第39話 好きだ
ゴツゴツしたアレンの手の感触を感じる。
頭がぐるぐるする。
(と、とにかく何か言わなきゃ)
レイシアは口を開いた。
その瞬間。
なぜかルシアンの笑顔が頭に浮かんだ。
そして告白した時の情景が。夕方が。あの時の温度が。
「君が好きだ」
ルシアンのあの時の表情が。声音が。仕草が。
どんどんと蘇っていく。
急速に何かが冷たくなっていく。
頭が冷静になった。
手を振り解く。
「……アレン。ありがとう」
レイシアは思わず、誰か隠れていないか、辺りを窺う。
誰もいないみたいだ。
レイシアの表情の意味に気がついたのだろう。アレンの眉が八の字になる。
「ごめん。そうだよね」
アレンが一歩離れる。
レイシアはなんて言えばいいのかわからなかった。
口を開いては、閉じる。
アレンが何か言おうとするのが分かった。
思わず身構える。
けれど、飛んできた言葉は予想外のものだった。
「レイシア。本当にごめん」
「え?」
アレンが深く頭を下げた。
「君の気持ちを考えられていなかった」
なぜか指先を通る風を感じた。
頭を下げたまま、アレンが続ける。
「本当に君のことが好きだ。今しかないと思ったから伝えたけど、まだ君が傷ついてから半年も経っていなかった。立ち直れていないよね。全然、君のことを考えられてなくてごめん」
アレンは頭を上げない。
沈黙。
一筋の風が吹いた。花が揺れた。
レイシアは拳を思わず握りしめた。
「ううん。アレン、あなたの気持ちはとても嬉しい。伝えてくれてありがとう」
レイシアは夜の冷たい空気を吸って、ゆっくりと吐いた。
アレンがゆっくりと頭を上げる。
「……なんて言えばいいのかしら。上手く言えないの」
アレンは黙ってレイシアを見ている。
レイシアは思わず俯いた。
「……怖いの。信じるのが」
アレンは黙っている。
レイシアは顔を上げた。
「嬉しいのに、怖いって気持ちが大きいの。受け入れたいのに、体が言うことを聞かないの」
笑みを浮かべようとする。
けど頬が上手く上がらない。
手が震える。
アレンは口を開いた。そしてすぐに閉じた。
レイシアは続けた。
「だから、ごめんなさい。どうすればいいのかわからなくて」
やっとの思いで言葉を振り絞ると、レイシアは俯いてしまった。
ぽとり。泣きたくなかったのに、涙が頬を伝って地面に落ちていった。
(苦しい。今わかった。アレンのことは好きだ。でも告白を信じることはできない。怖い)
嗚咽が思わず漏れる。
その時。
背中に腕が回され、抱きしめられた。
「え……?」
アレンの心臓の音を感じる。
「急に抱きしめてごめんね。嫌だったら離れるから」
(アレンって、筋肉が思ったよりもあるんだ)
動揺から関係ないことを考えてしまう。
慌てて首を振る。
それを見たアレンがホッとしたように言う。
「ありがとう。素直に伝えてくれて」
(ドキドキするのに落ち着く)
レイシアは体の力を抜いた。
涙は止まっていない。
「レイシア、君に話さないといけないことがある」
アレンが静かに話し出した。




