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【連載版】「俺の告白を信じたお前の顔、最高だったよ」  作者: あいあメル


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第六話 後悔

 夕方、レイシアは子爵邸に帰ると、すぐにベッドにばたりとうつ伏せに倒れ込んだ。


 淑女失格な気がするが、そんなことを気にする余裕はレイシアになかった。


「あなたは子爵令嬢のくせに、侯爵令息の人生をめちゃくちゃにしたのよ」


 帰り道から、教室でヴィオレッタに言われた言葉が頭の中から消えない。


 確かに自分は彼の人生をめちゃくちゃにした。

 自分の反応が騒動を大きくしてしまったのだろう。


 では、悪いのは本当に自分だろうか?


 違う。

 ルシアンが罰を受けたのは、彼自身がしたことの結果だ。

 処分を決めたのも、自分ではない。


 けれど、そう思おうとすればするほど、これまで浴びてきた言葉が浮かんでくる。


 ――よく平気な顔で学院に来られるわね。

 ――反省の色を見せた方がいいのではないかしら。


 レイシアは横を向いて、ぎゅっとシーツを握った。


 もし、自分がルシアンの告白を本気にしなければ。

 あの場で笑って受け流していれば。

 ただの冗談として終わっていたのかもしれない。


 そんなことを考える。

 レイシアは寝返りを打ち、天井を向いた。


 蘇るのはルシアンとの思い出だ。


 いつもファーストダンスを一緒に踊っていたルシアン。

 照れ臭そうにだが、夜会のたびにファーストダンスを自分に申し込んでくれた。


 いつも、その度に顔が熱くなった。

 そして、つぶやくようにお願いしますと言う。

 そうやって、私はいつもルシアンのファーストダンスを受けてきた。


 もし自分が身分を厳格に意識して、遠慮するタイプだったら。

 ルシアンと結ばれることはないから、と断っていたら。


 私の好意は、周囲に漏れず、彼も揶揄う気なんて起きなかったかもしれない。

 嘘の告白なんてしなかったかもしれない。


 天井が遠く感じる。


 ルシアンと結ばれる夢は、夢にしておくべきだった。


 レイシアはベッドから体を起こした。


 ……決めた。


 もう夢なんて見ない。


 モンフォール伯爵令嬢の言うことを聞くようで癪だが、もっと身分を意識して異性に接していこう。


 貴族らしく、家の利益になる相手と結婚する。それでいい。


 レイシアはベッドから立ち上がった。


「お嬢様、ご飯ができましたよ」

「……今行くわ」


 レイシアは部屋を出て、扉を閉じた。

 レイシアが握り締めたベッドのシーツに残った皺に、影が差していた。


 ♦︎


 翌日、学院に向かう足取りは不思議と軽かった。


 自分の中で、何をするべきか決まったからだろう。


 けど、やはり教室に着いた後、荷物を取り出す手は少し重たかった。


 その時だった。


「フローリア様、少し良いでしょうか?」


 そこには艶のある黒髪に、透き通った黒い目の少女がいた。

 自然と荷物を取り出す手が止まった。


「あなたは……バルト男爵令嬢?」

「はい、覚えていていただきありがとうございます」


 そう言ってレイシアの目の前の少女はにっこりと笑った。


 クロエ・バルト男爵令嬢は、確かモンフォール伯爵令嬢の取り巻きの一人だったはず。

 自分を嫌っている令嬢が何の用だろう。


 警戒心を隠しながら、レイシアは目の前の少女、クロエを見つめる。


「すみません、警戒させてしまいましたよね」


 内心がバレていることに、レイシアは思わず目を白黒させる。

 クロエは申し訳なさそうな顔をする。


「ヴィオレッタ様がフローリア様を批判した際、否定せず相槌を打ったりしてしまったことを謝りたくて……本当にすみません。あなたの立場が悪くなる一端を作ってしまって」


 そう言ってぺこりとクロエは頭を下げた。


 なぜ突然謝りに来たのだろう?

 反応を伺っている?


 レイシアは思わず周りを見回す。

 けれどヴィオレッタとその取り巻きたちはいなかった。


 本心なのかしら?

 手がなぜか震える。


 レイシアは息を浅く吸って吐き、曖昧に微笑んだ。


「ありがとうございます。気にされなくて大丈夫ですよ。複雑な立場であることも、わかっています」


 クロエはほっとした表情をした。


「では、すみません。もう行きます」


 そう言って軽く頭を下げると、クロエは自分の荷物の場所に戻って行った。


「……謝罪の気持ち、信じていいのかしら」


 そんな呟きは誰にも聞こえない。


 人が次々と教室に入ってくる。


 慌ててレイシアは授業の準備の続きを始めた。


 その手は、少し軽くなっていた。


 そんなレイシアを見るクロエの申し訳ないような笑みは、レイシアからは見えなかった。


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