第46話 周知
アレンが王族であることが公的に発表された翌日。
レイシアはトボトボと教室へ向かっていた。
「闇ギルドが摘発されたらしいね」
「それよりさ、ウィンフィールド男爵家の話、聞いた?」
「ええ。まさかアレン様が王族だったなんてね」
「私は以前から高貴な人だと思っていたのよ」
廊下を歩いていると、生徒たちがアレンのことを話しているのが耳に入ってくる。
(これでよかったの)
何も考えないようにして、教室の扉を開ける。
一瞬、クラスメートたちに見られた気がした。
そのまま、真っ直ぐ席まで歩く。
(もう、終わったことだから)
何も感じていないふりをして、席に座る。
しばらくして、教師が入ってきた。
教室の中央に設置された教壇に教師が立つ。
「まず知らせがある」
普段と違う言葉に、生徒たちが緊張する。
「アレン・ウィンフィールド男爵令息、改めアレン・ヴァレンティス殿下についてだ」
知っていたことだった。
なのにレイシアは体が鉛のように重たくなった気がした。
「殿下は正式に王位継承権を持つ王家の一員になられた。学院では身分は関係ないとはいえ、敬意を持って接するように」
生徒たちが黙って頷く。
「あと、もう一つ。殿下が王家の一員になったことを記念して、王宮で大舞踏会が開催される」
ざわめく教室。
「はい、静かに」
たちまち静かになる。
「開催は一ヶ月後だそうだ。基本的に全員参加だ。各家に招待状が送られるだろうから、確認しておくように」
舞踏会。
アレンが手を伸ばして、自分にダンスを申し込むところが頭にありありと浮かんでくる。
手の温度。少しくしゃっとした笑顔。
自分でも気が付かないうちに鼓動が速くなる。
「じゃあ授業に入る」
そんな声で現実に戻る。
口を開いた。
けど何を言おうとしたのだろう?
レイシアはそのまま口を閉じた。
その日、授業は全く頭に入らなかった。
♦︎
放課後。
「アレン様!」
「どうされたのですか?」
レイシアが帰ろうと思って立ち上がると、教室にやってくるアレンの姿が見えた。
早速できたのだろう取り巻きの生徒達が、彼の後ろにいるのが見える。
思わず顔を合わせないために俯く。
「実はレイシアに用があってね」
教室中の視線を背中で感じた。
好奇、敵意、そして疑問。
「レイシア!」
アレンが呼びかける。
レイシアはゆっくりと顔を上げた。
「……なんでしょうか? 殿下」
アレンが傷ついた顔をしたのがわかった。
胸の辺りが抉られたように痛む。
「ここではあれだし、少し落ち着いた場所で話したいな」
アレンがにっこりと笑った。
「……すみません。殿下と二人で話すのは畏れ多いことです。話すことが可能な内容であれば、ここでお話しくださいませ」
そう言ってレイシアは頭を下げる。
床が見える。
「……そんなに僕と話すのは嫌かい」
アレンがどんな表情をしているのかは見えない。
けど、沈んだ声の調子はわかった。
ぎりりと拳を握りしめる。
「嫌ではありません。ただ殿下は高貴な方であるので畏れ多いのです」
声が震えないように気をつけながら答える。
「殿下。子爵家の娘とこっそり話すなど誤解を招きます」
「そうですよ。相談などがあるなら、私たちが聞きますわ」
アレンの取り巻き達が、ここぞとばかりに声を上げる。
「すみません、用事があるので」
そう言って一礼すると、レイシアは荷物を持って駆けるように教室から出ていく。
「レイシア!」
隣をすれ違う時、チラリとアレンの方を見る。
アレンが何か言おうとして、手を伸ばそうとしたが、取り巻きに遮られているのが見えた。
(これでいいのよ)
そう言い聞かせて、レイシアは廊下を早足で通った。
♦︎
そして、アレンが王族に加わったことを祝う大舞踏会の日がやってきた。




