第21話 私の顔
翌日。
放課後、レイシアは図書室に向かっていた。
「ヴィオレッタ様、謹慎なさるそうよ」
廊下を歩いていると、そんな噂話が聞こえる。
図書室についたレイシアは一人、本を広げる。
奥から二番目の、夕陽が優しく差し込む長机の席。
横並びのベンチ。
いつもの場所。
もう今日は来ないかな。そう思った時だった。
「……レイシア様」
クロエがいつの間にか、席の前まで来ていた。
「……話に来てくれたのね」
「はい」
クロエが顔をクシャッとさせる。
「……本当に、本当にすみませんでした」
そう言ってクロエは頭を下げた。
嗚咽が漏れている。
クロエは泣いていた。
レイシアはそっとハンカチを差し出した。
そして、隣に座らせて背中を撫でる。
しばらく、その状態が続いた。
やっと落ち着いてきた時、レイシアは口を開いた。
「謝罪ありがとうね」
「……いえ」
弱々しい声でクロエが鼻を啜りながら返事をする。
レイシアは少し口を開いて、また閉じる。
そして、もう一度口を開いた。
「あのね。正直に言うね。ごめんなさい。まだクロエのこと、本当は許せていないの」
「……はい、承知しています」
また泣きそうなクロエ。
慌てて、レイシアは言葉を続ける。
「でもね! 少しは信じてみたい。今はそう思っているの」
クロエがこちらを見た。鼻水と涙でぐちゃぐちゃの顔だ。
レイシアは自信なさげに言う。
「まだ怖い。けど一歩を踏み出してみたい。あなたが私の味方をしてくれたから、そう思えたの」
クロエは黙って聞いている。
「だからね、今度一緒にチーズケーキ食べに行きましょう? 王都で評判の」
図書室は相変わらずカビ臭かった。
けど、そんなこと、なぜか気にならなかった。
レイシアにワインをかけようとした令嬢が図書室に入ってきた。
その令嬢はレイシアに気がつくと、気まずそうな顔で、黙って振り向いて戻っていく。
夕陽が暖かく二人を照らし出している中、二人の少女は穏やかに笑い合っていた。
♦︎
クロエとの会話を終えたレイシアは庭園に行くことにした。
なんだか、花でも見たい気分だったのだ。
蕾だったチューリップは立派に咲き誇っていた。
「レイシア!」
振り向くと、アレンがいた。
「どうしてここに?」
「アレンこそ」
そういうと、アレンは照れくさそうに笑った。
「実は君に会えるんじゃないかと思って」
アレンの顔がほんのり赤くなった気がした。
けど、きっと夕陽のせいだ。
「せっかくだから、一緒に見ない?」
「わかったわ」
私は今どんな顔をしているんだろう。
高鳴る鼓動を抑えながら、レイシアはアレンの隣へと走った。
第一部完
これにて第一部ヴィオレッタ編は完結です!
ここまでお読みいただきありがとうございます!
明日からは第二部に入っていきます。引き続きよろしくお願いいたします。




