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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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31話「強くて優しいお父さんと綺麗で優しいお姉ちゃん 前編」

「ところで、うちの旦那ライオネルと連絡取りたいのなら、冒険者ギルドホールの念話石テレパス使えば良かったんじゃないの?」

「ええ、そら真っ先にそう思いましてん。一応行ってみましたんやけど、なんや使えんよーになっとりましたわ。」

「使えなくなってた?・・・」

「おそらく《禍地化まがちか》の影響でしょうなぁ。なんやゴランとミリアムとも連絡がよーつかへん様になってましたやろ。それがエムリードとかとも連絡取れんようになってもうてましたわ。」

「なんてこと・・・」


シャンゴを摩り下ろす手を止めずに、フィリアは首を振って項垂れる。


「せやけどこの《しょうが湯》を飲めば、ある程度は禍地まがちでも活動できますやろし、そない心配せんでもええんとちゃいまっか?さっき試作したのを飲ませて貰いましたけど、なかなか良いもんでっせ。」


いつの間に飲んだんだとフィリアはじろりと睨むと、エチゼンヤはさっと目を逸らした。


「まあそれは良いとして、ハルはんはどこ行きましたん?」

「ああ、サンディさんと一緒にうちの娘・・・・の所に出来上がったしょうが湯を持って行ってもらってるわ。そのまま南門のほうに戻るって。」

「ふーん。そいならワテも・・・」

「待てい!」


話の流れに乗って、シャンゴの摩り下ろし作業から逃げ出そうとしたエチゼンヤの顔面を、フィリアはガシッとアイアンクローした。


「あだだだだ!ま、待って!眼鏡がずれて!・・・アヒャアァ!シャンゴ汁が目に!目に染みるぅぅぅ!」

「逃げようったってそうは問屋が卸さないんだからね!」


そんな二人のやり取りを、周囲の人々は生暖かく見守っていたのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――



リムリオリングホール3階、来賓室区域。


元々リムリオへ招かれた各国首脳や関係者、護衛などに宿泊してもらう為の施設なのであるが、現在は病気や怪我で動けない人の為に解放されていた。


その一室へサンディと春と樹精霊ドリアード達は向かっていた。


「えーと、たしかこの部屋のはずよ。」


サンディが立派な扉をノックすると中から少女と思しき声がした。


「――はい・・・ケホッケホッ」


部屋に入ると立派なベッドの上には大きなミーフのぬいぐるみと、赤毛赤目の少女が体を起こしていた。


白い病衣を着たその少女はおそらく15歳前後。

前髪の生え際からは白く小さな角が2本生え、長く滑らかな赤髪を肩口で一つにまとめている。

肌は白く透き通るようで、まるで陶磁器を思わせた。


「こんにちはぁ、リーヤちゃんっ」

「こんにちは、サンディさん・・・けふっ」


部屋へ入ってきたサンディを見て、時折咳込みながらもリーヤはにっこりとほほ笑んでいた。


「体調はどうかしら?この部屋寒かったりしてない?」

「あ、大丈夫です。こんな立派なお部屋ですし、それに今はお父さんもお姉ちゃんも頑張っていますから、私もがんばらないとっ・・・けほっ」

「無理しちゃだめよぉ?はい、これリーヤちゃんに持ってきたの。飲んでみて~。」


サンディは持ってきた鍋からリーヤ愛用の花柄のカップにしょうが湯を注ぐ。

カップからはしょうが湯に混ぜた妖花アルラウネ蜜の花の香りがふんわりと漂う。


「わぁっ!ありがとうございます!んっいい匂い!――ところでそちらの方達は?」

「紹介するわね~。この娘はハルちゃんって言うの。このしょうが湯って飲み物を教えてくれたのよっ。最近この街に来た旅人トラベラーの娘で、今は精霊使いになって足元に居る樹精霊ドリアードちゃん達と冒険者をしているのよ~」

「あっ!お父さんが言っていた旅人トラベラーさんってハルさんの事だったんですねっ!はじめましてっリーヤと言いますっ!精霊使いだなんてすごいっ!」


リーヤはそう言って春にほっそりとした手を差し伸べてきた。


「こちらこそよろしくっ。五十鈴 春ですっ。あとこの子達はじゃが君とポテちゃんと言いますっ」

「こんにちは!じゃがと言います!」

「ポテだよっ!よろしくねっ!」


春は差し出されたリーヤの白く細い手を、樹精霊ドリアード達と共にきゅっと握りしめた。


「えへへっ」

「ふふっ」


年の近い二人の少女は、頬を赤らめて気恥ずかしそうにしながらも花のような笑顔を向け合ったのだった。






「――美味しかったです。ちょっとぴりっとしてるけど、でも甘くてとろっとしてて。」


飲み終わったカップを両手で持ち、ほぅっと溜息を一つ突いて夢心地で感想を述べるリーヤ。

その傍らでは、じゃが君とポテちゃんが柔らかいベッドの上でごろごろと転げまわって遊んでいる。


「それにしても良いなぁ。私も精霊使いになれたら、じゃが君とポテちゃんみたいなかわいい子を連れて歩きたいなぁ。」


――もっと体が強かったらだけど。

空のカップを渡しながら、ふと寂しそうな笑顔をするリーヤ。

春はそんなリーヤの気持ちを察したのか、楽しそうな話題を振り始める。

実はリーヤの母フィリアから、ずっと寝たきりの娘の話し相手になってくれと頼まれていたのだ。


「えっと、ライオネルさんとリエラさんってすごいよねっ。ライオネルさんは強そうだし、リエラさんはすっごい綺麗だしっ」

「え、あ、はいっ。それに二人ともすっごく優しいんですよっ。この間なんか私が本で見てた赤い繭の霊石コクーンをお父さんがわざわざ取りに行ってくれたみたいで、ペンダントにして持って来てくれたんですっ。ほらこれっ」


そう言ってミーフのぬいぐるみの首にかけてあった赤い繭の霊石コクーンのペンダントを春に見せた。


「すごい綺麗っ!・・・でもどこから取ってきたんだろう?」

「それがですね~、お父さんドラゴンから譲ってもらってきたんですってっ。」

「どっドラゴン?・・・」


さすがファンタジーだと感嘆を漏らす春。


ちなみに余談だが、『譲ってもらった』ではなく『奪ってきた』が正しいのだが、それをリーヤは知る由もない。


リーヤの話は姉リエラの話へと続いていく。


「お姉ちゃんはですね、一緒に居るとよく髪をいてくれるんですっ。リーヤの髪は綺麗ねって言ってくれて。でもお姉ちゃんのほうが何倍も綺麗なのに・・・」

「ううんっ。リーヤちゃんの髪もリエラさんの髪も同じぐらい綺麗だよ!」

「そうですか?」

「うんっ。いいなあ、わたしもそんな綺麗な髪が欲しいっ」


自信なさげに髪先をいじっていたリーヤに、春は力強く答える。

自分には似合わないと言ってバッサリ切っていた春にとって、実は長い髪が似合うというは憧れでもあるのだ。


「でもハルさんの髪型もかわいいですよねっ。」

「え?・・・そ、そうかな・・・えへへ」


思いがけずかけられた言葉に、春は右手を髪に当ててにんまり笑う。


「私も元気になったら春さんと同じ髪型にしよっかなっ」

「え!?もったいないよ!」


サンディは少女二人のやり取りを、自分の少女時代を思い出しながらにこやかに見つめていたのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――



「――らあぁぁぁ!」


ライオネルは目の前の屍へ向けて《番人の鋼ヴェヒターシュタール》をフルスイングで振り抜く。

容赦ないその一撃は、ライオネルなりの慈悲の一撃だ。

ライオネルが1回振り回す度に、十数体の屍が砕け散っていく。


「っくそ!まだ来やがるか!」


横をちらりと見れば、皮鎧をつけたオークが屍に掴まれた魔術師ウィザードを助けようと必死に剣を振り回している。

またその横では複数の屍に組み付かれたバグベアを、スキンヘッドの冒険者がゴブリンと共に屍を斬り払っていた。


「――こういうのも悪くないかもな。」


先程まで戦っていた者達が助け合う光景に、思わずにやりと笑う。


「さて、あとはこれをどう切り抜けるかだな。」


番人の鋼ヴェヒターシュタール》を構え直し、禍地となった鈴穂平原をギリッと睨む。


ムギの穂が地平線まで揺らめき、黄金に輝いていた鈴穂平原は見る影もなく、腐臭と瘴気を放つ『ネガに浸食された禍いの土地』――禍地まがちと成り果てていた。


黒い沼からは無数の呪詛の念体がその触手を伸ばし、平原に倒れている亡骸へと乗り移る。

その体を動かし、生きる者すべてに襲い掛かっていた。


――《動く死体ゾンビ


食人屍グールほどの早い動きは出来ないものの、その数と頭を潰しても動き続ける体は厄介な事この上ない。

生きる者を恨み、憎しみ、妬み、呪う、ただその思念だけで動く。



――カァ!



ライオネルの頭上で鴉の鳴き声がした。


鳴き声のした空を見上げたライオネルは苦しげに呻く。


魂呼鴉スピリットクロウ・・・」


災禍の呼び水となる魔物が、空一面にその漆黒の翼を羽ばたかせていた。




次は中編になります。

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