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【連載版】「俺の告白を信じたお前の顔、最高だったよ」  作者: あいあメル
第一部 ヴィオレッタ

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第17話 図書室

 アレンと話した翌朝。


「僕は君のそばを離れない。絶対に」


 レイシアはベッドから天井を見ながら、アレンの言葉を思い出していた。


 よく考えたら、どういう意味なの!


 顔が熱くなる。


 寝返りを打ち、枕に顔を埋め、足をバタバタとさせる。


 しばらくそうしていた。


「お嬢様。朝食ができておりますよ」


 扉の向こうから侍女が呼ぶ声が聞こえた。


「今、行くわ!」


 レイシアは起き上がった。


 椅子に座って鏡を見る。


 頬が赤い。髪もボサボサだ。


 思わず手櫛で髪を整える。


 鏡の中の自分が、恥ずかしそうな表情を浮かべていた。


 ♦︎


 その日の朝食はいつもよりも美味しかった気がした。

 食べ終えると、すぐに学院に向かう。


 行く途中、アレンの「また明日」という言葉がずっと頭の中をぐるぐるとしていた。


 何を話せばいいんだろう。いつも通り話せばいいはずなのに、なぜかわからない。


 そんなことを考えていたら、教室についた。


 教室の扉を開けると、さっきまで聞こえていた話し声が消えた。

 一斉に視線が集まる。


 何も気がつかないふりをして、席に座ろうと歩いていく。


 そういえば、ここまでクロエに会わなかった。


 私の発言をマティルダ夫人の夜会で証言した時の、クロエの青くなった顔を思い出した。


「私もレイシア様と仲良くなれて本当によかったですわ」


 図書室で二人きりの時の言葉は、嘘だったのだろうか。


 思わず考え込む。

 クロエの言葉は全て嘘だと思い込んでいた。


 けど、本当に全て嘘だったのだろうか。


 全て嘘なら、なぜあの時青くなった顔をしたのだろうか。

 単に証言した事の大きさに怯えていただけなのだろうか。


 昨日アレンと話している時、アレンの瞳を見ても、何を考えているのか分からなかった。

 アレンが「少し悲しい」と口にして、初めて本心が分かった。


 クロエの本心も、きっと本人にしか分からない。

 言ってもらわないと。


 だから聞きたい。


 そう思った時。


「今日も懲りずにやってきましたわね」


 ボソッとしたつぶやきだった。


 一瞬、足が止まった。


 けど、今日は不思議と心が重くならない。


 すぐに聞こえなかったふりをして、席まで歩いた。


 その日授業の間も、クロエの青い顔がずっと頭に残っていた。


 ♦︎


 放課後。


 レイシアは荷物をさっとまとめた。

 そして足早に一つの教室に行く。

 扉を開ける。


「クロエ!」


 荷物をまとめるクロエの姿が見えた。


 クロエが手を止めた。

 驚いた顔でこちらを見つめてくる。


「話があるの。少し話せないかしら?」


 レイシアの心臓の鼓動が大きくなる。


 クロエが口を開いた。その瞬間。


「クロエは私たちとこの後予定があるの。だから話すことは無理よ」


 教室にいた一人の令嬢がクロエの代わりに答えた。

 ヴィオレッタの取り巻きの一人。以前夜会でレイシアにワインを浴びせようとした令嬢だ。


「少しだけでいいのだけど?」

「しつこいですわよ。さすが社交界で有名な悪女ですわね」


 レイシアは思わず黙り込む。

 令嬢がニヤリとする。


「さあ、わかったらさっさと帰りなさい」


 レイシアは思わず手をぎゅっと握りしめる。

 俯いて、顔を上げる。


 俯いているクロエ、醜悪な表情の令嬢、それから様子を見るたくさんの生徒たちが見えた。


 このまま強引にことを運ぼうとしても逆効果だ……


「……わかったわ」


 令嬢がバカにしたように鼻を鳴らすのがわかった。


 レイシアは振り返り、元来た道を戻ろうとする。


 一瞬だけ振り返る。クロエがこちらを見ていた。


 ♦︎


 気がつくと、レイシアは図書室に来ていた。


 扉を開ける。カビの匂い。


 ゆっくりと、奥の席まで歩く。


 奥から二番目の、夕陽が優しく差し込む長机の席。

 横並びのベンチ。


 そこに一人、レイシアは座った。


「レイシア様。ここ、どうやって解くのですか?」

「本当にレイシア様はまっすぐな方なのですね。仲良くなれて本当に良かった」

「本当にレイシア様と一緒にいると楽しいですわ」


 クロエの声が蘇る。

 優しく机を撫でて、腕を枕をして頭を置く。


「……クロエ」


 一緒に過ごした時間は全て嘘だったのだろうか。

 楽しかったのは、自分だけだったのだろうか。

 友達になれたと思ったのは。


 レイシアはしばらくそうしていた。


 どれくらい、そうしていただろうか。


 レイシアは顔を上げた。

 浅くため息をつく。


 帰ろう。

 そう思い、立ち上がる。


 その時だった。


「レイシア様……」


 そこには、クロエがいた。


 クロエはハッとしたように口を押さえると、後ろを振り向いて駆け出した。


「待って!」


 レイシアが追いかける。


「こら、図書室では走らない!」


 司書の怒声が響く。


 クロエが止まる。


 その隙に、レイシアはクロエに追いつき腕を掴んだ。


 クロエが振り向く。涙がこぼれそうなほど苦しげな表情をしている。


 レイシアは一瞬動揺して、手を離す。


 その隙に、クロエは扉から出てしまった。

 レイシアも、図書室から出て追いかける。


「クロエ!」


 どれくらい走っただろうか。


 クロエは空き教室の一つに入った。

 レイシアも後を追って入る。


「クロエ……」


 教室の真ん中に背中を向けて立っているクロエは肩で息をしていた。


 数秒が経った。


 クロエがゆっくりと振り向く。


「……レイシア様。何でしょうか」


 クロエがにっこりと笑おうとしているのが、レイシアにはわかった。

 うまく笑えていないことも。


「……聞きたいことがあるの」

「何でしょうか?」


 レイシアは一瞬クロエから目をそらす。

 しかしすぐにクロエの目を見て言った。


「一つだけ聞くわ。私たちの間にあった時間は全て嘘だったの?」

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