第50話 オズワルドとの決着
ルシアンと一緒にレイシアを襲った人物ですが、エドワードではなくセドリックが正しいです。
本文は修正済みです。
大変失礼しました。
「閣下、それは……」
騎士の一人が、困惑した顔をする。
「うるさい、黙れ! お前らは儂の命令に従っていればいいんだ!」
オズワルドが顔を真っ赤にして、腕を振り上げる。
「しかし……」
「もういい、儂がやる!」
そう言って、オズワルドはそこにいた騎士の腰元から剣を抜こうと、剣に手をかけた。
「あっ!」
騎士は止めることができず、オズワルドが剣を抜いた。
しかし。
「お、重たっ」
剣を抜いたはいいものの、予想以上に重たかったようで、オズワルドは右に、左によろけていた。
「宰相閣下……?」
「ふっ! 手伝いなど不要だっ! はあっ、はあっ!」
鼻息を荒くして、先ほどまでと別の意味で顔を赤くしながら、やっとのことで切先を頭の上まで持ち上げる。
しかし、すぐに地面につけてよろける。
「ふふっ」
そんなオズワルドの様子がこの場に似つかわしくなさすぎて、思わずレイシアは緊張が解けて小さな声で笑ってしまう。
オズワルドはそれを聞き逃さなかった。
「小娘っ!」
うまく持てない剣を放るように手を離して、地面に置き捨てると、オズワルドはレイシアに詰め寄る。
「今、儂のことを笑ったな。おい、そこの騎士のお前、この小娘、儂のことを馬鹿にしているよな?」
呼びかけられた騎士が、返事に困ってオロオロする。
レイシアは顔を青くする。
「おい。儂が許可する。この礼儀知らずの小娘を王宮における礼節の無視の罪で、牢屋にぶち込め」
レイシアが思わず息を呑んだ時、アレンがレイシアを庇うように一歩前に出た。
オズワルドが顔を顰める。
「殿下、どいていただけますでしょうか。そこの小娘に礼儀を教えてやらねばなりませんので」
「その必要はない」
「でん……」
「宰相殿。少しいいかな」
オズワルドが何か言いかけたが遮られた。
レイシアたちが後ろを振り向くと、ランベール侯爵がいた。
「おお、ランベール侯爵どの。今呼びに行こうと思っていたところでしたぞ! この騒ぎの犯人を取り押さえてみれば、どこかで見た顔だと思いましてな。あなたの息子そっくりなので、あなたの息子なのか確認してもらいたく」
オズワルドがニヤニヤしながら、ランベール侯爵に聞く。
犯人がランベール家のルシアンであることは、レイシアはオズワルドにまだ話していなかったのだが、オズワルドはどうやら確信しているようだった。
ランベール侯爵が悲しみの混じった目で、ルシアンのことを見おろす。
ルシアンが何か言おうとするが、縄を口に巻かれているため、何も言うことができない。
数秒ルシアンを見て、ランベール侯爵はやっと口を開いた。
「……間違いなく愚息です。大変ご迷惑をおかけしました。どのような処罰でも受けましょう」
ルシアンの目が大きく開いた。
「こらっ! 暴れるな!」
暴れて逃げようとするルシアンを、騎士たちが必死に抑える。ルシアンも必死だ。自分の未来がわかったのだろう。
「ふむ。王宮で王族のパーティーに参加した女性を襲うとは、王族への不敬もありますな。死罪でも構わないと」
「ええ。息子は少しやりすぎました。そのようになってもしょうがないでしょう」
ランベール侯爵が悲しそうに言う。
「おい、聞いたか。実の親が死罪でも受け入れると言っているのだ。この者の首を切り落とせ」
「ただし。この件に関わった者は、きちんと処罰することを約束していただきたい」
騎士が動き出そうとするのを、ランベール侯爵が制した。
オズワルドが鼻を鳴らす。
「そんなことは当たり前だ。儂が責任を持って処罰すると約束しよう」
「殿下とここにいる方たちが、その言葉の証人ですぞ」
「くどい。儂に二言はない」
そう言って、でっぷりと出てきた腹を見せつけるように、オズワルドは胸を張った。
「では、これを見ていただきたい」
ランベール侯爵が胸元から、何枚かの書類を出した。
「ここにレイシア嬢を襲う計画が記載された書類があります。巡回の仕方、庭園の詳細な地図、さらには庭園からの秘密の抜け口まで記載された資料がね。そこには、宰相どの、あなたの印が押されていました」
「なっ! 馬鹿な!?」
「何が『馬鹿な!?』なのですか?」
「そんなはずがない! 全ての書類には、印を残さないように命令していた!」
「ほーう。つまり計画書自体は知っていたと」
オズワルドは自分が失言したことに気がついた。
「いや、これは違うのだ……」
「何が違うのですか? 宰相閣下」
「書類が実際に残っているはずが……」
殺意のこもった目でルシアンとセドリックを見つめる。
二人は慌てて首を横に振る。心当たりがなさそうだ。
けどそれが演技に見えたのだろう。
「燃やせと言っていただろう、この愚図があああああ」
そう言ってルシアンたちの方に駆け寄ろうとした。
すぐさま騎士によって取り押さえられた。
「この、離せっ。儂は宰相だぞ!」
騎士たちは押さえつけ、オズワルドを離さない。
その時。
「オズワルド・ハルフォード殿。一点聞きたいことがある」
テオドールがゆっくりと前に出て、押さえつけられている宰相の方に歩み寄った。
「……なんだ」
「『ヴェルネイユ』という言葉に聞き覚えは?」
宰相がびくりとしたのがわかった。
「別名黒月の香油ともいう香油だ。人の思考能力を低下させ、催眠状態にする作用がある。思考誘導や洗脳を行う時に使われるのだが、王国では使うことを禁止されている禁止薬物の一つである。この薬物のこと、知っているよな?」
宰相の額から、汗が滴り落ちていくのがわかった。
「さて、話は変わるが、今回我が公爵家は裏ギルドを摘発した。その際に、違法薬物などの取引履歴を洗っていたのだが、なんとそのギルドの取引リストに貴殿の名前があった」
「……研究のため、買っただけだ。それは認めよう。しかし、使ったことはない。重罪にはならない」
アレンが一歩前に出た。
「ほう、では僕が嗅いだのは、なんだったのだ?」
「で、殿下はヴェルネイユの臭いを知らないはずだ。何かと間違えているのでは?」
「それがこの前、公爵家で嗅がせてもらったんだ。そしたら驚いたよ、あの鼻をつんとつくような、粘りっこく甘ったるい匂いを嗅いだことがあったからな」
鼻をつんとつくような、粘りっこく甘ったるい匂い。
レイシアは、宰相の部屋を訪ねた時のことを思い出していた。
確かに、そんな変な匂いがした。
(じゃあ、アレンに別れを告げたのは私の意思じゃなかったの?)
レイシアはぎゅっと拳を握りしめた。
「王族に『ヴェルネイユ』を使うことは重罪だ」
罪が決定したようなものだった。
王族が、自分に使われたと証言しているのだ。
「ちが、違うのです! 私は殿下のことを思ったまでで! 子爵家という卑しい身分の薄汚い女狐を排除しようとするために、ほんの少し使っただけなのですっ!」
「黙れっ!」
アレンが怒鳴った。
レイシアは驚いた。アレンがこのように激昂するところを見たことがなかったからだ。
「僕の大切な人を汚らわしい口で侮辱するな」
アレンはここまで想ってくれていたのに——
薬物の影響を受けていたとはいえ、自分はなんてことをしてしまったのだろう。
ずっと彼は自分を愛してくれていた。
嬉しい気持ちが溢れると同時に、そんな彼を自分の言葉で傷つけてしまったことの痛みがレイシアを襲った。
レイシアの瞳から、思わず涙が溢れる。
慌ててレイシアは涙を拭った。
「お前は自分の息のかかった女性と僕を結婚させ、権力を握りたかったのだろうが、そうはいかない。僕はレイシアを愛している。お前の思い通りにはさせない」
「で、殿下。何をおっしゃっているのか」
「この罪人を引っ立てろ」
「殿下、どうかお考え直しを!!!」
オズワルドが縛られ、引っ立てられていく。
レイシアたちの視界から消えるまで彼は叫んでいた。




