水路のお手伝い、復帰しました
翌日の午後から、私は水路の工事のお手伝いを再開した。
本当は午前中から再開するつもりだったんだけれど、ギルドマスターさんが改めて訪れ、魔獣使いになる為に必要な手続きとなる書類を渡され内容を説明され、それにサインし、魔獣使いとしての心得を語られた後、子魔獣との契約を行う事になった為に、予定をずらしたのだ。
子魔獣との契約は、自分の血を与え、名前をつける事でなされるらしい。
私はその行為に若干の抵抗を感じたけれど、ギルドマスターさんから視線で強く促され、渡された針で渋々自分の左手の人指し指をプツリと刺し、それを子魔獣の口に近づけ舐めさせナディと名付けると、次の瞬間、私とナディの体を淡い青い光が包み込み、そして消えた。
ギルドマスターさん曰く、それが契約完了の証らしい。
こうして私の肩書きに、魔獣使いという言葉が増えたのだった。
とはいえ、ナディ以外の魔獣を飼う気はないけどね。
そんなこんながあったものの、午後には無事に水路作成のお手伝いに復帰できたのだ。
もう何日も経っているから当然だけど、休んでいた間に工事はかなり進んでいた。
ナディの看病をする為とはいえ、自分が発案したものの工事の参加を放棄していた事に少々罪悪感を覚える。
そのせいか、周囲で作業をしている人達が何処か困惑したような顔でこっちをチラチラ見ているような気さえする。
いや、実際に見られている。
お、怒って、いるんだろうか。
でも私は一応領主だし、表立って不満を口にできない……んだよね、きっと。
こ、これはもう、前以上に頑張る事で挽回するしかないかな!
「よぅし、頑張って掘って掘って掘りまくろう!」
「キュウン!」
「んっ?」
気合いを入れ、私がスコップを手に土を掘り出すのとほぼ同時、何故かナディも気合いを入れたように鳴き声を上げ、その声につられて横にいるナディを見ると、前足で土を掘っていた。
「え……ナディも、手伝ってくれるの?」
「キュウン!」
「そ、そっか……! ありがとうナディ。じゃあ一緒に頑張ろうね!」
「キュウン!」
私に返事を返しながらも、ナディは前足を動かし続け、素早く土を掘っていく。
うわぁ、早い……よぉし、私もナディに負けられないぞ!
周囲の人々は、そうやって競うように土を掘り出した私とナディを見て、いや、正しくは人狼が主を手伝っている様子を見て、きちんと従える事ができているのだとホッと胸を撫で下ろしているのだという事に、私は最後まで気がつかなかった。
★ ☆ ★ ☆ ★
館に戻ると、私は土で汚れた体を清めるべく、真っ直ぐにお風呂に向かった。
準備は既にメイドさんがしてくれている筈だから、すぐに入れるのだ。
私は脱衣場に入ると腕に抱えていたナディを床におろし、服を脱ぎ始める。
「キュウンッ!? キュッ、キュアンキュアンキュアン!!」
「え? あっ、ちょ、ちょっとナディ!? 待って、駄目だよ床汚しちゃうから~~! お風呂入らないと~~!!」
上着を脱いでぱさりと籠に入れたところで、何故かナディが騒ぎ出し、脱兎の如く脱衣場から廊下へと駆け出して行った。
私は慌ててナディを追いかけるも、その姿を見失ってしまう。
「あ、あれぇ……何処に行ったのかな……。どうしよう、ナディお風呂嫌いなのかな?」
「…………マシロ様」
「え。……あっ、クライスさん! ご、ごめんなさいナディ見ませんでした? お風呂が嫌なのか、脱衣場から逃げ出しちゃって……!」
「……彼ならここにいます。嫌なのはお風呂ではなく、貴女と共に入浴する行為のほうでしょう。彼はまだ子供とはいえ男なのですから」
「え? お、男って……え、ま、魔獣って、そういうの気にするんですか……?」
私は呆れたように言うクライスさんとその足元に隠れるようにこちらを見上げるナディを交互に見つめ、最後にクライスさんに視線を固定すると、首を傾げそう問うた。
「……全てではありませんが、知性が高い魔獣は、そうですね。ですから、お風呂は一人でお入り下さいマシロ様。彼は、私が男性用のお風呂に入れますから」
「そ、そうなんですか……わかりました。じゃあ、お願いします。ナディ、クライスさんの言うこと、ちゃんと聞くんだよ?」
「キュウン」
「ん、いい子。それじゃまた後でね」
私はナディの返事を聞くと、クライスさんに再度お願いし、脱衣場へと戻って行ったのだった。