45話「草原と青い空 その4」
「それで、《セフィラ》って一体何なんでしょうか?」
先程のショックから未だ立ち直れていないが、色々と残念な方向に逸れまくった話題を軌道修正する春。
「あー、うん、えっとね。春ちゃんが居た世界と神樹界では意味合いが変わってくるんだけど、簡単に言うと『進化』や『成長』の段階を示す物なの。聖樹≒《セフィラ》と思っていいかな?」
「ふむふむ。」
「《神種経路図》を見ると、一番上の《ケテル》から開始されて一番下の《マルクト》に至る経路が描かれているけど、そこに行くまでには一つづつ順番に《セフィラ)を解放する必要があるの。まず春ちゃんが今持っている神種が《ケテル》を表しているのよ。次に、じゃが君だったっけ?彼が召喚した芽を司る聖樹が《コクマー》。次に、ポテちゃんだったかな?彼女が召喚したのが根を司る聖樹 《ビナー》。偶然・・・とも言えないけどちゃんと順番に喚ばれたから、この精神世界に立ち入る権限を得たのよ。」
「なるほど・・・」
「本当は、オジー様から教えられて初めてここに来れると思ってたんだけどねぇ」
頬を掻きながら若干困った様な顔をしたセレスだったが、気を取り直して話を続ける。
「まあぶっちゃけるとね?あの樹精霊の子達は、いくつかに分かれたわたしの魂の欠片を受け継いでいるのよ。」
「えっ!そうだったんですか・・・」
「うん、それでね。わたしが解放した《セフィラ》も欠片と一緒に撒かれちゃったから、これからまた一つずつ集めて行かないとなのよねぇ」
「はぁ・・・大変そう・・・」
この神樹界のどこにあるかも分からない《セフィラ》を集めなければならないと聞き、その途方もない労力を思ってがっくりと項垂れる春。
「それで、その《セフィラ》を集めるとどうなるんですか?」
「うん・・・その《神樹の種》を納める為の場所へ道が開く・・・んだと思う。」
「思う?」
「だってわたし、7番目の《ネツァク》までしか解放出来てなかったのよ。」
「あ~・・・」
再び頬を掻きながら困り顔をするセレス。
どうやらこの仕草は彼女の癖の様だ。
「じゃあ、《神樹の種》をそこへ持っていけないとどうなるんですか?そもそも、なんでそこへ持っていかないといけないんでしょう?」
「んと・・・言っちゃっていいのかなこれ・・・まあいいか。簡単に言うと――――――神樹界が《陰》に喰われて崩壊しちゃうの。」
「へ?・・・」
いきなり規模の大きい話が出て来て困惑する春は、ぽかーんと口を開けて放心する。
「数千年に1回、新しい《種》を『その場所』へ持っていかないと、この世界そのものが無くなっちゃうの。これは、人の手によってしか出来ない事で、《神種の運び手》に選ばれた者はあらゆる加護をその身に受け、そして運ぶの。すぐ運ばなければいけないという事ではないけど、さすがに600年も間を置いちゃったから、いろいろ影響が出ちゃってる感じね。」
「影響って・・・もしかして禍地の事ですか?」
「うん、そうね。他にもあると思うけど、表面化してるのは禍地だねー」
今更ながら、途轍もない事に巻き込まれている事を実感し、ただただ唖然とする。
「ただ、一番重要な加護をおにいちゃんに渡しちゃってたから、それだけが心配って言えば心配かなぁ」
「重要な加護ですか?」
「そう。確実に《種》を届けるには、運び手は死んでは駄目な訳で。その為の加護を前任者から引き継ぐという形だったの。」
「それって・・・」
恐らくシェルの目の前でセレスが消えた、その時の事を言っているのだろう。
「本当はね、胸を貫かれたぐらいじゃ、わたしは死ななかったの。――わたしがおばあちゃんから受け継いだ《不死者の加護》でね。」
「・・・え?」
「わたしのおばあちゃんが、前任の《神種の運び手》だったのよ。」
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潰れた脚を引き摺り、ゆっくりと南門から離れていく腐死竜。
地面に腐った体を擦りつける様に這いずり、腐肉を零しながら進む。
這い進んだ跡からは、零した腐肉から腐者が無数に湧き出していた。
「――あいつ、どこに向かってるんだ?」
北門に現れた魔物の掃討に区切りをつけ南門に駆け付けたエバンスは、哨戒塔の上から《光源》の魔道具で照らされた腐死竜の様子を見て、隣に来たレインに訊ねた。
「分からんな。門前で少し暴れた後、何かを見つけたみたいに離れ始めたんだ。」
「ふむ。あの先には何があるんだ?」
「何もないはずだ。しいて言うなら、《大障壁》の壁ぐらいなんだが・・・」
這いずる腐死竜を見つめながら、顎に手を当てて考え込むエバンス。
「ずっと気になっていた事があるんだが。」
「なんだ?」
「反応が消えた《壁の魔像》はどうしたんだろうな?護衛に行っていた衛士達とも連絡付かなくなっているしな。ライオネルは大丈夫だと思うが、暴蛇が相手じゃ絶対とも言い切れない・・・」
そこまで言って、はっとしたようにエバンスは何か呟き始めた。
「――《壁の魔像》・・・《暴蛇》・・・《腐死竜》・・・《大障壁》・・・」
「どうした?」
「――なぁ。6番の位置はどこだ?」
《大障壁》発動で魔力切れになり擱座している《壁の魔像6番》は、そのまま平原に放置されていた。
レインは6番が置かれている位置へと視線を向け、はっとする。
「まさか・・・腐死竜の目標は6番か?」
「ああ、何の為かは分からないが、恐らくそうだ。――拙いな、嫌な予感しかしねぇぞ!」
そう言ってエバンスは踵を返して哨戒塔を下り、レインに替わって指揮を取りはじめた。
「しょうが湯を飲んだ者から整列しろ!これから腐死竜へ向けて総攻撃を開始する!腐者には目もくれるな!一点集中で撃破を目指せ!」
「「「「「おぉ!!!」」」」」
冒険者と魔人間の混成部隊に加え、衛士達も加わり編成を整える。
「いくぞぉぉぉ!!!」
閉められていた南門が開かれ、エバンスとレインを先頭に腐死竜へ向けて突撃が開始された。
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「それじゃ、シェルさんが600年も生きてるのって・・・」
わななく春の言葉にセレスがゆっくりと頷いた。
「うん。死にそうだったおにいちゃんを助ける為に、わたしが《不死者の加護》を渡したの。」
「そんな・・・」
顔を手で覆い、涙が零れそうになるのを押さえる。
つまりセレスは、その出来事が無ければ600年・・・いや、次の《神種の運び手》が現れるまで数千年を生きなければならなかったのだ。
その事実に気付き、溢れる涙を堪える事しか出来ない。
それが役目とは言え、残酷すぎる。
だが、セレスはその加護を、愛するシェルを救うために渡した。
葛藤すら許されない状況で、文字通り身を捧げて。
「ただ、適性の無いおにいちゃんに無理矢理《不死者の加護》を渡しちゃったから、その反動でわたしの肉体は《聖剣化》しちゃったのよ。――だから、わたしはもう・・・おにいちゃんを見る事は出来ても、逢う事もしゃべる事も出来ないと思う。」
春の目から、堪え切れなくなった涙が溢れ出した。
「そんな・・・そんなのってないですよ・・・シェルさんはまだセレスさんの事・・・」
「それ以上は言わないで?・・・お願い。」
セレスは目を閉じ、ゆっくりと顔を伏せた。
しばらくの間、春のしゃくり上げる声だけが響いていた。
ふと、何かに気付いた様にセレスは青空を見上げた。
「――あ~、ちょっとヤバいかも。時間が無くなりそう。」
「――ひっく・・・え?」
セレスが春の手を握る。
「とりあえず、いろいろ駆け足で教えれる事は教えちゃうね。」
「・・・はい。」
春の頭をよしよしと撫でて少し微笑んだセレスは、先程の話の続きを語り始める。
「それで、おにいちゃんに《不死者の加護》を渡しちゃったのと、肉体が《聖剣化》しちゃってその他の大部分の加護もそっちに宿っちゃってるから、今《種》を持っている春ちゃんには、《種》自体の加護と媛様からの餞別で受けた幾つかの加護ぐらいしか無いのよね。」
「・・・それだけでも十分過ぎる気がするんですが・・・」
「うん、でも、『その場所』へ行く為にはかなり危険が付きまとうと思うし。それで媛様と相談してね、一度、思念だけをこっちに飛ばしてもらって、協力者を一人見つけておいたの。」
「協力者・・・ですか?」
春の問いに、真剣な顔で頷くセレス。
「その人の名は、五災禍の一人《暴虐》のハラト。――かつて、神樹界に災いを招いた5人の内の一人よ。」
次回で事情説明をする回は一区切りです。
なかなかまとめ切れていませんが、残りは追々語られて行くと思います。
上手く伝わってない部分も多々あると思いますが、その辺はまだまだ能力不足の狸ですので大目に見てあげてください・・・




