22話「セーラー服と杖と樹精霊」
――夜
避難民の城塞内への受け入れもほぼ終わったものの、にわかに慌ただしくなっていた。
明日の朝にも生活圏結界が破れ、魔人間達の本格的な侵攻が始まると布令が出たのだ。
現在リムリオ側の戦力は、
冒険者ギルド 1200人
衛士ギルド 1500人
農業ギルド 1000人
土木ギルド 2000人
商業ギルド 500人
その他ギルド 700人
さらに避難民からの有志 2500人
合わせて9400人
連絡のついた第9城塞都市エムリードとテンダラ村、フィーリ港からの増援もおそらく間に合わず、一万に満たない戦力で10万からの魔人間の大軍を迎え撃たなければならなくなった。
ただこんな状況の中でも救いがあるのは、一部逃げ出した商人が居たものの住人や避難民がパニックを起こしておらず、むしろ大多数の者が進んで迎え撃つ準備に回っていた。
これは冒険者ギルド長ライオネル・リオールの存在が大きい。
元Sランク冒険者というだけでなく、ライオネルが持つ《赤鬼》の二つ名の他にもう一つある称号が人々の心の均衡を支えていた。
《守護者》
その称号を持つ者は世界に当代10人しか居ない。
災禍戦争の後に各地で頻発した魔獣災害で、その鎮圧にもっとも力を尽くした《剣聖アイオール》を初めとし、その時代ごとに数人ずつエフェルハイム王より選ばれる、云わば世界最高戦力の証でもあった。
さらに言うと、《守護者》の称号の他に二つ名を持つ者も現在4名しかおらず、ライオネルも《ダブルホルダー》と呼ばれ信頼と尊敬を受ける存在であった。
ただし本人の性格がアレなせいで、猛獣や珍獣のように見られてるという残念な面もあったのだが・・・
それはともかく。
早朝の開戦に向けて慌ただしい中、レジィと別れた春はロレインの言伝を聞き、初めて冒険者ギルドホールへと小走りに走っていた。
痩せたせいもあるが、ここ数日の炊き出し等の手伝いで多少体力も上がり、その足取りは前に比べると軽い。
ギルドホールに到着すると、恐る恐る扉を開けて中の様子を伺う。
やはりどの人も皆忙しく動き回っていた。
「あ、おーい!ハルちゃん!こっちこっち!」
扉の隙間からキョロキョロしていた春を見つけたロレインは、大きく手を振って手招きする。
行き交う職員たちの間を潜り抜け、春はトトッと小走りに向かう。
その足元にはジョガー芋が2体、ぽてぽてと春の後をついて歩いてきた。
「こんばんわ。あなたがハルちゃんね?」
「はっはいっ!初めましてっ!」
「ふふっ。そんなに緊張しなくてもいいのよ?初めまして。私はリエラ・リオール。冒険者ギルドの受付とギルド長秘書をしています。宜しくね。」
ロレインと一緒にいたリエラに声をかけられ、その美貌と巨乳に目を眩ませながら挨拶をする春。
――すんごい美人さんだぁ・・・――ん?リオール?
はたと思い当たった春は、リエラに聞いてみる。
「あの・・・リオールってもしかして・・・」
「ああ、ライオネル・リオールは父ですのよ。」
「えぇ~!――あ、でもライオネルさんの奥さんも美人さんだったから当然なのかな?」
「そうねぇ。父に似なくて良かったってよく言われるわ。」
娘であるリエラにも、父に思う所はあったらしい。
ちなみにその横では、ロレインがうっとりとリエラを眺めていたりもする。
「ところでロレインさん、渡す物ってなんですか?」
「――はっ、ああそうそう。はいこれっ。ハルちゃんの装備一式。」
そう言ってロレインは横に置いてあった箱から服を取り出して春に渡す。
それは春が着ていたセーラー服だった。
「あの・・・これって。」
「サンディさんから預かっていたの。生地もすごく良いから、これに付与魔法をかけてあげたらどうかって」
「付与魔法、ですか?」
いまいちピンとこない春は、首を傾げた。
足元ではジョガー芋達も一緒に首を傾げている。
「そっ。私の得意分野の一つなの。永久付与、って訳にはいかないけど、1か月ぐらいは効果が持つと思うわよ。ちなみにその服には、《防御強化》と《魔力防御強化》をかけておいたわ。なんか生地の相性がすごく良かったのと、ハルちゃんの魔力が移ってたみたいで、フルプレートメイル並の防御力になっちゃってるけどっ」
「ふっふるぷれっ!?」
てへぺろっと舌を出して何やら大仰な単語を言ったロレインに、春は微妙にビビる。
そんな春の様子を尻目に、ロレインは横に立てかけてあった杖も手に取って渡す。
「あとこれ、ギルド倉庫で埃を被ってたやつだけどリエラさんからね。」
「この杖は?」
「それはね、《精霊の贈り物》っていう精霊との相互干渉をスムーズに出来る杖よ」
「なんか凄そうな・・・て言うか、わたし魔法とか精霊とかわからないんですが・・・」
ちょっと困った顔をする春に、リエラは足元のジョガー芋を指差す。
「じゃが君とポテちゃんがどうかしましたか?」
「知らずに名前まで付けてたのね・・・」
頭の上にクエスチョンを付けてきょとんとする春に、リエラがため息交じりに告げる。
「この子達、ジョガー芋じゃなくて《樹精霊》よ?」
「・・・えっ?」
単純に自分に懐いたジョガー芋がついてきてると思っていた春は、思わずリエラに聞き返してしまう。
「でもでもっ、この子たちジョガー芋の子達でなんか懐いてきてて・・・」
「うん、まず自分の冒険者カードを確認してみようね?所持技能のところ。」
言われて懐から冒険者カードを取り出した春は、震える指でタップして情報を呼び出す。
さーっと画面を流していくと、『所持技能』という欄に何やら書いてある。
――アクティブになっている技能――
〇算術 レベル5
〇調理 レベル3
〇精霊術 レベル10 (契約精霊:樹精霊)
そこまで見た春は一度目をこすり、もう一度見直して目を丸くした。
「・・・契約って、した覚えないんですが・・・」
「その子達に名前つけたでしょ?それが契約。」
「え゛っ!」
実は、ちょこちょこついてくるジョガー芋が可愛くて、なんとなく名前を付けてしまったのだ。
困惑する春に、ロレインは《精霊の贈り物》を手渡しながら補足を入れる。
「見た所、正規の手順を踏んでないからまだ仮契約の状態みたいだけど、どうする?」
「どうする、と言うと?」
「契約破棄してその子達と違う精霊と契約する?その場合だと、また一から探し直しになるけど。」
その言葉を聞いてふと足元を見ると、2体のジョガー芋、もとい樹精霊は春の靴に手を当ててふるふると首を振っている。
――離れるの嫌!
と言っているように思えた。
「いえ、この子達が良いです。」
「そう、ならちゃんとした契約儀式をしましょうか。魔力経路もしっかり繋がるから、その子達の姿も変わると思うわよ。」
「姿が変わっちゃうんですか?」
リエラの言葉に不安そうな顔をする春の頭を、ロレインがぽんぽんと安心させるように頭を軽く叩いた。
「大丈夫大丈夫。むしろ今までと違って意志疎通も出来るようになると思うわよ。と言うか、仮契約の状態で実体化まで出来てる精霊だから、かなり強い力を持ってそうだけど。」
と、その言葉で余計に不安になる春であった。
「それじゃ、奥に契約儀式用の部屋があるからそこでしましょうか。」
そうリエラに促され、春は奥の部屋へと向かって行ったのであった。




