14話「魔狩りと青鬼」
春が虹色の松明亭で働くことが決まった頃、シェルは再調査の為に黒山羊森へ向かっていた。
リムリオから東へ徒歩で半日ほどの所にあるこの森はこれまでは魔獣も殆ど出る事はなかった。
自生している樹木の種類は材木としてさほど価値が無いため伐採等もされず、たまに薬草を取りにくる冒険者が居るぐらいでほぼ手つかずの森林が広がっていた。
木々の樹齢も数百年からたまに一千年以上経っている物もあり、樹高も20メートルから30メートルほどの大木がその黒い枝を繁らせていた。
「黒山羊森」と言う名前の由来については、遠目に森を見ると黒い山羊に見えるからだとか、森に封印された太古の魔獣の名前だとか諸説あり、どれが本当なのか分かるものは居なかった。
「それにしても、城塞都市に近い森にSランク冒険者が3人も向かわせられるとはな。」
「しかもよりによってこいつも居るしな・・・」
「あらん~いいじゃな~い。男三人仲良くやりましょうよぉ。」
「オカマは男に含まれるのか?・・・」
今回の黒山羊森の再調査にはギルドマスターであるライオネルの肝入りでリムリオ支部でも特に腕の立つ者がシェルの同行者として選ばれていた。
まず、《魔狩り》の二つ名を持つ武装商人エンリケ・グレコ。
彼は商人でありながら卓越した戦闘技術を持ち、ライオネルの影響で武闘派が多いリムリオ支部でも一二を争う熟練冒険者である。
ちなみに、彼が主に扱う商品は『食品』である。
どんな辺境へも一人で商品を運ぶ為、《魔狩り》の二つ名のほかに《護衛要らず》の異名も持っていた。
《魔狩り》の名は彼が東方で手に入れて愛用している《魔刀イヅナ》の能力に由来する。
もう一人は《青鬼》の二つ名を持つ鬼人の拳闘士タイガー・リオール。
ライオネルの二つ下の弟であり、また容姿も筋骨隆々の肉体にアフロヘアと黒い角と言う外見は正に兄弟と言った感じである。
ただ違うのはそのアフロヘアは青色であり、その性格と口調はオカマという点である。
だが気性の荒い兄と比べて、その豪快な見た目と裏腹に繊細な感性の持ち主で、周囲への気配りも上手いという一面も持っている。
その為かは知らないが、年に一度あるリムリオの冒険者人気投票ではなぜか数居るイケメン冒険者を差し置いて最も女性からの票が多いと言う結果があり、リムリオギルド七不思議の一つにも数えられているとかなんとか。
ちなみにその七不思議のうち4つは、兄ライオネルの奇行が原因だったりもする。
それはともかく。
この3人での探索が決まったのには訳がある。
まず、他の場所へ浸食樹の調査に向かったパーティーが相次いで魔獣の群れに襲われて撤退している事。
そして前回シェルが単独で調査したした際に襲ってきた魔猟犬が、魔獣使役者の使役するものであった疑いがある事だ。
万が一それが本当に魔獣使役者の手によるものだとすると、Aランク冒険者6人構成のパーティーですら手に余る。
そこでライオネルは黒山羊森の危険度を引き上げ、シェル、エンリケ、タイガーのSランク冒険者3人と言うリムリオ冒険者ギルドでも最高の戦力を投入することにしたのだ。
それほど魔獣使役者は厄介であり、危険で忌み嫌われる存在であった。
それともう一つ、シェルにはある疑念があった。
その疑念を他の2人に告げる。
「――もし仮に使役者が存在するとして、どうしても腑に落ちないものがあるんだ。」
「なぁに?」
「数だよ。」
「数?報告だと300体は居たって話だが。」
シェルがこの間使った探知眼は実は一般に使われている物よりも高性能品であり、索敵範囲内であればその数も判るようになっている。
そのためライオネルへの報告にもその数は入れておいたのだが。
「なあ、使役の魔法は一度にそんな数を扱える物なのか?」
「言われてみれば確かにそうね。」
「となると、複数人の使役者が居るってことか?」
「それもあるが、もっと悪い想像もしている。」
シェルのその言葉に前を歩いていた2人は振り返る。
「あの魔猟犬の現れ方と消え方を思い出すと、「召喚者」の可能性が高い気がしている。」
「「召喚者!?」」
シェルの答えに二人同時に素っ頓狂な声を上げる。
《魔獣召喚者》
それは魔獣使役者の上位クラスであり、その危険度も使役者とは比べ物にならない。
召喚用魔方陣さえあればどこでも契約した魔獣を呼び出せる為、かの《五災禍戦争》でも手を焼いた存在である。
実際、戦争中は召喚者による魔獣召喚テロによっていくつかの町が滅ぼされていた。
そのため召喚術はその危険性から禁術指定を受けていた。
だが戦争から600年経った現在は、その扱いの難しさから使い手は居ないものとされていた。
「まあ、本当に居るとしたらになるんだがな。」
「驚かさないでよ・・・んもぅっ!」
何やら背後に薔薇が咲き乱れてそうな雰囲気を漂わせて、タイガーが両手を前で組んで体をくねらせる。
「お前のその仕草のほうが驚きだがな・・・」
「いいじゃないっ!乙女の仕草にケチつけるなんてサイテーよっ!」
「乙女というか漢女だな・・・」
こうして一向はダベりつつも黒山羊森に到着して再調査を開始したのであった。
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「ねぇ、この石なんだけど。ちょっとおかしくない?」
調査開始から二日後、シェルの戦闘経路を辿っていたタイガーが何かを見つけてエンリケを呼んだ。
エンリケは鑑定の技能も多彩に身に着けており、それは取り扱う商品だけでなく発掘品や石碑などの遺物も見分けられる程の能力であった。
タイガーが見つけたのは直径50センチほどの苔蒸した円筒状の石であった。
因みに、タイガーがそれを見つけたのは野生の勘のようなものであったりもする。
「どれどれ?・・・ふむ。」
「どう?」
「確かにこの石はおかしいな。自然石のようにも見えるが人工で磨かれたものだな。」
エンリケが石の鑑定結果を述べる。
「なぁ。この石と同じものは他にないか?」
「そういえばいくつか見かけた気がするな。」
その後3時間ほどをかけて、3人は合計で7つの石を見つけた。
地図を広げて石のあったポイントに印を付けると、ぐるりと円を描くように配置されている事が解った。
「なぁ、この円の中心ってなにがあるんだ?」
印を付けた地図を眺めていたエンリケがシェルに問いかけてきた。
「まさかとは思うが、一応行ってみたほうがいいな・・・」
沸き上がる動揺を必死に押さえつけて、地図を左手にシェルは立ち上がる。
円の中心。
そこは、シェルが春に激突され出会ったその場所であった。
シェル達はその場所に着くと周囲に何かないか探し始めた。
「おーい、ここに鞄が落ちてたぞ。」
エンリケが落ちていた鞄を拾ってシェルの元へ寄ってきた。
中を開けてみると、見たことが無い文字で書かれた本が数冊と鞄の持ち主が書いたであろうノートが2冊。
数本の棒が入ったケースが一つと、見たことがない人物が描かれた紙が数枚とコインがいくつか入ったケースも一つ。
それと、なにやらいくつも料理が描かれた紙が1枚と、何かが入った絵入りの箱と袋が数種類。
「これは、ハルの鞄だな。落としたとか言っていたからな。」
「へぇ、じゃあこれが異世界の文字なのねぇ。何が書いてあるかサッパリだわぁ」
「俺もさっぱりだな。」
そんな16歳の乙女の鞄の中身を眺めつつ感嘆の溜息を漏らす中年3人組。
「こんにちは。」
と、背後から声を掛けられて3人は身構えて振り向いた。
「何者だ!」
「あらん~かわいい子じゃない。」
声を掛けてきたのはほっそりとした背の低い美少年であった。
整った顔立ちに口元の艶ぼくろ。
貴族風の白いブラウスと青い刺繍の入ったズボン。
そしてその少年は、肩までの銀髪を風に揺らしていた。
「魔族・・・」
エンリケがそう呟く。
「やあ、初めまして。ボクはハラトと言います。仲間内では《暴虐》の二つ名で呼ばれています。以後お見知りおきを。」
銀髪の少年は鈴のような声でにこにこと爽やかに笑いながらそう告げた。
リムリオ冒険者ギルドの七不思議
1、入った者が泣きながら出てくる魔の扉
2、夜になると時折通信室から聞こえる声
3、女性職員室にいつの間にか山積みされている男同士の恋愛本
4、夜と早朝、奇声を発しながらギルド周りを走る大男の影
5、いかついおっさんから生まれた美人受付嬢の神秘
6、イケメン冒険者を差し置いて女性人気No1のオカマ
7、新人冒険者全員に届けられる鉄アレイの怪




