第40話 返事
背中に回されたアレンの腕の力が、少し強くなる。
何を言われるんだろう。
思わずレイシアは体を強張らせる。
次の瞬間レイシアの耳に、思ってもみなかったことが聞こえてきた。
「僕は実は王族らしいんだ」
「……え?」
世界から再び音が消えた気がした。
涙が止まった。
アレンは男爵家に生まれて。ずっと小さい時から、自分と一緒に育ってきて。
男爵家の人間として生きてきたはずだ。
それがアレンのはずで——
抱きしめられているから、レイシアからアレンの顔は見えない。
ただ、声が聞こえるだけだ。
「この間、王宮から使者が来たんだ。僕が王族の血を引いていること、これからは王族として生きてほしい。そう告げられた」
アレンは淡々と続ける。
色々と聞きたいことがあった。
けれど言葉が出てこない。
「……どうするの? 戻るの?」
「ああ、そのつもり」
アレンは寂しそうに笑った。
その時。
アレンが王族として生きていくことになったら、今までのように接することができなくなることに、レイシアは気がついた。
これは本当のことなの?
思考がうまくまとまらない。
「だから、本当は告白するつもりなかったんだ。僕は君と結ばれることはきっと許されない。でも、テオドールにアプローチされている姿を見たら、どうしても気持ちが抑えられなくて」
アレンが抱きしめていた手を緩め、少し距離を取る。
両肩にアレンの手が置かれる。
「だから困らせるようなことして、本当にごめんね」
そう言ってアレンは泣きそうな顔で笑った。
そうして、肩から手を離し、一歩後ろに下がった。
心臓が握られたように痛む。
「今日のことは忘れて欲しい」
レイシアは口を開けた。言いたいことは沢山あった。
けど言葉は出てこない。
「告白するべきじゃなかった。ごめん」
「そんなことない!」
気がつくとレイシアは叫んでいた。
自分でも驚く。
「……ごめんなさい。でも、私は告白されて本当に嬉しかったわ」
遠くから、誰かが談笑する声が聞こえる。
レイシアは息を大きく吸った。
アレンは自分の気持ちを尊重してくれた。
そして、勇気を出して一歩を踏み込んでくれた。
けど自分はどうだろう?
ルシアンに嘘の告白をされた時から、ずっと同じところにいる。
アレンの目を見つめる。
その瞳は涙で潤んでいる。
失いたくない。
レイシアは拳を握りしめた。
「アレン」
「うん、なんだい」
レイシアが何かを決意したことに気がついたのだろう。アレンの表情が真剣なものになる。
「正直、私はまだルシアンから受けた傷は治っていないわ。あなたの告白を信じるのも怖い。それに気持ちを伝えてくれたけど、王族に戻るなら大きな身分の差ができてしまうから、私たちが結ばれるかはわからない」
「その通りだ」
アレンが悲しそうな顔をする。
「でも!」
レイシアは声に力を込めた。
「私は信じたいわ」
花が風によって揺れた。
アレンが息を呑んだのがわかった。
「自分のことを。未来を。そしてあなたのことを。信じることを選ぶわ」
レイシアは一歩前に出た。
アレンの顔が目の前にある。
「アレン。私も好き。あなたと結ばれたいわ」




