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【連載版】「俺の告白を信じたお前の顔、最高だったよ」  作者: あいあメル


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第四話 戻らない日常

 ルシアンと決別したレイシアの身に、だんだんと日常は戻って……いなかった。


 レイシアの周りの空気は変化していた。

 その空気は大きく三つに分かれている。


 まず多いのが、レイシアに同情的な人たちだ。


「フローリア嬢、大丈夫ですか?」


 授業の合間に、令嬢の一人が気の毒げにレイシアに尋ねてくる。

 何が?とは言わない。ルシアンのことを言っていることは自明だからだ。

 ゆっくりと言葉を選んで返す。


「ええ、大丈夫です」

「……辛かったら、言ってくださいね。力になれることなら、できるだけしますから」


 そう言って、にっこりと微笑まれる。


 レイシアは曖昧に微笑む。


 自分では、ルシアンのことは区切りをつけ、もう前に進んでいるつもりだ。

 けれど、彼女達の中では、まだ前に進めていないように見えるらしい。


 いくら否定しても、彼女達の心に言葉が届かない。

 レイシアの中で、苛立ちとまではいかないが、どこか引っかかっているものがあった。


 けど、そんなことを表に出しても良いことはない。それがわかっているからこそ、レイシアは曖昧に微笑んでいた。


 そんなレイシアに対して二つ目に多い態度が、面白がるだった。


 そうやって面白がる人たちは、直接レイシアに声をかけてこない。

 ただ、遠くから好奇の目を向けてくるだけだ。


 レイシアはそんな視線を感じるたびに、胸がどこか詰まったような感覚になる。


 なんて言われているのだろう。悪口を言われて笑われているんじゃないか。そんな不安に駆られる。


 だからそんな視線を感じると、レイシアはその場からつい逃げ出してしまう。


 そして最後が、嫌悪感を露わにする人たちだ。


「よく平気な顔で学園に来ているわね」


 ボソッと。しかし、聞こえるようにすれ違いざま、廊下でレイシアを突き刺す言葉。


 レイシアの足が、一瞬止まる。

 悪意を持って接してきた彼女達。

 レイシアは反論しようとする。


「私は悪くない。悪いのは、私を騙したあいつらよ」


 そんなセリフが喉元まで出た。

 けど、なぜか何も言えなかった。


 代わりに、なぜか涙が流れそうになる。


 レイシアは黙って前を向いたまま口をきっと閉じた。

 そして足を再び動かし、その場を足早に去った。


 レイシアにつぶやいた令嬢は、そんなレイシアの様子を見て、ニヤニヤしていた。


 ♦︎


「レイシア、大丈夫かい?」


 放課後、アレンが帰る準備をしているレイシアに声をかけた。


「……ええ、大丈夫よ」

「そんなことないだろう。最近の君は見てられない。頼むよ、話を聞かせてくれ」


 優しげな言葉。

 アレンは本当に心から心配してくれているのだろう。


 けど信じて不安を話そうとした瞬間。


「家のことなんて関係ない。君が好きだ。明日の舞踏会、俺の婚約者として踊ってくれないか?」


 ルシアンの言葉が、彼の嘘が蘇った。


 また裏切られるかもしれない。それを考えただけで口がカラカラになり、手が震える。


 アレンはルシアンとは違う。


 信じたい。信じなきゃ。


 けど、そう思えばそう思うほど、自分の体は正直にそれを否定した。


 レイシアは口を開いて、数秒迷った後、絞り出すように言った。


「……大丈夫よ。気にしないで。もう授業も終わったし、帰りましょう」


 レイシアはアレンに目も合わせず、荷物を詰め込み続けた。


「……レイシア。無理だけはしないでね」

「ありがとう」


 そう言って、レイシアは力なく笑った。


 アレンはそんなレイシアを見て、躊躇いながら言う。


「……レイシア、信じて裏切られるのは、弱いからじゃない。信じられることは、弱さじゃなくて強さだ。君は強い人だ。そこは覚えておいてくれ」


 一瞬だけレイシアは息を呑んだ。荷物をしまう指が震える。


 けど、それは一瞬のことだった。


 強い?私が?


 レイシアは苦笑した。


「そうね。私って強いのね。だからこんなにも同情されるのね」

「……嫌味じゃなく、本気だよ」


 アレンが困ったように笑う。


「ふふ、嫌味なこと言ってごめんね。アレン、今は綺麗事はもうたくさんな気分なの」


 そう言って息を少し吸う。

 そしてレイシアはにっこりと笑った。


「ごめん、私、今日は早めに帰るね」


 レイシアは荷物を持つと、アレンの横を足音をたてて通り過ぎた。


「……じゃあね、レイシア。また明日」

「アレン、また明日」


 そう言ってレイシアは一人歩いて行った。


 アレンはその背中に手を伸ばす。けれど、その手が背中に届くことはなかった。


 アレンはおずおずと手を体に戻し、拳をぎゅっと握りしめた。


 教室では数人の令嬢がその様子を見てヒソヒソと話し合っていた。

 何を話しているのかは、二人に聞こえることはなかった。


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