第27話 盗み聞き
翌日の放課後。
授業が終わるとレイシアは足早に図書室に向かった。
(クロエは創立祭を一緒にやる申し出を受けてくれるだろうか)
クロエの顔を思うと、少し心臓の鼓動が速くなる。
ガラリ。少し古びている扉を、無意識に勢いよく開ける。
いつもの席に行くと、すでにクロエが本を読んで待っていた。
「ごめんなさい、待たせちゃった?」
「いいえ、今来たところでした。レイシア様」
クロエが読んでいた本を閉じて、顔を上げた。
その表情は気を遣っている感じではなかった。
レイシアはクロエの隣に座り、早速口を開く。
「あのね、クロエ。突然だけど創立祭で一緒に出し物をやらない?」
クロエが目を丸くするのがわかった。
レイシアは思わずクスリと笑う。
「……レイシア様。私で良いのですか?」
クロエがおずおずと答える。
その瞳には、迷いと喜びが混じっていた。
レイシアは両手を広げ、答える。
「もちろんよ! 一緒にやりたいと思ったから誘ったの!」
こほん。司書の咳払いが聞こえた。
慌ててレイシアは身を縮こめ、小声で続ける。
「喫茶店をやろうとは話しているのだけど、具体的に何をやるのかはまだ決まっていないから、そこから考えることになるのだけれども」
そう言ってレイシアはクロエの方を見る。
クロエは俯いて、涙をこぼしていた。
「ちょ、ちょっとどうしたの!」
レイシアに問われたクロエが、ハンカチで涙を急いで拭う。
「すみません、嬉しくて……距離を感じていたわけではないのですが、誘っていただけるとは思ってもいなくて」
そう言ってくしゃくしゃになった顔で、クロエは笑った。
「ぜひ、一緒にやらせてください」
図書室はいつものようにカビ臭かった。
けど、それがなぜか心地よいとレイシアは感じた。
クロエがやっと落ち着いた頃、レイシアはそっと言った。
「じゃあそろそろ帰りましょうか」
クロエが黙って頷く。
「明日の放課後、一番目の大教室の隣の準備室に集合してまた話しましょう。その時に、具体的に何を出すのか決めましょう」
「わかりました!」
クロエの涙はすっかり乾いていた。
♦︎
ルシアンの友人の一人であるセドリック・ロズウェル。
セドリックは図書室の本棚の死角に隠れ、顔を顰めていた。
(友達ごっこかよ……ヘドがでる)
彼の視線の先には、クロエとレイシアがいた。
(何が「誘ってくれて嬉しい」だよ。泣いて同情を誘うってか? 女ってのは本当に醜いな)
しばらくセドリックはクロエとレイシアの話を聞いていた。
そして二人が立ち上がったのを確認してから、立ち去ることにした。
すでに日は落ちて、辺りは暗くなっていた。
翌日。お昼休み。
セドリックはいつもの席に向かう。
「おう、セドリック来たか!」
食堂の中心部。天井を支える柱のそばの六人がけのテーブル。
それを占有するように、セドリックとルシアンは対面になるように座った。
もちろん料理などは横に置いて他の人間は座れないようにしている。
「ルシアン様。遅くなりました」
そう言ってセドリックは座ったまま軽く一礼する。
「確かに遅かったな。まあいい、それでどうだった」
「はい、あいつらはクロエ・バルト男爵令嬢を仲間に入れるようです」
ぎりりと唇をかむルシアン。
「……俺を断って、男爵令嬢ごときと一緒にやるのか」
「本当に舐め腐っていますね」
セドリックはルシアンに同調する。
「それで、今日の放課後、あいつらは空き教室の一つ、大教室の隣の準備室で作戦会議をするそうです」
「なるほど。じゃあやることは一つだな」
「はい。お任せください」
ルシアンとセドリックは笑い合った。




