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【連載版】「俺の告白を信じたお前の顔、最高だったよ」  作者: あいあメル
第一部 ヴィオレッタ

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第18話 クロエの本心

「一つだけ聞くわ。私たちの間にあった時間は全て嘘だったの?」


 空き教室。夕暮れが差し込む中。


 レイシアはクロエと二人、対面していた。


 クロエが俯く。


 レイシアは黙ってクロエを見つめる。


 何秒経っただろうか。


 クロエが顔を上げた。

 手が震えている。


「……全て。全て、嘘です」


 その表情は泣きそうだった。


 わかっていた。クロエがそう答えるだろうことは。

 自分が同じ状況だったら、ヴィオレッタの取り巻きの一員だったら、そう答えるだろうことは。


 けれど、わかっていたのに心臓がぎゅっと握られたように感じた。


「……そう」


 言葉が出ない。

 何とか言葉を絞り出す。


「私は、私は本当だと思っていたわ」


 その返事に、クロエの表情がさらに苦しそうになる。

 本音が苦しくて言えない——自分がそうなっていた時、自分はどうやって本音を取り戻しただろうか。

 アレンの言葉が蘇った。


「ずっと、ずっと待ってるから」


 レイシアは気がついた。

 今必要なことは、真実を問い詰めることじゃない。


「クロエ、そして今も本当だと思っているわ」


 クロエの目が大きく開いた。


「あなたが自分の言葉でちゃんと話してくれる時を待っているわ。放課後、いつもの席で」


 レイシアはにっこりと笑った。


「ずっと、ずっと待ってる」


 そう言って、レイシアはくるりと背を向けた。


 もうこれ以上、何も言わない方がいい。

 そう思ったから。


 ゆっくりと歩きだす。

 振り返らない。


 言葉は何も聞こえてこない。


 けど、それでよかった。


 ♦︎


 その教室でレイシアが立ち去った後も、クロエはずっとそこに立っていた。

 日が落ちていく。


 けれどクロエは動けなかった。

 ずっとレイシアの去った方向を見つめていた。


 クロエはそっと手を握りしめた。


 ♦︎


 マティルダ夫人が事情を確認する日がやってきた。


 正直、レイシアにはうまく切り抜けられる自信がなかった。


 クロエは一度も図書室に来なかった。

 クロエの本心はわからないままだ。


 けれど参加しないわけにはいかない。


 場所はグランヴィル伯爵邸の離れにある小応接間。


 参加者は、マティルダ夫人、レイシア、クロエ、ヴィオレッタ、そして中立の証人としてのエレノア。


 時間通りに全員集まり、一つの丸机に座った。


 お互いの顔が見える。

 小さい燭台が机の上に置かれていて、ほのかに顔を照らしていた。


「さて、それでは始めましょうか」


 マティルダ夫人が口火を切る。


「本日お集まりいただいたのは、先日の夜会で明かされたフローリア子爵令嬢の発言について、どのような事情があったのか、お話を伺うためです」


 マティルダ夫人は一同を見回した。


「誰かを裁くためでも、謝罪を求めるためでもありません。伺った話をもとに、今後、皆様それぞれとどのようなお付き合いをするか。私が判断するための席だとお考えください」


 そう言って、マティルダ夫人はレイシアの方を見た。


「レイシア様、まず改めて率直に聞きます。あの発言は事実なのでしょうか?」


 思わず、手が震える。ぎゅっと手を握る。


「はい……」


 マティルダ夫人は表情を変えない。

 けれど、その瞳が悲しげな色を宿した気がした。


「……そうですか。何か背景はありますか?」


 レイシアはごくりと息を呑んだ。


 思わず俯いて、手を見つめる。震えは止まっていない。


 けれど、レイシアは顔を上げ、口を開いた。


「皆様が私を気遣ってくださったことには、心から感謝しています。けれど、そのたびに後ろめたさも感じていました。私は、ルシアンが罰を受けたことを、ざまあみろと思っていたからです」


 マティルダ夫人の表情は相変わらず変わらない。

 だからレイシアは続ける。


「その感情を抱いたことは否定しません。ですが、私が彼を陥れ、罰を受けるよう仕組んだわけではありません。彼の行いの結果を喜んだことと、その結果を企んだことは、同じではないと思っています」

「ふん、随分と良く整えた言い訳ですわね。あなたが騒がなければ、あのような結果にはなりませんでした。狙っていたのではなくて?」


 ヴィオレッタが口を挟んだ。


「モンフォール伯爵令嬢。口を挟むことは慎んでください」

「……はい」


 憎々しげにヴィオレッタがレイシアのことを睨みつける。


「マティルダ夫人、ありがとうございます。一点補足するならば、誓って私は彼が不利になるように意図的に行動したわけではありません」

「ふん、所詮は……」

「モンフォール伯爵令嬢。二度目ですよ」


 先ほどよりも、さらに敵意のこもった視線で、ヴィオレッタはレイシアを見る。


「……すみませんでした」


 マティルダ夫人が、扇子を開く。

 そして口元を隠す。


「では、改めてモンフォール伯爵令嬢。主張したいことがあればどうぞ」


 ニヤリ。醜悪な笑みをヴィオレッタが浮かべる。


「はい。私としては主張したいことは一つです」


 そう言ってヴィオレッタは参加者をぐるっと見回した。


「フローリア子爵令嬢は、悪意を持ってルシアン様を陥れたということですわ。根拠はクロエの証言にあります。クロエの証言によれば、陥れたことに快感を覚えており、そしてそのような醜悪な人間であることを自覚しているとのことでした。クロエ、もう一度、なんと言っていたのか証言してくれるかしら?」


 参加者の視線がクロエに集まった。

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