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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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30話「しょうが湯とエチゼンヤ」

――リムリオリングホール食堂


春はじゃが君の助言を聞き、言われた材料を使い薬湯を煮出す準備をしていた。

春の他にも料理人組合員数十人とサンディを始めとする主婦連の奥様方が数十人詰めていた。


それと言うのも、精霊魔法《聖樹の雫》で清めたホール以外で活動する人の為に何かないかとじゃが君に尋ねた所、


シャンゴしょうがを煮詰めた薬湯なら《瘴気毒ヴェノム》の再発を予防できます!」


との事だった。


ただシャンゴを摩り下ろして煮詰めるだけでは飲みづらいだろうと思った春は、じゃが君にもう一度聞いてみたのだ。


「ねぇ、じゃが君。シャンゴを煮詰めるだけで、味を変えたりしちゃダメ?」

「シャンゴの成分が入っていればどんなに味を変えても大丈夫です!」


との答え。


シャンゴの薬湯と聞いて春が思い浮かべたのは「しょうが湯」。

春がまだ小さい頃に、冬になると母がよく風邪の予防の為に作ってくれた思い出の味だ。


温めてとろんとした葛湯にしょうが汁とハチミツと黒砂糖を加えただけの物だったが、飲んだ後は体がぽかぽぱして夜はぐっすり眠れたものだ。


それを思い出した春は葛粉とハチミツと黒砂糖の代用品が無いか、サンディとライオネルの妻フィリアに話した。


「そうねぇ。とろみをつけるならジョガー芋粉かしら?あとは甘味をつけるなら妖花アルラウネ蜜と森蟻フォレストアント蜜かなあ?」

森蟻フォレストアント蜜だと加熱すると固まっちゃうから、シュガー湖の濃縮水でもいいかもしれないわよ?」


主婦二人に色々と意見を出してもらい味の組み立てはしたものの、ある問題が出て来ていた。


「材料・・・全然足りないですよね?」

「そうねぇ・・・非戦闘の住人と避難民だけで10万人ぐらい居るから・・・」

「いっそ、味を変えるのをやめて煮出し汁だけにする?」

「それでも全然足りないと思うわ・・・」


根本的な問題に頭を抱える一同に、一人の人物から声が掛けられた。


「皆さん大分お困りのようでんな~」


神樹界イグドラシエルに来てから初めて聞いた関西弁に、思わず春が声の人物に振り返った。


「どうもおおきに~。皆様の家計と食卓の味方、エチゼンヤでございます。」


にこやかに挨拶をするその人物を見た瞬間、春は驚愕の表情をした。

そして目を擦ってもう一度見る。


低身長の中年男性。

ピッシリと整えられた七三分け。

少し太目で長い真っ直ぐな眉。

口角が上がり厚めの唇。

そして目じりの下がった細い目に丸眼鏡。


そう、関西で最も有名で愛されている人物の一人。


――く・・・くい○○○太郎・・・・・


春は口をあんぐりと開けて、初めて会うのに見たことがあるその男をまじまじと見つめた。


「しょ・・・商業ギルド長?!なぜここに!」


思いがけない人物の登場だったのか、料理人の一人がわなわなと震えながら叫ぶ。


「おやぁ?ワテって結構嫌われもん?まあそれは置いといて、何やら商売の匂いがしたもんで来てみたんどす~。さあ、キリキリ吐いたってやぁ~」




「なるほど。その「しょうが湯」とやらの材料10万人分でんな。よろしゅうおす。ワテがなんとかしてみまひょ。」


京都と大阪の入り混じる怪しい関西弁を操って事情を聞きだしたエチゼンヤは、ぽんっと一つ手を打ち使用人を呼び寄せる。

取り出したペンと手帳にサラサラ~っとメモ書きをしたエチゼンヤは、それを使用人に渡し調達を命じる。


唐突に現れ主導権を一瞬で握ってしまったエチゼンヤに、春はただ唖然として事の成り行きを見守っていた。

そんな春にくるりと向き直ったエチゼンヤは、眼鏡ののフレームをくいっくいっと動かしながら春に声を掛けてきた。


「ははーん。あんさんがライオネルはんの言っとった旅人トラベラーのハルはんでっか?えらいかわいらしゅうおすなぁ~」

「は、はぁ・・・」


春と変わらない背丈の中年男に、にこやかに「かわいらしい」と言われ反応に困っているとフィリアがむんずとエチゼンヤの頭を掴んだ。


「ひぇ?!」

「あ、ん、た、はぁ~!今頃来て何偉そうにしてんのよ!うちの旦那も探してたのに!」


ギリギリと掴んだ頭に力を込めていくフィリア。


「あだだだだ!ずっずれる!七三がずれるぅ~!」

「さあ!とっとと吐きなさい!今まで何をしていたのか!あんたの事だから色々察知して動いてたんでしょ?!」

「あ、やっぱわかりますぅ?――いだだだだ!言う!言いますよって頭から手離してぇ!」


フィリアの問いに一瞬素に戻ったエチゼンヤだが、再び力を込められて手足をじたばたする。


やっと手を離してもらったエチゼンヤの頭には、くっきりとフィリアの手形が付いてしまっていた。


「まったく・・・酷い事しよりまんなぁ・・・。ライオネルはんと結婚してから凶暴さに磨きが『バキン、ゴキン』あ、すいません。もう言いません。」


余計な事を言い出し掛けたエチゼンヤに、フィリアが指を鳴らし威嚇をして止めさせた。


「それで、エチゼンヤさんは何を調べてらしたの?結構なご苦労をされてここに来たんでしょう?」

「あぁ・・・サンディはんは天使や。――それがねぇ、聞くも涙、語るも涙の大冒険だったんですわ。なので真っ先にライオネルはんに報告しないとなんですが、あの人今城門の外で戦ってはりまっしゃろ。どないしよ~おもてリングホールうろついてたら、何やら面白おもろそうな事してはる人らがここにぎょうさん居てはりますやろ?なのでちょっと出しゃばってみたっちゅーわけですわ。丁度ハルはんもここに居てはりましたし。」

「え?わたし?」


唐突に名前を出された春は、自分を指差して目を丸くした。


「そうそう。ライオネルはんに話を聞いてから一度会ってみたい思っとったんですわ。――実はワテの一族のご先祖様が旅人トラベラーですのんや。」

「あ、やっぱり・・・」

「なんや、分かってましたんや。」


うっと言葉を詰まらせる春。

さすがにその根拠が、関西の繁華街に置いてあったチンドン屋の格好の人形です、とは口が裂けても言えない。


「でまあ、それはさておき。一応報告しにライオネルはんの所へ行こうと思った矢先に、城壁の外が《禍地化まがちか》しよりましてん。えげつな思て悩んでたら、さっきの《しょうが湯》の話ですわ。」

「は?《禍地化まがちか》?!」

「あ、まだその話こっちまで届いてなかったんや。――そうです、《禍地化まがちか》。ですけど、心配あらしまへんえ。ライオネルはんもいてますし。何より《しょうが湯》!ありゃあどえらいもんでおますな!」


何やら不穏な事を言っていたエチゼンヤだが、しょうが湯の話で興奮しだした。


「《瘴気毒ヴェノム》再発の予防、それはつまり瘴気そのものの害を無効化できるっちゅー事ですねん!これを上手く量産して広めれば、《禍地化まがちか》された土地でも中毒を起こさずに活動できるっちゅう事ですわ!」


しょうが湯について身振り手振りで熱く語るエチゼンヤに若干引き気味の一同であったが、その説明に納得し頷く。


「ちゅう訳でですわ、今リムリオ中からシャンゴやら何やら掻き集めてますんで、みなさん気張りまひょ!」


そう言って、顔の横でぱんぱんっと2回手を打ち、自らも作業をすべくあれこれと動き始めたのだった。







――シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ・・・


「あかん、これ、しんどい。」

「うっさい黙れ!口閉じて作業なさい!」

「せやかてこの作業えらい地味ですやん・・・手首いわしてまいそうや・・・」


気合いを入れて作業手伝いを始めたエチゼンヤだったが、膨大な量のシャンゴの山を摩り下ろしていく作業にすでに心が折れ掛けていたのだった。




エチゼンヤはイケメンで行く予定だったのに、どうしてこうなった。


補足

リムリオリングホールは、東京ドームの敷地面積ほどの大きさ。

収容人数により空間が拡大する魔法がかけられています。

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