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1.14 初仕事に出発

 翌朝時間ちょうどにギルドに行くと既に全員揃っていました。

「遅いよー。私より遅いのは本当に遅い」

「お前馬小屋に泊ってて何で最後にやってくるんだ?」

 屋台でごはんを食べていたら店主たちとつい世間話が盛り上がってしまったのです。


 今日のチューターは二人ともフル装備です。片手剣を腰に佩いて、昨日は持っていなかったバックパックを背負って、その後ろに盾をひっかけています。ラーナは他に短剣を二本腰に佩いています。そんなの持って山の中を歩いたら重いでしょうに。

「お、重いですぅ……」

 実際栗毛はヘルメットの重さに頭を振られてフラフラしています。昨日ボクも着てみて思いましたけど、鎧の方はまああんなものでしょうけど兜が結構重いのですよね。頭を守るものですから頑丈に作ってあるのは仕方ないのでしょうけど。


「お二人は何で平気なんですかぁ……?」

「慣れ──と言いたいところだが、実は素材が違うんだ」

「新人用の安物は鉄製だけど、私たちのは内張がダンジョンアリの甲殻なんだよね。鉄より軽くて丈夫!」

「ズルいですぅ……」

「その分高いよ?」

「まあ新人の内はそれで我慢して、そのうち金を貯めて買うことだ」

「うう……」

 栗毛はガックリうなだれました。


 なおボクは鎧も兜も身に着けていません。もらった戦闘服だけです。昨日二人がかりで攻撃させて剣も魔法も通らないことを確かめさせて諦めさせたのでした。


「新人向けの簡単な依頼を取ってきたからな。うまくできたら依頼達成扱いにしといてやるから頑張れよ」

「依頼って何ですか?」

「薬草採取だ」

「え……純粋に疑問なのですけど、何で薬草採取が冒険者の仕事なのですか? 冒険者って戦闘員ですよね?」

「そりゃ森の中はゴブリンやら何やらに襲われる危険があるからに決まってるだろ。一般人は入林許可が下りんのだ」

「なるほど」


 もしチンパンジーやゴリラが武装して襲ってくるようになったら人類の大半は太刀打ちできないでしょう。それがゴブリンやオークです。そして銃を構えたゴリラとも闘えるように訓練を積んだ者が冒険者というわけです。聞いたところ軍人は軍人でいるみたいですけど、軍隊を養うのもお金がかかるでしょうしね。この世界の冒険者ギルドは民間警備会社みたいなものなのでしょう。

 ちなみにイーデーズには常設の軍隊というものはなくて、例の門番その他の自警団しかいないそうです。この自警団という名の警察組織が警備や事件の捜査、犯人の逮捕などの治安維持を担っているのだとか。つまり人間相手は自警団、それ以外は冒険者ギルドが担当してこの町を守っているのですね。


「まったく、ゴブリンときたらどれだけ殺してもどこからか湧いてくるからな」

 まあこの世界のゴブリンはモンスターと言っても普通にヒト科の動物なので自動でポップするわけじゃないのですけどね。




 さてそれでは出発です! チューターを先頭にギルドを出て、屋台を横目に見つつ橋を渡ると、右を見ても左を見てもジャガイモ畑です。湖の端から街道まで、街道から斜面が下って見えなくなる先まで、一面ジャガイモが芽吹いて土と緑のモザイク画を描いています。

 街道はしばらく上り調子でやがて小高い丘の上に出ます。丘の向こうは今度は牧場になっていて羊がモグモグ草を食べています。南側を見るとジャガイモ畑と牧場を隔てる柵が遥か彼方の森へとずーっと斜面を下って行ってます。後ろを見ると屋台とギルドと町が見えます。来た時と同じ景色です。


「こっちに行くぞ」

 チューターは北側を指さしました。丘を下った辺りがちょうど湖の端になっていて、そこからやはり長い柵が東のかなたへ向けて続いています。柵の手前が牧草地、向こうが森です。あの柵が森と人間界との境目になっているようです。


 チューターは湖の端のあたりで柵を乗り越えました。

「扉とかないのですか?」

「基本的に冒険者しか森の中に入らないからな」

 柵の向こうのチューターが答えました。とは言いつつも木立の間を縫うようにして人が踏み固めた道が続いています。冒険者たちは毎日のように森に入っているようです。

「これから四日間は湖の近くで実習を行う。今日はあまり奥の方までは行かないつもりだが、オオカミやゴブリンとは遭遇する可能性がある。簡単な依頼だからって気を緩めるな」


 ボクたちは湖の東側をぐるりと回って対岸へと向かいました。冒険者が踏み固めた獣道の右手は深い森の中です。左手の木立の隙間を通して湖に目を向けると水面はキラキラとまたたいて、みぎわから漕ぎ出した漁船が網を投げているのが見えます。

 と、道の向こうから草ずれの音と共に人影がやってきました。五人組の冒険者たちです。うち二人は鎧にべったり返り血がついています。

 先頭の男が「よう」と手を挙げてあいさつしてきました。チューターも手を挙げて声を返すと鎧についた血を見て言いました。

「ゴブリンか?」

「朝から駆除作業さ。最近多いな」

と言いながら冒険者はボクたちに目を止めました。

「そいつらが今回の新人か?」

「ああ、今日から森に入るところだ。期待していいぞ?こいつなんか回復魔法が使える」

 チューターが栗毛を引っ張って前に出すと冒険者たちは一斉にガッツポーズし、歓声と口笛の高い音が飛びました。

「マジかよ!」

「やったぜ!」

「辞められないように安全運転で頼むぜ!」

「任せとけ」


 冒険者たちと別れてさらに奥へと進みます。

「この森は色んな動物がいてな──」

 とチューターは言いました。オーマから続く広大な森です。特にオーマに近づくほど森の恵みは豊かになって、多くの生き物たちの食を支えることができるでしょう。ボクの知る限りこの森には哺乳類だけでも野生のオオカミ、クマ、シカ、ウシ、イノシシ、カモシカ、ゾウ、サイ、ライオンやトラなどネコ科の肉食動物、それからたっぷりのゴブリンの仲間の霊長類、その他さまざまな小動物が住んでいます。ちなみにサルはいません。サルの仲間はゴブリン属に生存競争で負けて、この世界では希少種です。

「肉食獣が牧場を襲いに来るんだ。行動範囲はオオカミが一番広いんだが案外牧場までは来ない。トラとかクマとかの方がヤバイ。あとゴブリンだな。ゴブリンは比較的人里近くに巣を作ってコソコソ家畜を盗みに来る。冒険者は牧場の警備もしてるんだが、定期的に森に入って駆除してるんだ」

「さっきの冒険者たちですね」

「そうだ。それから森の奥に大昔の町の跡地があってオークの群れが住み着いている。何でも一夜にして滅んだ国があったそうだ。言い伝えによれば城の中に財宝が眠っていることになっているな」

「探しに行かないのですか?」

 宝探しなんて冒険者がまっさきにやりそうですけど。というかボクが行きたいです。

「昔の冒険者たちが散々探した後さ。めぼしいものは何もなかったらしいぞ」

「なんだ。つまらないです」

 後ろで聞いていた栗毛が「へー、そうなんですねー」とぼんやりした声で言いました。

「あとはトロルがいるな。あいつらは群れは作らないがとにかく強いから気をつけろ。それから──」

 とチューターはそこでボクの顔を見ました。

「一番奥の方にはエルフが住んでいると聞いたことがあるが、本当だったんだな」

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