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【連載版】「俺の告白を信じたお前の顔、最高だったよ」  作者: あいあメル


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第二話 夜会

 レイシアがルシアンと距離を取ることを決意した翌日。

 学院の大舞踏会にて。


 レイシアは父のエスコートのもと、舞踏会に来場していた。


「ごきげんよう」


 いつもの様子で、挨拶をしていく。

 少なくとも、いつもの様に振る舞おうと、レイシアはしていた。


 その時だった。


「レイシア」


 レイシアは振り向かない。

 ……つもりだったが、保護者の貴族もいる前で、流石に無視はできなかった。


「……何でしょうか。ランベール侯爵令息様」


 できるだけ冷たい声を出す。


 傷ついた顔をするルシアン。

 しかしすぐにルシアンは首を振り、にっこりと微笑んだ。


「レイシア、ファーストダンスを踊ってくれないか?」


 ファーストダンスは恋人や婚約者と踊るのが通例だ。


 まだ婚約者のいないルシアンは、同じく婚約者のいないレイシアと、それまではよく踊っていた。


 レイシアが今まで恋していたから受け入れられていたとは考えずに。


「お断りします」


 レイシアは、とおる声ではっきりと断った。


 周囲がざわつく。侯爵令息の誘いを子爵家の令嬢が断った。


 視線が二人に集まる。


「……なあ、まだ気にしているのか? わかった、謝る。ごめんな」

「あなたと踊るのは、嫌だと申しているのです」


 レイシアの答えに、ルシアンは息をのんだ。


「……ただの冗談だろ?」

「何がただの冗談なのですか?」


 固まるルシアン。


「やはり、あの噂は本当だったのか」

「そうみたいね、この様子を見る限り」


 二人に何があったかの噂は、とっくに広まっていた。

 漏れ聞こえてくる声。


「おい、そんな強情になることないだろ!」


 その時だった。


「嫌がっているだろう。そこまでにしたらどうですか?」


 レイシアが振り向くと、そこにはレイシアのもう一人の幼馴染のアレン・ウィンフィールド男爵令息がいた。


 深い闇のような黒髪に、アメジストのような紫の瞳を持つ、穏やかな物腰の青年である。


 その佇まいは男爵令息にしては気品にあふれており、なぜか教師達も彼には敬語を使う。


 ルシアンは、他の男に邪魔された苛立ちが隠せなかった。


「黙れ、男爵風情が口を出すな」

「学園では礼節さえあれば身分の違いは不問のはずですよね? 身分を傘に命じるのは、学園の方針、ひいては王家に反することになりますが、どうなのですか?」

「貴様……」


 ルシアンは顔を真っ赤にした。

 アレンはそんなルシアンを無視して、レイシアの方を向いた。


「レイシア、一曲踊ってくださいませんか?」

「はい、喜んで」


 ルシアンを断ることができるわ。

 レイシアは笑顔を浮かべた。


「なっ! おい! そいつとは俺が踊るんだ!」


 ルシアンが叫ぶ。


「なぜあなたが踊るのですか? 断られていますよね」

「……今までそうだったからだ!」

「それは、今回と何の関係もありませんが……」


 アレンの答えに、周囲から笑いが漏れる。

 ルシアンは怒りで拳を握りしめた。


 その時だった。


「どうしたのだ?」


 場が騒がしいことを不審に思ったルシアンの父親ハインリヒ・ランベール侯爵がやって来た。


「ルシアン、何があったのだ?」

「レイシアにファーストダンスを断られました。それについて、今話しています」


 そう言ってルシアンはアレンを睨みつけた。

 ただ事ではないと察知し、訝しげな表情になるランベール侯爵。


 ランベール侯爵は、まずはレイシアに聞いてみることにした。


「レイシア嬢。息子とはいつも踊っていただろう。理由を教えてもらえないだろうか?」

「理由なら、ランベール侯爵令息様が一番知っているはずですが」


 その冷たく淡々とした調子に、ランベール侯爵はすぐに何かがおかしいと感じる。


「お前、何かしたのか?」

「いや、その……」


 口ごもるルシアン。


「はっきり言えばいいじゃないですか。私に嘘の愛の告白をして、その様子を友人に見せて、私を笑い者にしたと。」

「なん……だと……」


 思わず周りを見渡すランベール侯爵。

 しかし、みんな黙っている。


「まさか、本当に、そうなのか?」


 ランベール侯爵がルシアンのことを見る。

 ルシアンはその目を直視できず俯いた。


 次の瞬間。


 ルシアンが吹っ飛んだ。


「な。何をするのですか! 父上!」


 殴られた頬に手を当て、呆然とするルシアン。


「黙れ! お前、何をやったのかわかっているか?」

「いや、それは冗談で……」

「何が冗談だ!」


 ルシアンが友人達に助けを求める視線を送る。


 しかし、誰一人目を合わせようとしなかった。


「なんてことを……」


 手を額に当て、天を仰ぐランベール侯爵。


「愚息がすまない」


 周囲がざわめく。侯爵が頭を下げたのだ。たかが子爵家の娘に。


「お顔を上げてください。侯爵に非はありません」


 慌ててレイシアは言う。


「そうです、父上。ただの冗談にここまで熱くなる方が悪いのです」

「お前は黙っていろ!」


 ルシアンは悔しそうに黙り込んだ。


「……まともに育つように教育できなかったのは、こちらの非だ」

「……侯爵の謝罪は受け入れさせていただきます。ですが、令息様との関係を戻すつもりはございません」


 沈黙する侯爵。

 どうしよう……。

 気まずい時間が流れる。


 その時、音楽が流れ始めた。


 レイシアはほっとした。


「すみません、ダンスがあるので」

「……承知した。愚息はこちらで処分する。また追って話をさせてくれ」


 そう言ってお互いに礼をする。


「この馬鹿息子! さっさとこい!」


 ランベール侯爵がルシアンを連れて、庭園の方に歩いていく。


 レイシアはその様子をしばらく見ていた。


「レイシア、私と踊っていただけますか?」


 気がつくと、アレンがにっこりと微笑みながら、手を差し伸べていた。

 レイシアはおずおずと笑みを浮かべた。


「……喜んで」


 レイシアはアレンの手を取ろうとした。


 アレンの手は温かった。

 けど、その温かさがどこか嘘くさい。


「レイシア?」

「……ごめんなさい。大丈夫ですわ」


 そう言ってレイシアはアレンの手を握りしめた。


 そして、踊り出す。


 けれど、その踊りはどこか痛々しかった。


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