第48話 ベルト
※本話には、性的な加害をほのめかす脅迫表現があります。ただし、直接的な性描写はなく、未遂で終わります。苦手な方はご注意ください。
「大声を出したら殺す。忘れるな」
レイシアの口元を押さえる手が緩まる。
助けを呼んだほうがいいだろうか?
でも、喉元にナイフが刺さるほうが早い。そう思った。
「レイシア。久しぶりだな」
そんなことを思っていると、ルシアンから声をかけられる。
レイシアはおずおずと口を開く。
「……久しぶりね」
ルシアンが口を三日月のように吊り上げた。
「良いざまだな。この日を待っていたぞ」
「……何を考えているの?」
レイシアの頭の中は疑問で一杯だったが、結局出てきたのはそんな言葉だった。
それを聞いたルシアンは薄く笑った。
「決まっているじゃないか。復讐だよ」
そう言ってルシアンは両手を広げる。
「お前のせいで退学になり、嫡子からも外された」
そう言ってレイシアのことを狂気の混じった瞳で睨みつける。
「どれほどの屈辱を俺が味わったと思う? 全てお前のせいだ。憎い。そんな言葉じゃ言い表すことができないほどだ」
レイシアは息を呑んだ。
そんな怯えたレイシアのことを見て、ルシアンがにっこりと笑った。いつもの、昔からよく見た笑みだった。
「そんなに怯えるなよ。せっかくの顔が台無しだぞ?」
「……」
「ルシアン様。急ぎましょう」
「大丈夫だ。まだ次の巡回までは時間がある」
そう言ってルシアンがレイシアを見つめる。
まるで獣のような目だ。
レイシアの体が自然と強張る。
「……セドリック、計画変更だ。こいつを見ていたら、我慢できなくなった。今ここで、女として傷物にしてやろう。そしてそれを公然のものにしてやろう」
ルシアンがレイシアの全身を舐めるように見て、ニヤリと笑った。
「しかし、宰相閣下はコイツを連れ去って、見られないように処理するように言っていましたが……」
宰相。出てきた名前の大きさに思わずレイシアは目を開ける。
最初から邪魔ものだと思われていたのだ。
セドリックが自分の発言の迂闊さに気がついたのだろう。
ハッとしたように息を吸い、首にナイフを押し当てる力を強める。
「セドリック、大丈夫だ。たかが子爵令嬢だ。王族の後ろ盾もない。俺たちが捕まらなければ、コイツの証言にそこまでの価値はないさ」
ルシアンは余裕たっぷりに言った。
「じゃあ時間もないことだし、早速取り掛かるとしようか」
肺が恐怖で一杯になる。
思わず大声を出そうとした時、セドリックがレイシアの口を塞ぐ手に力を入れる。
レイシアの喉元に突きつけたナイフで、顎を撫でる。
「おい、大声を出せばどうなるかわかっているな。このまま大人しくしていれば、命だけは助けてやる」
レイシアは声を出せず固まった。
なんで。どうすればよかったの。
そんな想いは言葉にならない。
涙が地面にこぼれ落ちた。
「ああ、いいな。ゾクゾクする」
目の前のルシアンが恍惚とした表情をする。
気持ち悪い。
思わず吐きそうになる。
けれど、怖くて声が出せない。
怯えたレイシアを、ルシアンは満足そうに見ると、かちゃかちゃとした音を立てながら甲冑を脱ぎはじめる。
衣服のベルトを外す音がした。
レイシアは、思わず目を瞑った。
「おい、セドリック。コイツのドレスを切り裂け」
ルシアンの声が聞こえた。
レイシアがぎゅっと閉じた瞼に力を入れた時。
「レイシアから離れろ。下衆が」
「なっ」
レイシアが驚いて目を開けると、王家の騎士たちと、アレンがいた。




