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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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17話「異世界の話と二組の夫婦」

「どうしてこうなっちゃったんだろう?・・・」


大食い勝負を見に来た観客がわーわー歓声をあげる中、春は茫然としながら呟いた。



ここ虹色の松明亭では、開店以来初めての大食い勝負が始まろうとしていた。

言い出しっぺのライオネルはもちろん、我こそはと言うリムリオの大食い自慢達が話を聞きつけて集まり、更にはリムリオ商店街会長の鶴の一声でレインやサンディを始めとするリムリオ中の料理人達も集められ、突発的なイベントにも関わらず大勢の人々が集まっていた。


会長により出されたお題は、リムリオ名物ミーフまんじゅう

ミーフの挽肉を香辛料で味付けし、それを荒く切ったレティアと共にコメとジョガー芋の粉で練った生地で包み、焼いてパリパリに仕上げた地球で言う『おやき』である。


ちなみにジョガー芋とはリムリオ名産の自律行動をする魔物野菜の一種で、人型をした芋である。

毎日ジョギングをさせて鍛えるほど旨みが増す為、ジョガー芋専門の農家は畑にジョギング用コースを作って毎日朝と晩にジョガー芋達を走らせている。

稀に一緒に走っているライオネルを見かけるとかなんとか・・・


それはともかく、大食い勝負は時間無制限で最後の一人になるまでミーフまんじゅうを食べ続けるという過酷なルールとなった。


商店街中の材料がかき集められ、店内に大食いの自慢の男達10人が集まってそれぞれ席に座り、大勢の人が固唾を呑んで見守る中会長によりゴングが鳴らされ、その戦いは始まったのだった。

選手席に座る春はその場違い感に戸惑っていたものの、いざ料理が運ばれてくると目を輝かせて満面の笑みで頬張ったのだった。




そして今、ライオネルを含む大食い自慢達は全員床に突っ伏していた。


「ぎ・・・ギブアップ・・・」

「もう食えねぇ・・・」

「ばかな・・・あの娘は化け物か・・・」


見ている観客も胸焼けがしてくるほどの量を食べた男達であったが、いまだ美味しそうにまんじゅうをパクつく春を見て苦しそうに呻く。


「んん~~!ミーフまんじゅう美味しいっ!いくらでも食べれちゃう!――あっ!追加お願いしますっ」


笑顔で350個目の注文をする春を見て、驚愕の表情をした後ライオネルはがくっと意識を手放した。


「あの脳筋ライオネルがダウンするとは・・・恐ろしい」

「見ろ!また追加したぞ!一体何個食べるんだ!」

「あの娘の胃袋は異次元か・・・」


こうしてこの日リムリオに《ミーフまんじゅう500個の娘》と言う、後々まで語り継がれる伝説が生まれたのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――



夜、大食い大会の後片付けも終わり、食いすぎで倒れていたライオネルが目を覚ました為、半日越しで春への事情聴取が始まった。


「ノリノリで手伝ってた私が言うのもなんだけどねぇ・・・大丈夫なの?冒険者ギルド。」

「俺が居ない間は、リエラが仕切っているから大丈夫だ!」

「あぁ・・・あの娘は有能だしな。お前の遺伝子が混ざってるとは思えん。」

「なんだとぅ!どこからどう見ても俺そっくりだろうが!」

「・・・この人の遺伝子に勝ったフィリアさんに感謝ね。」


そんな問答をしているトーチ夫妻とライオネルを交互に見ながら「あの・・・」と声をかける春。


「――それでわたしに聞きたい事って何でしょうか?ある程度はシェルさんから聞いているようですが。」

「うむ!まずはハルが来たという異世界の話だな!」

「地球の話ですか?」


春は小首を傾げながらうーんと考え込む。


「何から話せばいいか・・・」

「そうねぇ、例えばどんな人たちが住んでるの?」


言葉を詰まらせている春に、サンディが助け舟を出す。


「えっと・・・人種という意味合いではわたしとかわりません。肌の色の違いとか言葉の違いはありますけど。」

「ほう!人間族だけなのか?!」

「はい。あとはそうですね・・・魔法がありません」

「なんと!魔法がないのか!」

「魔法の代わりに科学というのがあります。わたしも専門家じゃないので上手く言えないですけど、電気をか燃料を使って生活をしています。」

「燃料は解るけどデンキってなに?」


聞き慣れない言葉に春以外の3人が首を傾げる。


「あーえっと、雷の力って言えばいいのかな?・・・それで遠くの人と話をしたりとか。ああ、あとここの厨房にある冷蔵箱クールボックスとか調理炉クックトップなんかは魔力マナじゃなくて電気で使われてたりします。」

「へぇ~!念話石テレパスみたいなのもデンキでできちゃうんだ。」


どこか楽しげに話を聞いていたサンディは、ほぅっとため息をついて感心している。


「そういえば、ハルちゃんが着ていた服もかなり凄い裁縫技術よね。縫い目とか全然見えないし、布も綺麗だし~」

「そうですか?あれはわたしが通っていた学校の制服ですよ~」

「へぇ~学校!ハルちゃん実は貴族とか王族?」

「いえいえっ!そんなんじゃないですよっ。普通の家庭です。」

「こっちじゃ学校は貴族と王族と、あとは金持ちの商人ぐらいか?通えるのは。」

「うむ!このリムリオにはないが、王都リディアには王立の大学校があるな!」


服の話から学校の話へとシフトしていき、なんか普通の雑談と変わらないなーと思いつつも話を続ける春。


「わたしの住んでいた国では、義務教育と言って7才から15才まではみんな学校に通わせられるんです。16才からは高等学校と言って受験をして合格すると入れる学校に18才まで通って、それ以上の年齢になるとさらに受験をして、大学へ行くか就職をして仕事をするかに分かれますねー」

「へぇ~。ハルちゃんは16才だから高等学校?」

「はい。あ、でも成績とかは中ぐらいでそんなでもないですよっ」

「そうでもないわよ?会計とか見てたけどお釣りとか全然間違わないし。頭良い子ねぇ~って見てたのよぉ~」


サンディの言葉にえへへっと笑いながら照れる春は、照れ隠しにお茶を淹れたカップを手に取って飲む。


「ふむ!話を聞く限りだとなかなか平和な国のようだな!」

「わかるんですか?」

「学校など平和な時にしかまともに機能せんとオジーのジジイが言っていたからな!」

「なるほど・・・」


ライオネルの言葉に納得したところではたと気づく。


「あれ?ライオネルさんもオジーさんの事を知ってるんですか?」

「うむ!たまに念話石テレパスで喋っているからな!ハルはシェルに聞いたのか?」

「はい。昔の話を聞いた時に――」


と言いかけたその時、背後の扉がバン!っと開いた。

驚いてそちらを見ると、一人の女性が仁王立ちしていた。


艶やかな赤毛を腰まで伸ばしたグラマー美人で、額からは白く綺麗な角が1本生えている。


「あんた!こんな時間まで何やってんの!」

「ふぃっフィリア!これはそのぅ・・・仕事で――」

「うっさい!つべこべ言うな!さっさと帰るよ!」

「まっ待てっ!!ぐえぇぇ!」


怯えるライオネルの太い首を細い腕で絞め、そのままずるずると引きずって行く妻フィリア。


「どうもみなさん、夜遅くまでこの馬鹿に付き合わせて済みませんでした~。お仕事の続きはまた明日にでも。」

「はいなぁ~。フィリアさんまたねぇ~。」


にこやかにサンディとフィリアは手を振って挨拶を交わすと、絞め落とされたのかぐったりしているライオネルをそのまま引きずり虹色の松明亭から出て行った。


「・・・凄いご夫婦ですね。」

「いつものことだ、気にするな。」


唖然として呟く春に、レインはぽんと肩に手を置いた。


こうして春の激動の一日が終わったのであった。




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