第47話 甲冑とナイフ
大舞踏会の日。
王宮の鏡の間にて。
大きな鏡が壁に張り巡らされているその部屋は、まさに名前の通りだった。
白い大理石の床が荘厳に輝き、豪華なカーペットが中央に道を作っている。
大きなクリスタルガラス製のシャンデリアの光が眩しい。
学院の生徒たちだけでなく、国内の貴族当主のほとんどが出席しているため、人でごった返していた。
レイシアは、人ごみの中、遠目からアレンのことを見ていた。
貴族たちから次々に挨拶されているアレン。
貴族たちに気圧されず堂々と答えているのが、遠目からでもわかった。
自分も主役であるアレンに挨拶をしなければならない。
けれど、子爵令嬢である自分の挨拶の順番まで、時間はまだある。
レイシアは料理を横目に歩いていく。
食欲はなかった。
少し外の風にあたって気分を変えよう。
そう思って外に向かう途中、クロエがいるのがわかった。
一瞬足がクロエに向きかける。
クロエはマティルダ夫人に挨拶をしている。
(後にしよう)
レイシアは人を避けながら、会場から出た。
入り口を守るように立っている護衛の兵士たちの横を通り過ぎて、庭園に向かおうとする。
国内中の貴族が集まっていることもあり、王宮の通常の兵士以外に上位貴族の用意した騎士達も廊下の見回りなどをしている。
物々しい雰囲気を感じつつ、レイシアは歩いていく。
庭園は会場の入り口からすぐのところにあった。
王宮の庭園は一目で豪華さがわかるものだった。
立派な石造りの花壇に、そびえ立つ植木。
けれど時期はもう冬。
「寒いな……」
冬にしては暖かい日だったとはいえ、薄手のドレスでは流石に寒かった。
一歩一歩歩いていく。
なぜか歩みを止めたら泣いてしまいそうだった。
空を見る。
まばらに雲が浮かんでいて、月が間から顔を覗かせている。
光が冷たく顔を照らし出していた。
その時。
誰かに後ろから、口を塞がれた。
思わず振り返ろうとすると、喉元に冷たい何かが押しつけられた。
チラリと見ると、よく切れそうなナイフだった。
レイシアは体の動きを止める。
「死にたくなかったら静かにしろ」
どこかで聞いた声だった。
植木の影に引っぱられるままに移動する。
レイシアを脅している人物は、人目がないことを確認して言った。
「大声を出せば殺す。暴れれば殺す。逃げようとすれば殺す。わかったら、頷け」
男性の声だった。
レイシアは少しの間、恐怖で固まっていた。
男性は、イライラしたかのようにナイフに込めた力を強める。
「返事をしろ。頷け」
レイシアは黙って頷く。
「レイシア」
くぐもった別の男性の声がした。
振り返ろうとした。
けど後ろから体を押さえられていて、喉元にナイフが押しつけられている。
振り向くのを必死に我慢した。
誰かわからなかったが、助けが来たのだと、希望で体が満たされていくのがわかった。
レイシアを脅している人物が、声をかけた人物の顔が見えるように、くるりと移動した。
そこには甲冑を着た人物が立っていた。
レイシアは甲冑を着た男性を見つめる。
ランベール侯爵家の騎士であることが、家紋からわかった。
ルシアンの家だ。でも、騎士なら助けてくれる。助かった。
そう思った次の瞬間、騎士は被っていた兜を脱いだ。
蜂蜜色の金髪と空色の瞳。
そこにいたのは、ルシアンだった。
レイシアは目を大きく開いた。
ルシアンが口を開いた。
「セドリック、よくやった」
時が止まった気がした。




