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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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26話「破れた結界と赤鬼の雄叫び」

靄に包まれた鈴穂平原は、異様な静けさに包まれていた。


塹壕で息を潜める冒険者や各ギルド員達と、避難民の中から志願した者達。


濃い靄の隙間から時折見える空は無数の結界の亀裂が入り、時折パラパラと結界片が落ちては光の粒になって消えていく。


その亀裂の隙間からは、白い気体が筋状に漏れて来ている。

隙間が広がった場所からはその白い気体に混ざって、何やら黒い触手の様な物がまるでこじ開けようとと蠢いているのが見えた。


「なあ・・・あの黒いのなんだ?」


避難民の一人が、その黒い触手を指差して隣に居たスキンヘッドの冒険者に聞いた。


「ああ・・・。あれは《呪詛の念体》だな。魔人間あいつらが使っている結界破りの太鼓ってのは、怨念や憎しみと言った負の思念――つまり《瘴気》を太鼓の音で呼び集めて結界を蝕み破る魔道具なんだそうだ。その瘴気が寄り集まって実体化したのがあれだ。」

「うへぇ・・・。なんかヤバそうな物なんだな。」

「まあ。普通は全く浄化のされていない《禍地まがち》にしか現れないんだけどな。中には呪詛の念体がさらに固まった《呪念集合体レギオン》なんてのも居るらしいが。」


スキンヘッドの冒険者は忌々しい物を見る様に顔をしかめ、手に持った拳大の黒い玉を握り直す。


「とにかく今の相手は魔人間デモ・ヒューマン共だ。俺たちが最初の迎撃を任されたんだ。《赤鬼ライオネル》に激怒されないようにしっかりやろうぜ!」


毎回ギルド長室へ報告に行く度に泣かされていた彼は、塹壕の中から敬愛するライオネルのごとく、魔人間デモ・ヒューマンが布陣しているであろう鈴穂平原の先をギリッと睨んだのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――



ギィ・・・ギギ・・・


結界が軋むような音を立てる。


「――そろそろだな。」


設置された櫓の上で、ライオネルは呟いた。


魔術師ウィザード妖術師ソーサラーは詠唱と儀式を開始しろ!付与術師エンチャンターも同様に補助魔法の付与と障壁設置を開始!施療術師ヒーラーは後方で待機!――くるぞ!」


ドオォォォン!


ライオネルが叫ぶと同時に、鈴穂平原に轟音が響き渡った。


ある者は耳を強く抑え、ある者はその音の大きさに尻餅を突く。


ビシッビシッと音を立てながら、結界の亀裂が広がっていく。


と、同時に隙間から漏れでていた白い靄が黒く変色していき、結界の壁面を覆うように広がっていった。


パリン、パリンと音を立てながら少しずつ黒い面が増えていく。



そして――



ガシャーン!



数百年人々を護っていた結界が、破砕音と共についに破れた。


砕けた結界は光の粒となり、それを見ていた人々の頭上へと降り注ぐ。


中にはその光景に涙する者さえ居た。


すると、砕けて光の粒になった結界片が黒い靄に当たり、じゅわっと音を立てて諸共に消えていく。


「――この都市リムリオを護ってきた結界の、最後の仕事だ。」


恐らく、結界を破られた時の為に組み込まれていた防衛システムなのだろう。


やがて、結界片の光は黒い靄と共に跡形もなく消えて行った。




ドン、ドン、ドドン、ドコドン、ドドン


結界がすべて消えると、今度は魔人間デモ・ヒューマン達の戦意を高揚させるための太鼓の音が響き始めた。

結界片と共に消えた瘴気の靄も、太鼓の音に合わせるかのように再び白く立ち込め始める。

リムリオ南方の村や集落を襲い、潰し、集合していった魔人間デモ・ヒューマンの軍勢、およそ十万。


ついに城塞都市リムリオへと進軍を開始した。



「皆聞けぇ!」


櫓の上から怒鳴るライオネルに、待機していた人々は注目する。


「俺達をこれまで護ってきた結界は消えた!それに不安を覚える者も居るだろう!魔人間デモ・ヒューマン共に追われてここまで逃げて来た者も居るだろう!だが、今ここに居る以上は戦え!自らが護りたい者の為に戦え!生きる為に戦え!結界が壊れた?!それがどうした!そんなもんが無くても俺達は負けないって事を、腐れ〇〇〇ピーー共に思い知らせてやれ!」


唾を飛ばしながら檄を飛ばすライオネル。


その言葉で目の奥に闘志を燃やし始める人々。


誰かが、どんっと持っていた槍の石突きで地面を叩いた。

それに合わせて皆それぞれ地面を叩き、蹴り、戦意を煽る様に音が広がっていく。


ライオネルの演説パフォーマンスは、結界が破れた事への不安を払拭し、皆の闘志を焦げるほど熱く燃やしたのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――



「――サーチに反応!ゴブリンの尖兵、来ます!」


ライオネルの演説を、目を潤ませながら聞いていたスキンヘッドの冒険者へ、サーチをしていたスカウトの男から報告が来る。


「距離は?!」

「およそ300メルテ!い、いや280!250!速い!」

「ゴブリンライダーか!よし、100メルテを切ったら合図をしてくれ!」

「分かった!カウントを始める!180!・・・160!・・・140!」


眉間に指を当てたスカウトの男のカウントを聞きながら、黒い玉を握り直す。


「――130・・・120・・・110・・・100!今だ!」

「《焼夷炸裂弾ナパームボム》投擲!」


塹壕の中から手に持った黒い玉をサーチされた方角へ一斉に投げた。


一呼吸置いて、「ズドーン!!」という爆音と共に幾つもの火柱が鈴穂平原に上がった。


「どんどん投げ込めえ!!」


手元にあった箱から黒い玉を取り出し、次々に投げる。

すると火柱が上がった方向から何やら黒い物が飛んできて、スキンヘッドの男の前にぐしゃりと落ちた。


それは黒焦げで煙を上げている白目を剥いたゴブリンの死体だった。


男達が投げた《焼夷炸裂弾ナパームボム》が炸裂し火柱が上がる度に、ゴブリンや恐狼ダイアーウルフが断末魔を上げて土埃と共に吹き飛んでいく。


やがてムギに引火した火が燃え広がり、鈴穂平原は火の海と化していった。


「頃合いだ!第一攻撃隊は退避!急げ!」


残った《焼夷炸裂弾ナパームボム》に何やら紙を張り付けると、男達は一目散に逃げ出した。


それを見た生き残りのゴブリンと恐狼ダイアーウルフは、それを追いかけるべく散らばった仲間の死骸を踏みながら走り出した。


走っていたスカウトの男は、懐からパネル状の魔道具を取り出し操作する。


ある程度の距離まで走ったスカウトの男は足を止めて振り向き、ゴブリン達が塹壕を越えようとする瞬間を狙い、パネルのボタンを押した。


ズガァァァン!


指向性魔方陣スクロール《ヘルファイア》による火炎嵐ファイアーストームと、残った《焼夷炸裂弾ナパームボム》の連鎖爆発により、ゴブリン達は次々に焼け死んでいく。


「よっしゃ!」


それを見届けたスカウトの男は、軽く腕を叩きガッツポーズをして再び走って行ったのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――



スキンヘッドの男からの報告をテレホンで受け取ったライオネルは、次の指示を出す。


魔術師ウィザード妖術師ソーサラー!出番だ!」


火の海と化している鈴穂平原をびしっと指差して、ライオネルが叫ぶ。


「――レラ ニス ワァーン ウィール!」

「――アクエ ニス グラン テール!」


前もって詠唱をして魔力マナを練り合図と共に最後の小節を詠みあげ、魔術師ウィザードは風の魔法を、妖術師ソーサラーは水と土の魔法を放つ。


やがて轟々と吹き始めた暴風により、燃え広がっていた炎はさらに勢いを増して魔人間デモ・ヒューマンの軍勢へと襲い掛かる。


同時に、燃える物が無くなり鎮火した場所へ水が浸透していき沼地のようになっていく。


見れば燃え残ったゴブリンや恐狼ダイアーウルフの死骸がずぶずぶと沼になった地面へと沈んでいっていた。


「よし!付与術師エンチャンター浮揚フロートを前衛全員にかけろ!」


ライオネルの指示で、付与術師エンチャンター達は前衛として戦う者達へ《浮揚フロート》の魔法をかけていく。

かけられた者は淡い光と共に、地面から少し浮いた状態になっている。


櫓から飛び降りたライオネルへも《浮揚フロート》がかけられ、全員が武器を構えて前方の魔人間デモ・ヒューマンの軍勢を見据える。


ライオネルは巨大な戦斧を片手で軽々と空へかざすと、ビリビリと響く声で叫んだ。


「さあいくぞおぉぉぉぉ!魔人間デモ・ヒューマン共に目に物見せてやれえぇぇぇ!!!」

「「「「うおぉぉぉぉ!!!!」」」」




赤鬼の雄叫びと共に、リムリオ防衛戦が幕を開けた。






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