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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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9話「屍」

――「その娘から離れろ!魔族エビルめ!」


剣と槍を構えた連合軍兵士たちは、シェルたちを囲むようにばらばらと走ってきた。


セレスを庇うように背中に隠しシェルは膝を突いたまま身構える。

連合軍の兵士達は、皆一様に怒りと怯えの表情を見せていた。


「貴様は何者だ!?ここで何をしている!」

「・・・俺はアインブルグ第18機動部隊フェンリルに所属する、シェル・トレス・オラーヴァ上等兵だ。この娘は村に住んでいた子でセレスティーヌと言う。」

「なにぃ!《フェンリル》だと!」


《フェンリル》の名を聞いた兵士達はざわついた。

アマルガンでの戦いにおいて《魔狼フェンリル》の徽章をつけた黒い鎧のアインブルグ部隊は、連合軍に多大なダメージを負わせたその戦いぶりから『悪魔』とも呼ばれた部隊であった。

だが実態は様々な理由――主に軍に反抗的な者――を集め最前線に送ったというだけのある意味後がない人間の集まりであった。

シェル自身フェンリルに居た理由は、いけ好かない部隊長を殴り異動させられた為であった。

しかし、皆似たような境遇で纏められた《フェンリル》は他の部隊と比べても隊員同士の繋がりが強くなり、アインブルグ軍の中でも異質ながら突出して強い部隊に仕上がってしまった。

とはいえ、そういった事情があろうがなかろうが連合軍にとっては畏怖の対象でしかなく、


「貴様らのせいでアマルガンは・・・!」

「よくも弟を殺したな!」

「俺の友達はもうすぐ結婚式だったんだ・・・それをよくも!」

「死ね!アインブルグは死ね!」


口々にシェルを罵倒しはじめた兵士達は、殺意にまみれた目を向けて武器を構える。

だが、すでにシェルには彼らを殺す理由も持ち合わせておらず、ただただ連合軍兵士達の憎悪を受け入れるしかなかった。

じりじりと身構えて寄ってくる兵士たち。

と、その中の一人――おそらくこの部隊の隊長であろう――が剣をシェルに向けてつかつかと歩いてきた。


「抵抗も命乞いもするなよ。お前は捕えて色々吐いて貰わねばならん。楽に死ねると思うなよ。」

「・・・解った、付いていこう。だが俺は死ぬつもりは無い。身勝手かもしれないがセレスの為に生きると決めたばかりだ。」

「貴様・・・!」


シェルの言葉に部隊長がわなわなと震える。


「どうやら少し痛い目を見ないといけないようだな!」


部隊長は剣の柄でシェルを殴りつけようと振りかぶった――




「――だめぇ!!」


セレスの叫びと共に周囲に黄金の《障壁しょうへき》が張られ、部隊長は弾かれて吹き飛ばされた。


「・・・セレス?」


見るとセレスはシェルの肩越しに小さな手を突き出し小刻みに震えていた。


「おにいちゃんに酷いことしないで!」


何が起きたかわからない兵士たちはセレスと部隊長を交互に見やった後、武器を構えて警戒を強めた。

吹き飛ばされ呆気に取られていた部隊長だったが部下の武器を構える音で我に返り、怒りで顔を真っ赤に染めて叫ぶ。


「こ・・・の!構わん!娘も男も捕えろ!手荒でも構わん!」

「お待ちください!」


後方で障壁を張るために待機していた魔導士マギが声を上げて兵士達を制した。

鼠色のフード付きローブを頭からすっぽりと被り古ぼけた長い杖を持つ老人。

その皺だらけの顔が驚きに震えていた。


「貴様!なぜ止める!」

「無詠唱の黄金の障壁・・・まさかその娘は・・・」


部隊長の声を無視し、魔導士マギはぶつぶつと呟きながらシェルとセレスに向かって歩いてきた。


「もしや貴女は・・・」


魔導士マギがそう言いかけた直後、



カアァ!ギャア!ギャッギャッ!



周囲でカラスたちが鳴き始めた。

シェルと兵士達がその声で空を仰ぎ見ると、数千羽のカラスたちが空を真っ黒に染めて飛び回っていた。


「これは・・・《魂呼鴉スピリットクロウ》!こんなに集まるなど聞いたことがないぞ!」


その光景を見た魔導士マギが驚愕の声を上げる。

と、背後から兵士の絶叫が聞こえた。


「ぎゃああああ!」

「うわああぁ!やめろぉ!」

「ひいぃぃ!来るなぁ!」


広場に居た全員がその叫びの方を見ると、数人の兵士がぼろぼろの衣服を纏った《人間》に組み敷かれていた。


その《人間》は、ある者は衣服の隙間から内臓をぶらつかせ、ある者は割れた頭から脳を零れさせ、またある者は潰れた下半身を引きずりながら這い寄る、《屍》であった。

その《屍》たちは襲った兵士たちをただ貪り食っていた。


「何が・・・何が起きている・・・」


状況を呑み込めない部隊長は呟きながらただ唖然と見ていた。

その間にもどんどんその《動く屍》達の数は増えていく。


「こやつ等は・・・まさか《食人屍グール》か?・・・だがそんなものは文献にしか・・・」


魔導士マギは呟き、はっと我に返ると詠唱を始めた。


「炎よ。我が意に沿いて渦巻け。イグ ニス テール ウィン シェッド!」


魔導士は渦巻く火炎を《食人屍グール》の集団へと放つ。

燃え盛る《食人屍グール》達は次々と炭化して倒れていく。

辺りには腐った肉の焼ける臭いが立ち込める。

だが、すでに統制の崩れた兵士達はただただ逃げ惑うのみであった。



立ち上がりその光景を見ていたシェルだが、ふと腰のあたりに温もりを感じて見てみると、セレスが微かに震えながらシェルを見上げていた。

その表情を見たシェルは意を決し、いまだ尻餅を突いたままの部隊長へと歩み寄る。

そしてその胸倉を掴み怒鳴りつけた。


「おい!いつまで呆けてるつもりだ!お前の部下達だろうが!何とかしろ!」

「し、しかし・・・」

「しかしじゃねぇ!《食人屍グール》だろうがなんだろうが殺らなきゃ殺られるだけだろうが!」


恐怖で焦点の合わない目を向ける部隊長をシェルは舌打ちをして離し、地面に落ちている部隊長の剣を拾い上げ、魔導士マギに声をかけた。


「おい、あんたなら話が通じそうだ。セレスを暫く預かっててくれ。」

「わかった。」

「頼むぞ。」


短いやり取りをした後まだ不安そうなセレスに一つ頷き魔導士マギの傍へ押しやり、シェルは《食人屍グール》の群れへと走って行った。





――疾る。


今まさに兵士へ食いつこうとしていた《食人屍グール》へ剣を一閃。その体液をぶち撒ける。

さらにシェルの背後から飛びかかろうとしていた一体へ振り向きざまに剣を振り首を跳ね、主を失った胴に向けて蹴りを放ちその後ろにいた3匹へ吹き飛ばす。呼吸を置かずにそのまま走り出してその3体の首を一瞬で跳ね、進行方向に居る化け物の集団へ剣を持っていない左手を向ける。


「――レラ ニス イース ニス アン ファン テール!」


戦闘をしながら詠唱を完成させたシェルの手から放たれた風と氷の刃が《食人屍グール》の集団を切り刻む。

氷の嵐が治まったその場所には肉片と氷の欠片のみが残されていた。


「剣を取れ!怯えたまま死ぬ気か!たかが動く死体に臆するな!立て!立て!立て!立て!生きる為に戦え!」


舞うように剣を振り、《食人屍グール》の体液を飛び散らせながら逃げ惑う兵士達へ向けてシェルは叫ぶ。

横薙ぎに首を跳ね、拳で叩き潰し、魔法で切り刻む。

次々と現れる《食人屍グール》の集団に、シェルと魔導士マギの2人だけで応戦していた。


と、背後で、


「戦えぇ!貴様らそれでも栄えある連合軍人か!いつまでアインブルグ兵に戦わせているつもりだ!」


部隊長が《食人屍グール》に喰われ死んだ部下の剣を掲げ叫んだ。


「・・・・おぉぉ!」

「うおおおお!!」

「わあぁぁ!」


シェルと部隊長の叫びで、ただ恐怖に怯えて逃げ惑うだけだった兵士たちも少しづつ戦意を取り戻していった。


「疾っ!」


シェルは短く詠唱した風の魔法を斬撃に纏わせて放つ。


「炎よ!――」


魔導士マギはセレスを傍らにマナの続く限り炎の魔法を放つ。


「だああああぁ!」

「うぉぉぉ!」


部隊長と兵士達も力の限り剣と槍を振り回す。


今この場所には、国も身分も生い立ちも関係なく、『生きる』。ただそれだけの為に戦う男達が居た。


しかし、



ドガアァ!



突如部隊長の背後の建物が崩れた。


何事かとそちらを向いた部隊長が目にしたのは、


「なんだこいつはぁ!」


黒く大きい物が腐臭をまき散らしながら部隊長へとその牙を向けた。

白く濁った眼と半分崩れたおぞましい顔。形容しがたい臭いと立ち並ぶ粘液に塗れた牙。


それが部隊長の見た最後の光景だった。






「《腐死竜ドラゴンゾンビ》・・・」


魔導士マギは絶望的な声で呟いた。



PC不調により遅れました。すみません・・・


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