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第5話「不死者は煙草をやめられない」

 午後3時18分。


「……うま」


 白石千歳は、ゆっくりと煙を吐いた。


 喫茶店『玉兎』の裏口。


 表通りの賑わいから少し離れたその場所は、店内とはまるで別の空間のように静かだった。


 建物の壁に囲まれた細い通路には、午後の柔らかな日差しが斜めに差し込んでいる。


 遠くから車の走行音が聞こえるものの、店の裏手まで届く頃には、ほとんど気にならない程度になっていた。


 休憩時間になると、千歳はだいたいここにいる。


 壁に背中を預け、片手には煙草。


 もう片方の手は、ジーパンのポケットに突っ込んでいた。


 白いシャツの上からエプロンを着けたまま、気の抜けた姿勢で空を眺める。


 店内ではずっとコーヒーの香りに囲まれているが、休憩中に吸う煙草はまた別だった。


 火をつける。


 吸う。


 吐く。


 それだけでいい。


 何かを考える必要もない。


 何百年生きていようと、休憩時間まで有意義に使う必要はないのだ。


 むしろ、長く生きているからこそ、何もしない時間のありがたさはよく分かっている。


「…………」


 もう一度、煙を吐く。


 白い煙はゆっくりと形を変え、午後の空気に溶けていった。


 その時、ポケットの中でスマートフォンが震えた。


「ん?」


 取り出して画面を見る。


 かぐやからだった。


『千歳』


 名前だけのメッセージ。


 相変わらず用件が書いていない。


 千歳は片手で文字を打つ。


『なに』


 すぐに既読がつく。


『今日夜トゥーンラッシュやらない?』


『いいよ』


『何時に帰る?』


『夜』


『何時?』


『分かんない』


 千歳は煙草をくわえたまま、画面を眺める。


 今日は少し忙しい。


 閉店作業まで手伝うかどうかも、まだ決まっていなかった。


 正確な時間など、今聞かれても分からない。


 数秒後。


『電話していい?』


「なんで?」


 思わず声に出た。


 返信しようとした瞬間、画面が着信に切り替わる。


「もうかけてきてるじゃん……」


 千歳は小さく笑い、通話ボタンを押した。


「もしもし」


『千歳、今日何時に帰るの?』


「だから分かんないって」


『だいたいでいいよ』


「9時とか、そのくらい」


『じゃあ10時からやろ』


「いいよ」


『決まり』


「これ電話する必要あった?」


『文字打つの面倒だった』


「私、仕事の休憩中なんだけど」


『知ってる』


「知ってるんだ……」


 千歳は煙草の灰を落とした。


 電話の向こうからは、かすかにゲームの効果音が聞こえてくる。


 どうやら、かぐやは今も何かを遊んでいるらしい。


「かぐやは今日何してたの?」


『ゲーム』


「それだけ?」


『配信もした』


「外出た?」


『出てない』


「昨日は?」


『コンビニ行った』


「ああ、アカリのとこ?」


『うん』


「その前は?」


『…………』


 電話の向こうが静かになった。


 千歳は口元に煙草を運びながら、返事を待つ。


「いつ?」


『覚えてない』


「私の喫煙歴みたいになってるじゃん」


『一緒にしないで』


「何が違うの?」


『わたしは外に出る必要がないだけ』


「それを出不精って言うんだよ」


『家に全部あるのに、なんで外に出る必要があるの?』


「知らないよ」


『ゲームあるし、食べ物あるし、通販もあるし』


「現代社会に適応しすぎじゃない?」


『便利だよ』


「アカリみたいなこと言ってる」


『アカリも正しいよ』


 千歳は苦笑した。


 1000年以上生きた結果、外へ出る必要性そのものに疑問を持つようになったらしい。


 月の都の姫君が、今では自室にこもってゲームをしている。


 時代というのは不思議なものだ。


 もっとも、かぐや本人は至って真面目なのだろう。


 長生きも色々である。


『千歳は今何してるの?』


「煙草」


『また?』


「休憩だからね」


『この前カートンで買ってたよね』


「アカリから聞いた?」


『うん』


「あいつ……」


 千歳は少しだけ目を細めた。


 別に隠しているわけではない。


 けれど、わざわざ他人に報告するようなことでもないだろう。


 アカリの顔を思い浮かべる。


 きっと悪気はない。


 だから余計に困る。


『禁煙しないの?』


「してるよ」


『してるの?』


「何回も成功してる」


『今吸ってるよね?』


「今はしてないから」


『…………?』


「何?」


『禁煙してるんじゃないの?』


「今はしてないよ」


『じゃあ成功してないじゃん』


「してるって」


『いつ?』


「今日も昼まで吸わなかった」


『それ禁煙なの?』


「半日吸ってないんだから禁煙でしょ」


『でも今吸ってるよね?』


「禁煙が終わったからね」


『禁煙って終わるものなの?』


「終わるでしょ」


『初めて聞いた』


 千歳としては、何がおかしいのか分からない。


 吸わないと決める。


 半日吸わない。


 成功。


 そして吸う。


 実に分かりやすい。


 禁煙を始めるのも終わらせるのも、自分の自由だ。


 誰かと約束したわけでもない。


 だから問題はない。


 少なくとも、千歳の中では。


『何時間吸わなかったら成功なの?』


「半日くらい」


『短くない?』


「長いよ」


『半日だよ?』


「半日もだよ」


『次の日には吸ってるんでしょ?』


「その日のうちに吸うこともあるよ」


『それ禁煙じゃないよ』


「禁煙だって」


『違うと思う』


「かぐやが厳しいんだよ」


『千歳が甘いんだよ』


 千歳は煙草を吸った。


『ほら、また吸った』


「今は禁煙中じゃないから」


『便利だね、その考え方』


「でしょ?」


『褒めてないよ』


「知ってる」


 千歳は笑った。


 電話の向こうでは、かぐやが呆れているのが声だけでも分かる。


 けれど、それ以上強く責めてくるわけでもない。


 何だかんだ言いながら、こういう他愛のない話を続けられる相手はありがたい。


 何百年も生きていると、知り合いは増えたり減ったりする。


 けれど、気軽に電話をかけてきて、煙草の本数に文句を言う友人というのは、案外そう多くない。


 しばらく沈黙する。


『千歳って何年くらい吸ってるの?』


「何年……」


 千歳は少し考えた。


 最初に煙草を吸ったのがいつだったのか。


 もう覚えていない。


 長い人生の中では、始まりの時期が曖昧になってしまった習慣など、いくらでもある。


「さあ」


『覚えてないの?』


「何百年も前のこと、いちいち覚えてないよ」


『わたしは結構覚えてるけど』


「1000年以上生きてる人と一緒にしないで」


『千歳だって長いじゃん』


「かぐやの半分くらいでしょ」


『それでも長いよ』


「まあね」


 千歳は記憶を辿る。


 古い町並み。


 石畳。


 煤けた建物。


 薄暗い部屋の中で、煙草の煙がゆっくりと天井へ昇っていく光景。


 細かいことは曖昧でも、そうした断片だけは妙にはっきり残っている。


「でも、200年前にはもう吸ってた」


『そんな前から?』


「うん」


『その頃も今の煙草?』


「いや、パイプ」


『そっちの方が好き?』


「いや。今の方が楽」


『そうなの?』


「火つけて吸うだけだし」


『情緒とかないの?』


「煙草に毎回情緒求めてられないよ」


『200年以上吸ってるのに?』


「200年以上吸ってるからだよ」


『そういうもの?』


「そういうもの」


 かつては、煙草を吸うにも今より手間がかかった。


 道具を用意して、葉を詰めて、火をつける。


 それはそれで悪くなかった。


 だが、今は紙巻き煙草がある。


 箱から取り出して火をつければいい。


 長年続けている習慣ほど、手軽な方がありがたい。


『じゃあ飽きたことは?』


「あるよ」


『あるんだ』


「何回も」


『じゃあやめればいいのに』


「だから禁煙なら何回も成功してるって」


『またそこに戻るの?』


「戻るよ」


『半日でしょ?』


「半日も」


『やっぱり禁煙じゃないと思う』


「厳しいなぁ」


 千歳は笑いながら灰を落とした。


 ふと時計を見る。


「あ」


『何?』


「休憩終わる」


 いつの間にか、思っていた以上に時間が経っていた。


 煙草を吸いながら電話をしていただけなのに、休憩時間というものはどうしてこうも短いのだろう。


『じゃあ10時ね』


「はいはい」


『忘れないでよ』


「忘れないって」


『この前忘れてたじゃん』


「あれは寝てた」


『同じだよ』


「違うよ」


『何が違うの?』


「寝てたから仕方ない」


『仕方なくないよ』


「じゃ、戻るから切るね」


『うん。また後で』


「また後で」


 通話を切る。


 千歳はスマートフォンをポケットへ戻した。


「…………」


 煙草を見る。


 まだ少し残っている。


 時計を見る。


 休憩終了まで、あと2分。


「吸い切れるな」


 千歳は壁へ背中を預け直した。


 禁煙について話した直後だが、それとこれとは別だった。


     ◇


 午後9時42分。


「ただいまー」


 誰に言うでもなく呟きながら、千歳は自室へ入った。


 月光荘の廊下は静かだった。


 扉を閉めると、外の生活音が少し遠ざかる。


 バッグを床へ置く。


「疲れたぁ……」


 今日も店はそれなりに忙しかった。


 注文を取り、飲み物を運び、食器を片づける。


 閉店前には片づけも手伝った。


 どれも慣れた仕事ではある。


 けれど、慣れていることと疲れないことは別だ。


 千歳はシャツを脱ぐ。


 ジーパンも脱ぐ。


 そのまま。


 下着姿になった千歳は、ベッドへ倒れ込んだ。


「…………」


 動きたくない。


 外ではそれなりに身なりを整えている。


 喫茶店『玉兎』で働いている間は、当然きちんとしている。


 髪も服も、客に不快感を与えない程度には気を配る。


 だが、自分の部屋では話が別だ。


 誰に見られるわけでもない。


 服を着る理由もない。


 長く生きていると、他人に見せる自分と、誰にも見せない自分を使い分けることには慣れる。


 千歳の場合、その差が少し極端なだけだった。


「あと……15分くらい」


 10時から、かぐやと『トゥーンラッシュ』。


 それまでは休む。


 千歳はベッドに寝転んだまま、スマートフォンを眺める。


 5分。


 10分。


「…………」


 瞼が重くなってきた。


 画面に並ぶ文字が、少しずつ頭に入らなくなる。


 手から力が抜けそうになった。


「やば」


 千歳は身体を起こした。


 このままでは寝る。


 しかも、かなり高い確率で朝まで寝る。


「また文句言われる」


 昼間のかぐやの声が頭をよぎった。


『忘れないでよ』


 忘れるわけではない。


 寝てしまうだけだ。


 もっとも、その言い訳が通用しないことは、すでに分かっている。


 千歳はベッドから降りた。


 冷蔵庫から飲み物を取り出し、机の前へ。


 下着姿のまま椅子に座る。


 パソコンを起動する。


 部屋の中に、起動音が小さく響いた。


 煙草の箱を手に取る。


 1本抜く。


 くわえる。


「…………」


 昼間の会話を思い出した。


『それ禁煙じゃないよ』


 時計を見る。


 最後に吸ったのは仕事の休憩中。


 そこから仕事中は吸っていない。


「6時間くらいか」


 少し考える。


「半分は禁煙したな」


 火をつける。


 煙を吸う。


「続きはまた今度でいいか」


 禁煙はいつでもできる。


 千歳の中では。


 パソコンの画面にタイトルが表示された。


『トゥーンラッシュ』


 時刻は午後9時59分。


 ボイスチャットを繋ぐ。


『千歳?』


「いるよ」


『今日はちゃんといる』


「失礼だなぁ」


『この前寝てたから』


「今日は起きてるでしょ」


『煙草吸ってる?』


「吸ってる」


『やっぱり』


「何が?」


『禁煙終わったんだ』


「終わったよ」


『早かったね』


「またそのうちするから」


『それ禁煙じゃ――』


「ゲームしよう」


『逃げた』


「はいはい」


 パーティーを組む。


「そういえば、今日アカリは?」


『夜勤だって』


「ああ、今日仕事か」


『誘ったけど、無理って』


「そりゃそうでしょ」


『休めばいいのに』


「仕事をなんだと思ってるの?」


『ゲームできない日』


「ダメだ、この人」


『何が?』


「なんでもない」


 今日は2人だけなので、残りの1枠は野良プレイヤーに任せることにした。


 千歳はマッチング画面を開く。


 画面には、色鮮やかなキャラクターたちが並んでいる。


 『トゥーンラッシュ』は3人1組で戦うバトルロイヤルゲームだ。


 ただし、1人や2人でも参加できる。


 足りない人数は自動的に補充され、設定を変えれば少人数のまま参加することも可能だった。


 武器やスキルの組み合わせによって、戦い方が大きく変わる。


 千歳はその中でも、遠くから敵を狙えるスナイパーを好んで使っていた。


 理由は単純。


 前線で忙しく動き回るより、少し離れたところから撃っている方が楽だからだ。


『今日何使う?』


「スナイパー」


『また?』


「楽だから」


『昨日もそれだったじゃん』


「いいでしょ、別に」


『まあいいけど。ちゃんと当ててね』


「急に圧かけないでよ」


 マッチングを開始する。


 しばらくして、画面が切り替わった。


『来た。千歳、右に降りよう』


「いつものとこは?」


『3パ被ってる。初動ファイトする意味ない』


「了解」


 ゲームが始まった途端、かぐやの声から眠そうな気配が消えた。


 さっきまで外へ出る必要性を疑っていた人間とは思えないほど、判断が速い。


 もう1人の野良プレイヤーは、無言のまま2人についてきていた。


『そっち武器ある?』


「剣」


『千歳スナイパーでしょ?』


「まだ落ちてないんだから仕方ないじゃん」


『こっちある。弾も置いとく』


「ありがと」


『あと回復持って。千歳すぐ被弾するから』


「余計なお世話だなぁ」


『事実でしょ』


「否定はしないけど」


 装備を整える。


 画面の中で、キャラクターが武器を持ち替えた。


 千歳はスコープを覗き、遠くの地形を確認する。


 高台。


 岩場。


 その向こうに、敵の姿がちらりと見えた。


『いた。北』


「どこ?」


『岩裏。2人……いや、3人いる』


「あ、見えた」


『右のやつ甘えてる。抜ける?』


「やってみる」


『お願い』


 千歳が照準を合わせる。


 敵が岩陰から身を乗り出す。


 その瞬間。


 発砲。


 敵の体力が大きく削れる。


『ナイス! ロー! 詰めよ詰めよ!』


「もう?」


『回復する前に行くでしょ!』


「煙草置くから待って」


『今!?』


「今」


『早くして! 回復入るって!』


「はいはい」


 灰皿へ煙草を置く。


 千歳はようやく両手で操作を始めた。


『わたし正面行く! 千歳左から回って!』


「了解」


『1人見えた! 剣! 剣ロー!』


「どれ?」


『目の前のやつ!』


「分かんないって」


『赤いの!』


「全員派手なんだよ、このゲーム」


『そいつそいつ!』


 千歳が撃つ。


 外れた。


『あー! 今の当ててよ!』


「無茶言わないでよ」


『いや絶対当たってたって今の』


「撃ったの私なんだけど」


『判定おかしくない?』


「外しただけじゃない?」


『違う。あいつラグい』


「そう?」


『ラグいラグい。さっき瞬間移動したもん』


「ワープのスキルじゃなくて?」


『違うって』


 敵がこちらへ飛び込んでくる。


『来た来た!』


「見えてる」


『こいつさっきの――』


 攻撃。


『は?』


 かぐやのキャラクターが倒れた。


『今の避けてたけどね』


「倒れてるけど」


『避けてた』


「当たってたんじゃない?」


『何? チートなのアイツ』


「負けるとすぐそれ言うよね」


『言わないけど』


「今言ったじゃん」


『今のは言うでしょ。絶対判定おかしい』


「はいはい」


 千歳は画面の端に表示された、かぐやのダウン状態を確認した。


 本人はまだ文句を言っている。


 だが、倒れたままではどうにもならない。


『千歳、起こせる?』


「ちょっと待って」


『早く早く! 来てる来てる!』


「うるさいなぁ」


『後ろ後ろ後ろ!』


「分かってるって」


『後ろ!』


「何回言うの」


『死んだら千歳のせいだからね』


「理不尽だなぁ」


 千歳は振り返る。


 照準。


 発砲。


 敵が倒れる。


『ナイス! そいつ確! 確入れて!』


「はいはい」


 千歳は倒れた敵に追撃を加え、確実に仕留めた。


『あと1人いる! 左!』


「見えてる」


『そいつロー!』


「さっきから全員ローじゃん」


『削ってるからね!』


 もう一発。


 敵が倒れる。


『ナイス! 全滅!』


「チートは?」


『いなかった』


「さっきいたじゃん」


『気のせいだった』


「都合いいなぁ」


『勝ったからいいの』


「そういうもの?」


『そういうもの』


 つい数時間前、自分が言った気がする。


 千歳は倒れているかぐやのもとへ向かい、蘇生を始めた。


『遅い』


「助けてもらう人の態度じゃないでしょ」


 やがて蘇生が完了し、かぐやのキャラクターが立ち上がった。


 千歳は灰皿に置いていた煙草を手に取った。


 吸う。


『何してるの?』


「煙草」


『今漁ってるんだけど』


「休憩」


『試合中だよ!?』


「戦闘終わったじゃん」


『次来るかもしれないでしょ』


「来たら教えて」


『自分でも見ててよ』


「はいはい」


『あ、待って』


「ん?」


『いる』


「どこ?」


『南! 2人! 漁夫来た!』


「早いなぁ」


『千歳早く! 高台取って!』


「煙草――」


『置いて!』


「はいはい」


『来る来る来る!』


 千歳は煙草を灰皿へ戻した。


「忙しいゲームだなぁ」


『バトロワなんだから当たり前でしょ!』


「休憩時間ないの?」


『ない!』


「ブラックだね」


『いいから撃って!』


 千歳がスコープを覗く。


 遠くの岩場から、敵が顔を出した。


「いた」


『抜ける?』


「たぶん」


『お願い!』


 発砲。


 命中。


『ナイス! ダウン! 詰める!』


「また?」


『また!』


「元気だねぇ」


『千歳が遅いの!』


 昼間、


『家に全部あるのに、なんで外に出る必要があるの?』


 と言っていた人間とは思えない。


 現実では家から出ない。


 ゲームでは誰よりも前へ出る。


『千歳! 早く!』


「はいはい」


 千歳は笑いながらキャラクターを走らせた。


 不死になって、およそ500年。


 煙草を吸い始めた時期は、もう覚えていない。


 少なくとも200年前には吸っていた。


 パイプから紙巻きへ。


 時代が変われば、吸い方も変わる。


 何度も飽きた。


 何度も禁煙した。


 そして、そのたびにまた吸った。


 それでも、こうして誰かと遊びながら煙草を吸う時間は、案外悪くない。


 長く生きているからといって、毎日が特別なわけではない。


 仕事をして。


 帰って。


 煙草を吸って。


 友人とゲームをする。


 そんな何でもない一日が、千歳には心地よかった。


『千歳! そいつロー!』


「分かったって」


 発砲。


 敵が倒れる。


『ナイス!』


「でしょ?」


『次、安置入ろ。ここ端だから』


「ちょっと待って」


『何?』


 千歳はコントローラーから片手を離した。


 灰皿の煙草を取る。


 ひと吸い。


「……うま」


『また吸ってる』


「今は禁煙中じゃないから」


『知ってる』


 どうやら、かぐやも覚えたらしい。


 白石千歳。


 不死者。


 禁煙成功回数、多数。


 最長記録、半日ほど。


 本人だけは、それを成功だと思っている。

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