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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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44話「草原と青い空 その3」

「まあまあ、ぽっちゃりしてた春ちゃんも可愛かったよ?」

「うぅ・・・そんな慰め方はいいです・・・」


膝を抱えどんよりと落ち込む春の肩に、セレスが手を置いて慰める。

実は太り出した事がきっかけで、当時好きだった男子へ告白をすることも出来ず、結局その男子は友人と付き合い始めてしまったのだ。

結果、過食症じゃないかと言われつつも開き直って食べ続け、高校に進学する頃には見事に肥満児の仲間入りをしていた。


まあその後の彼らのいちゃつきぶり毎日見せられている内に、抱いていた恋心も冷め切ってしまったのだが。


「どのみち、あの時カズマ君に告白してても振られていたよ?美香子ちゃんとカズマ君って運命力が強すぎるから~」

「な!ななななんのことですかっ!」


顔を真っ赤にした春は盛大にドモりながら否定するが、セレスはそれににやにやと笑いながら微笑みを返す。


「も、もう!からかったんですね!?」

「あ、わかった?まあいいじゃないっ。春ちゃんと縁を繋いだ相手って神樹界イグドラシエルに居るわけだしっ」


再び、さらりと爆弾を投下したセレスに発言に口をぱくぱくさせる春。


「え?・・・えぇ~!どういうことですかそれ!」

「どういう事って言われても・・・、春ちゃんが運び手に選ばれた理由の一つってそれなのよね~」

「ま、まだあったんですか・・・」


もはや突っ込みを入れる気力すら失われ、がっくりと項垂れるしかない。


「月代神社のご利益って知ってる?」

「えーっと確か縁結びの・・・ってまさか・・・」

「うん、これも犯人は媛様。」

「やっぱり・・・」


いつかその媛様に合う事があったら、一杯文句を言ってやろうと心に決め、セレスの話の続きを聞く。


「別の世界を行ったり来たりする《渡りの術》って結構大変でね、わたしみたいに魂だけ飛ばされるとか、自然発生した時空流に巻き込まれるかとかでこっちに来てる旅人トラベラーさん達みたいなのは稀にあるんだけど、特定の人物を特定の世界に飛ばすのはかなりことわりから外れたことらしくて、いろいろ手順を踏まないと出来ないのよね~。実際、わたしの魂だけだったら普通は戻さないらしいし。」

「そうなんですか?・・・あっそか、種・・・」

「そゆこと。それで媛様が考えたのが、春ちゃんと神樹界イグドラシエルの誰かと縁を結んで、その繋がりをバイパスにして飛ばすってやり方だったのよ。もちろん、春ちゃんに種を宿した上でね。そのついででわたしもアドバイザーとして憑いてきたってわけ。」


『憑いてきた』の言葉で、オカルトが苦手な春は若干寒気がしたが、構わずセレスに向き直り質問をする。


「それなら今までセレスさんはわたしの傍にずっと居たんですか?」

「そうだよっ。まあ、傍って言ってもここなんだけどね。」


そう言ってセレスは周囲に目を向けた。


「春ちゃんが《セフィラ》を二つ繋いだ事で、この精神世界 《ダアト》に立ち入る条件が整ったの。ちょっとタイミング悪かったけど、次からはこういう事にならないと思うから安心して。」

「あっ!そう言えば戦闘中・・・」


この《ダアト》と呼ばれる世界に来てから大分時間が経ってからその事を思いだし、慌てふためく春はキョロキョロと周りを見渡しながら「どうしよう・・・」を連呼している。


「大丈夫だよっ。さっきも言った様に外とは時間の流れが違うから、戻っても数分ぐらいしか経ってないと思うわよ~」

「うぅ~、でも心配なんです・・・」

「大丈夫。みんな守ってくれてる。」


そう言ってセレスは春に抱き付き、落ち着かせるように背中を優しく叩いた。

抱き付かれて戸惑う春だったが、なんとなくセレスの背中にも手を回して目を閉じる。

春よりも背の低いセレスは、春の腕の中にすっぽりと収まり、その温もりで少しずつ気分も落ち着いてきた。


どれくらいそうしていただろうか。


「――あの・・・セレスさん?」


春の胸に顔を埋めたまま動かないセレスに気付き、声を掛けてみる。


「――春ちゃんって・・・春ちゃんって・・・」

「はい?・・・」


何やらぷるぷると震えだしたセレスに、不穏な空気を感じた春は離れようとするがびくともしない。


「ちょっ・・・セレスさん???」

「春ちゃんって・・・どんだけ着痩せしてたの~~!?」

「はいぃ!?」


それはセレスの魂の叫びだった。


「いっいきなり何を言い出すんですかっ!」

「だって、だってぇ・・・」


そう言ってセレスは春の胸と自分の胸を見比べる。



ぽよん。



すとーん。



「どうしてわたし、この部分だけ育たなかったんだろう・・・」


胸に手を当てたセレスは、敗北感でがっくりと項垂れた。


「わ、わたしだってそんなに大きくないですよ・・・。美香子とかサンディさんとかリエラさんとかもっと大きいじゃないですかっ」

「春ちゃん・・・あんな圧倒的な人達を基準にしちゃ駄目だよぅ・・・」


一部分がどうしても育たなかったセレスはそれを聞いて蹲り、今度は逆に春から慰められる事になったのだった。





「まあそれはともかく・・・」


春の胸の大きさを直に味わったショックからなんとか立ち直ったセレスだが、未だどこか虚ろな目のまま話題を切り替えようとしていた。

16歳で魂だけの存在となったセレスはこれ以上の成長も見込めない為、決して浅くはないコンプレックスの傷に自ら塩を塗った形になってしまっていた。


「・・・セレスさん、大丈夫ですか?」

「だ・・・大丈夫・・・取り敢えず話の続きねっ。んーと、そうそう。セフィラの話ね。」


そう言うとセレスは、自分と春の間に手を翳した。

すると何も無かった空間に、一枚の大きな紙が開かれた。


「わっ。なんですか?これ。」

「図で見た方が解りやすいと思って。見ててね。」


そう言うとセレスは、その紙を一撫でした。

波打った紙は、その揺れに合わせて表面に何やら図形のような物を描き出した。


「これは・・・どこかで見た事あるかもっ。映画とかでっ」

「うん、そうだろうね~。これは生命の樹。セフィロトの樹とも呼ばれているわね。――でも、神樹界イグドラシエルでは別の呼び名があるの。」

「んん??どんな呼び名ですか?」


春の問いに、セレスは一呼吸置いて答える。


神樹界イグドラシエルでは、これを《神種経路図》と呼ぶの。」

「神種・・・」


今まで何度も耳にしながら、それが何なのか分からなかった『種』という言葉。

ここに来て再びその言葉を聞いた春は、思い切ってセレスに聞いてみる事にした。


「あの・・・そもそも『種』って何なんですか?かなり大事な物なんだって事は分かるんですが・・・」

「そうねぇ・・・。春ちゃんに解りやすい様に言うと、『世界の原型』ね。」

「原型・・・ですか?」

「そう。もっと解りやすく言うと、春ちゃんが探してた禍地まがちコアってあったでしょ?」

「はい。まだ見つかってませんけど・・・」

「神種――《神樹の種オリジン》は、この神樹界イグドラシエルコアよ。」

「えっ!」


思わず声を上げて自分のお腹を見た春は、若干びくつきながらぺたぺたと触ってみる。


「最初の精霊の原型アーキタイプにもなったから、《精霊の種》って呼び方もされてるけどね。」

「うあぁ・・・そんなに凄そうな物だったなんて・・・なんでわたしに・・・・」


ひとしきりお腹をぺたぺたと触った春は、恨めしそうな顔でセレスを見る。


「ごめんね~。春ちゃんしか《渡りの術》を行使出来る人が居なかったから、事後承諾みたいになっちゃったっ」

「・・・いえ、それは良いんです。良いんですが取り敢えず、その媛様に会ったら沢山文句を言う事に決めましたので、セレスさんは悪くないですよっ。うふふふふ・・・」

「あう・・・春ちゃん、目が笑ってないよ・・・」


据わった目で微笑みを浮かべる春に、少し身を引いて反省をするセレスであった。



――――――――――――――――――――――――――――――



「おらあぁぁぁぁ!!!」


ぼろぼろになった《番人の鋼ヴェヒターシュタール》の石突きで、ライオネルの倍ほどの背丈もある食人鬼オーガの頭へと咆哮と共に突き立てる。

絶命し倒れる食人鬼オーガと共にどさりと地面に落ちたライオネルは、歯を食いしばって戦斧を支えに立ち上がろうとするが、既に限界を超えている体はがくがくと震え力が入らない。


「っくそ!動け!動けえぇぇぇ!!!」


大声を張り上げ何とか立ち上がろうとするも、膝からがくりと倒れ伏す。

何度も倒れては這いずるように立とうとするライオネルへ、じりじりと食人鬼オーガの群れは距離を詰めてくる。


「まだだ・・・まだだぁぁ!!!俺は戦うぞ!・・・戦うんだぁぁぁ!!!」


そんなライオネルの様子ににたりと嗤った食人鬼オーガの一体が、巨大な棍棒を構え満身創痍のライオネルに振り落した。







ギャオォォォン!



棍棒がライオネルに当たる瞬間、一匹の赤い獣が食人鬼オーガの喉笛へと喰らい付き、一気に引き千切った。


「な・・・に・・・?」


信じられない物を見た様に驚愕で目を見開くライオネル。

見れば周りに居た数十体の食人鬼オーガへも、それよりも多い数の赤い獣が襲い掛かり、食い千切り、引き裂いていた。


「――《赤化魔猟犬レッドガルム》・・・だと?」


唖然とその光景を見るライオネルに、背後から聞き慣れた声が掛けられた。


「――全く、無茶しすぎなのよ。兄者は。」

「お前・・・!」


そこには青いアフロの大男――弟、タイガー・リオールが仁王立ちしていた。


「助けに来たわよ!兄者!」


そう言って青鬼は音を立てて両拳を合わせ、白い歯を見せてにかりと笑ったのだった。






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