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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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55話「蠢く者」

「――長老とサンディさんが居ない?」

「はい・・・。 長老は異変が起きる少し前に、集落の男衆数人と一緒に見回りをしてくると言って出て行ったんですが、サンディさんが気になるからと言って後を追いかけてそのまま・・・。 何か怖い事に巻き込まれてないと良いのですが・・・」


再び曼荼羅の攻略へ向かおうとしていたリエラを引き留めたのは、リエラが転移で避難させた花茄子の森集落の女性であった。

身の回りの世話をしていた彼女が引き留めるのも聞かずに、リングホールが曼荼羅となる直前に長老は集落の男数人と一緒に出て行ってしまった。

その様子が何かおかしいと言ってサンディはその後を追いかけたらしいのだが、そのまま行方が分からなくなってしまったらしい。

女性から話を聞いたリエラは眉を潜めて突入前にホールのロビーに居た人々をの顔を記憶から掘り起こす。


「・・・2人ともロビーには居なかったですね。 心配でしょうが気をしっかり持って他の皆さんと一緒に行動して下さい。 何か手掛かりが見つかり次第、テレパスで連絡を入れますので。」

「判りました・・・。 よろしくお願いします。」


ぺこりと頭を下げた女性は、同じ集落の人間が固まっている場所へと戻って行った。

これから彼らはリエラ達が入口から繋いできた魔力経路マナラインを辿って脱出をするのだ。

流石に160人も連れて奥へ向かう訳にはいかず、かと言ってこの大部屋に残していくのも危険度が高すぎる。

その為、フィリアを含めた戦闘の出来る冒険者数人にナンネが治療を施した上で、脱出を図ることにしたのだ。

フィリアを先頭に、途中魔物が襲ってくる事を想定してエンリケが護衛として最後尾を歩き、ロビーまで送り届けた後に戻ってくる事になった。


「リエラ、気を付けろよ。 この人達を送って行ったら俺も必ず戻るから、それまでナンネ婆さんと踏ん張っていてくれ。」

「はい・・・。 エンリケさんも気を付けて・・・」


2人は軽く口づけを交わすと、別々の通路へと別れて走り出したのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――



「え~っ! 精霊使いになってたのはライオネルさん以外に誰にも言ってなかったの?」

「はい・・・。 満足に動けないわたしが《火龍の巫女》だと知れると良からぬ事を考える人が居るから危ないって、ふぁーちゃんとお父さんに硬く口止めされていたんです。」


リーヤを保護した後、取り敢えず一緒に奥へと進む事にしたハル、シェル、タイガーの3人は、道すがら彼女の精霊使いとしてのきっかけ等、質問を重ねていた。

ハルから貰った《神々の雫ネクタードロップ》を口の中で転がしながらも真面目に答えていくリーヤは、その効果もあってか寝た切りだったと思えない程にしっかりとした足取りでついてきていた。


一行の両脇では、じゃが君とポテちゃんがちょこちょこと忙しく動き回り、春の鞄から魔力経路マナライン用の魔石を取り出しては設置する作業をしている。

適当な間隔でポテちゃんが魔石を壁に力ずくで埋め込み、それをじゃが君の防御魔法で保護する形だ。


「でも無茶な子ねぇ。 体力だって衰えたままだったのに、一人で脱出しようとするなんて。」

「お父さんが、もし困った事になったらまず動いてみろ、って言ってましたし。 それに、ハルさんからもらったしょうが湯のおかげですごく体も軽かったんです。 今ならいけるかなーって・・・」


中々に大胆なリーヤの思考に、呆気にとられる春とタイガー。

後で兄とはゆっくりと話し合わなければならないと、別の場所に居る母娘と同じ結論に至ったタイガーは頭を抱えた。


「ところで――」


おしゃべりをしながら歩く春とリーヤを横目に、タイガーは小声でシェルに話しかけた。


「ハルちゃんには聖女の事聞いてみたの?」

「今はそれどころじゃないだろう」

「それはそうだけど、気にはなっているんでしょう?」

「・・・」


ぴくりと眉を動かして、タイガーの言葉に反応を見せる。

リングホールまでの道すがら春からセレスの事は聞いていたのだが、深い追及は敢えて避けていた。

もし聞いてしまえば恐らくシェルは平常心を失うだろう。

リムリオが危機に晒されている今、私情は後回しにしたかったのだ。


「――シェルらしいと言えばらしいけど、聞いてスッキリさせた方が良い事もあるのよ?」

「・・・」

「もぅっ! 都合が悪くなると黙る癖、無くした方がいいわよぉ?」


突然腰をくねらせてイヤンイヤン始めたタイガーを見て、春とリーヤがビクっとする。


「お、叔父様? どうかしたんですか?・・・」

「なんでもないわよぉ。 それよりもリーヤ。 貴女は私達が守ってあげるけど、この先はくれぐれも注意してねぇ。」

「はいっ」


バチンッとウィンクを決めたタイガーに、リーヤは笑顔で頷いた。

そんな二人のやり取りを見たシェルは肩を竦めると、再び赤黒い通路の先を見つめたのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――



脈の様に波打つ肉の壁。


歩を進める度に踏圧で噴き出す瘴気。


昏い通路の先から響く怨嗟の声。


濁った眼を向けて群がる亡者達。


「――こりゃぁキツいね。 エチゼンヤが言っていた浄化しないと進めない通路ってのはここから先のようだね。」

「はい。 ですが、この先はもう禍地どころか完全に死者の世界――『ごく』になっていますね・・・。」

「そうだねぇ・・・。 だが、ここがこの状態と言う事は――」

「――中心部が近くなっていると思います。」


亡者の群れを薙ぎ倒し、通路ごと浄化魔法をかけながら突き進むリエラとナンネ。

突入前に春から配られていた《神々の雫ネクタードロップ》を口に入れ、魔力マナと体力の回復を図りながら瘴気の渦巻く通路をひた走る。


「ハルちゃんからこの神薬エリクサーを貰っていなかったら、このあたしでも浄化しきれなかったかもねぇ。」

「そうですね・・・。 『ごく』なんて、百年に一回迷宮の奥深くで発見されるかどうかなのに、まさかここまで浸食が早いなんて・・・」

「あたしも書物でしか読んだことがないねぇ。 もしかするとエチゼンヤに聞いていた曼荼羅よりも危険度は上かもしれないね。」


リエラが亡者共を一掃した地面に魔力経路マナライン用の石を埋め込み、素早く印を切りながら浄化魔法で保護をしていくナンネ。

その場所を中心に肉壁が消え、通常の通路へと戻っていった。


「さて、先に進むよ。 あとどのぐらい距離があるのかは知らないが、急いだほうが良さげだね。」

「はい。」


2人は頷き合うと武器を構え直し、更に濃度を上げていく瘴気の中へと進んでいったのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――



「ギルド長、只今戻りました。」

「おーぅ、ご苦労さん。 で、どうだったん?」


リングホール入口の扉を開けて入ってきた黒ずくめの男が、曼荼羅内に置かれた魔力経路マナラインの同期作業を続けるエチゼンヤに声をかけた。

真っ黒な平頭巾と口当てで目元のみを出し、黒袴に脚絆と手甲、そして背中の黒鞘には直刃の刀。

この場に春が居たならばこう言うだろう。


「忍者だ!」


と。


その忍者――ジョニー・リーコックは、エチゼンヤ直属の情報部員だ。

その諜報能力は確かなもので、リムリオ禍地化への注意を促した報告書を出したのも彼なのである。


「――やはり、魔人間デモ・ヒューマン侵攻当初、避難の為にリエラ殿が転移させた教会に禍地化のコア――禍津碑マガツヒが隠されていた痕跡がありました。」

「あっちゃー、やっぱりでしたか。 難儀やなぁ。」


エチゼンヤの横に片膝を突いたジョニーは、更に報告を続ける。


「一体いつから計画されていたのかは判りませんが、少なくとも十年・・・下手をすると百年以上は練られていたように思います。」

「せやなぁ。 同じ集落の人間が知らん所でワテらに気付かれる事も無くとなると、そんぐらいかなぁ。 ほんで、竜人族のほうはどうや?」

「其方はまだ目立った動きはしていません。 ――いや、目立ち過ぎて深い所が見えてこないと言った方がいいでしょうか。」


ふむ、と顎を一つ撫でたエチゼンヤは、作業の手を一旦止めてジョニーへと向き直った。


「あいわかった。 ご苦労さん。 帰ってきたばかりの所を悪いんやけど、もうすぐエンリケはんが避難民を連れて曼荼羅内部から戻ってくるんや。 あんさんはエンリケはんと一緒に、曼荼羅内へ再突入してくれへんか?」

「了解しました。 直ぐに準備を始めます。」

「頼んだでぇ~」


エチゼンヤは手をひらひらさせると作業に戻り、それを合図にジョニーも準備の為に足音も無くその場から離れたのだった。





遅くなりましたが、明けましておめでとうございます!

なかなか話が進まない&筆が遅い狸森ですが、今年もよろしくお願いします!


第一章も残り数話。

頑張って書き切りたいと思います!


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