↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/195

1.15 オオカミとバトル(見てるだけ)

 冒険者たちとすれ違ってから一時間ほど歩いたでしょうか。ボクたちは湖の北岸にいました。向こう側にギルドの建物とイーデーズの町が見えています。

 湖面を渡る風が吹きつけてボクの髪をそよがせました。まだ春は始まったばかりで気候は涼しげで、風は冷たさを感じるほどです。にもかかわらずみんな汗だくです。そりゃそんな鎧着てたら暑いですよね。

「リンスさん、どうしてそんな涼しい顔をしてるんですか?」

 特に鎧が重そうな栗毛が恨めしそうな声を上げました。まあ鎧を着ていないからなのですけど、それは置いておいてもボクは魔法で体温を調節しているので汗ってほとんどかかないのです。でもせっかくの運動ですし、たまにはさわやかな汗をかいてみましょうか。と言うわけで体温調節の魔法を切りました。


 この辺りは背の高い木が少なくちょっと開けた野原になっています。ボクたちはチューターの後ろにくっついてウロウロと薬草を求めてさまよっていました。

「戦闘は冒険者の義務だからな」

 リコリス(カンゾウ)を探しながらチューターが言いました。

「でも勝てない相手からは逃げろよ? 生きて帰るのも冒険者の義務だぞ──お、あったあった。これだ。ほとんどの薬に入ってていくらでも需要があるんだとさ。栽培もしてるそうだが野生の方が効くらしいんだ。だからいつでも依頼が出てる」

 なるほど、森の外ではまだ生薬が主流なのですね。回復魔法の使い手が少ないのか、それとも医療系の魔法の水準が低くて補助的に薬品を必要としているのでしょうか。

「どっちですか?」

 栗毛に聞いてみると「どっちもです」と言う答えが返ってきました。

「町のお医者さんたちってあまり腕が良くないんですよ。人数が少ないのでそれでも繁盛してますけど」


「お、アスパラガスだ」

 目ざとく見つけたチューターが言いました。見ると野生のアスパラガスがにょきにょきと緑の穂先をのぞかせています。日本では夏野菜のイメージが強いですけどこの辺りでは春の味覚です。

「そいつは料理店からよく採集依頼が出ているから場所を覚えとくといい」

「へー」

 そこでボクは栗毛とアスパラを摘み始めました。アスパラは採った瞬間から劣化が始まるのでアイテムボックスに入れて時間を止めておきます。帰ってから依頼を探して、なかったら自分たちで食べましょう。

 和気あいあいとアスパラ狩りをしていたら常時展開している【走査】の魔法に接近するものの姿が捉えられました。──オオカミです。全部で十一匹の群れがすごいスピードで駆け寄ってきます。

 オオカミの姿が見える前にやはり気配を察知したらしきチューターたちがバックパックを投げ捨てて盾と剣を構えました。チューターの剣に電流がまとわりついてバチバチ放電しています。雷神と戦神の複合魔法ですね。なるほどそれで"雷剣"ですか。


「よし、見本を見せてやる! ギースは女たちを守れ!」

 それってボクも入ってるのでしょうか? 少なくともラーナのことではなさそうです。左右に分かれて回り込もうとする八匹のオオカミたちの鼻先にラーナの流星剣とチューターの放った電撃が落ちて妨害しました。オオカミたちは回れ右して後ろに戻ります。どうやら任せておいても大丈夫そうなのでお言葉に甘えて見学に回りましょう。……と思ったのですけど金髪が言われた通りにボクたちの前に盾を構えて立ちはだかってしまいました。見えにくいので隙間から覗こうと身を乗り出していたらチューターに「ウロチョロするな!」と叱られました。腑に落ちません。

 残りの三匹はそのまま突っ込んできます。そのまま飛び掛かって来るのかと思った次の瞬間、近間で鋭く吠えました。同時に気の塊が青白い光を放ちつつ射出されます。【気哮砲】という咆哮をスイッチにして気を飛ばす技です。当たったら人間くらいなら吹っ飛ぶかもしれません。とっさにラーナが盾と剣を捨ててチューターの後ろに隠れました。チューターは盾に気をまとわせて気哮砲を相殺します。パンパンッと空気を震わせて青白い光が弾けました。ほとんど同時に突き出した剣の先から電撃が飛んでいます。カウンター気味の電撃に打たれてたオオカミたちが悲鳴を上げて硬直します。

「死んどけっ!」

 盾の陰から飛び出したラーナが両手の短剣で抜き打ちの流星剣を放ちました。二匹に命中し、さらに一呼吸遅れてチューターの流星剣がもう一匹を打ち倒しました。

 さらにラーナは追撃で流星剣を一発放っています。流星剣は草むらの向こうの木の陰に隠れたオオカミを追って鋭角に軌道を変え、木立の後ろへと滑り込みました。えぐい軌道のスライダーです。木の裏からギャンッと悲鳴が上がり、脇腹をえぐられた狼がヨロヨロ出て来て倒れました。

 形勢不利と見たのか残りの狼たちは逃げてゆきました。


 オオカミがすべて森の奥へと消えてゆくのを見届けて、ようやく息をついたチューターは剣を下ろしました。

「ふう。まあこんなもんだ」

「テンポがいいですね」

 エンカウントから二十秒で戦闘終了です。これがゲームならプレイヤーはストレスなく続けられそうですね。


「じゃーやろっかー」

「ひとつくれ」

 ラーナがオオカミたちの死骸を引きずってくるとチューターは1匹を受け取ってナイフを抜きました。

「一体何が始まるんです?」

「小遣い稼ぎ!」

 ラーナたちは狼の毛皮は売れるからと皮を剥ぎ始めました。


 ……。黙々と地味な作業が続きます。うーん、素材剥ぎの時間が長すぎます。こんなゲームでは流行りません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。