第五話 ヴィオレッタ
レイシアが帰った後、教室はにわかに騒がしくなった。
教室に残っているのは数人の令嬢達。
その中心にいたのは、赤いサラサラのロングヘアーに湖のような水色の瞳。
ヴィオレッタ・モンフォール伯爵令嬢。
ヴィオレッタは持っていた扇子を広げ、口元を隠して言った。
「まさか被害者ヅラとはね。本当に救えないわ」
ヴィオレッタの発言に相槌を打つ取り巻きの令嬢達。
「ヴィオレッタ様とは大違いですね。ヴィオレッタ様はあんなことがあったのに、黙って塩らしくしてらっしゃったのに」
その瞬間、ヴィオレッタは取り巻きを睨みつけた。
「黙りなさい」
空気が緊迫した。
黙り込むヴィオレッタと取り巻きたち。
それを見て、ヴィオレッタは冷めた目で言った。
「そろそろ動きましょうか。秩序を守るために」
ヴィオレッタは扇子を閉じ、目元をキュッと細めた。
♦︎
次の日。
レイシアは学院で、いつも通り過ごしていた。
いつも通り、憐れみの目で見られ、好奇心の的となり、嫌悪の対象となる。
そんなうんざりする一日が終わり、授業後に荷物をまとめて帰ろうとするレイシア。
彼女に近づく令嬢達がいたのだ。
一人が前に進み出て、話しかける。
「フローリア嬢。少し良いかしら」
赤いロングヘアーに、水色の瞳。
ヴィオレッタがレイシアに話しかける。
教室中が静かになる。
ヴィオレッタはクラスの中心となる、人気のある令嬢だ。
彼女が、今まさに話題の令嬢に話しかけている。
思わず皆、聞き耳を立てる。
「……何でしょうか。モンフォール様」
レイシアはそんな教室の様子に気が付かず返事をする。
レイシアはヴィオレッタと話したくなかった。
と言うのも、ルシアンとの衝突があってから、ヴィオレッタから嫌悪、見下されたような目つきで見られていることに気がついていたからだ。
しかし、話しかけられれば、礼儀として返さないわけにはいかない。
そのため渋々返事をする。
そんなレイシアを見て、ヴィオレッタは微笑みを浮かべていた。
ヴィオレッタは扇子を開き、穏やかな口調で話し出した。
「率直に言いますわ。あなた、最近礼儀がなっていないのではなくて?」
「……?」
レイシアは思わず口を半開きにした。そのまま数秒考える。
なんのことを言っているのだろう?
その様子を見て、ヴィオレッタは苛立ったように続けた。
「少しは反省の色を見せた方がいいのではないかしら?」
「……何のことでしょうか?」
ヴィオレッタは笑顔を絶やさない。
けれど、その目元はヒクヒクと痙攣していた。
「わかるでしょう…… ルシアン・ランベール様のことよ」
ルシアンの名前が出てレイシアの顔が曇る。
しかしすぐに、その曇りを消し、できるだけ丁寧な口調になるように気をつけて言う。
「ランベール様のことでしたら、反省すべきことが思い当たらないのですが」
ヴィオレッタの目が細くなる。
「あんな醜聞を起こしておいて、あなたは反省の色一つ見えない。あなたは子爵令嬢のくせに、侯爵令息の人生をめちゃくちゃにしたのよ。何かしら反省の色を見せるのが当然ではなくて?」
……何を言っているんだろう。
レイシアはポカンとする。
そんなレイシアを無視してヴィオレッタは続ける。
「私から言いたいことはただ一つ。身分の差をしっかりと自覚し、貴族としての良識をしっかりと守って欲しいですわ」
なんて勝手な言い分なのだろう。
レイシアは思わず下を向きぎゅっと拳を握りしめる。
「……そうですか。しかし、彼のやったことは貴族として許されることではないですよね? 今回の件は私に非はないと思っておりますが」
顔を上げ、レイシアははっきりと言い切る。
心臓の音がうるさい。けど、黙っていられなかった。
「……そう。わかったわ」
ヴィオレッタは微笑んでいる。
しかしその目は全く笑っていない。
「忠告はしましたからね」
「はあ」
ヴィオレッタはそのままくるりと振り返ると、取り巻き達の方に戻っていった。
その表情はゾッとするほど冷たかった。
徐々に教室にざわめきが戻っていく。
レイシアはこっそりとため息をついた。
♦︎
その日の放課後、レイシアの姿が廊下の向こうへ消えると、ヴィオレッタは一人の令嬢を呼び止めた。
「クロエ」
「はい、ヴィオレッタ様」
「フローリア嬢と、お友達になって差し上げて」




