第41話 月とチューリップ
アレンの口が開いて、閉じたのが見えた。
何回かそれを繰り返している。
紫色の瞳が大きく開いているのが、レイシアにはわかった。
「……これは現実?」
アレンの絞り出したような呟きに、レイシアは思わず笑ってしまった。
「ええ、現実よ」
「……そうか」
レイシアは遠慮がちに両手を広げた。
アレンが戸惑ったような表情をする。
そして、おずおずとレイシアに近づく。
二人の目と目が合う。
アレンはレイシアの背中に腕を回して抱きしめた。
温かい。
レイシアも静かに抱きしめ返す。
心が幸せで満たされるのをレイシアは感じた。
「……ごめんなさい。決断するまでに時間がかかって」
「ううん。ありがとう」
しばらく二人は抱きしめ合っていた。
ずっと、永遠にそうしていたいと感じた。
だんだん顔が熱くなって、心臓の音がうるさくなっていく。
「なんか恥ずかしいわね」
堪えきれずレイシアが言う。
「そうだね」
どちらともなく離れることになった。
顔が真っ赤になっていないかしら。
そんな心配をしながらアレンの方を見てみると、アレンが耳まで真っ赤になっていた。
お互いに見つめ合う。
なぜかおかしくなってきて、くすくすと笑い合ってしまう。
そうしてしばらく笑い合った。
幸せをレイシアは感じていた。
「これから、どうすればいいかしら?」
ふとレイシアが聞く。
アレンも真剣な表情になった。
「僕は君と結ばれたい。王家になんとかできないか、交渉してみるよ」
「わかったわ。私も王家と子爵家の婚姻の前例があるのかなど、できることを調べてみる」
レイシアは息を大きく吸った。
「話せる範囲でいいのだけれど、あなたはこれからどんな身分になるの?」
アレンが少し言い淀む。
「まだわからない。けれど確実に言えるのは王位継承権が復活するということだ」
レイシアは思わず息を呑んだ。
思ったより大きな話だ。
本当にアレンは王族になるのだ。
どうしてもすぐには受け止めきれない。
「だから、もし君が婚約者になるんだったら、王太子妃教育や、王妃教育も必要になってくるかもしれない」
アレンが続けて言った。
頑張らないと。
レイシアは拳をギュッと握りしめた。
そんなレイシアの横で、アレンが月を見ながら言う。
「迷惑をかけてしまうことになる。でも、それでも僕についてきてくれるかい?」
「ええ、私はあなたを選ぶと決めた。だから、これくらい乗り越えてみせるわ」
レイシアは間髪を入れずに答えた。
「ありがとう」
アレンがにっこりと笑った。
そうしてしばらく見つめ合う。
「じゃあ、そろそろ行こうか。また話そう」
「わかったわ」
二人は手をそっと繋ぎ、月夜に照らされながら同じ歩幅で歩き出した。
チューリップの球根は地面に埋まっていた。
そうして、春に咲くのをただそっと待っていた。
これにて第二部 ルシアン完結です。
次話から始まる第三部にて、お話全体が完結予定です。
ここからお話し全体の一番の盛り上がりが来る予定です。
最後まで楽しんでいただければ幸いです。




