第42話 学院長
第三部 アレン編開始です!
創立祭の翌日。
レイシアは学院長室の前に来ていた。
昨日家に戻ると、企画の代表者であるレイシアも、事情聴取のために来るようにと手紙が来ていた。
学院から正式に沙汰を下すために必要だとのことだった。
コンコン。扉を叩く。
学院長室には初めて入る。
「レイシア・フローリアです。ランベール侯爵令息の件のためやってまいりました」
「入りなさい」
学院長の声が聞こえる。
ゆっくりと扉を開く。
「失礼します。レイシア・フローリアです」
そう言ってカーテシーする。
顔を上げたレイシアの目にまず入ったのは、歴代の学院長たちの巨大な肖像画達だった。
みんな鋭い目つきで、腹に何かを持っていそうだな。
そんなことをレイシアは考える。
部屋を見回すと、五人の人物がいた。
中央に設置された重厚な執務机の向こうには、学院長がいる。
にこやかな笑みを浮かべてレイシアの方を見ている。
学院長が手招きする。
「ソファにかけなさい」
「ありがとうございます」
そして執務机の前に置かれた来客用のソファにスタスタと歩いて行くと、銀色の混じった蜂蜜色の髪をした空色の瞳の男性と、白髪の混じり始めた濃い茶色の髪をした緑色の瞳の男性が座っていた。
「ハインリヒ・ランベールだ。愚息が迷惑をかけた」
「……ギルバート・ロズウェルだ」
「ランベール侯爵様、ご無沙汰しております。そしてロズウェル伯爵様。初めまして」
レイシアは二人に一礼すると、二人の対面の席に座った。
それを見ているのは、ソファの後ろで立たされているルシアンとセドリック。
レイシアがチラリとルシアンの方を見ると、レイシアを射殺そうとするかのような視線で見つめ返してきた。
レイシアはそっとルシアンから目線を外し、学院長の方を見た。
学院長が軽く咳払いをし、話を始めた。
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「……このようなことがあった。これは全て事実か」
「はい」
レイシアは知っている範囲で答える。
ルシアンとセドリックの方をチラリと見る。
彼らは俯いて黙っている。
「では、ランベール侯爵令息殿とロズウェル伯爵令息殿。これらについて事実と認めるか」
二人は俯いたまま答えない。
「ルシアン! 答えろ」
淡々とした低い声で、ランベール侯爵が呟く。
ルシアンが拳を握りしめ、唇を噛み締めたのが、レイシアにわかった。
「……事実です」
ルシアンが掠れた声で言う。
「ロズウェル伯爵令息殿、どうかね?」
学院長が静かに聞く。
セドリックは俯いて黙ったまま答えない。
沈黙。
「セドリック。答えなさい」
ロズウェル伯爵が感情の感じられないような声音で告げる。
「やったことについては事実です。ただし動機については異なります。自分の意思ではなく全てランベール侯爵令息に命じられ、やりました。実行犯としての責任はありますが、計画はしていません」
「なっ!」
ルシアンが口を開き茫然とする。
次の瞬間、セドリックの方にルシアンが詰め寄った。
「お前っ!」
胸ぐらを掴まれるセドリック。
「ランベール侯爵令息様。やめてください」
淡々とセドリックは答える。
それを聞いたルシアンは顔を真っ赤にしている。
「ルシアン、やめろ」
ランベール侯爵が冷たい声でルシアンを諌める。
ぎりりと歯軋りをして、悔しそうな顔をするルシアン。
しばらくそうした後、ルシアンは胸ぐらを掴むのをやめる。
セドリックがシャツの胸元を直す。
ロズウェル伯爵は無表情で黙ったままだ。
「……なるほど。それを証明するものはありますか?」
学院長が聞く。
「ありません」
「そうですか」
セドリックは平然としている。
その様子は嘘をついているように、レイシアには見えなかった。
「それでは、決定を言い渡そうと思います」
ごくり。レイシアは息を呑んだ。
「まずルシアン・ランベール侯爵令息殿」
学院長はそこで深いため息をついた。
「あなたは退学とします」
「なっ!」
レイシアは目を大きく開いた。思ったよりも大きな処分だったのだ。
ルシアンが拳を握りしめ、思わず学院長に詰め寄ろうとしている。
「ルシアン! 黙って最後まで聞け」
ランベール侯爵が、ルシアンを一喝する。
ルシアンはその瞬間、動きを止める。顔を顰めて何か言いたそうにしていたが、ルシアンはそのまま俯いて反論をやめた。
それを見て、学院長が続ける。
「理由は、企画内容の窃盗および類似企画の提出、夜間の食器などの破壊による創立祭の企画の妨害。これらは貴族としてふさわしい振る舞いではなく、また学院の規則にも違反していて、一線を超えている」
ルシアンが歯軋りをしたのがレイシアにはわかった。
「よって退学とします」
学院長は淡々と言った。
ルシアンの表情は見えない。
「そしてセドリック・ロズウェル伯爵令息殿」
「はい」
学院長はセドリックの方を向いた。
「あなたは指示されたとしても、これらの行為に加担しました。よってルシアン・ランベール殿と同様の退学処分とします」
「なっ!」
次はセドリックが驚く番だった。
ルシアンが顔を上げ、醜悪な笑みを浮かべたのがレイシアの視界に入った。
「その処分は少し重たすぎるのではないですか?」
学院長の言葉に反論したのは、ロズウェル伯爵だった。
学院長は首を横に振った。
「ロズウェル伯爵。大変申し訳ないが、減刑するに足る根拠がない。今の情報では、退学処分となる」
「学院長……!」
ロズウェル伯爵が思わず立ち上がる。
先ほどまでの無表情から、焦りと怒りが混じった表情に変貌している。
「申し訳ないが、判断は覆せない」
学院長は言った言葉を撤回しなかった。
そして数秒が経った。
「……わかりました」
「父上! そんな!」
「お前の失態だ。責任をお前が取れ。この恥知らずが」
ロズウェル伯爵は、ソファに座り直した。
膝の上で手の指を組む。
もはやそこに感情は感じられない。
「ルシアン。お前にも伝えることがある。今日をもって廃嫡とする」
「なっ! 父上、どうかご再考を」
ランベール侯爵の宣言に、ルシアンが慌てて詰め寄る。
「ルシアン、お前は以前もやらかしていたな」
ルシアンが何かを言おうとしていたが、言葉を飲み込む。
「ここにいるフローリア子爵令嬢に対するからかいの件で一度お前は失態を犯している。あの時はお前にチャンスを与えた。それを無駄にしたのはお前の責任だ」
拳をルシアンが握った。
ブルブルと震えている。
口を開くことと閉じることを、ルシアンが繰り返している。
「ルシアン」
「……何でしょう。父上」
「これ以上私をがっかりさせるな」
ルシアンの動きが止まった。
飾られた肖像画が、レイシア達をそっと見つめていた。
(これで全て終わったのね)
レイシアはソファに座ったまま、浅く息を吐いた。




