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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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8話「荼毘と慟哭」

「おにいちゃん、包帯変えてあげるねっ。」


廃墟の村の外れにある小屋で、セレスティーヌ――セレスと暮らすようになって1週間が経った。

出会った当初は、村を滅ぼした一人であるシェルを少女は殺そうとするだろうと思っていた。

シェル自身、紛争の続いたアインベルグで育ったためそうされることも当然と思っていた。

家族を、友人を争いで失う辛さは身をもって知っていたからである。


セレスが自分を殺したいと思うのならば甘んじて受け入れよう。


たったカップ一杯の水であったが命と思いやりを受け取ったシェルはそう思っていた。


だが、当のセレスは何を思ったのか敵であるシェルを小屋まで連れてきて、必死に治療をし始めたのである。

拙いながらも、どこで覚えたのか治癒の儀式と薬草の知識を持って、出会ってから4日後にはベッドから体を起こせるまで回復した。


「――ありがとう。」


そうシェルが礼を言うと、


「どういたしましてっ。」


そう言って、セレスは屈託ない笑顔で笑ったのである。

シェルの抱いていた懸念は、その笑顔で払拭された。

身体だけでなく心まで救われた。


そうシェルは思った。



包帯を取り替えるセレスにシェルはふと訊ねてみた。


「セレスは、治癒の儀式とか誰に教えてもらったんだ?」

「んとね~リーナおばあちゃんっ。」


この時代、治癒の儀式は長い修行をした神官にしか使えない高等な技術であった。

年齢に見合わない薬草の知識に加えて、治癒の儀式を使える事にシェルは疑問を持っていたのである。


「リーナおばあちゃんはね~、すごいまじょなんだって。むらのひとがすごいほめてたっ。でも1ねんまえぐらいにびょーきでしんじゃった・・・。だからテオルおじさんとミーシャおばさんのところにセレスはすんでたんだよっ」


セレスは、プレト村近郊の森に棲む魔女『エカテリーナ・プランシェ』という老婆に育てられていたらしい。

時折プレト村へ来ては、薬草や調合した薬を売って生活していたと言う。

住民との関係もとても良好だったようだ。


魔女エカテリーナは呪いに侵されていた。


その呪いは《不死アンデット》と言う。


どんなに時間が経っても、どんな傷を負っても死ぬことが出来ないという永劫を生きる呪い。

この呪いにかかった者は長い時間を生きることに耐えきれず精神を病み、やがて《魔人》へと変じる。

だがエカテリーナはどういう方法かはわからないが呪いを解き、直後に罹った病気で亡くなったのだと言う。


エカテリーナの話をしたセレスは寂しそうに目を伏せていた。

いたたまれなくなったシェルは彼女の髪を撫でると、


「ごめん。」


と一言呟いた。

それを聞いたセレスは慌てた素振りで笑顔を作り、


「だいじょうぶだいじょうぶっ!テオルおじさんたちもすっごくやさしかったからさびしくなかったよっ」


そう言って太陽のような笑顔を見せた。


その人たちを殺したかもしれないシェルに向けて。


シェルは、チクリ、と心が痛み、


「ほんとに・・・ごめんな・・・」


ただ、そう言うしかなかった。




数日後の昼、ある程度動けるようになったシェルは小屋の周りをうろうろしていた。

朝どこかへ出かけたセレスが戻らないため心配で探しにいこうか迷っていた。


「セレス・・・どこ行ったんだ・・・」


いままでのシェルにはない不安な気持ちだった。

どこかで怪我をして倒れてるのか、それともシェルが怖くなり逃げたのか。まさか魔獣に襲われたのでは・・・。

シェルの心の中は大きく乱されていた。


ふとプレト村の方角を見ると、煙が一筋空に向かって伸びているのが見えた。


訝しげにそれを見ていたシェルは、はっとして痛む体に鞭を打ちその方向に向かって走り出した。



シェルが向かったその先――プレト村中央の広場では山積みされた『何か』が燃えていた。

肉を焼くような、それでいて甘ったるいような異臭が立ち込めている。

その炎の前にセレスは居た。

目を瞑って胸の前で手を組み、弔いの祈りを捧げている。


セレスは村に散らばっている屍を集め荼毘に付していたのだ。


手も顔も服も、屍を運ぶときに汚れたのであろう。赤黒い色に染まっていた。


その光景に何も言えないシェルは無言のままセレスの横に立ち、同じように祈りを捧げる。

シェルはふと目を開けて重ねられている屍を見ると、村の住人や連合軍の兵士に交じって、アインブルグの兵士も一緒に燃やされていることに気付いた。

セレスにとっては敵であるはずのアインブルグ兵も、同じように弔う対象であったのだ。

それを見たシェルは、ただ言葉もなくセレスへ顔を向けた。

セレスは手を組んだまま呟く。


「みんな・・・死にたくなかったとおもうの。」


その言葉に、シェルは射抜かれた気がした。

シェルの脳裏にはこれまでのセレスの表情が浮かぶ。


祖母を話したときのどこか寂しそうな顔。

自分を治療していたときの真剣な顔。

そして、沈み込んでいた自分を救ってくれた笑顔。


あの表情の裏には数多の不毛な『死』を見てしまった少女の、悲しみで壊れかけていた心があったのだ。

だからこそ必死に、敵であるはずのシェルの命を救ったのだと思い知らされた。


シェルは、セレスに向かって膝を突くと小さな肩を無骨な手で掴み、自身の方へ体を向けさせた。

セレスの顔は涙で濡れていた。


「おおきなおとがしたとおもったらね、テオルおじさんとミーシャおばさんがね・・・セレスをだきしめてくれたの・・・。それでね、それでね、セレスのくちをふさいでうごかなくなって・・・いっぱい・・・ちがでて・・・ひっく・・・どんどんつめたくなって・・・ひぐっ」


今まで堪えていたものが溢れてきたのだろう。セレスは泣きながら言葉を続ける。

これはシェルに対する断罪だ。

まるで許しを乞うように、シェルはセレスを見つめ続けた。


「きがついたらおそとはしずかになってて・・・ひっく、でもおじさんもおばさんもうごかなくて・・・おそとにたすけてほしくて・・・ひっく・・・みんなうごかなくなってて・・・っ・・・うえええぇぇえん!!」


そこまで言ってセレスはシェルの胸に顔を埋めて号泣しはじめた。


「おにいちゃんはしなないでっ!!しんじゃやだ!しんじゃうのはやだよう!」


シェルはおずおずと泣いているセレスの背中に手を伸ばし、抱きしめた。


赦してほしくなかった。

許してほしかった。


そんなごちゃごちゃになった心のままシェルはセレスに言う。


「俺は死なない。死なないから!セレスの為に生きるから!」

「ほんと?・・・」

「ああ、ほんとだ!」

「ずっとセレスといっしょにいてくれる?・・・」

「ずっと・・・いっしょだ!」


そう言ってもう一度セレスを力強く抱きしめたのであった。





――「その娘から離れろ!魔族エビルめ!」


不意に背後から声が聞こえた。

そこには連合軍兵士が数人、剣と槍を構えてこちらを包囲しようとしていた。







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