1.16 雷撃魔法
金髪と栗毛がチューターたちに教わりながら狼の皮を剥いでいます。ボクは服が汚れたらイヤなので見てるだけです。うわー、オオカミがお肉になっていきます。いえ毛皮でしたっけ。耐性のない方にはお見せできない光景ですね。モザイク掛けときましょう。
あれ? そういえば確か冷やしたり血を抜いたりするのではなかったでしょうか?
「血抜きとかしなくていいのですか?」
疑問に思ったので聞いてみると「食べるならやるけど、オオカミは食べないからな」ということでした。
見ていてもきりがないのでその辺をブラブラしながら薬草とか春の山菜とかを摘むことにします。わーい、アスパラがいっぱい生えてますぅー。
……。
飽きました。一人でやってても面白くありません。オオカミのカワハギはまだようやく1匹ずつが終わったところで先は長そうです。
きらめく湖の向こうにはイーデーズの町が見えています。対岸までは約三キロメートルといったところでしょうか。
…………。
ボクは湖に向かってクラウチングスタートの姿勢を取りました。全身の力を抜きます。体が溶けて溶けて流れ出しちゃうほどの脱力、かーらーのっ、時速270kmゴキブリダーッシュッ!
シュババババ! いきなりトップスピードで湖に突撃、水の上を走ります。歩数にして七百~八百歩、この距離なら問題ありません。
ボクはイーデーズへと戻りました。
用事が済んだので再び湖面を渡って北岸へと戻ります。波打ち際を蹴って高く飛んで、とうっ! 前方屈身四回宙返りひねり! スタッ、指先までビシッとポーズをキメて完璧な着地です! 100.00!
「おい多動エルフ、暇なら手伝え」
ちょうどオオカミの皮を剥ぎ終わったところだったみたいです。女たちは剥いた皮を湖でバシャバシャ洗って、男二人は残った肉を埋めています。穴を掘る手を止めてチューターが苛立たしげな声を上げました。どうやらカルシウムが足りていないようですね。チーズが効くらしいですよ、いかがです?
「そんな態度じゃこの先やっていけないぞ」
「もうオオカミなんかどうでもいいじゃないですか。それよりも指導してくださいよ、チューターなのですから」
「思ったより魔力を使ったから休憩してる部分もあるんだ」
人間は不便ですねぇ。
「そんなに魔力が少ないなら自家発電しないで大気電気を利用したらどうですか?」
「何だそれ」
「雷雨の日じゃなくても空気は常に帯電しているのですよ」
晴れた日だとだいたい一メートルにつき百ボルトくらいの電位勾配があります。上空百メートルと地上の電位差は一万ボルトということですね。
「お前も雷神の加護があるなら電位差が感覚的に『見える』でしょう」
「言いたいことはわかるが、それが何だ?」
見えてるのに何で理解してないのでしょうね……。思うに魔法って属人的すぎて知識や技術の蓄積・継承がうまくいっていないのではないでしょうか。ボクたちくらい寿命が長くてみんなが同じ魔法を使えれば教えたり相互に理解したりも難しくはないですけど、人間はそうではありませんからね。魔法の便利さがかえって人類の発展を阻んでいるような気がします。
それはともかく空気は絶縁体ですからこのくらいの普通の電位差では通電しません。チューターが撃った電撃だって通常ならオオカミまで届くような電圧ではなかったのです。
「さっき電撃を飛ばした時に魔法で電気の通り道を作っていたでしょう。それを自分から相手ではなく上空から地表へと通すのですよ。こんな風に」
言いながらボクは上空百メートルから近くに生えていた一本の楡の若木へと通電のラインを導きました。
ピシャーン! 乾いた破裂音が響きました。霹靂一閃、空気を切り裂いて小さな雷が落ちたのです。楡の木は激しく震えていくらか葉っぱを落としました。電位差はあってもアンペア数が少ないので燃えたり幹が裂けたりするほどのダメージは与えられませんでしたけれども葉っぱがビリビリ破けています。
「雨の日の落雷みたいな強いエネルギーはありませんけど、一瞬硬直させたり気絶させるくらいのダメージは入りますよ」
「そうなのか……。やってみるか」
穴から出て来たチューターは三十メートルほど上空からヒョロリと伸びた草へと通電帯を通しました。パシャーン! また小さな雷が落ちます。チューターは確認のためか調子に乗ったのか並んだ草に次から次へと雷を落として驚きの表情を浮かべました。
「こ、こりゃあ楽だ」
仮に百ジュールの電気エネルギーを作るのに魔力が百必要だとすると仮想の電気回路を作るのって十くらいで済みますからね。そりゃ楽でしょう。




