第22話 客人
第二部開始となります。
引き続きよろしくお願いいたします。
月の白い光が差し込む、春の終わりのある日。
アレンが育ったウィンフィールド男爵家の応接間に、一人の客人が来ていた。
応接間は決して広くはないが、趣味の良い調度品で飾られていた。
燭台の蝋燭の光が、煌々と輝く。
「それでは、本日はありがとうございました」
アレンは立ち上がって一礼する。
「アレン様。何卒よろしくお願いします。時間はあまり残されておりませんので」
客人がアレンに釘をさす。
紋章などは見当たらず素性は外見からわからない。
しかし、上質な布を使った衣服に、洗練された所作をしていることは見る人が見ればわかった。
客人の言葉にアレンは唇を噛み締めた。
「……はい」
その答えを聞いて、満足そうな顔をする客人。
「では、失礼します」
そう言って客人は立ち上がる。
侍女が扉を開けると、客人は扉を抜けて出ていった。
アレンは手を白くなるほど握りしめた。
月は相変わらず白く光り輝いていた。
「……レイシア」
アレンの呟きは、誰にも聞こえなかった。
♦︎
翌日。学院にて。
夕陽が優しく差し込む中。
レイシアは図書室で、頭を悩ませていた。
(うーん。おかしい。最近どうにも様子が変なのよね)
レイシアはため息をついた。
「どうしたのですか、レイシア様?」
隣にいるクロエが読んでいた本から顔を上げ、そのクリっとした黒い目で見つめてきた。
目があい、クロエがにっこりと笑う。
「……聞きたいのだけど」
「はい、なんでしょう?」
クロエと仲直りしてから数週間が経った。
まだ深い話はできなかったが、簡単な悩みなら話せるようになってきていた。
「あのね、最近アレンの様子がおかしいの」
「あら」
クロエが口元を両手で隠した。
そして目を細めた。ニヤニヤしているのが、レイシアにはわかった。
「……あのね。クロエが思っているようなやつじゃないから。……多分」
「そうなのですか? 何があったのか伺っても?」
クロエが驚いたような表情に変わった。
そして少し心配するように、落ち着いたトーンで聞いてくる。
「……実はアレンが私を好きなんじゃないかって思っていて」
クロエは首をガクッとした。
「はあ……どうおかしいのですか?」
「最近、妙に優しいの。それに距離も近くて……」
ふと、庭園で会った時のアレンの言葉が蘇る。
「実は君に会えるんじゃないかと思って」
そう言って、彼は顔を赤くしていた。
それを思い出すと、心臓の鼓動が大きくなる。
レイシアは顔を机に突っ伏した。淑女としてどうかと思うが、ここには二人しかいない。
「レイシア様はどうしたいのですか?」
「どうしたいもなにも、戸惑っているわ。ずっと幼馴染だったし」
レイシアは顔を上げて、頭を両手で抱えた。
「私の勘違いかもしれないしね」
「……勘違いではなさそうですが」
クロエの呟きはレイシアには聞こえなかった。
「どうもアレンのことを意識してしまって。帰ってもアレンのことをふと考えてしまうこともあって」
「もうそれは恋じゃないですか」
「うーん」
レイシアは手を顎に当てて考え込む。
「……ランベール様のことは好きだったわ。それとはちょっと違うのよね」
そう言ってレイシアはため息を再びつく。
「今の気持ちが、正直わからないの」
そう言って、レイシアは大きく伸びをした。
「さて、じゃあそろそろ今日は帰りましょうか」
「承知しました」
そう言って荷物を片付ける二人。
差し込む夕陽が二人を見守っていた。
♦︎
翌日の昼休み。
ご飯を食べに行こうとするレイシアの元にアレンがやってきた。
「話がある」
そうアレンは言った。




