第44話 別れ
レイシアが王宮に行った翌日の放課後。
「レイシア!」
アレンはレイシアの教室につくやいなや、レイシアに声をかけた。
レイシアと想いを伝え合ってからの幸せな毎日。
それが今日も続くとアレンは思っていた。
「昨日の王宮どうだった? 今日は一緒に過ごせるし、文献を調べよう。今日こそ、きっと何か見つかるはずだよ!」
レイシアから返事がない。
「……レイシア?」
レイシアはまだ振り向かない。
俯いたまま、荷物をまとめている。
「アレン」
レイシアの声はとても暗い。
「話があるの。図書室に行きましょう」
そう言ってレイシアは荷物を持ち、アレンに目を合わせず歩き出した。
何かあったのが、アレンにはわかった。
けど、何も言えない。
「どうしたの? 行きましょう」
レイシアが振り返ってアレンに告げると、すぐに元の方向を向いて歩き出す。
チラリと見えたレイシアの表情は、言葉にできないほど暗かった。
「……わかった」
♦︎
図書室についた。
アレンとレイシアは、奥の方の長机に隣り合うように座った。
図書室が見渡せる席だ。
近づいてくる人間がいればすぐにわかる。
念の為、周囲に生徒がいないことをアレンは確認する。
何を話すにせよ、今の状態のレイシアの話を他の人に聞かれたくなかった。
隣同士なのに少し距離を感じる。
アレンは居心地の悪さを感じながら、レイシアの方を見る。
レイシアは俯いていて、目を合わせようとしてくれない。
何があったのだろう。
アレンが口を開こうとした時、レイシアが下を向いたままポツリと話し出した。
「アレン、ごめんなさい」
「え?」
レイシアが顔を上げた。
その瞳には涙が浮かんでいる。
「私たち別れたほうがいいかなって思うの」
アレンは息を呑んだ。
うまく呼吸ができない。
心臓の不規則な音がうるさい。
やけに図書室のかびた匂いが鼻につく。
夕陽の光が目に反射して痛みを感じるような気がする。
アレンは思わず机の上に置いた手を見る。
少し震えている。
「冗談じゃないよね?」
「ええ」
アレンはやっとのことで顔を上げ、レイシアの方を見る。
「……何でだい?」
少しレイシアが言い淀んだのがわかった。
「……私たち、釣り合っていないと思うの。それにこのまま付き合っていても幸せになれるとは思えない」
「なんで……なんで突然そんなことを……」
アレンは思わず机に手を当て立ち上がる。
レイシアは泣きそうな顔のままだ。
「……子爵家と王家が婚姻した例はないってわかったじゃない。それにもしあなたが、尊き地位についた時、子爵家の女性と結ばれていたらきっと政治的に不利になる」
レイシアの瞳から涙がこぼれ落ちて、机に滴った。
アレンは何か言いたかった。
けど否定する言葉は出なかった。
レイシアの指摘は、真実だった。
「このまま、対等な恋人でいるのは無理よ。だから、いっそのこと別れた方がいいと思うの」
「……急にどうしたんだよ。昨日までは一緒に頑張ろうって言っていたじゃないか」
レイシアの顔がくしゃっとなった。
慌ててハンカチで涙を拭っている。
少し息を整えて、レイシアは言った。
「……理由なんてないわ。気がついてしまったの。あなたには、私は相応しくないって」
「……そんなことない」
「いいえ、もう決めたの。だから別れましょう」
レイシアは立ち上がった。
そして力無く笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。もう行くわ」
「待って!」
レイシアはアレンの制止を聞かずに図書室から出て行こうとする。
アレンは慌てて後ろを向くレイシアの手首を握って止めようとする。
けれど、レイシアに触れたアレンの手は振り払われた。
レイシアが振り向く。
「……ごめんなさい。一人にして」
レイシアは出口の方を向いて小走りに出ていく。
昨日までのレイシアと全く異なっていた。
だからこそアレンは起こったことに呆然として、そのまま立ちすくんでいた。




