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夜、コンビニ、買い食い

 夜景というのはなかなかに魅力的で、太陽が沈んで本来なら暗闇に包まれる世界を、人が息づく街並みの明かりが灯ることで幻想的な景色となる。


 隣町に展望台のような場所がある。

 全くもって絶景スポットでもなければ有名でもないのだけれど、夜景を撮る練習にはもってこいなのだ。

 F値、シャッタースピードやISO感度、普通の風景写真と夜景は難しさが違うと思っている。

 まだあまり経験がないからブレたり、うまいこと光が撮れなかったりすることが多い。


 今日は金曜。明日は土曜日で部活も休みだからこれからその夜景を撮る練習のため展望台に向かうのだ。

 財布にスマホ、カメラをリュックに入れて準備完了。

 もう春とはいえ夜は少し冷える。脱ぎ着できる上着を着て行こう。


 時刻は十九時。片道三十分強で着くからゆったり行っても二十時には着くだろう。


「いってきまーす」

「気をつけるのよー」


 母さんに声をかけて玄関を出る。

 展望台のすぐ近くにバス停があるからそこまでバス移動だ。ついたら少し歩くから飲み物を買って行こうかな。


 歩いて五分くらい、バス停のすぐ近くにコンビニがある。

 コンビニに入ると独特な油の匂いがした。ホットスナックが食べたくなる匂いだ。

 思ったより寒かったから温かい飲み物が欲しいな。

 お茶にしよ。まだあんまんってあるんだ、いいなぁ。小腹も空いたし。


「あれ、こんな時間に何してんの?」


 ホットドリンクのコーナーでどのお茶にするか悩んでいると後ろから声をかけられた。この声は、振り返ると彼女がいた。


 相沢笑里(あいざわえみり)。隣の家に住む幼馴染の女の子だ。彼女とは高校入学を機に少し距離ができていたが最近何かと会うことが多い。やはり近所、と言うか隣の家に住んでいるというのは大きいのだろう。今日もこうしてコンビニでばったり会うくらいだ。


「ん、写真撮りに行こうと」

「こんな時間に!?」


 すごく驚かれた。夜にわざわざ家を出てまで写真を撮りに行くのは、まぁ好きなやつしかやらないか。


「夜景を撮るのって結構難しくてさ、練習だよ」

「なんか会うたび写真撮ってる気がする」

「たしかに」


 二人して軽く笑い合っていると、彼女の格好が気になってきた。


「なんか……ラフだね」


 そう、彼女は生地がもこもこのパーカーにショートパンツの姿。髪はシュシュでまとめていて、クロックスを履いているいかにもお家ファッションだった。


「へ?……あ!や、やだ! あんまり見ないでよ!」


 彼女はあまり意識していなかったのか指摘したら顔を赤くしていた。露出した足がもじもじしている。春先とはいえ寒くないのかな。


「なんかごめん」

「だってこんな時間に会うと思わないじゃんかぁ」

「ていうかそれ」


 彼女の持っている物に目が行った。プリンとチョコレート菓子、それからポテトチップスを持っていたのだ。


「あ~……ご、ご褒美なの! 今日勉強頑張ったから! たまにだよ! いつもこんな時間に来て買ってるわけじゃないよ!」


 目を泳がせながら言い訳をしている。なんでこんなに必死なんだ。もしかしていつもなのか。


「いいんじゃない? 頑張った時はご褒美必要だよ」


 彼女がよく食べることも、お菓子が大好きなこともよく知っている。以前から「甘いものとしょっぱいものは両方あったら無限に食べちゃう」と言っていた。

 それよりなにより、彼女が相当努力をしていることも知っている。


 彼女には小さい妹がいる。確か小学生になったばかりだったはず。

 親の負担を少しでも減らすために公立でも有名な進学校に進学した。大学も特待生制度のある国立を目指していたはずだ。

 この間近所の橋で会った帰りに話していたのを覚えている。


「そうかな? そう言うなら、じゃあいいか。へへ」


 夜にこの量の買い食いはどうかと思うが、それとご褒美は別だからね。


「あ、バスの時間」


 スマホの時計を見ると乗ろうと思っていたバスの時間の二分前くらいだった。


「まぁ、次でいいか」

「え、うそ、ごめん」

「全然。そんなに急いでないから」


 それは本当。夜景というのは夜と深夜ではその表情を変えるけれど、流石に二十時から三十分遅れただけで景色は変わらないと思う。


「じゃあお詫びになんか奢るよ」

「え、いいよそんな」


 彼女は律儀な面がある。そもそもバスに乗り遅れるくらいの時間にコンビニへ寄ったのがいけないのに。


「いーのいーの! お茶? 何がいい?」


 こういうときはとりあえずやってもらいうのが良いことをよく知っている。彼女は結構頑固な一面もあるのだ。


「うん、じゃあこれ」


 言いながら買おうと思っていたホットのほうじ茶を渡す。なんでホットのお茶って少ないのと多いのがあるんだろう。


「はーい」


 彼女は受け取るとレジに向かった。


「お手洗いお借りします」


 品出しをしていた店員に声をかけてトイレに向かう。

 手を洗い店内に戻ると彼女の姿はレジにはなかった。外で待っているのだろうか。

 ふむ、ならば。



「お待たせ」

「んーん全然。それよりはいこれ」

「ありがとう。じゃあはい、これ」


 お茶を渡してくれる。それを受け取り、替わりにとあんまんを渡す。


「え! いいの! ありがとう!」


 なんだろう、お茶を買ってもらってあんまんを渡す。実質出しているお金は一緒なのに交換すると、なんかこう特別感がある。

 先ほどは少し申し訳なさそうにしていたが、嬉しそうに受け取る彼女を見るとほんわかした気持ちになる。


「お菓子は明日にしてあんまん食べよ〜」


 それにしてもにこにこして、そんなにあんまんが嬉しかったのか。


「あいかわらずだなぁ」


 つい、口に出してしまった。これではまた怒らせてしまう。しまったと思ったけれど彼女の反応は思っていたのとはちがった。


「えーこれでも高校入って成長したんだよ、私」


 ビニール袋を後ろ手に回してこちらを見る姿に、心臓が跳ねてしまった。


「バスの時間は?」

「え、あ、えーと……次は十二分後」

「じゃあ、見送ってあげよう」


 彼女の提案はありがたかった。

 特にやることもない十分弱は長く感じる。


「ありがとう」

「あ、じゃあさ、また撮る? 私のこと」

「え、ここで?」

「いいじゃん。場所よりも、撮ることが大事だと思うな」


 コンビニの前というのは、とも思ったが少し思い当たるものがあった。

 先輩たちが歴代持ち込んで参考にしているさまざまな雑誌が部室にある。

 その中で同級生が読んでいたものに、コンビニの前でモデルを写しているものがあった気がする。

 自分もやってみるか。


「よし、撮ろうか」

「うん」


 ポージングは何パターンか撮ろう。

 コンビニの煌々としたライティングを背景に夜の雰囲気も入れつつ彼女を撮る。

 しゃがんでもらったり、車止めに軽く腰かけてもらったり。


「結構良い感じだ」

「本当! 見せて――――いいねぇやっぱりうまいよ」


 また彼女が近寄ってくる。すると今までで一番、すごく甘くてちょっと美味しそうで、良い、香りがした。


「……ねぇ、もしかして家でクッキー焼いた?」

「なんでわかるのっ!?」

「すんごい、良い匂いがした。バターの匂い」


 彼女は「やべ」みたいな顔をしているけど、よくおかしを作るのは知っているから特に驚きはない。

 でもじゃあなんでコンビニにお菓子を買いに来ているんだ?


「ち、違うの! 学校でね、交換するの! この間編み物が上手い子の話したでしょ? その子が私のお菓子食べたいって言うからじゃあ交換しよって。それでクッキー焼いて、勉強してたら自分の部屋までクッキーのいい匂いがして、それでお腹すいちゃって――――」

「それでコンビニに来たってことか。ふふっ」

「笑うな〜!」


 恥ずかしそうにしている彼女はとても面白い。


「あ、バス来た。それじゃありがとう付き合ってくれて。勉強も頑張って」

「うぅ〜……ふぅ。ありがと、いってらっしゃい」

「いってきます」


 バスに乗り込んで座席に着くと、彼女はまだ外にいてこちらを見ていた。

 軽く手を振ると振り返してくれた。


 バスの中、撮った写真を見返してみる。

 毎日撮っている風景や練習のために撮っている写真の中に彼女の写真があるのは少し不思議な気分だ。でも悪くないと思っている自分がいる。


 今日の夜景はどんなふうに撮れるだろうか。

 この気持ちの高鳴りはきっとその期待への高揚感だ。

 そうに違いないと言い聞かせながら、バスに揺られていく。


「さてと」


 到着した展望台には、【工事のため閉鎖中】の看板が虚しく立っていた。

夜、目に映る光は刺激的で、どうも目を細めてしまう

それでも見てしまうのは刺激が欲しいからなのか

光が強いほどに影は濃く、見えずらい

それでもと目を凝らして見えるものは一体なんなのだろう

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