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【連載版】「俺の告白を信じたお前の顔、最高だったよ」  作者: あいあメル
第一部 ヴィオレッタ

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13/41

第13話 待ってる

 グランヴィル夫人の夜会の翌朝。


「信じられることは、弱さじゃなくて強さだ。君は強い人だ」


 レイシアはアレンの言葉を思い出していた。

 寝転んでいるベッドから天井が見える。


「……嘘つき」


 レイシアは寝返りを打って体を横にした。


 頬を雫が伝ったのがわかった。


 けれど、拭うのも面倒だった。


「お嬢様。朝食ができておりますよ」


 扉の向こうから侍女が呼ぶ声が聞こえる。


 慌てて、頬を拭う。


 行かなきゃ。

 そう思っても、体が動かない。

 体が鉛のように重たかった。


「お嬢様? 入りますよ?」

「……今、行くわ」


 体をなんとか起こす。

 何もやる気が起こらない。食欲も湧かない。


 ノロノロと立ち上がって、朝食に行く準備を始める。


 椅子に座って鏡を見る。


 ひどい顔だ。目の下には隈ができており、髪はあちらこちらに乱れている。


 無理やり笑おうとする。


 鏡の中の自分が、ひきつった笑みを浮かべていた。


 ♦︎


 味のしない朝食を食べると、すぐに足を引き摺るように学院に向かった。


 行動を止めてしまったら、ずっと動けなくなる気がした。


 行く途中、マティルダの「後日、正式に話を聞かせてちょうだい」という言葉がずっと頭の中をぐるぐるとしていた。


 何を話せばいいんだろう。話すことなんてこれ以上ないのに。


 そんなことを考えながら教室の扉を開けると、一斉に視線が集まり、さっきまで聞こえていた話し声が消えた。


 ごくり。唾を飲み込む。


 何も気がつかないふりをして、席に座ろうと歩いていく。


 ここまでクロエに会わなかった。その事実にホッとする。


「そうだ、今度一緒に王都の評判のケーキ屋に行きませんか?」


 ふと、クロエの声が蘇った。

 心臓が握られたような感覚になる。


 私はなんて返したっけ。


「ええっ! いいわね! 私チーズケーキ好きなの。ぜひ一緒に行きましょう!」


 無邪気に答えたものだ。


 思わず笑ってしまいそうになった。

 なんて幼かったのだろうか。


 人を無邪気に信じる、愚かな女。それが私、レイシア・フローリアだ。


 笑顔で二人話していたはずなのに、もうクロエの笑顔は浮かんでこない。

 代わりに浮かぶのは、夜会で目を逸らした時の顔だけだ。


 その時。


「よく平気な顔で来られますわね」


 ボソッとしたつぶやきだった。

 けれど教室中に不思議と響いた。


 足が止まった。思わず俯く。


 くすくすとした笑い声が聞こえる。


 以前の私なら言い返していた。けど、言い返す言葉は浮かばない。


 それに聞こえないふりをして、席まで歩いた。


「レイシア!」


 その時、アレンが教室に駆け込んできた。


「……何」


 レイシアは無表情で聞き返す。


 アレンは膝に手をつき、肩で息をして、レイシアの方を向いた。


「……噂を聞いて、いても立ってもいられなくて。レイシア、少し話せるかい?」

「……心配ならいらないわ。平気よ」

「……平気には見えない」


 アレンが困ったような顔をする。

 その顔を見ると、なぜか指に力が入る。


「信じられることは、弱さじゃなくて強さだ」


 アレンの言葉が頭に蘇った瞬間、気がつくとレイシアは叫んでいた。


「しつこい! 平気って言ってるでしょ」


 教室中が静かになり、二人に視線が集まる。


 やってしまった。けど、もうどうでもいい。


「……ごめんなさい。でも大丈夫なの」

「レイシア!」


 レイシアは振り返って席に歩いていく。

 アレンは黙って、レイシアの後ろ姿を見ていた。

 口を開いて何か言いかける。

 しかし、レイシアが振り返らず席につくのを見て、そのまま戻って行った。


 ♦︎


 授業が終わった夕暮れ。


 レイシアは急いで荷物をまとめていた。


 早く帰りたい。誰もいない場所に行きたい。


 考えていることはそれだけだった。


「レイシア」


 気がつくと、後ろにアレンが立っていた。


 手が思わず止まる。

 振り返ろうとして、やめた。


 そのまま手を動かして、荷物をまとめ続ける。


「……レイシア、今は辛いと思う」


 手が止まる。


「……あなたに何がわかるの? わかったようなふりしないで」


 レイシアは吐き捨てるように言った。


 アレンの表情は見えない。けど、気配で困った顔をしたのがわかった。


「……そうだね。ごめん」


 息が止まる。

 八つ当たりだと自分でもわかっている。

 でも、謝ることはできなかった。


「君が怒るのも当然だ。しばらく話しかけるのをやめるよ」


 違う。そんなこと言いたいわけじゃない。

 レイシアは唇を震わせた。けど、言葉はうまく出てこない。


「じゃあね」


 待って。そう言いたかった。

 けれど、喉元まで来た言葉は音にならない。


 振り向かなくても、アレンが歩いていくのがわかった。

 陽が暗くなり、気温がさらに下がった気がした。


 指が震える。

 取り返しのつかないことをしてしまったんじゃないか。


「アレン!」


 気がつくと、振り向いてアレンを呼び止めていた。


「……なんだい?」


 弱々しく笑うアレン。


 ごめんなさい。


 そんなことが言いたかった。


 けど、言葉がうまく出てこなかった。


 レイシアは俯いてしまう。


「レイシア」


 気がつくと、アレンが目の前まで来ていた。


「明日から、毎日放課後三十分、庭園のはずれにあるチューリップの花壇の前にいるよ。話したいと思ったら、来てほしい」


 アレンはにっこりと笑った。


「今すぐに答えなくて大丈夫。ずっと、ずっと待ってるから」


 そう言って、レイシアの手をとり、優しく握った。


 アレンの手は、細い指なのにゴツゴツとしていた。

 そして、なぜかとても温かかった。


 レイシアは、アレンにすぐ返事はできなかった。


 けどアレンはそんなレイシアを見て、優しく笑った。そして帰った。


 そんなアレンを見送って、レイシアは廊下を一人で歩いていた。


 廊下の角を曲がったその瞬間。


「レイシア。少し話がしたい」


 顔を上げると、そこにはルシアンがいた。


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