本的に何かに当たるまでずっと直進するんです。つまり射線上に立たなければいい。それだけなんです」

 「カナタにも銃の正面には立つなって言われたけど、それと同じなんだ」

 「そうですね。……ただし注意があります。レーザーは銃弾よりも更に真っ直ぐに、そして一瞬で到達します。撃たれたら逃げる暇はないと思ってください」

 本当に正面に立っちゃ駄目って事だね。しっかり覚えないと。

 「そしてレーザーにはもうひとつ重要な弱点があります。それは、反射するんです」

 「反射っていうと……あっ! 鏡!」

 するとフューラが笑顔で手を叩いた。

 「アイシャさん大正解です。レーザーは鏡で反射します。そしてアイシャさんのその剣、どうですか? 刃に自分の顔が映りませんか?」

 「……映る! あー、分かった! 剣で防げるんだ!」

 「そういう事です。そしてリサさん、魔法で水の壁を作れますよね?」

 「作れます。……あっ! あの詐欺兄弟が、水で太陽光を反射させて目暗ましをしていましたよね!」

 「はい、正解者に拍手ー」

 リサさんにも拍手を送るフューラ。そうか、私たちに必要なのは知恵なんだ。

 「なるほど、そういう事か! 至急各隊及び周辺諸国に通達を出してくれ。相手の銃は鏡と水で防げると!」

 トムもしっかり理解した。これで私たちはあれを恐れずに済む!



 ――ひと息入れて話は進む。

 「次にジリーさんについて。今回の逮捕劇や襲撃への」「ちょっと待った!」

 嫌な予感がしたんだろう。ジリーから話を止めた。

 「刑期をまた短くするってのはやめてくれよ? あたしはしっかりと罰を受けるべきなんだ。そうじゃないとあたし自身も納得出来ない」

 「とは言われましても、もうあなたの戻る牢はありませんよ」

 「……は?」

 ん? どういう事?

 「謝肉祭の期間に仮釈放をするのには、公にはされていない隠された理由があります。この期間は窃盗などの犯罪が多発する。そしてそれらを収容する牢が不足してしまうんですよ。だから特定の条件を満たす模範囚を仮釈放し、牢の収容量を確保する。無事何もなく過ごせた場合は、そのまま釈放という訳」

 睨むジリー。

 「つまり、あたしを試していたって事?」

 「そういう事です。そしてジリー・エイス。あなたはそのテストに合格した。無期限の執行猶予はもちろん付いたままですが、あなたはこの国の正しい段階を経て出所されました。もう戻せだなんて文句を言われても不可能ですよ」

 「……もしも何かやれば?」

 「無期懲役刑になります。それが嫌ならば、無理にでも納得してください」

 つまり、ジリーはもう短期間だけ牢に入るという事は出来なくなった訳だね。

 「……やってくれたね。もしかして最初から、これを狙ってあたしを牢に入れた?」

 「はい」

 ニッコリと、嫌味に笑顔を作るトム。ジリーは呆れたように溜め息。

 「はあ……なんていう王様だよ全く。言っとくけど感謝はしないよ。……むしろ恨んでやる! 大体ね、あたしは本当に!」「まあまあ、ね?」

 熱くなりかけたジリーを止めておいた。このままだと話が脱線しそうなんだもん。

 「ったく」

 あはは。

 「じゃーひとつだけ。このTシャツはそのままもらうよ。古いのはボロいし、何よりもあたしが囚人である事には変わりない。戒めだね」

 「それは構いませんが、勘違いされますよ?」

 「いいんだよ。それも含めてだからね」

 ジリーはこの服装を意外と気に入ってるのかも、と思った。そして私の家で保管してある服は、ジリー自身が処分する事になった。


 「ここからが重要だ。フューラさん」

 「分かっています。僕の持つ技術を提供しろと言いたいんですよね?」

 「そうです。あなたの技術で歴史が変わってしまうのはまずいので、技術の提供には応じられないと、私はそう解釈しています。これは正しいですよね?」

 「はい」

 慎重なフューラ。でもきっとトムが何を言い出すのかは全て予想してる。

 「しかし、相手は既にその歴史を歪めてしまった。既にあなたが技術提供を拒む理由がなくなってしまっているんですよ」

 「それでも不可能です」

 即答のフューラ。やっぱりトムの考えを読んでいたんだ

 「現状で僕が提供出来るのは、先ほどの対処方くらいです。技術は提供出来ません。何故ならば、高度な技術というのは使用方法を誤れば人類を滅亡させかねない力だからです。そして現状、この世界では間違いなくそれが起こってしまうし、彼らはそれを起こそうとしている」

 「だからこそ、力が必要なのでは?」

 「力と力との衝突は、新しい火種を生むだけです。僕はそういうものを三百年以上も見続けてきましたから」

 「ではまざまざとやられろと?」

 「いいえ。別の方法を探るんです」

 二人とも熱くなっている。けど、フューラはやっぱりどこか悲しそうなんだ。

 「……そのためにも、カナタさんがいてほしかった。以前カナタさんは、自分は平和な世界から来たと言っていました。だからこそ、カナタさんならば答えを出せるはず」

 トムは溜め息を吐き、議論を止めた。

 「分かりました。この話は一旦保留にしましょう。カナタさんを連れて来てください」



 ――道中。

 ジリーが私に、こんな事を言い出した。

 「……あの、さ、アイシャ」

 「ん? なに?」

 見ると、恥ずかしそうに顔を掻いてる。

 「満了……っていうのとは、ちょっと違うけど、さ。出所出来た訳だろ? だから……んーっと……」

 言いよどんでジリーが止まった。そして顔を真っ赤にしながら、頭を下げた。

 「と、友達! ……に……えっと……」

 「うん、私とジリーは友達だよね。とっくの前から」

 「……へ? い、いや、あの……前の襲撃の時、出所出来たら友達になってもいいって……」

 「そんな事言ったっけ? 私としては一緒に王宮の地下牢に入ってた時点でもう友達だと思ってたんだけど。じゃあ今まで友達だと思ってなかったの? なんだ薄情だなー、なんちゃってね。えへへ」

 すごく驚いた表情のジリー。実はその発言は覚えてる。ジリーに勇者様って言われるのがむず痒くて、名前で呼んでって言った。その時ジリーに友達みたいって言われた事が恥ずかしくなって、とっさに吐いた嘘だ。


 ドサッと力が抜けたように地面に膝をつき座り込んじゃったジリー。

 「え、ごめん大丈夫?」

 「……あはは……あっはっはっはっはっ! なあーんだよ! なんだ、あたしがネガティブに思い込んでただけかよ!」

 嬉しそうに大笑いするジリー。そして……泣いてる。

 「あー……あたしはね、本当に、本っ当に! あんたに感謝してるんだよ。あんたはあたしを救ってくれた。あたしの未来を救ってくれた。あたしが王様に食ってかかった時も、あんたは身じろぎもせずにいてくれた。ちょっとした事だけど、あたしはあの時嬉しかったんだ。そしてあんたを信用したんだ」

 ジリーは私の手を優しく握ってきた。

 「……えへへ、えっと……嫌だなー、ありがとうしか言葉が浮かばねーや!」

 「あはは、それで充分だよ。充分ジリーの気持ちは伝わった。だって、友達だからね」

 「うん。ありがとう。本当に感謝してるし、本当に嬉しいよ」

 そっか。私はジリーを救えていたんだ。よかった。私も嬉しい。



 ――カナタの家。

 「カナター?」

 ……。

 返事がない。ただの留守のようだ。

 「鍵が掛かっていますね。……あの」「言わないで。私も考えちゃったから」

 あの襲撃に巻き込まれてしまった可能性を。

 シアが扉を通り抜けて、中から鍵を開けてくれた。

 「……もしかしてと思ったけど、家の中は変わりないね」

 「そう、ですね。僕の覚えている限りでは、何も変わりはありません。鍵が掛かっていた事も含めて、自宅で襲われたという可能性は考えられないでしょう」

 「少しだけ安心しました。少なくとも血を見ずに済みましたから」

 各々考える事は同じみたい。


 「そうだ、フューラってコロシアムで逃げた奴をすぐに見つけたよな? あれって探知機があるって事なんじゃねーの?」

 ジリーの言うとおり、詐欺野郎の片割れを見つけたのってフューラだよね。

 「いえ、なんというか……レーダーは積んでいます。でも僕の使用用途から、個人を特定して探せるようには出来ていません。敵か味方か程度の区別しか出来ないんですよ。なので、王都の中でみなさんの動きを監視する事は可能ですけど、それが誰の動きなのかまでは分かりません。それにあのネリデスールの一件でカナタさんに、自分に対してはレーダーを使うなと命令を受けてしまっていますので……」

 「……私のせいだ。あの時私がカナタを煽って怒らせたからだ。ああ……私、最悪だ」

 頭を抱えて自分の愚行を恨む。私って本当、嫌な奴だ。

 「いや、あれはあたしが元凶だ。そっちのやり取りも一応は見てたけど、あたしが犯罪行為に走っていなければ起こらなかった事。一人で抱え込むんじゃねーよ?」

 「……」

 何も言えない。きっと肯定しても否定しても、それは自分を偽る事になる。それに二度も同じ理由でカナタを怒らせた結果がこれなんだ。前回のツケが回ってきたんだ。

 これは私への罰なんだ。愚かな自分から目を逸らさず、対峙しなきゃ。それを私はフューラから、リサさんから、ジリーから、そしてレイアからも学んだ。次は私の番なんだ。


 「……強くなる」

 自分でも驚くほどストレートな決意が口から小さく漏れた。私は今のままじゃ駄目なんだ。きっと自分を守れても、みんなを守れない。一人を救えても、みんなを救えない。それじゃあ駄目なんだ。



 ――王宮、玉座。

 「カナタはいなかったよ。家で襲われた可能性はない。負傷者の収容所は?」

 「そう来ると思って念の為確認はしたが、ピンクの髪の男性は見つからなかったよ。つまりは行方不明という事だね」

 謝るチャンスが潰えた訳じゃないのはよかった。でも困った。本当にどこに行ったんだろう?

 「それと、後日アイシャたちには各国代表を集めた連携協議に立ち会ってほしい。それまでにカナタさんが見つかれば、カナタさんも同席でね」

 「その連携協議で今後の事が決まるって事?」

 「そういう事。十中八九戦争が始まるだろうけどね。でもこればかりは一国でどうにかなる話じゃないんだ。それを理解してくれ」


 止められない戦争への道。

 ならば私は、勇者として、アイシャ・ロットして、どう進むべきなんだろうか。


更新速度更に落ちます。ご了承ください。

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