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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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12話「今後の話と食費の話」

「――それが俺と《種》に関わる話だ。セレスが死んだ光景は今でも思い出さない日はない。アインブルグまで行って《凶王ヴァーン》を殺った事も、セレスの弔い合戦というより半ば八つ当たりのようなものだったな。エフェルハイムの王の間で俺が意識を失っている間何が起きたのかはわからない。あの《狂信のヴィヒデット》と名乗っていた奴も《種》を奪えていたわけではなかったようだ。実際その後、俺達の前に姿を見せなかったしな。多分セレスが・・・っておい?」


淡々と話していたシェルさんに声をかけられるまで、わたしは涙が流れているのに気づいていませんでした。


最初はドキドキしながら聞いていたその話の結末があまりに可哀想で、言葉もなくてただ涙を流すことしかできなかったのです。

戦争も災害も知識でしか知らないわたしにとって、身近な人が亡くなるというのは小さいころに亡くなったお爺ちゃんぐらいです。

それもほんとに小さい頃なので記憶も曖昧です。

数年前にあった震災にしてもテレビやネット動画で見ただけで、大変そうなのは伝わってきても客観的に見ているせいか現地の人達の苦労や悲しみはどこか他人事のように見てた気がします。


でも実際悲惨な戦争を味わっているシェルさんの話はわたしの心を深く抉りました。

良い事も、悪い事も。

楽しい事も。辛い事も。

色んな事があって、2人は寄り添い合って生きて。

様々な事があって、2人の気持ちも通じあってきて。

それを呆気なく壊されたのだ。


わたしと同じ歳で逝ったセレスさん。


それから長い間ずっと生きて来たシェルさん。


きっと二人とも寂しいよね・・・


一度見たあの黒い髪の少女のどこか寂しそうな顔がふと頭に浮かんだ。


そんな事を考えているとシェルさんが手拭いをわたしに差し出してきた。


「とりあえずそれで拭け。」

「ぐずっ・・・ありがとうございます。」

「まったく・・・昔の話なんだからそんなに泣くな。」

「でも・・・でもぉ・・・」


シェルさんは苦笑いをしながらぽりぽりと頭の後ろを掻いている。


「取り敢えず俺の話はここまでだ。悪かったな。こんな夜更けまで。」

「いいえ、大丈夫です。というかいいんですか?」

「何がだ?」


まだぐずぐずする鼻をすすりながら、わたしはシェルさんに聞いた。


「わたしってこの《神樹界イグドラシエル》に来たばかりですし、まだ信用とかそういうの無いと思うんですけど・・・」

「ああ、いいんだ。今までずっと探してきた『種』の手掛かりがいきなり舞い込んできたからな。感極まって部屋を飛び出した後すぐギルドホールへ行ってな、念話石テレパスを使わせて貰ってオジーにハルの話を伝えてきたんだ。そしたらセレスの事も話した方が良いってことになってな。」

「オジーさんってさっきのお話にでてきた人ですか?」

「そう、《大賢者オジー・ハーレス・マ・エルフェリア》。《エルフェリアの聖樹》に住むエルフの爺さんだ。」


ギルドホールは各地と通信が出来る念話石テレパスって物が置いてあるらしい。

オジーさんが現在住んでいる《エルフェリアの聖樹》って場所とも通信が繋がっていて、シェルさんはそのオジーさんに私が《種》を持っている事をそれで伝えたらしい。

聞けば《種》を持つ者をずっと探して回っていて、最近になって一旦故郷である《エルフェリアの聖樹》へ戻ったんだそうだ。

そんな話を聞いているとシェルさんが今後の事を言ってきた。


「俺は取り敢えずギルドからの追加依頼である《黒山羊森》の再調査を終えてから、ハルを連れて《王都リディア》へ向かおうと思う。本当はすぐにでもオジーの元へ連れていきたいんだが、今は手が離せない案件があるらしくてな。アンドルフ先生の言う《王立図書館の禁書庫》へ先に行こう。それで良いか?」


どうやら旅に出ないといけないらしい。

その《王都リディア》がどれほど遠いのか分からないけれど、この世界イグドラシエルの事が全く分からないわたしには選べる選択肢なんて有って無いようなものだ。


「はいっ。良いも何もこれからどうすればいいか全然分かってませんので・・・。日本へは帰りたいですけど、その方法も含めて色々調べたり探したりするようでしょうし。」

「それもそうだな。じゃあ、明日から7日ほど俺は留守にする。その間ここに居てくれるか?」

「わかりましたっ」


本当はもっと聞きたい事もあるのですが上手く言葉が纏まらない感じなので、シェルさんが帰ってきてからにする事にしました。

それにまだ、この《虹色の松明亭》以外どこにも行っていないので、明日はこの街を少し歩いてみようかな?なんて思っていると。


「ああ、そうだハル。」

「なんでしょうか?」

「その《種》の事もあるからしょうがないと思うが、今日のあのペースで食事されるとさすがの俺でも金が足りなくなる。居ない間の宿代は先払いして行くが、食事代のほうはなにか考えておいてくれるか?・・・」

「あっ・・・」


そうだった・・・。

あまりにもここの料理が美味しくて、つい食欲に任せて一杯食べちゃったんだよね。

すっかり失念してたけどお代幾らだったんだろ?


「あっあの・・・さっきの食事代って幾らだったんですか?」

「一応サンディからは少しまけてもらったが・・・そうだな、6イエンってところか。」

「えっ・・・それってどのぐらいの金額なんでしょう?」

「俺で言うと、3食ガッツリ食べて10日分ってところか。」

「うわぁ・・・」


シェルさんは小食なのでそのぐらいらしいけど、それでも男の人の10日分を一度に食べたっていうのは若干ショック・・・

1食でそれってことは、3食食べたらどれほどの金額になるだろう?

うう・・・さすがに食べ過ぎでしょ・・・わたし・・・・


そんな感じで蒼褪めていると、


「取り敢えず俺が居ない間は何か仕事してたらどうだ?朝起きたらサンディかレインに聞いてみるといい。」

「・・・そうします。」


う~、異世界に来て最初にしなければいけない事が自分の食費稼ぎだなんて・・・

でも何をしたらいいんだろう?

ちょっとしたお手伝いならした事があるけど、シェルさんが居ない間の食費を稼げるお仕事ってなると・・・

む~、不安しかない・・・


「それじゃあ、俺は明日早く出るから寝る。」

「はいっ、ありがとうございますっ。シェルさんとセレスさんのお話を聞けてよかったです。」

「そうか。」


シェルさんは椅子から立ち上がりドアへ向かう。

ドアを開けて廊下へ出ようとして、ふと立ち止まりぼそっと言った。


「・・・ありがとうな。セレスの為に泣いてくれて。」

「え?」

「いや、何でもない。それじゃあな。」


そう言ってシェルさんは自分の部屋へ戻って行った。


シェルさんを見送った後、わたしはランプを消してベッドに横になった。


《種》の事。


シェルさんの事。


サンディさんとレインさんとお料理の事。


痩せたわたしとアンドルフ先生の診察の事。


明日からの事。


そして、セレスさんの事。


そんな事を考えながらうとうとして眠りに落ちる瞬間、黒髪の少女――セレスさんがまどろみの中で微笑んだ気がした。





そうしてわたしの《神樹界イグドラシエル》での最初の一日が終わったのだった。



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