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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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13話「予兆」

「大丈夫?」


敵の包囲から身を隠す為に逃げ込んだ小さな洞の中で、ロレインは仲間達に治癒の儀式を施していた。


この世界イグドラシエルでは治癒の魔法というのは手をかざして直ぐ回復するような物ではなく、薬草や薬品ポーションなどを触媒に使いある程度の儀式を行いマナで薬効の循環を早めると言うのが一般的な治癒の儀式である。

過去の大戦の教訓から、大賢者オジーの働きかけにより一部の神官しか使えなかった治癒の儀式は効果でランク分けされ広く普及した。


ちょっとした傷や胃痛頭痛等の家庭医学的なものをCランク。

火傷や切り傷、風邪などを癒すものでBランク。

骨折や深い刺し傷、内臓の疾患等の治療はAランク。

欠損部位の再生や脳腫瘍、伝染病の治療などはSランクとされた。


また使い手の腕や薬草、ポーションの等級で回復速度も範囲も変わってくるが治癒の儀式とはこの4ランクで分けられていた。


今ロレインが仲間たちに施しているのは手持ちの傷用ポーションを使ったBランク治癒儀式《薬効範囲化ポーションスペース》である。

最近増えてきた浸食樹の調査にリムリオから南に1日ほど馬車で移動した所にある《花茄子はななすの森》へ来た一行は到着して調査開始をした直後にゴブリンの群れに襲われた。


シェルがガルムの群れに襲われた事をギルドから馬車備え付けの《簡易念話石テレホン》を通じて注意喚起されていたため十分に警戒していたのだが、いかんせん数が多すぎた。

気が付くとサーチの光点が真っ赤になるほどゴブリンに周りを取り囲まれていたのである。

Aランク冒険者のみで構成されたパーティーではあったが、その数を前に撤退を余儀なくされた。

なんとか退路を切り開いて走り、スカウトのメンバーが見つけた洞へ一旦退避して立て直しを図っていた。


「このまま帰るとライオネル支部長にどやされそうだな・・・」

「大丈夫でしょ。あの人はちょっとした事なら気合いで何とかしろって言うけど、実際は無茶して帰っても怒るしね・・・」


ある程度ロレインによる治療が終わった所で、依頼の浸食樹の調査と浄化が終わっていない事にぼやく一行。


「とは言え、今のメンバー構成だとゴブリンを討伐するにも調査を強行するにも決定打に欠けるのよねえ。」


ロレインたちのパーティーは6人。

リーダーである戦斧を使う重戦士と軽装備の剣士が居るが、それ以外は神官のロレインを含め斥候や探索向きのどちらかと言えば戦闘にはあまり向いてないメンバーであった。


「とにかく包囲を抜けて近隣の村か町でも探せばテレホンが置いてあるんじゃない?それでギルドに増援を頼みましょう。あのゴブリンの数だと下手すると街道筋の町や村も危ない感じだし。」

「そうだな。此処でじっとして居るより動いたほうがましだ。衛士ギルドにも警戒を呼びかけないとだしな。」

「うんうん。早く終わらせて帰って《君と朝チュン》の続き読みたーい。」


対策を立てながら洞を出ていこうとしていた一向だったが、ロレインのその能天気な一言でぴたっと足が止まる。


「ロレイン・・・まだあの男同士に×(かける)してる本読んでるのか・・・」

「えー良いじゃなーい。純愛物だしー」

「良くないよ・・・」


最近リムリオの雑貨店で売られるようになった様々な活版読本の中でも、ロレインのお気に入りは俗に言う『ボーイズラブ』物であった。

《君と朝チュン》は特にリムリアの女性達の間では人気作品であり新作が出るたびに同好者で競い合うほどの売れ行きを見せていた。

ただし内容に関しては男性にとって理解しがたい物ではあったが。

それを知っているロレイン以外の男性メンバーはげんなりしつつも、気を取り直して洞を出ることにした。


「周囲はどうだ?」

「とりあえずサーチでは問題ない。ゴブリンどもは俺たちを探して分散しているようだ。」

「よし、だが街道まで警戒を怠るなよ。」


リーダーとサーチを行っているスカウトの男が言葉を交わす。

街道までのルートを決め、6人は走り出そうとした。

そのとき、


「まて!サーチに何か――来るぞ!」


スカウトの男がパーティーを引き止めて叫んだ。

リーダーがスカウトの男の視線を辿って空を見上げる。


そこには巨大な影が羽ばたいてロレイン達を見下ろしていた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



その2日前 早朝――


シェルが仕事の為に虹色の松明亭を発ってから、店内では春とサンディとレインが向かい合って座り、何やら話し込んでいた。


「――それで、食費を稼ぐ為に何かお仕事を紹介して貰えないかなーって思いまして・・・」

「なるほどねぇ。確かにあの食べっぷりじゃさすがのシェルも蒼褪めるわねぇ。」

「だな。」


昨晩シェルに食費の件を言われた為、春はまずサンディとレインに相談することにしたのだ。

とは言え、この世界イグドラシエルで自分が出来る事となると全く見当が突かず、頭を悩ませているのであった。


「とりあえずハルちゃんは何が出来る?」

「夕べ色々と考えたんですけど、計算とかお皿洗いとかちょっとしたお料理ぐらいしか・・・」

「ほほう。」


レインが細い目を少し見開いた。


「ねえ、あなた。」

「そうだな、サンディ。」

「えっ?えっ?」


何やらにっこり微笑んでいるサンディと不愛想なごつい顔で笑いかけてくるレインを交互に見て、春は戸惑いの声を上げる。


「ねぇハルちゃん。それだけ出来れば上等よ。しばらくうちで働いてみない?」

「えっ!ここでですか?!」

「そうよぉー。さすがに私や旦那のお料理は作れないと思うけど、お勘定とか給仕とかお皿洗いとかなら問題ないと思うし。」


サンディの言葉にゆっくりと頷くレイン。

その言葉にきょとんとして二人を見つめるハルにレインが言葉をかける。


「まあとりあえずうちでやってみて、駄目そうならまた何か考えればいい。」

「それに、さすがに夕べ程の量はダメだけど3食はつけてあげるから~」

「ほんとですか!?ありがとうございますっ!」

「その代り時間によっては結構忙しくなるから、頑張ってねぇ~」

「はいっ!」


春は椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げてお辞儀をする。


「よろしくねぇ~ハルちゃん。」

「よろしくな。」

「こちらこそよろしくお願いしますっ!」


ぺこぺこと何度も頭を下げる春を微笑ましく見ながら、サンディはパンッと一つ手を打つ。


「あっ、そうそう~。ハルちゃんちょっとこっちへおいで~」

「なんでしょう?」


サンディに手招きされ奥へ進む春。

サンディとレインの寝室へ入った春は、何やらクローゼットをごそごそするサンディを見つめて待っていた。


「お古だけどこれ使って~」

「わぁっ!いいんですか?」

「丁度サイズも一緒だと思うのよ~」


サンディに手渡されたそれは給仕服であった。

刺繍の入った白いブラウスにフリルのついた黒い膝丈のスカート。それとリボンのついたプリムに、虹色の松明亭の看板と同じカラフルな2本の松明のアップリケがついた白いエプロン。

春は早速袖を通してサンディに見せる。


「可愛いっ!ありがとうございます!」

「ハルちゃん似合ってるわよぉ~。私の若い頃のだけどピッタリだわぁ~」


頬を赤らめてうれしそうに姿見の前で回って見る春を見つめながらサンディはパンッと一つ手を打った。


「さっ、今日のお仕事を始めましょうかぁ~」

「はいっ!頑張りますっ!」


こうして春の虹色の松明亭での生活が幕を開けたのである。


プロローグ1話と1章1話を加筆修正しました。


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