23話「微妙な話と精霊契約」
春が『魔法指導室』と書かれた部屋へ入ると、冊子類が置かれたカウンターと何やら調べ物をしている職員が2人居た。
――なんか市役所みたいだなぁ
と思いながら進むと、リエラがペンと『魔方陣使用者名簿』と書かれたノートを差し出してきた。
「これに名前書いてね。」
「えーっと・・・わたしここの文字って読めるのに書けないんですよね・・・」
「そうなの?」
困り顔で頬をポリポリ掻きつつ、春はノートとペンを受け取る。
「元いた世界の文字でも構わないわよ。」
「いいんですか?」
「大丈夫。ハルちゃんだって判ればいいから。」
意外と大雑把なんだな、と思いながら自分の名前を記入する春。
「書けないのに読めたりしゃべれたりするのは、《旅人》共通の加護なのよねぇ。」
「そういえば《旅人》って時々聞く言葉ですけど、わたしの他にも別の世界から来た人って今居るんですか?」
「王都リディアに一人と、エフェルハイムに一人居るわね。ハルちゃんも含めて現在は3人。過去にも数十人来てて、いろいろ功績を残していったみたいね。」
「へぇ~!」
同じような境遇の人が他にも居ることを知り、嬉しさでぱぁっと笑顔になる春。
春からノートを受け取ったリエラは、記入欄を確認して「あら?」と声を出す。
「どうかしましたか?」
「ハルちゃんが使ってる文字は、ケンタロウが使ってる文字と同じね。」
「ケンタロウさん?」
名前からして春と同じ日本から来た人物だ。
聞き返すとリエラがその人物について答えてくれた。
「ハルちゃんは《世界の農家から》ってお店知ってる?」
「はい、レジィ君がバイトをしてるとこですよね?」
「そ。あの店を作ったのがケンタロウ・イサキっていう人なの。今は経営を離れて、王都リディアで《イサキ出版社》って印刷業を立ち上げてる変人ね。」
「・・・変人?」
最後に聞き捨てならない単語が出て来て、春は再び聞き返してしまう。
色々会社とかを作っている有能そうな人なのに、変人とはこれいかに。
「食品輸送ルートの確立とか新聞の普及とか、やってることはすごく有難い事ばっかりなんだけど、同時に『二次元嫁』とか『腐女子』とか『百合』とか変なことまで出版で広めちゃってね・・・」
そう言いつつリエラはロレインをジト目で見ると、さっと目を逸らされた。
「あー・・・オタク系の人なんだ。」
「ハルちゃんのとこではそう言うのね。元々このリムリオで保護された《旅人》で父が面倒見てたんだけど。私が子供の頃に、会った瞬間『オニッコヨウジョモエー!』とか言って追いかけて来たのを父が殴って、それ以来リムリオには寄り付かなくなったわね・・・。《世界の農家から》の経営者が変わったのもそのせい。」
「うわぁ・・・」
何というか、色々残念すぎる情報を聞かされて心底微妙な顔をする春。
自分の趣味も含めた元の世界のあれこれを普及させようとしている辺り、なかなか業の深い人物であるようだ。
「とりあえず本契約だけしちゃいましょうか。他にも聞きたい事があったらその都度教えるわ。」
「はいっ。」
カウンター横にはいくつかの扉があり、『契約室』と書かれた部屋へ入ると白い床に魔方陣が描かれたいかにもな雰囲気。
少し緊張しつつリエラに促され、樹精霊達と共に魔方陣の中へ入る。
「それじゃ杖の頭を魔方陣の中心に当てて、これから私が言う《魔句》を復唱して。」
「はい、よろしくお願いしますっ。」
杖を構えてリエラの言葉を待つ。
「《精霊よ、我が言葉に耳を傾けよ。我は汝の主にして従える者也。》」
「せっ《精霊よ、我が言葉に耳を傾けよ。我は汝の主にして従える者也。》」
そこまで言うと、魔方陣が淡く光り出す。
するとリエラの言葉を待つ前に、春の内から契約の魔句がするすると湧いてきた。
すっと目を瞑った春は、その流れに委ねて魔句を口にする。
「《我は汝等の王也。汝等は我の護り手也。我が内の種に誓い、その命に背く事無かれ。》」
「え・・・?」
「ハルちゃん?・・・」
驚き呆気に取られるリエラとロレイン。
通常の精霊契約の魔句とは違う文章が、次々と春の口から紡がれていく。
と同時に、春と樹精霊の乗っている魔方陣の光も強まっていく。
「《光の神アファよ、幸い成れ。我が内の種を護る者に祝福を。闇の神レナァよ、祓い給え。我が内の種を穢す者に断罪を。》」
唄う様に魔句を唱える春の足元で、樹精霊達も光に包まれていく。
「《盾を持つ者の名は『じゃが』。護る者也。剣を持つ者の名は『ポテ』。祓う者也。》」
春が付けてしまった名前がそのまま詠唱に組み込まれ、リエラとロレインは心底残念な顔をする。
「《エト ニス アン シグ。オルク アン フェリア?》(精霊よ我は問う。汝は我に従うか?)」
「「《セラ スィーン エル ニス! アン フェリアス!》(種の王よ!私は従います!)」」
光に包まれた樹精霊達が、鈴の音のような可愛らしい声で復唱する。
「《ソル オルク フィール トーラ メルフィ!》(なれば、汝等との契約は成されり!)」
一際大きい声で詠唱を終えると《精霊の贈り物》を振り上げ、もう一度魔方陣をカンっと叩いた。
ぱっと光が飛び散るとそこには、金髪の小人のような男の子と女の子が春に向かって跪いていた。
男の子のほうはおかっぱで、芋のような帽子を被り深緑の葉を模したポンチョを着て、背中にはその体にしては大きめの木の盾を背負っている。
女の子のほうはツインテールで、ミントグリーンのエプロンドレスに髪にはプリムと芋の花の髪飾りを飾り、腰には細長い樹の枝がぶら下がっている。
ふうっと一息突いて目を開けた春に、本契約で姿を変えた樹精霊が主へと顔を上げる。
樹精霊達のあまりに可愛らしい変貌ぶりに、春は目を瞬いた。
「えっと・・・じゃが君とポテちゃん?」
「はい!マスター!」
「ご主人様!」
そう言って春へとジャンプして抱き付いてきた。
「ふぁぁ!かっ可愛いっ!」
「やっとマスターとおしゃべりできます!」
「ご主人様ぁ!ポテともいっぱいおしゃべりしてね!」
その様子に唖然とするリエラとロレインを尻目に、樹精霊達とはしゃぐ春。
こうして春は、《精霊使い》として冒険者の第一歩を踏み出したのだった。
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「ほぉ、ハルは精霊使いになったのか。」
早朝からの戦闘に向けて冒険者達が待機するギルドホールへ、レインが食事を持ってやってきた。
少しでも腹持ちがする物をと、ライオネルが頼んでいたらしい。
準備作業の片手間でも食べれるようにと、ジョガー芋のサラダやミーフの練り物等をパンで挟んだ物だ。
それらを樹精霊達と一緒に頬張りながら、うんうんと頷く春。
「でもまだ良く解ってないし戦闘もできないので、後方でアンドルフ先生達と一緒に看護に回ることになりました~」
「なるほどな。まあ、精霊使いつってもいろいろタイプがあるからな。ハルは性格的にもそのほうがいいだろ。」
腕を組んで「ふむ」と思案したレインに、春の横で同じくサンドイッチもどきを食べていたロレインが声をかける。
「でもびっくりしたわよ。魔句なんて知らないって言ってたのに、急に流暢に詠唱しだすんだもの。」
「あはは・・・。なんか言葉が次々湧いてくる感じで、止まらなくなっちゃったんですよねぇ~」
「あー、旅人にはたまにそう言うのがあるってケンタロウが言っていたな。」
再びその名を聞いた春は、幼いリエラを追い回した一件を思い出して微妙な顔になる。
「レインさんもその人を知っているんですか?」
「んー?ああ。俺がまだ冒険者をしていた頃にちょっとな。変わった奴だったよ。」
「あー!そうそう!レインさんに精霊使いのレクチャーしてもらったら?」
「へ?」
唐突にロレインが言い出した言葉に、春は首を傾げた。
「レインさんは元Sランクの水の精霊使いなのよ。」
「えー!」
思わぬ所に精霊使いの先輩が居た事に、驚きを隠せない春であった。




