20話「レジィとロレイン」
「爺ちゃん!大丈夫か!?」
避難民の集まるジョガー芋畑へ息を切らせて走ってきたレジィは、教会の扉を開けると開口一番で祖父を呼んだ。
「あれ?レジィ君。どうしたの?」
「はっハル?!なんでここに?」
「炊き出しとか看護のお手伝いに来てたんだ~」
「そっそうなのか・・・」
まさかの春との遭遇に、顔を赤くしてドモるレジィ。
「おぉ、レジィじゃないか。元気にしとったか?」
避難民の長老が、白い髭を撫でながら声を掛けて来た。
「爺ちゃん!怪我してないか?!」
「ふぉふぉ、この通りピンピンしとるわい。」
長老の様子を見たレジィは、がっくりと膝をついて溜息を吐いた。
「はぁ~、よかったよ。転移してきたって集落が、まさか爺ちゃんのとこだと思わなかったから、話聞いてからびっくりして走ってきたんだよ・・・」
「レジィ君って、長老さんのお孫さん?」
そのやりとりを見ていた春は、安心して脱力しているレジィに問いかけてみる。
春に声を掛けられたレジィは、若干頬を赤らめつつ答える。
「あ、うん。俺の父さんがこの集落の出身なんだ。結構辺鄙な所にある集落でさ、冒険者だった父さんにたまに連れて行ってもらってたんだ。」
「へぇ~。レジィ君のお父さんって冒険者だったんだ。」
ほぇ~、と口を開いて感心している春に、レジィは話を続ける。
「ま、まあ冒険者つっても、そんなに高いランクじゃなかったんだけどな。」
「じゃなかった?」
「ああ、言ってなかったっけ?俺の両親は、流行り病で二人とももう死んじゃってるんだ。」
「あ・・・ごめんなさい。」
聞いてはいけない事を聞いてしまった気がして、春は少ししょんぼりする。
「いいんだ。それにいつか俺も、父さんと同じように冒険者になる予定だしね。」
「あ、そういえば言ってたね。結構有名な冒険者さんの徒弟になってるって。」
《徒弟》とは、冒険者ギルドによる新人教育の一つである。
BランクとAランクの冒険者で10年以上の実績がある者に、冒険者になりたて、もしくは冒険者になろうとしている若者を弟子に取らせて、独り立ちが出来るまで面倒を見させている。
そういった冒険者の師匠を持つ弟子の事を、徒弟と呼んでいるのだ。
そんな二人の会話を聞いていた長老は、髭をひと撫でするとニヤリと笑った。
「ふぉふぉ、レジィも年頃になったという事かのぉ。まあ、ハルちゃんは可愛いからのぉ、判らんでもないが。頑張らんと、振り向いてもらえんぞ?」
「な!ななな何言ってるんだよ爺ちゃん!」
顔を真っ赤にしたレジィが、慌てた様子で盛大にドモる。
長老の言葉にきょとんとしていた春だが、少し頬を赤らめて手を振り、
「やだなぁ、お爺ちゃんっ。レジィ君は年下だし、弟みたいな友達って言うか――」
「ハルちゃ~ん!ちょっとこっちきて~!」
「あ、はーい!サンディさんが呼んでるのでわたし行きますねっ」
そう言ってぺこりと長老に頭を下げると、サンディの元へ駆けて行った。
「お、おとうと・・・」
気が抜けた様にうわ言をブツブツと繰り返すレジィの肩に、長老はぽんっと手を置いて慰めたのだった。
「ロレイン、この子がハルちゃんよぉ。ねっ?可愛い子でしょう?」
「ほんとだね~!私はロレイン・ブルームフィールドって言うの。よろしくねっ」
「はっはい、こちらこそよろしくお願いします。」
春はお辞儀をして挨拶をすると、それを見たロレインが抱き付いてきた。
「ひゃあぁぁ!」
「やーん!ほんとに可愛い!お持ち帰りしたーい!」
「やめときなさいっ」
すりすりと春に頬ずりをしてくるロレインを引き剥し、サンディは二人を椅子に座らせた。
「うー、もっとハルちゃんにお触りしたーい!癒されたーい!」
そう言ってじたばたするロレインに、えいっと軽くチョップをして落ち着かせるサンディ。
「だ、大丈夫なんですか?この人・・・」
「まあ趣味とかはアレだけど、一応引き合わせておいたほうが良いってうちの旦那がねぇ・・・」
「と、言うと?」
ふぅっと、悩まし気に溜息をつくサンディに、春が問いかける。
初対面でぐりぐり抱き付いてきたロレインに、ドン引きして警戒しているというのが、春の正直な気持ちだ。
「えっとね、ロレインはシェルの徒弟だったのよ。」
「ええ!そうなんですか?」
シェルとロレインが師弟関係だったと言われても、あまりの印象の違いにピンと来ない春。
絵面的には美男美女でピッタリな気もするが、ロレインの残念っぷりはクールなシェルと結びつかない。
――と言うか、なんとなく美香子に似てる気がするなぁ・・・
と、離れ離れになった残念美少女の親友を思い浮かべて、なんとなく微妙な気持ちになった。
「まあ今は街がこんなだしシェルも帰ってこないけど、ある程度落ち着いたらハルちゃん旅に出るのよね?」
「あ、はい。アンドルフ先生が王都の図書館に行けって言ってましたので、とりあえず行ってみようかと。」
ふむふむと頷いたロレインは、懐から一枚のカードを取り出して春に差し出した。
「これは?」
「ギルド長から預かってきたの。ハルちゃんの冒険者カード。」
「・・・へ?」
「だから、ハルちゃんの冒険者カード。」
ボウケンシャカード?イッタイソレハナニ?
上手く話が呑み込めず、目を点にして口をぱくぱくさせる春に、ロレインが説明をする。
「この間、ギルド長が面接に来たんでしょう?なんかシェルが話を通してて、ハルちゃんに冒険者カードを発行しても良いか様子を見に来たみたいね。」
「えー!冒険者って魔獣とかと戦ったりするんですよね?わたしそういうの出来ないんですけど!それにあの時って、大食い勝負とかわたしの身の上話ぐらいしか・・・」
「・・・その大食い勝負は良く解らないけど、ギルド長が良いって言うなら大丈夫なんじゃない?」
思っても見なかった話に、愕然とする春。
そんな春の頭をぽんぽんと撫でて慰めたサンディは、ロレインに目配せをして話を続けさせ、部屋の外へ出て行った。
「それとね、今シェルが居ないから、仮で私にハルちゃんが徒弟として付いて貰う事になったの。」
「わたしがロレインさんの徒弟に?」
「そっ。シェルが戻るまでの間だけど、いつ戻るかも分からないからねー」
はー、と溜息を突いた春は、受け取った冒険者カードをまじまじと見る。
銀色に鈍く光る名刺ほどの大きさの金属製の板には、《ハル・イスズ》とこちらの文字で彫られている。
軽く触れると、淡い光を放って様々な文字が浮き出てきた。
「わっ。なんかスマホみたい。」
どういう原理なのか、文字の浮き出た部分を指でタップして流すと文字がスクロールしていき、春に関する情報が流れていく。
不思議なことに、こちらの文字が解らない春もその情報を理解出来ていた。
「へぇ、ハルちゃん冒険者カード触るの初めてなのに、なんか慣れた手つきだねー」
「なんか、向こうの世界で持っていた機械と似てるので。」
「ふ~ん。・・・あれ?ハルちゃんほんとに冒険者はしたことがない?」
春の冒険者カードを覗き込んでいたロレインが、その情報を見つけて問いかける。
「え?なんでですか?」
「ほらここ。これって普通は、結構実績がある人じゃないと持ってないはずなんだけど・・・」
ロレインが指さした部分には『二つ名』とあり、春の冒険者カードには、
《神種の運び手》
と書かれていた。




