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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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18話「警鐘と転移」

「ギルド長!大変です!」


ギルド長室へ走ってきた念話通信担当の職員が、扉を開けるなりライオネルに叫ぶ。

事務処理の件で話し込んでいたライオネルとリエラは、その声に驚いて振り向き職員を見た。

彼は慌てて走ってくる途中で転んだらしく、膝を擦り剥いている。


「どうした!」

「南の花茄子の森へ調査へ行っていたパーティー「鋼の盾」のロレインより緊急入電です!大量のゴブリンと大型の魔獣に襲われ、リーダーのオデクは死亡!他に3名が重傷ですが、なんとか近くの集落へ辿りつき、現在は住人の避難を進めているとのことです!」

「なんだとぉ!」


その報告に、声を上げるライオネル。


「運良く集落に簡易念話石テレホンがあった為、こちらと通信できたようです!」

「その大型の魔獣と言うのはなんだ?!」

「そっそれが・・・わわ・・・わ――」


ライオネルの質問に、顔を蒼くさせながら職員がどもる。


「――《飛竜ワイバーン》だそうです!」

「なにいぃぃ!!!」


それを聞いたライオネルは、バンッと机に手を置いて立ち上がる。

この数百年無かった魔人間デモ・ヒューマンと魔獣の集団による襲撃の報告に、ただただ呻くしかない。


「それで、ゴブリンどもと飛竜ワイバーンの数はどのぐらいなんだ?!」

「ロレインの報告によると、確認しただけでゴブリンは2000~3000。飛龍ワイバーンも4匹ほど目視で確認したそうです!」

「多いですわね・・・」


横で聞いていたリエラも苦々しい表情で呟く。


「お父様、どうやら私が行かないとロレイン達や住人の避難が間に合わないようです。」

「そうだな!行ってくれるか?」

「はい。」


そう言ってリエラは部屋から出て行く。

ライオネルはそれを見ながら職員に指示を出した。


「ロレインにはリエラが行くまで待機するように指示しろ!それと、南方面の各集落と村落へは避難勧告!衛士ギルドと農業ギルドへも第一種で武装通達!その他、非番の冒険者達と関係各所へも通達急げ!」

「はっはいぃ!」


ライオネルの怒声を聞いた職員は、若干固まりながらもバタバタと部屋を出て行った。


職員を見届けた後、ライオネルは机の引き出しから鍵を取り出し懐に仕舞った。


「・・・これを使う事にならない様、祈るか。」


そう呟いて、自らも武装の準備をするために部屋から出て行ったのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――



カーン!カーン!カーン!カーン!


「――この鐘の音は何ですか?」


お昼を食べながらサンディと雑談をしていた春はその鐘の音に気付き、ほっぺにご飯粒をくっつけたままサンディに聞いた。


「これは警鐘ねぇ。鐘の叩く回数で何が起きたか分かるのよぉ。1回は事故、2回は火事、3回は災害・・・なんだけど4回ってなんだったかしら・・・初めて聞いたわ。」

「これは魔獣や魔物の襲撃の警報だな。サンディ、避難の準備をするぞ。」

「襲撃!?」


厨房の奥からのっそり現れたレインの言葉に、春は持っていたスプーンを落としそうになる。


「冒険者をしていた頃に、辺境の村で聴いたことがある。そのときはゴブリンが100体ほどだったか。たまたま居た俺たちと農夫で撃退したんだが・・・」

「城塞都市のリムリオでこの警報ってことは、そんな規模じゃないってことね・・・」

「そういう事だ。もしかしたら俺にも声がかかるかもしれん。サンディとハルは荷物を纏めたら、アンドルフ先生の所に行ってくれるか?」

「わかりました。」


神妙な顔で頷いた春は、荷物を取りに自室へ向かう。

とは言え、ここに来て日が浅い春の持ち物は、着て来たセーラー服とサンディに貰った小物ぐらいなのだが。


荷物を揃え表に出た春とサンディは、冒険者ギルドへ向かうレインと別れ、一路アンドルフ先生の診療所まで駆け出したのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――



「でやあ!!」


ロレインは持っていたロングメイスをゴブリンの脳天に振り降ろした。


ごきっぶじゅっと嫌な音を立てて緑色の体液を撒き散らし、頭を潰されたゴブリンが倒れる。


「はぁっ・・・はあっ・・・」


肩で息をするロレイン。

もう何十体のゴブリンを仕留めたか判らないが、一向にその数は減ってくれない。


「――動ける者は負傷者を教会へ!冒険者ギルドから応援が来るまで、なんとか持ちこたえるわよ!」


ゴブリンアーチャーが撃ってきた矢を短縮詠唱の障壁で防ぎつつ、ロレインは檄を飛ばす。

応戦していた農民のうち、何人かがその矢を受け倒れる。


「くっ、矢を受けた者は下がりなさい!教会の神官に診てもらって!」


ゴブリンたちの使う武器は、みな汚らしく錆や脂で変色している。

それらの武器で傷を受けた場合はすぐに消毒殺菌しなければ、感染症に罹り命に関わる。


ロレインはさらに襲い掛かってきたゴブリンを、ロングメイスを振り回して牽制し、防衛ラインを一つ下げる合図をする。


と、その時。


ゴブリン達が湧きだしている森から獣の遠吠えが聞こえ始める。

異様な雰囲気に身構えていると、黒い巨体が茂みの中からぬうっと姿を現した。


「《恐狼ダイアーウルフ》!それもゴブリンの乗り手ライダー付きだなんて!」


次々と森から姿を現す恐狼ダイアーウルフに、ロレインも戦っていた農民達も戦意を削がれ始める。


恐狼ダイアーウルフの威圧に、じりじりと気圧されて後退るロレイン達は、ついにゴブリンと恐狼ダイアーウルフの集団に囲まれてしまう。


多勢に無勢。


ゲギョッゲギョッと嫌な音を立てるゴブリンの声と、恐狼ダイアーウルフの低い唸り声に囲まれ、目を閉じるロレイン。


「――ここまでかな・・・《君と朝チュン》の続き読みたかったなぁ・・・」


そんな言葉を思わず口に出した。



「あら?この期に及んでそんな事を言えるなら、まだ平気だと思うわよ?」


刹那、赤い閃光がロレインの目の前を過ぎて行ったと思うと、囲んでいたゴブリン達と恐狼ダイアーウルフが緑色の体液を撒き散らして、すぱんっと弾けた。


「ふん。汚い花ね。」


白い角を覗かせた赤く綺麗な髪をなびかせて、白い柄の双剣を構えた冒険者ギルド制服の女が目の前に立っていた。


「ロレイン、がんばったわね。」

「――リエラお姉様!」


ロレイン達の窮地を救ったリエラは、笑顔を見せて労いの言葉をかける。


「えれぇべっぴんさんだなぁ・・・」

「きっと天使様に違いねぇだ・・・」

「オラ・・・この戦いが終わったらこの人に結婚を申し込むだ・・・」


そんなリエラに見惚れていた農民達の一部は、頬を赤らめてうわ言のようになにやら呟いている。


「あんたら・・・」


そんな農民達を見たロレインは頬をひくつかせていた。


「さっ、ロレイン行きましょう。転移陣の準備をしないと。」

「はい!お姉様!」


そう言って農民達と同じように頬を染めたロレインは、リエラの後に続いて教会へと向かった。



教会へ住人全員が避難したのを見届けると、ロレインは自分が覚えている最大級の障壁魔法の詠唱を開始する。

ゴブリン達が中に入ってこないようにする為だ。


「あの・・・これからどうするので?」


白い髭の村長が、突如現れたリエラに戸惑いつつも尋ねてきた。


「これからここに居る全員を、リムリオまで転移させます。準備に少々時間がかかりますので、整うまでしばしお待ちください。」

「転移?・・・」


聞き慣れない言葉に村長は首を傾げる。

リエラは既に詠唱を開始しているため答えられない。


「リエラお嬢さんは、このエリディア王国でも3人しか居ない《転移術テレポート》の使い手なのさ。もう安心していいと思うぜ。」


重傷を負って教会で治療を受けていた冒険者の一人が、寝たままで村長にそう告げる。


そうこうしている内に、教会全体に魔方陣が浮かび上がり始める。


次の瞬間、教会の建物ごとリムリオの城壁横にある、ジョガー芋運動場に転移した。


こうしてゴブリンの襲撃を受けたロレイン達と集落の住人は、数名の死者を出したもののなんとか脱出に成功したのであった。




そしてこの戦いが新たな『戦争』の始まりでもあった。





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