表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
50/63

46話「草原と青い空 その5」

「《五災禍フィフス》って・・・」


シェルが語った《災禍戦争》。

それを引き起こした凶王ヴァーンが、アインブルクの民を瘴気により魔人間デモ・ヒューマンに変えて支配下に置き、4国家へと侵攻した。

その際に使った名が《五災禍フィフス》だったと春は記憶している。


「元々《五災禍フィフス》を動かしていたと言われる5人の人物は、それぞれ違う理念に基づいて動いていたの。とは言え、名が知れていたのは3人だけだけど。その当時、最も活発に動いて人々を恐れさせていたのが、《禍根かこん》のヴァーン。彼は、魔人間デモ・ヒューマンの軍勢を率いて各国を襲っていたわ。その次に《狂信》のヴィヒデットが教祖として率いる《アルカディア聖教》。その信徒達による暴動や扇動が各地で起こっていたわ。――そして、《暴虐》のハラト。彼は自然発生した魔獣を使役し、さらに強力な魔獣を作り出しては街を襲わせていたわ。」

「そんな人と・・・なぜですか?」


セレスは頬を掻きながら春の問いに答える。


「まず一つは、ハラト君とは《災禍戦争》の頃に一度会ってるのよ。・・・その時にちょっとあってね。」

「なにがあったんです?」

「あー、えっと・・・おにいちゃんは知らないんだけど、ちょっとストーカーされてて・・・」

「ストーカーですか・・・」


結構大きな話だと思っていたのだが、やっていたのがストーカーだと聞くと何やら微妙に思えてくるあたりが締まらない感じだ。


「それでね、あんまりしつこいからさすがに嫌になっちゃって、《祓いの加護》とか《憑き物落とし》とか《浄化ピュリフィケイション》とか、色々込めたビンタを一発・・・ぱぁん!って。」

「うわぁ・・・」


平手打ちの動作を交えながらの話に、心底微妙な顔をする春。

そんな人物を協力者に選ぶのは一体どういうつもりなのかが分からない。


「その人、大丈夫なんですか?・・・」

「うん。その時にある程度正気を戻せたらしくて、ビンタのお礼に協力してくれるって話になったの。それからは街を襲ったりも無かったしね。」

「はぁ・・・」

「まあ、さすがに鼻血を垂らしながら満面の笑みでお礼を言われた時は、わたしもちょっと引いちゃったけど・・・」


聞けば聞くほどハラトと言う人物に不安しか感じなくなってくる。


「とりあえずその時に聞いたのがね、《五災禍フィフス》って元々はアインブルクが主体になって《ネガ》の浸食を抑える為に作られた組織だったらしいの。それが逆に影響を受けちゃって・・・」

「なるほど・・・」

「それで、ハラト君なんだけど。当時はなんか嫌がっておにいちゃんと会おうとしなかったんだけど、今回の事でお願いしたら接触してみるって言ってたから、なんか裏で動いてくれてると思う。」

「具体的にはどんな事してるか分かります?」

「えっとまず、春ちゃんとおにいちゃんを引き合わせる為に《渡りの術》の出口を作ってくれたのがハラト君だと思う。」


春は、シェルの顔面に激突した時のことを思い出して頭を押さえた。


「あれすっごく痛かったんですが・・・」

「あー・・・あれはほんとに偶然・・・だと思う・・・多分・・・」

「多分、ですか?・・・」

「ハラト君、おにいちゃんの事を嫌ってるから、嫌がらせの部分もあるのかなー?ってちょっと思うけど、まさかねぇ・・・」


実際は本当に偶然なのだが、それを見た後の問題の人物は影で腹を抱えて笑い転げていた為、セレスの懸念も実際は的を射てたりする。


「あとは、ある程度魔獣の動きを抑制してくれていると思うけど、あくまでもハラト君が居る範囲での話だから、他の召喚者サモナー使役者テイマーが居たり、高位の魔獣がいたりするとダメかも。」


セレスの言ではハラト個人での協力と言う事らしい。

そもそも彼が組織立った事をしていたかどうかすら怪しいのだが。


「でも、それだけの事を見返りもなしにやってくれてるんですか?――その、ハラトさんは。」

「あー、えっと。ハラト君を侵していた《ネガ》の一部をわたしが受け持ってるから、それで、かな?」

「えっ?!セレスさんは大丈夫なんですか?」

「うん。今のぐらいなら全然平気。だけど、ちょっと影響は出ちゃってるかな。」

「影響ですか?」


セレスは苦笑しながら左手を広げて春に見せる。


「それ・・・」


白く、か細い手の平の中は、赤黒い痣が広がっていた。


「ほ・・・ほんとに大丈夫なんですか?」

「うん、まあ少しずつ浄化していってるから、そのうち戻ると思う。それよりもハラト君のほうが結構ギリギリだから、《ネガ》の浸食が進んじゃうと最悪また敵になっちゃう可能性もあるわね。今はなんとか正気を保っているけど。」


そこまで言って左手の平を下げて話を一区切りしたセレスは、目の前の紙をスライドさせて地図を出した。


「これは?」

「森の国エリディアの地図。これから・・・と言うか、リムリオの件を終わらせた後の話になるんだけど。」


そう言ってセレスが地図に手を振れると、リムリオ周辺がズームされた。


「まず、春ちゃんの予定では王都の図書館へ向かう事になっていたのよね?」

「はい、そうです。なんか禁書庫がどうとか言ってましたので。」

「じゃあ・・・ちょいちょいっと――このルートを通っていけばいいと思う。」


セレスが指で地図をなぞると、王都リディアまでの道のりが青い線で描かれた。


リムリオから西へ向かい、港から海路を通って半島を回り、王都リディアの西にある港から陸路で向かうようだ。


「南へ向かう道は駄目なんですか?」

「うん。本当は南の山岳地帯にあるゴランを経由したほうがずっと早いんだけど、多分あの周辺は禍地まがちになっちゃってると思う。」

「えっ!」

「ほら、エチゼンヤさんの報告書で、《コア》を持ち込んで調べてるって書いてたでしょ。あれって《禍津碑マガツヒ》の事だと思うから、もう手遅れになってると思う・・・」

「それって、ミアさんの言っていた《コア》の名前ですよね?」

「そう。春ちゃんが捜索してた物と同じ物。」


セレスは再び紙をスライドさせ、何かが描かれた図面を出す。

赤い結晶が歪な装飾の黒い台座に据えられ、さらにその下には魔方陣が描かれている。


「これが《禍津碑マガツヒ》よ。」

「これが・・・。禍地まがちを呼び寄せる物と聞いていましたけど、これを置かれるとどういう風になっちゃうんですか?」

「んと、これが作動するとまず、一帯の瘴気が活性化させられて禍地化まがちかさせやすい環境にされるの。範囲は大体リムリオから鈴穂平原まで全部かな。」

「かなり広いですね・・・」

「うん、その次に発生した禍地まがちを引き寄せて濃縮させた後、高濃度の瘴気を撒き散らして爆発するの。これで死なないのは魔物ぐらいかな。」

「――じゃあ、そのゴランの人たちは!」

「一人残らず亡くなってると思う・・・」

「そんな・・・」


リムリオと同じ城塞都市であるゴラン。

春は名前しか聞いた事がないが、リムリオと同じ規模の都市だったとして、数万人規模の命が《禍津碑マガツヒ》によって失われたと言う事になる。

そして、それが持ち込まれたリムリオも、発見と浄化が間に合わなければ同じ末路を辿るのだ。


「過去の戦争でも何度か使われたけど、こんなのを使うのはあいつしか居ないわ。」

「あいつ?」

「・・・《冒涜》のラプラス。昔はそう呼ばれていたと思う。わたしが住んでいたプレト村に《冥府の呪い》をかけて、《食人屍グール》を溢れさせた張本人。」

「――!その人が今リムリオに居るんですか?!」

「間違いないと思う。そして、《禍津碑マガツヒ》を置いてあいつが居る場所は――ここだと思う。」


そう言ってスライドさせたリムリオの地図の一点を指差すセレス。

そこは、春も知っている場所だった。


「そんな!ここで間違いないんですか?!」


問いかける春に、真剣な表情で頷くセレス。

そこに置いてあるとしたら、プレト村の惨劇が再び引き起こされる。

その場所は――



「リムリオリングホール。その最上階に《禍津碑マガツヒ》は設置されているはずよ。」







景色が徐々に薄れていく。

遠くまで見えていた草原も青い空も、少しずつ靄がかかったように視界の端から白くなっていった。


「あーあ、時間になっちゃった。」

「色々とありがとうございました。セレスさんとお話し出来て楽しかったですっ」

「ごめんねー。もっと楽しい事だけおしゃべりできれば良かったんだけど・・・」

「そんなことないです。セレスさんの事も、シェルさんの事も、これからの事も、色んな事を聞けましたから。」


そう言って春は、セレスの手を両手で握り締めた。


「また、逢えますよね?」

「うん、春ちゃんが望むならっ」


ぼやけていく視界の中、来た時と同じように微笑むセレス。


「あ、そうそう。一つ言い忘れてた。」

「え?」


そろそろ意識が落ちるだろうと言う時に、またセレスの爆弾が投下された。


「春ちゃんと縁を繋いだのって一人だけじゃ経路確保難しかったから、複数人と繋いだみたい。これから何人かの人に言い寄られたりするかもだけど、がんばってね~」

「えっ!ちょっ!どういう事ですかそれは!詳しく話を・・・ってあー!――――――――」


そして春の意識は身体へと戻って行ったのだった。



「――がんばってね、春ちゃん。」



――――――――――――――――――――――――――――――



「――んぅ・・・」


頭を振りながら体を起こす春。

辺りは暗いが、とりあえず《精神世界ダアト》からは無事に戻れたようだ。


「マスター・・・大丈夫ですか?」

「ご主人様、痛いところない?」


春の膝元ではじゃが君とポテちゃんが心配そうに見上げていた。


「うん、大丈夫。じゃあ、みんなの所へいこっか。」

「はい!マスター!」

「ポテもまたがんばる!」


精霊の贈り物エレメンタルギフト》を手に立ち上がる春は思う。


――とりあえず、媛様に会ったら1回ぐらい叩いてもいいよね・・・いいよね?


若干遠くを見つめながら、心に決めた春であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ