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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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53話「曼荼羅への突入と死霊とリーヤ」

どよん、とした空気を纏いながら、じゃが君と共にタイガーが拾ってきてくれたスクールバッグの中に確認した物をを詰め込んでいく春。

それと言うのも、識眼で確認をする限り私物の半分以上は『神宝具アーティファクト』化していたのだ。

それはさながら、「野良エ門の便利道具が入った四次元バケツ」。

試しにと、柄の長い《精霊の贈り物エレメンタルギフト》も入れてみたのだが、どうやって入ってるの?!と思うほどすんなりと収納されてしまった。

幸い、と言えるかどうかわからないが、無断改造された私物はすべて回復や防御、もしくはあったら便利なグッズ程度に収まっていた。

燃えたり爆発したりといった人を傷つける恐れのある危険物は一つも無い。


とは言え、元が春の私物ではあるが神宝具アーティファクト

ある種の制限はあるものの使えば戦況をひっくり返してしまう様な物が殆どだった。


特に先程知らずに食べてしまった《神々の雫ネクタードロップ》は、口に含んでいる間は毒などの状態異常を無効化し、胃で消化される間は魔力マナの高速回復とオドの活性化、そして体力の増強と怪我の高速治癒を促すと言う『自動回復オートヒーリング』系の薬品類としてはまさに規格外のとんでもない代物だった。

ただしそれを生成する缶の神宝具アーティファクトには20個ほどしか貯めて置けない上に、1個生成されるのに1か月近くかかる。


「――まあそれを差し引いても、国から秘宝認定されて差し押さえされかねない位の代物だね。」


何やらキラキラとしたオーラを纏いながら遠くを見つめる春と体力の増強具合を確かめる為にボディービルを始めたタイガーを見ながら、ナンネは深く溜め息を突いた。


その間にもシェルとリエラはエチゼンヤからの説明を受けながら準備を進めていた。


「――先行した調査員によると、入り口から入ってすぐにT字の通路になっておるんですが、正面からだと右側、裏口からは左側の通路ががループになっとるようですわ。」

「なら、逆側に行けばいいの?」

「いいえ、ちゃいますぅ。皆さんはループになっている方へ進んでいってくださいな。」

「なるほど。ループの『壁』を俺とリエラで壊して進むと言う事か。」

「さいですぅ。シェルはんの《聖剣セレス》とリエラはんの《翼の姉妹フリューゲルシュベスター》ならループの壁を破れると思いますわ。――因みに逆の通路は何も無かったと報告を受けてますぅ。」


今から突入する曼荼羅に限らず、他の『迷宮ダンジョン』と呼ばれる場所でも「ループ通路」と言うのは稀に見られるトラップだ。

このトラップは重力に干渉する魔方陣や魔石によって設置されている事が多く、重力操作系の魔法や魔道具、もしくは《解呪》の魔法によってのみ破る事が出来ると言われていた。

今回の場合は、重力操作系の能力を持つ精霊武器ガイスト翼の姉妹フリューゲルシュベスター》と、そして《聖剣セレス》が解呪の能力を持つ為にグループを分けたのだ。


「それと、ワイの故郷の例だと禍地化が進みすぎて浄化をしないとまともに通路を進めなかったとも聞いていますぅ。 浄化石を大量に使ってなんとか進んだらしいですが、今回は浄化魔法の使えるナンネはんとハルはんが居りますので問題無いと思いますぅ。 それよりも禍地から湧いてくる魔物の方が問題ですねん。」

「どういう事?」

「曼荼羅の構造自体が高位の魔物・・・下手すると《名持ちネームド》まで召喚する術式になってますんや。」

「なるほどな・・・そりゃ厄介だ。」

「なので、タイガーはんとエンリケはんが来てくれて助かりましたわ。」


そうこうしている間に準備は整い、ギルド職員達も次々と配置に付いていく。


シェル、春、タイガーは正面入り口へ。

リエラ、ナンネ、エンリケは裏口へと急ぐ。


「ギルド長! 開錠装置の最終調整終わりました!」


作業完了の報告をしてきた職員の肩に、ぽん、と手を置いて労をねぎらうと、エチゼンヤは二つの丸いオーブとモニターが置かれた『開錠装置』の前に座る。


「――準備はええでっか? ほな始めましょか~」

『――シェル班、突入を開始する。』

『――リエラ班も突入します。』


開錠用のオーブに両手を当て、据え置き型のテレホンに向かってエチゼンヤは開始を告げる。

本来このオーブは、城塞都市同士を繋ぐ魔力経路マナラインの保全工事用に使われる物だ。

土木ギルドから借り受けたこのオーブを通して、中心部の扉を開く《開錠》を発動させるのだ。


「頼んまっせ、皆はん!」


そう意気込んで、エチゼンヤは丸メガネをキラリと光らせたのだった。




「ハル、どうだ?」

「ん~?」


じゃが君を肩に乗せて識眼を使った春は、一緒にループ通路を見渡していた。

探すのは通常の空間とループされた空間を繋ぐ『接合点』と呼ばれる箇所だ。

街中での戦闘から出しっぱなしにしてあった《聖剣セレス》で一度は解呪を試みたものの上手くいかず、それならと識眼を通してチェックして見る事にしたのだ。

すでにリエラ班ではループ通路を抜け出して先に進み始めている。

これは、重力操作ならただ斬り裂いて空間を乱せば済む作業であるのに対し、解呪の場合はその術式の最も弱い場所を突かなければならないという差が出た結果だ。


「――シェルさん、あそこだと思います。」


ハルが指差した場所を《聖剣セレス》で突くと、空間に波紋が広がった。


「当たりだな。」


そう言ってシェルはさらに突き入れて鍵を開ける様にぐりっと剣を返した。


バリンッ


破砕音と共に空間が砕け、今まで見えていたものと違う本物の通路が現れた。


「よし、いくぞ。」


シェルの声と共に、三人は先を急いだのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――



「ふえぇ・・・まだ追いかけてくるよう・・・」


火龍の助けを受けながら曼荼羅から脱出をするべく赤い廊下を突き進んでいたリーヤだったが、ここに来て火炎が効かない霊体系の魔物に遭遇して逃げ回っていた。


『ヒャァァァ! クアァァァ!』


悲鳴の様な声を上げながらリーヤを追い回すのは、『死霊レイス』と呼ばれる霊体系でも上位の力を持つ魔物だった。

それも1体ではなく、見えるだけでも5体。

Aランクの冒険者パーティーであっても、即座に逃げの手を打つ数だった。

なぜなら、


『キャァァァ!』


女の死霊レイスが悲鳴と共に放ったのは、『恐慌フィアー』を纏った音波攻撃。

それをリーヤに憑いている火龍の亜精霊「ふぁーちゃん」が聖なる炎で防ぐ。

通常ならばその聖炎で倒せそうな火力なのだが、


『くっ!なぜ我が炎が効かない!?』


聖炎に身を焼かれて苦痛に顔を歪める――元から歪んだ顔をさらに歪めるのだが、さらに恐慌の叫びを上げるだけで効いている様子が全く無い。


幸いリーヤには、《龍の宝玉ドラゴンオーブ》により恐慌状態への保護プロテクトが掛けられている為に大事には至っていないのだが、それ以外にも死霊レイスには恐ろしい能力を持っていた。


『リーヤ!右に避けろ!』

「きゃあぁぁ!」


寸での所で死霊レイスの手を掻い潜り、再び通路を走り出すリーヤ。

死霊レイスのもう一つの能力、それは――


『絶対に奴等の手は触れさせるな!一瞬で生気を吸われるぞ!』

「うえぇぇん!おとうさーん!」


一瞬で生物を干からびさせる程に強力な『生気吸収』の能力だ。

泣きながら父を呼ぶ少女に、容赦なく振るわれる即死の掌。

「ふぁーちゃん」のアシストでなんとか堪えているが、いつその均衡が破れてもおかしくないほどに寝た切りだったリーヤの体力は限界に近付いていた。


そしてついに――


「きゃぁ!」

『リーヤ!』


死霊レイスの手を避けた拍子に、リーヤの足がもつれて転んでしまった。


『キャアァァ! クァァァ!』


リーヤが逃げられないように囲んだ死霊レイス達は、にやぁ、と顔を歪ませる。

それは生者への嘲笑であり、憎しみであり、渇望でもある昏い笑みだ。


「い、いや・・・こないで・・・」


逃げ場のない壁に小さな身を摺り寄せて縮こまるリーヤ。


『貴様等!我が巫女に触れるな!』


「ふぁーちゃん」は聖炎の壁でリーヤを囲むが、死霊レイス達は一瞬苦痛で顔を歪めるもののその歩みを止める事は無い。

むしろリーヤの恐怖を増幅させる為に、ゆっくりと近づいて来ていた。


そして身を縮めるリーヤに向けて、ゆっくりとその掌を――




「《――再び芽吹け!新緑の眷属達よ!》」


バチィン!


「ふぇっ!」


くるくると身に纏わりつく木の葉によって、死霊レイスの掌が弾かれた。


「リーヤちゃん!」

「ハルさん!?」


声がした方向を見ると、樹精霊ドリアード達と共に白い杖を構えた春が立っていた。


「リーヤに触るんじゃないわよぉ!」

「タイガーおじ様!?」


豪風と共に死霊レイスを殴りつけたタイガーが蹲るリーヤの前に立ちはだかる。


「――セレス、《還せ》」


黒い影が光を一閃すると、リーヤを囲んでいた死霊レイス達は全て声を上げる事も無く一瞬で掻き消えてしまった。

《聖剣セレス》の光剣形態を解除し、残心して溜息を一つ突くシェル。


突然の展開にぼーっとしているリーヤに、駆け付けた春は思わず抱き締めた。


「――リーヤちゃんっ! よかったぁぁぁ~!」

「ハルさん・・・ふえぇぇん!怖かったよぉ~~!」


春に抱き締められて緊張の糸が解けたのか、リーヤは胸の中で泣きじゃくる。


こうしてリーヤは、春達によって無事保護されたのであった。



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