第34話 創立祭と決着
「不敬とおっしゃいましたが、私たちはきちんと王宮に、今回の企画の説明と名称の使用許可をとっています」
レイシアは腕を組んで毅然と答えた。
「そんな馬鹿なことあるはずない! だってお前らはせいぜい子爵と男爵だろう!」
「そんなことはないぞ!」
「……お前は?」
テオドールが前に出た。
「俺の名前はテオドール・アシュフォード。アシュフォード公爵家の次男だ」
「な、なぜあなたが、こいつらと一緒に企画をやっているのですか!」
ルシアンの目が揺れる。
テオドールがそんなルシアンに笑って告げる。
「なぜって。そこにいる、アレン・ウィンフィールド殿と友人だから。というのが理由だが?」
テオドールがチラリとアレンを見た。
アレンが軽く頷く。
「そんな馬鹿な! あなたは公爵家だ! そしてあいつは男爵家の人間だ! それはおかしい!」
「身分は学院においては関係ないだろ?」
「詭弁だ……!」
テオドールがきょとんとする。
「いや、君はそうかもしれないが、その考えを人に押し付けるのは違うのではないか?」
口をぱくぱくと開け閉めして、思わず俯くルシアン。
しかし、すぐに顔を上げた。
「いや、公爵家の縁を使って王宮と連絡を取って許可を取ったとして、それでもおかしい。王家とも縁があるような主要な菓子や紅茶はうちが先んじて学院を通じて契約した。それ以外のルートで調達したなら、学院のルールに則っていないはずだ!」
「たとえば、マリー・ド・フレールなどでしょうか?」
「そうだ! お前らが申請しようとしていた茶葉は全てうちが先に契約した」
レイシアはスタスタと裏にある荷物置き場に行き、茶缶を一つ持ってきた。
「学院の規則では、『学院と未契約の商会でも、先に学院との契約を結べば利用できる』とあります。だから契約を新たに結ばせていただきました」
そして缶を渡す。
その缶の刻印を見たルシアンが目を大きく開いた。
「フォルトナム・ナムソンだと! あそこの商会は紹介制でしか商品を購入することはできないはずだ! そしてそんな伝手がお前らにあるはずない!」
ルシアンがブルブルと怒りで震え出す。
「これも公爵家の伝手か! 卑怯な! そのために公爵家の人間を利用したな!」
「違うぞ。公爵家の伝手ではない」
テオドールが冷たい目つきで告げる。
そしてアレンの方を見た。
アレンは頷いた。
テオドールが口を開いた。
「アレン殿の伝手だ」
ルシアンが口をあんぐりと開ける。
「嘘だ! ただの男爵風情に伝手があるはずない!」
「嘘ではない。アレン殿の家は実は古くからある名家に連なっている家系だ。その縁を今回は利用させてもらった」
レイシアも目を丸くした。
(そうなのね。名家に連なっているのは知らなかったわ)
アレンの方を見ると、少し気まずげだ。
でも黙っている。
(なら、何も言うべきじゃないわね)
「ランベール侯爵令息様。わかったでしょうか。あなたとは違う企画を出して、申請して物品を確保したのです。たったそれだけです。それとも何かおかしいことでも?」
「おかしい! おかしい! おかしい! だってお前達は準備ができるはずないんだ! あんな目に遭わされたのに」
「あんな目とは、どんな目ですか?」
「それはっ……」
その時、ルシアンは周囲の客が息を呑んで話を聞いていることに気がついた。
思わず唇を噛んで黙り込む。
(まあ、もう遅いのだけれどもね)
「あなたの友人のセドリック・ロズウェル様が私たちの企画を昨日の夜に荒らしたのは知っていますよ」
「なっ!」
ルシアンの目が大きく開く。
「あなたがそれを命じた場面を見た人間もいます」
「馬鹿な! 二人だけの部屋で話したことだ! ありえない」
レイシアはニヤリとした。
「あなたのお友達のロズウェル様はやったことを全て吐きました。さっさと自白した方がいいですわよ」
「そんな馬鹿な! 俺はさっきまであいつといた! そんなことを証言したはずない!」
「そうですね。嘘です。やはりあなたはやったことを知っていたのですね。そして密室で命じたのですね。教えてくださってありがとうございます」
ルシアンの目が怒りに燃えたのが、レイシアにはわかった。
「レイシア! 俺をはめたな!」
「さて、何のことでしょうか。でも、あなたが言ったことは、ここにいる沢山の方が、証人になってくださいますよ」
レイシアは淡々と続ける。
プルプル震えるルシアン。
「レイシア!」
「ああ、なぜ無事に開催できているのかでしたね。そもそも、今回はテオドール様に交渉いただいて、特別に二つの部屋を貸していただいていましたの。もしもの備えでしたが、無事に引っかかって襲撃してくださりありがとうございます」
ルシアンの顔が耳まで真っ赤になった。
「ああ、そうそう。このテオドール様と、それから創立祭の委員の方に、それぞれの教室を夜間に見張ってもらってましたの。なので荒らしたことを見た証人がいないという言い訳は通じませんわよ」
そう言ってレイシアはにっこりと笑った。
「最後に、なぜあなたは私たちが使おうとしている茶葉の種類を知っているのですか? 見せた覚えはありませんが? 失言でしたね」
次の瞬間。
ルシアンがレイシアに一歩踏み出すと、拳をあげて殴りかかった。
がしっ。
しかしその拳はレイシアに届くことはなかった。
レイシアを庇うように、アレンが前に出てルシアンの拳を正面から受け止めていた。
「人を呼んでくれ! 生徒が乱心した!」
アレンが人を呼ぶ。
その瞬間、ルシアンの顔が真っ青になる。
「ちが、違うんだ……」
「何が違うのかの?」
そこを振り向くと、とんがり帽子を被った背の高い白髭の老人がいた。
そばにはクロエが立っている。
「学院長……」
「全て聞いておったよ。それでランベール侯爵令息殿。何が違うのかの?」
優しく、しかし逃げることは許さない調子で、学院長が質問する。
「……」
ルシアンは俯いた。
「では、別室で話を聞こう。誰か、セドリック・ロズウェル殿も呼んでおいておくれ。ではルシアン殿、来なさい」
ルシアンは顔を上げた。そして何かを言おうとした。しかし何も出てこなかった。
学院長が歩き始める。
ルシアンは呆然と立っているままだ。
学院長が振り向いた。
「早く来るのじゃ」
それは有無を言わせない調子だった。
ルシアンがトボトボと学院長についていく。
その背中を見送ると、レイシアは来客者達に宣言した。
「大変ご迷惑をおかけしました。ここまでのお会計は全て無料とさせていただきます!」
そうして一礼する。
誰からかはわからないが、自然と拍手が起こる。
レイシアは長々と礼をしていた。
顔を上げた時、その顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。




