19話「芋のスープと鍵」
明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
次の日、春は教会が転移してきたジョガー芋運動場で、避難住民への炊き出しの手伝いをしていた。
「はいっお爺さん。これ食べて元気だしてねっ」
「おぉ・・・ジョガー芋のスープかい。これはありがたいのぉ」
今もなお、南街道方面からの避難者が続々と集まってきており、リムリオ周辺の空き地は難民キャンプのようになっていた。
怪我人も大勢居るとの事で、アンドルフ先生もサンディを助手に忙しそうに診て回っていた。
「一体、どのぐらいの人が避難して来てるのかしらねぇ・・・」
「どうやら街道沿いだけじゃなく、鈴穂平原全域から集まって来ておるようじゃの。」
聞けば、平原で遊牧を生業としていたカシャ族も、泣く泣く家畜達を置いて避難して来ていると言う。
「あの勇猛なカシャ族が、家畜を置いて逃げて来ているぐらいじゃ。ロレイン達が見たゴブリン共も、まだ一部だけだったかもしれないのぉ」
アンドルフ先生は、眉間にしわを寄せてしかめ面をする。
「とにかく、薬師ギルドからも人員が回されて来ては居るが、まだまだ足りない感じじゃの。まったく、ミーフの頭も頭数、とはこの事じゃの・・・」
「それってどういう意味なんですか?」
朝から何も食べていないアンドルフ先生に、スープを持って来ていた春が首を傾げて問いかける。
「何も出来ないミーフでも頭数に入れたいほど忙しい、という意味じゃよ。」
「ああ、猫の手も借りたい、みたいな感じですねっ」
「あら、それも良い例えねぇ」
話が脱線してきたところで、春から受け取ったスープを一掬い、口に入れたアンドルフ先生は、
「ん!美味い。やはりレインの作る料理は美味いのぉ~」
と、ほっこり顔でさらに盛大に話を脱線させた。
「ですよねっ。このジョガー芋のスープも凄く美味しかったですっ!ジョガー芋の実物には、多少面食らいましたけど・・・。まさか動いている上に、放牧させて育てているなんて・・・」
そう言った春の足元で、小さなジョガー芋が見上げている。
「あらぁ~、このぐらいで驚いてちゃいけないわよぉ。もっと凄い野菜もあるんだから。爆発したりとかねぇ」
「ば・・・ばくはつ?」
言っている意味が解らない、というような顔をしている春に、後ろから声がかかる。
「おーい!ハルちゃん!」
「――あっ!すいません!じゃあ、わたしお手伝いに戻りますねっ」
「いってらっしゃ~い」
ふりふりと手を振って、春を見送るサンディ。
――まさか普段使っていた野菜の中にも、その爆発するものがあったなんて思ってないんだろうなぁ。
そんな事をぼんやりと思いつつ、食事をするアンドルフ先生の手元に、お茶を淹れて置いたのだった。
――――――――――――――――――――――――――
一方、冒険者ギルドホールでも、慌ただしく職員や関係者が動き回っていた。
ある者は、大量の書類の束を部屋から部屋へ持って歩き。
またある者は、戦闘用の備品のチェックに余念がない。
そんな中で、ある問題が念話石通信室にて持ち上がっていた。
「――南と東の通信網が切られている?・・・」
「はい、何度も通信を試みたのですが、全く反応がなく・・・。ここから北にある《第9城塞都市エムリード》と、西方面のテンダラ村やフィーリ港とは連絡がついたのですが・・・」
「馬鹿な。念話石の通信網は、本体が壊れない限り永続的に魔力線で繋がっているんだぞ?それが切られるなど・・・」
そう言って、通信室長はハッとした顔で顔を上げる。
「まて、南と言ったな?まさか王都とも繋がらないのか?」
「・・・そのまさかです」
その答えに呆気に取られる通信室長。
気を取り直して、眉間に指を当てたまま答えを探す。
「――まて・・・まてまてまて、と言う事は、だ。このリムリオと王都の通信を中継している、《第6城塞都市ゴラン》と、東のミーア大森林にある《第7城塞都市ミリアム》の念話石が、壊されている?・・・」
「その可能性が高いと思われます・・・。しかも2箇所とも、ほぼ同時に――つい30分ほど前ですが、繋がらなくなったのです・・・」
絞り出すように答えた通信士と、顔を見合わせながらわなわなと震えはじめる通信室長。
もし、その2か所の念話石が壊されているとすると、王都リディアとリムリオの間では、全く通信が出来ない状態になった事を意味する。
「~~~!!俺はすぐにギルド長に報告する!お前はそのまま通信を試みてくれ!頼むぞ!」
「わかりました!」
そう言って通信室長は、ライオネルの元へと走って行ったのだった。
――――――――――――――――――――――――――――
円形に区分けされているリムリオの中央には、一際目立つ大きな建物がある。
円筒形の外壁に、ドーム状の屋根が付いている白い建造物。
リムリオリングホール。
リムリオにあるギルドを総括し、代表者による会議や情報の集積など、リムリオの行政の中心部として建てられた場所である。
また、図書館や相談室など、一般人向けの施設も入っている。
そして現在、そのリングホールの会議室では各ギルド長が集まり、『魔物侵攻』への対策を立てている最中であった。
「――どうやらゴブリンだけではないようだな?」
「避難の護衛に向かった衛士たちの報告によると、オークとバグベアも確認したらしい。」
「避難してきた農民からは、巨大なオーガの姿も見たと・・・」
「飛竜も、かなりの数が魔人間共と合わせて動いているらしいし、一体何が起きているんだ・・・」
腕組みをしながら考え込むライオネルと、衛士、農業、商業のギルド長達。
「先ほど報告があったんだが、東のミリアムと南のゴランとも念話石が通じなくなっているらしい。」
「なんだそれは・・・」
ライオネルは、通信室長からあった報告を、各ギルド長に伝える。
「つまり、他の城塞都市からの援護は、北のエムリードを除いて期待できないと、そういう事か?」
「そういう事だな。」
ふすーっと鼻から息を吹き出しながら、ライオネルは答える。
「まだ、神事ギルドのが来ていないが、一つ提案がある。」
「なんだ?」
「鍵、持って来ているか?」
ライオネルは、懐から装飾のついた銀色の鍵を一つ取り出し、机に置いた。
「――それは!」
「いよいよこれを使う時が来たんじゃないか、と思ってな!」
ライオネルの顔をまじまじと見るギルド長達。
すると、衛士ギルド長も懐を探り、同じ鍵を取り出した。
「やはり、お前ならそう言うと思ってな。俺も一応持って来ていた。」
「さすがエバンス!話が分かる奴だ!」
そう言って、にやっと笑うライオネル。
農業と商業のギルド長も、ふーっと溜息をついた後、席を立つ。
「しょうがないですな。『あれ』を使うと農場が荒れるので、出来れば使いたくなかったが・・・」
「背に腹はかえられない。私たちは一度、ギルドホールへ戻ります。ついでに、神事ギルド長にも私から伝えておきますよ」
「たのむ!」
そう言って二人のギルド長は会議室を出て行った。
その背中を見送りながら、衛士ギルド長エバンスは深い溜息をつく。
「現れたのは、数万の魔人間共と魔物、魔獣。しかも、このリムリオへ向けて侵攻中。王都とも連絡がつかない。ライオネル、お前の報告にあった《旅人》の娘にも関係あると思うか?」
「どうだろうな?少なくとも、あの娘には全く害意は感じられなかった。こちらの世界へ来たばかりで、こんな事が起こると言う事は、何かあるのかもしれないがな。」
そこまで言って、ライオネルは鍵を手に席を立ち、エバンスへ向き直る。
「とにかくだ、あの娘が関係あろうと無かろうと、俺たちはこの街を護る!それだけだ!」
そう言ってにかりと笑い、エバンスに向けてサムズアップしたのであった。




